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研究開発助成

平成18年度 研究開発助成研究一覧

欧州諸国の公共工事における入札・契約制度に関する調査研究

研究者 國島 正彦
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 国際協力学専攻 教授

研究開発の目的・意義

本研究は、欧州各国の公共工事の制度やシステムを調査研究することで、近年著しい困難に直面している日本の公共工事の執行体制のあり方を明らかにしようとするものである。現在の日本の公共工事の入札・契約システム、工事代金の支払い制度は「建設業界の調和」を最重要事項として体系化されたものと言える。このような管理された競争が行われている日本の公共工事に対し、近年その透明性や競争性を疑問視する声が一段と高まっている。公共工事における透明性、競争性の向上や談合などの不正行為の撤廃を目指すことは日本国内において失墜した建設業界への信頼回復のみならず、国際社会での日本の建設産業の競争力の強化を促すことに繋がる。だが、これまであった強固な体制をどのような手順でどのような形に変えていくことがこれからの日本の建設業界にとって最も望ましいのか、また批判だけに耳を傾け、全てを新しく変えることが本当に最善の策なのか等の課題には未だ明確な答えが提示されていない。さらにこれらの課題に対しては、早急な答えだけでなく慎重さも求められて当然である。
本研究は欧州の先進国における現行の公共工事の執行体制を調査研究することで、今後の日本における公共工事の執行体制のあり方や方向性に関する具体的な方策の提示を行うことを目的とする。

研究開発の概要

現在の日本の公共工事は公共発注者・建設コンサルタント・建設会社という三者の連携から成り立っている。しかし、工程を無視した絶対的な工期厳守や先達擁護、失敗の過度な厳禁という環境の中で形成された三者の関係は平等とは言えない。さらに公共工事に関する諸制度や体制は建設業界の足並みやまとまりを強く意識し整えられたものであるために競争は行政によって管理され、またそれ故に官と民が互いに寄りかかるという状況が許されてきた。日本の公共工事を取り巻く状況はこのような環境をもって内部では一見協調的に、しかし外部から見れば閉鎖的に存続している。現在の日本の公共工事は、同業同格同地域における管理された競争や談合、予定価格制度、工事完成保証人制度、前払い金、天下りによる人材活用、コンサルタント業務の建前と実態の乖離という七つのキーワードに集約することができる。これらの諸制度がどれ一つとして欠けることなく実行され、その結果として協調的で閉鎖的な環境が作り上げられている。しかし今問題視されている透明性や競争性は、まさにその「管理された足並み」にこそ潜んでいる弱点である。つまり、日本の公共工事に関連する体制は根底から変わることが求められているのである。しかし一言「変革」と言っても、現行の体制の全てを破棄し、全く新しい執行体制を確立することもそれであるだろうし、改善を念頭に置き現行の執行体制にふるいをかけ、必要なものだけを取捨選択することもまた変革の一つ形であると言える。
本研究では日本の新たな公共工事の執行体制の提案を目指すためのモデルケースとして、欧州諸国の公共工事の執行体制の調査研究を行う。一昨年度、昨年度と過去二度行った類似研究において、スイス及びオーストリアでは現在では談合や民と官の不平等な関係という日本が現在抱える問題の相当部分を解決していることが分かった。毎月の出来高部分払い制度が実際に機能しているという調査結果も得ている。このため、現在日本が抱える公共工事に関する制度的、体制的な諸問題に解決の糸口を見出すために、欧州諸国は十分なモデルとなりうると思われる。これまでの調査研究では公共発注者と民間の建設会社に聞き取り調査を行ったが、各国の公共工事に関する執行体制の全体像の把握には同じく公共工事の関係者である建設コンサルタントや民間のエンジニアリング会社への聞き取り調査も必要と考えるため、今回の調査では公共発注者と共にこれらの関係者への聞き取り調査を実施する。
また昨年度の調査において、1994年EU発足以降、加盟国の建設業界は経済統合を果たしたEU内部で競争の激化に直面しているということを知ることができた。これは、透明性や競争性に留意して各国の風土に合わせて形成された合理的な公共工事の執行体制が国内ではなく、EUという外部要因によって公共工事を取り巻く状況が変化しているということを意味する。しかし昨年度は調査目的の違いから、EU発足によって各国の建設業界に変革の時が訪れたという情報のみの入手に留まり、EUという組織が及ぼす影響や欧州諸国が今後どのような手順でEU全体として足並みを揃えていくのか、法律や体制の移行をどう行っていくのか、またその結果どのような執行体制を目指すのかということに関しては情報を得ることができなかった。これらの点に注目し変化の全体像を捉えること、そして各関係者の視点からの変化分析を行うことは現行の公共工事に関する執行体制を調査することと併せて、移行手順や方法、新体制への関係者の対応といった観点から日本の新たな公共工事の執行体制確立にとって有用な示唆が得られると思われる。
現地を訪問しての詳細な聞き取り調査は、欧州各国の執行体制の表面的な理解のみならず、その基盤となっている価値観やモラルなど現行の執行体制を機能させている要因を把握することを可能にする。したがって、本調査研究は日本の公共工事を取り巻く建設業界の変革に関して、欧州各国の現体制が適応するか否かの判断や諸制度の新体制移行のプロセスを含めて具体的な方策を提示することができると考えられる。

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