本研究開発は、我が国の港湾空港工事等の公共調達フローの内、特に契約の作成・締結から施工の実施・引渡しに至るプロセスに着目し、そこに適用されている現行の諸制度・各種書類・発注者/受注者の行動様式・諸習慣が、真に「契約」に則っているものか否か、則っていない故に何らかの弊害をもたらしてはいないか等を、諸外国のシステムと比較しつつ分析し、その結果から、今後の公共工事システムに関し、具体的な改善事項を提言すること、を目的としている。
我が国の公共工事は、明治期以来、現在に至るまで発注者と受注者の間の「信義」を根幹として行なわれてきたものと考えられる。然しながら、近年、特に1980年代からの公共事業のあり方に関する国民一般からの疑念および、建設の国際化潮流にも起因し、そのシステムの「信義」への依拠の限界が有数の学識者によって指摘されるようになった。
「契約」を重視する工事システムに関する本研究開発は、真に公正で透明な公共調達の実現に寄与する可能性があり、結果的に広く国民の利益に資する点で、意義があると思われる。
単一民族で協調・調整を旨とする文化を持つ日本の公共工事システムの内、入札制度については、2004年の品質確保法、2005年の独占禁止法改正の成立・施行によって、従来からの受注調整の習慣が、今崩れようとしており、遠からず、より健全な技術と価格による自由競争へと進むであろう。このことが、次のあゆみとして示唆するのは、我が国の公共工事システムが“契約社会”へと変化する可能性である。
“建設”の特徴は、一般的に注文生産・単品生産・現地生産であり、建設契約とはあくまで、予定される成果物を予定工期・予定金額で調達することである。したがって、予定と異なる形へ変更される可能性を内包する不完備契約といわれる。
したがって、建設では、この不完備性をどう補完してゆくかが大変重要なポイントであり、諸外国や国際建設市場では、変更に対して契約書類に定めた契約条項が補完の役割を果たしていると考えられる。
一方、日本の建設工事の契約は伝統的に「相互信頼」がベースとなって作成されており、変更の決着などは、基本的に、発注者と受注者の間の「信義」をもとに、調整される傾向が著しいといえる。
本研究開発は、現在、我が国で行われている「信義」にもとづく公共工事の執行プロセスにおいて、種々の問題点が存在するものとの認識のもと、日本以外の諸外国で適用されてきている「契約」履行の制度を参考としつつ、日本の公共工事システムへ、「契約重視」の仕組みを着実に取り入れるための、調査・分析・論考・提言を、主として以下の問いに応じて実施するものである。
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