港湾構造物をはじめとする社会基盤を適切に維持し、安全で快適な生活を確保することが重要である。とりわけ、将来起こりうる大規模地震に対してその被害の軽減、および被災後の早期機能復旧が重要である。例えば、コンクリート構造物のはり部材や柱部材が地震力により損傷した場合、部材の健全性を診断し、適切な工法により補強する必要がある。実際には、鋼板、シートや鉄筋コンクリート(RC)による巻きたてなどが行われるが、以下のような点がコスト増加を招いている。
本研究開発は、超高強度かつ超高靭性な短繊維補強セメント系複合材料を開発し、地震被災後のコンクリート構造物の機能を早期復旧するために、吹付け工法によって補強するための工法の開発に関する基礎的研究である。補強用鉄筋の配筋、型枠工、架設などの省略により、早期の機能復旧が可能となり、かつ工法そのもののコストダウンも可能とする。さらに、材料使用量の面からのコスト削減も目指している。当該材料の目標性能は、引張強度10~12MPa、引張強度時ひずみを0.5%に設定している。例えば、断面150mm×200mmの鉄筋コンクリートはり(鉄筋を1%配置)の一軸引張試験を想定した結果(解析による)を図-1に示す。これと同程度の力学性能を有する断面を、開発予定の材料(引張強度10MPa、引張強度時ひずみ0.5%)で置換する場合、部材厚が90mmに低減できる(図-1参照)。緊急時のための材料ストックや、運搬などの難しさから、できる限り少量の材料を利用し、効果的な補強が行われることが震災復旧時には重要な要素となるが、本研究開発によってこれらの達成が十分に期待できる。

図-1 高靭性材料と既存RCの引張性能の比較と対象部材
近年、繊維補強セメント系材料の高性能化が積極的に行われている。例えば、擬似ひずみ硬化型高靭性セメント系複合材料では、引張応力の増加とともに、複数微細ひび割れを生じ、かつ応力が漸増する擬似ひずみ硬化挙動を示す。申請者は、一昨年度、当該材料を用いた表面保護工に関する設計方法を提案している(テーマ名:動的ひび割れ追従性を考慮した高靭性セメント系表面保護工の設計方法の確立)。
今回開発されるセメント系材料は、先述の高靭性セメント系複合材料をさらに高強度化し、引張補強材として積極的に利用することで、震災復旧時のコスト削減を実現するものである。具体的には、図-2に示すように、地震力によりコンクリートのかぶりが剥落し、内部のコンクリートがブロック状に破砕される程度の損傷部材への適用が期待される。

図-2 損傷したRC部材の例(土木学会(第1次)・地盤工学会合同調査団 調査速報(Ver. 1.0, 2005年1月11日)より)
施工面、材料面など、様々な側面からのコスト削減の可能性があり、これらのメリットを実際に確認するための実験、解析を行う。具体的には、以下の項目について実施する。
![]()