[SCOPE] 財団法人 港湾空港建設技術サービスセンター

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平成19年度 研究開発助成研究一覧

桟橋式構造物水中支持部の全自動点検手法

研究者 浦 環 教授
東京大学生産技術研究所
共同研究者 巻 俊宏 博士課程3年
東京大学生産技術研究所

研究開発の目的・意義

現在建設中の羽田空港D 滑走路のような桟橋式大規模構造物を安全に運用するためには、厳しい腐食環境にある床下・水中支持部の定期点検が不可欠である。しかしながらこのような大規模構造物の支持部は閉鎖空間に存在するとともに膨大な数に上るため、人間による点検は非効率かつ危険な作業となってしまう。
本研究では自律型水中ロボットを用いて桟橋式大規模構造物の水中支持部の点検を全自動化することにより、このような危険な作業から人間を解放するとともに、点検作業の効率化・低コスト化を目指す。

研究開発の概要

本研究では自律型水中ロボット(Autonomous Underwater Vehicle, AUV)によって大規模桟橋構造物の水中支持部(以下ジャケットと呼ぶ)を全自動で画像観測するための、AUV のナビゲーション手法を開発する。観測ターゲットとして特に現在建設中の羽田空港D 滑走路の桟橋部を考える。開発は申請者らの所有するAUV「トライドッグ1 号」を用いて試行錯誤的に行うこととし、最終的には水槽実験においてジャケットの模型を全自動で観測することで図1のようなパノラマ画像の取得を目指す。そして来年度以降に現場実験を行い、開発した手法の有効性を示したい。またこのような大規模構造物を効率的に点検するためには、複数のAUV を同時に展開することが望ましい。さらに用途の異なる複数台のAUV が協力することで、例えばAUV1によって画像観測を行い、その結果をもとにAUV2が異常個所を詳細点検するといった応用が可能になる。そこで本年度は複数のAUV の協調による点検手法開発の前段階として、音響によるAUV 同士の通信・測位手法を検討する。
本研究における重点開発ポイントは

  1. 音響と画像の融合による相対測位手法の開発・実装
  2. 音響によるAUV 同士の通信・測位手法に関する検討

の2点である。以下順番に説明する。

  1. 音響と画像の融合による相対測位手法の開発・実装
    水中環境では電波が届かずGPS が使用できないため、測位手法が課題となる。そこで本研究においてはAUV に搭載した音響センサとカメラにより、観測対象である水中構造物そのものに対する自己位置・姿勢をリアルタイムに推定する手法を開発する。水中支持部の形状や寸法などは既知であるため、AUV にはこのような情報(環境マップ)をあらかじめ与えておく。そしてAUV は観測中リアルタイムに得られるセンサ計測値と環境マップを突き合せながら、環境マップにおける自己位置を確率的に推定する。
    ここで課題となるのは音響センサの計測値の扱いである。画像センサは水中における計測レンジが短いため、ターゲットまで数メートル以上の距離がある場合は音響センサしか使用できないが、観測対象である水中構造物は3 次元的なトラス構造である。このため音響センサの計測値はターゲットまでの相対位置や姿勢、入射角などに応じて複雑に変化することが予想される。AUV の位置推定にマルコフ過程に基づくベイズ推定手法を取り入れ、マップの与え方を工夫することでこのようなセンサノイズに対してロバストな測位が可能になると考える。
    トライドッグ1 号には現在海底面観測用の装備がなされているため、構造物観測用のカメラ・照明などをAUV 側面に取り付ける必要がある。音響センサ(プロファイリングソーナー)は現在装備しているものをそのまま使用する。水槽実験で用いる構造物模型は、塩ビパイプなど加工が容易で音響センサにより認識可能なものにより作成する。
  2. 音響によるAUV 同士の測位・通信手法に関する検討
    複数のAUV が協調して作業をするためには、AUV 同士が相互に情報交換ならびに相対位置計測を行わなくてはならない。水中において数メートル以上の遠距離で通信するためには音波を用いる必要があるが、音波は電波と比べると周波数が極端に低いため通信容量が小さいとともに測位精度が悪く、また環境影響が大きいという欠点がある。
    水中環境における音響通信・測位手法としては複数の方式が開発されているが、ダイバーや遠隔操縦ロボットのための汎用的な手法がほとんどである。本研究においては現在開発されている手法を比較検討するとともに、シミュレーションによって測位精度を評価し、AUV 間の通信・測位手法のモデル開発を試みる。

図-1 自律型水中ロボットによる桟橋構造物水中支持部の全自動点検のイメージ

図-1 自律型水中ロボットによる桟橋構造物水中支持部の全自動点検のイメージ

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