鉄筋コンクリート構造物の塩害劣化機構は多くの研究により解明が進められ,新設構造物の設計・施工段階から配慮すべき性能照査方法や,既設構造物の維持管理に対する考え方が整備されてきた。その一方で,少子化の影響により維持管理費の減少が見込まれ,LCC評価に基づく効率的な維持管理戦略を立案することが重要視されている。しかし,実際の構造物では,同じ構造・設計思想であっても,環境,コンクリートの品質,施工などに含まれる不確定性によって,部位・部材ごとに多様な変状を呈するため,LCC分析に必要な将来の劣化数量を定量的に推定することは難しいとされてきた。
そこで,本研究では,桟橋上部工の塩害劣化を対象に,構造形式や波浪条件などが異なる実桟橋での調査データを収集し,桟橋上部工内の空間的な腐食環境の違いを整理・分析するとともに,桟橋上部工の将来的な劣化状況を,工学的根拠を持って定量予測できる手法の開発を目的とする。
なお,本手法の開発により将来の劣化数量の定量予測が可能となり,さらに維持管理計画の立案(LCC分析など)において有効なツールとして活用できると言う点で,本テーマ開発の重要性は高いものと考えられる。
(社)土木学会をはじめとして,各機関から表-1に示すような「部材の劣化状態と塩害対策工法の標準的な組合せ」が提案されている。この表はこれまでの桟橋上部工の維持管理において数多く使用された実績があり,今後もこれをベースに維持管理計画の立案や補修工事が行われるものと考えられる。そのため,これからの構造物の維持管理では,LCC分析に用いるための「任意の経過年数に対する潜伏期,進展期などの各劣化過程に属する数量(部材数又は面積など)」の明確な工学的根拠に基づいた定量予測が必要であり,そのためのツール(劣化予測手法の確立)を整備していくことが急務である。
そこで,我々は,各劣化過程に属する(部材又は面積の)劣化割合を定量予測できる手法として,塩害劣化の主要因である表面塩化物イオン濃度C0,コンクリート中の塩化物イオンの拡散係数D,かぶりdの不確定性を考慮したモンテカルロ法による劣化予測手法について検討してきた。具体的には,図-1に示すように,同一の桟橋上部工における各種要因のばらつきが正規分布に従っている実態を考慮して,各種要因を「平均値+標準偏差×正規乱数」と表現させ,各要因に対して独立の(異なる)正規乱数を複数個(1000個)発生させて1000ケース分の予測計算を行い,これにより図-2に示すように,任意の劣化状態に至る確率(割合)を計算により推定するものである。
しかし,本手法による予測においては次に示す課題が挙げられたため,本研究ではこれらの課題解決について検討を実施する計画とする。
| 対策工法 | 劣化状態 |
|---|---|
| 塗装 | 劣化しない(潜伏期) |
| 電気防食 | 腐食進行中(進展期) |
| 断面修復 | 腐食ひび割れ進行中 |
| 断面修復+補強 | 限界に近い状態以上 |
表-1 劣化状態と対策工法の組合せ

図-1 各種要因のばらつき

図-2 建設後50年の鉄筋位置の塩化物イオン量のばらつき計算例
ページの先頭へ戻る![]()