高度経済成長期をピークに整備された全国の港湾、海岸保全施設等は、近い将来一斉に更新時期を迎える。この逼迫する更新需要に対し、更新投資の過度の集中を避け、管理主体の逼迫する財政再建計画等を踏まえながら計画的に適時・適切な施設の更新等を行う必要がある。そのため、管理している港湾、海岸保全施設等の効率的な維持管理、延命化を図り、将来の更新投資の平準化を目指し、アセットマネジメント的手法を取り入れた予防保全計画を策定する試みが盛んに取り組まれている。
しかし、港湾施設の維持管理を適切に行う上で、劣化予測は重要な要素であるが、構造物の種類、構造、劣化損傷原因、損傷の進行具合、点検データの量と質の問題など劣化予測の精度に影響を与える要因は様々であり、適切な劣化予測が行われているとは言い難いのが現状である。
本研究では、状態推移過程モデルや寿命データ分析など、構造物に最も適した劣化予測手法を検討し、劣化予測の精度を向上させることを目的とする。
本研究では、劣化予測の方法として、2つの方法を検討する。一つは、マルコフ連鎖モデルや状態推移過程による予測手法であり、将来の状態推移を予測するために、最近の状態推移に関するデータを用いて、今後もその状態が継続すると仮定してシミュレーションし、将来の状態を概略的に見通す方法である。もう一つは、ハザード・モデルあるいは寿命データ分析による予測と呼ばれるもので、供用年数とその時点の状態に関するライフタイムデータを用いて、性能限界に到達するタイミングを予測し、非線形回帰により今後の劣化曲線を見通し、余寿命を推定する方法である。
本研究では、ある橋梁の点検データを用いて、これらの2つの劣化予測手法から、異なる緒元や環境条件のグループ別の劣化曲線を作成し、劣化速度を比較するとともに、予測手法の比較を行う。また、経年変化にともない劣化事象のハザードがどの程度加速するかを進行形状パラメータ推定値により比較し、ライフサイクル後半の危険性を評価する指標を示す。
さらに、設定した劣化予測手法をもとに、補修・改良方法・実施時期の検討およびシナリオ別のLCC算出までを行う。
点検データの収集対象施設は、関西電力株式会社保有の火力発電所沿岸構造物とする。
研究開発の実施項目は以下のとおりである。
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