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研究開発助成

平成19年度 研究開発助成研究一覧

欧州諸国の公共工事における受入れ検査システムに関する調査研究

研究者 國島 正彦 教授
東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻

研究開発の目的・意義

本研究は、欧州各国の公共工事受入れ検査に関する制度やシステムの詳細を調査研究することで、近年著しい困難に直面している日本の公共工事契約システムのあるべき姿を明らかにしようとするものである。
現在の日本の公共工事の入札・契約システム、工事代金の支払い制度は「建設業界の調和」を最重要事項として体系化されたものと言える。このような管理された競争が行われている日本の公共工事に対し、近年その透明性や競争性を疑問視する声が一段と高まっている。公共工事における透明性、競争性の向上や談合などの不正行為の撤廃を目指すことは日本国内において失墜した建設業界への信頼回復のみならず、国際社会での日本の建設産業の競争力の強化を促すことにも繋がる。
このような経緯から、現在では公共工事の透明性や競争性、市場の健全性を求めた変革が行われつつある。しかし、現状では入札制度に関する改革のみが進み、入札制度と車の両輪を成すべきである契約制度に関する改革はあまり進展が見られない。官と民の寄りかかる不健全な体制からの脱却を目指す以上、契約制度の改革は避けて通れないものであると思われる。このような状況が、公共工事に関する一連の改革が必ずしも顕著な実効性を持たない理由と考えられる。
契約制度の根幹が、工事代金の支払方法、及び品質保証であることは論を待たない。工事請負契約における品質保証は、受注者が担うべき品質管理、及び公共発注者が担うべき受入れ検査によって構成される。受入れ検査は、検査(品質、位置・寸法・出来形)、検収、査定(設計変更)、精算・支払いという一連の標準的過程で実施される。検査から支払いまでの一連の過程を、毎月毎月「必ず」実施(国際標準型)するか、原則として工事竣工時点で一回実施(日本型)するかは、契約制度の基本構造にかかわる大問題といえる。近年のわが国の公共工事に関する社会経済情勢を見据えれば、公共発注者がやるべきでない監督業務からやるべき受入れ検査業務への移行を徹底する時期に来ている。
本研究は欧州の公共工事の受入れ検査システムの詳細を調査することで、今後の日本の公共工事の契約システムのあり方に対する具体的な方策の提言を行うことを目的とする。

研究開発の概要

現在の日本の公共工事は、社会からその透明性や競争性の改善を強く求められている。それに応えるべく、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(平成12年11月27日公布)の趣旨を徹底させるために、入札及び契約の透明性、競争性の向上、不正行為の排除の徹底、公共工事の適正な施工の確保を見据えて、技術と経営に優れた企業が伸びることが出来る建設市場を目指したさまざまな改善方策が導入されてきた。一般競争入札、総合技術提案方式、VE、設計施工技術の一体的活用方式、マネジメント技術活用方式、PFI、ユニットプライス型積算方式、公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)などは、これを意図した国土交通省の精力的な取り組みによるものである。
しかし、これらの取り組みのほとんどは入札制度に関するものであり、契約制度に関する取り組みはあまりなされていないのが現状である。公共工事における契約は本質的に、民の提供するサービスと、それに対する官の代金の支払いの関係を規定するものであり、いわば官と民の仲介を果たすものといえる。日本の公共工事が官と民の寄りかかる不健全な体制からの脱却を目指す以上、契約制度の改革は避けて通れないものであると思われる。一連の改革が入札制度のみに偏重しているせいか、社会基盤整備の第一線で働く工事事務所の方々には、入札に関する様々な新方式の導入は霞ヶ関からの指令でやらなければならないもの、という受動的な形でしか認識されておらず、これらに対して主体的、精力的に取り組もうという動きがほとんど見られない。以上のような経緯から、日本の公共事業では契約制度に関する改革が急務であるといえる。
公共工事における契約制度は、構造物の品質の保証と、その対価としての代金の支払い方法がその根幹を成している。そしてこのために、受注者の品質管理への取り組みと、それに対する発注者が担うべき受入れ検査が必要となる。
契約制度改革の一環として、公共工事における出来高部分払い制度の導入が現在日本で進められている。これにより官民の不平等な関係の改善や、下請、元請の会社経営の安定などが見込まれるが、毎月支払いを実施することによる行政側の業務量の増加など、懸念される問題も多い。
本研究では日本の新たな公共工事の契約制度の提案を目指すためのモデルケースとして、欧州諸国の公共工事の受入れ検査システムの調査研究を行う。過去三度行った工事代金支払いシステムに関する研究における蓄積から、ドイツ、スイスにおいては毎月の出来高部分払い制度が実際に機能していることがわかっている。また、出来高部分払いに付随する検査業務の増加にも、行政および民間のエンジニアの良好な関係により対応できているという調査結果も得られている。このため、現在日本が抱える公共工事契約制度に関する諸問題に解決の糸口を見出すために、欧州諸国のやり方は参考になると思われる。これまでの調査研究では公共発注者と民間の建設会社に聞き取り調査を行ったが、各国の公共工事に関する受入れ検査システムの全体像の把握には同じく公共工事の関係者である建設コンサルタントへの聞き取り調査も必要と考えるため、今回の調査では公共発注者と共に受入れ検査業務に携わる関係者への聞き取り調査を実施する。
現地を訪問しての詳細な聞き取り調査は、欧州各国の執行体制の表面的な理解のみならず、その基盤となっている価値観やモラルなど、現行のシステムを機能させている要因を把握することを可能にする。したがって、本調査研究は日本の公共工事を取り巻く建設業界の変革に関して、欧州各国の現体制が適応するか否かの判断や諸制度の新体制移行のプロセスを含めて具体的な方策を提示することができると考えられる。

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