[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第9回 「事業執行」通達にみる総合評価方式

高木栄一上席研究員(SCOPE)


 平成27年4月10日、「事業執行」通達が発出されました。正式には、次の2本の通達のことです。

① 平成27年度国土交通省所管事業の執行について
  (国土交通事務次官から直轄、独法等、各発注機関の長宛)

1.公共事業等の施行方針
2.入札・契約業務の厳正な執行と建設産業の健全な発展
3.中小建設業者等の受注機会の確保等
4.安全対策・環境施策の推進

② 平成27年度における国土交通省直轄事業の入札及び契約に関する事務の執行について
  (大臣官房長から大臣官房官庁営繕部長、各地方整備局長、北海道開発局長宛)

1.事務の改善及び効率化について
2.入札及び契約手続における発注者としての規律の保持について
3.円滑な事業執行のための入札及び契約事務の適切な実施
4.入札及び契約手続における一層の透明性及び競争性の確保
5.公共工事等の品質確保の促進
6.著しい低価格による受注への対応等


 これらの通達が発出された直後には、建設専門誌にその概要が報道されますが、国土交通省HPのプレスリリースには掲載されません。時間がたってから下記サイトに掲載されます。今年は、3ヶ月後の7月に入ってからでした。
    国土交通省ホーム>お問い合わせ・申請>調達情報>入札・契約制度関連通達>
    地方整備局関係(道路・河川等)>事業執行
 このサイトには、過去の「事業執行」通達も残されています(通達①は平成15年度以降、通達②は平成18年度以降)。当該年度の予算成立直後に発出されます(補正予算成立時にも別途発出)。


 今年度の「事業執行」通達で、総合評価方式についてどのように触れられているのか、過去の通達も確認しながら気になる点を纏めてみます。


 総合評価落札方式における技術審査・評価業務の効率化に努めること・・・通達①


 平成26年度から「総合評価方式の効率化」について触れられています。二極化の試行によっても、審査・評価業務の効率化が足りないということのようです。


 これに関連して通達②では、具体的に2点の効率化方策が示されています。


・施工能力評価型Ⅰ型の対象工事のうち、次のイ)及びロ)の条件をすべて満たす工事においては、施工能力評価型Ⅱ型により入札手続きを実施すること。提出資料を簡素化等できるものとする(平成25年度より同じ記述があります)。
イ)1件につき予定価格が3億円未満の工事
ロ)施工計画の提出を求めずに、企業・技術者の能力等の評価により、適切かつ確実に施工上の性能等が確保されることが確認できる工事

・総合評価落札方式における企業の技術力審査・評価を効率化するため、以下の条件をすべて満たす2以上の工事において、提出させる技術資料の内容を同一のものとすることができるものとする(平成26年度より同じ記述があります)。・・・一括審査方式の活用
イ)支出負担行為担当官又は分任支出負担行為担当官が同一である工事
ロ)工事の目的・内容が同種の工事であり、技術力審査・評価の項目が同じ工事
ハ)業種区分及び別表第一に掲げる等級に掲げる等級が同じ工事
二)施工地域が近接する工事
ホ)入札公告、競争参加資格申請書等の提出、入札、開札及び落札決定のそれぞれについて同一日に行うこととしている工事
へ)工事の品質確保又は品質向上を図るために求める施工計画又は技術提案のテーマが同一となる工事
ト)工事技術的難易度評価表のすべての大項目及び技術提案又は施工計画を求めるテーマに関連のある小項目の評価が同じ工事


 上記の2点の方策は、平成24年度に試行導入され、平成25年度から本格導入された総合評価方式の「二極化」について、さらに効率化を進めているものですが、これに伴う弊害も出てきています。
・施工能力評価型Ⅰ型とⅡ型の適用に、地方整備局間で大きなばらつきがある(すべてⅡ型を適用している地方整備局もある)。
・難易度Ⅲ・Ⅳの工事でも、施工能力評価型Ⅱ型が適用されている事例がある。
※「総合評価落札方式の改善(二極化)の状況と今後の方向性」(平成27年3月25日、総合評価方式の活用・改善等による品質確保に関する懇談会)参照
・一括審査方式は、WTO対象の大規模工事にも適用されている。
・一括審査方式では、応札社数や応札額によっては、不調不落が発生する場合がある。


 また、これら2点の方策は、本通達以前に一部の地方整備局で実施されていたものを、推察ですが地方整備局の要望を踏まえる形で、全国的に統一した方法で実施するよう盛り込まれたものです。


 一方、通達②には、平成20年度以降、一貫して次のような記述があります。


 落札者の決定に際しては、総合評価方式を原則とすること


 すなわち、国土交通省直轄工事では、すべての工事で総合評価方式を実施することを求めています。それに連動するように、平成21年4月には「総合評価落札方式における提出資料の簡素化等について」(大臣官房課長から地方整備局部長宛、いわゆる「簡素化通達」)が発出されています。


・比較的小規模で施工計画の工夫の余地が小さいため、施工計画の提出を求めずに、同種・類似工事の施工実績や工事成績評定点等の評価により、適切かつ確実に施工上の性能等が確保されることが確認できる工事は原則として本通知の対象工事とする。
・「簡易な施工計画」の提出を原則として求めないこととし、簡易な施工計画以外の適切な評価項目を設定するものとする。


これは、二極化後の「施工能力評価型Ⅱ型」に相当するものです。


平成22年12月に発出された「平成22年度補正予算等に係る国土交通省所管事業の執行における入札・契約業務等の円滑な実施について」(本省各局課長から地方整備局各部長等宛)も前記の「事業執行通達」の一つとして掲載されています。


・総合評価落札方式における提出資料の簡素化等の実施については、「総合評価落札方式における提出資料の簡素化等について」(以下「簡素化通達」という。)に定める手続により実施すること。


 改正品確法が全面施行されたことでもあり、同法の目指す「多様な入札契約制度の導入・活用」を踏まえれば、すべての工事に総合評価方式を適用するというのは、その主旨と矛盾するのではないでしょうか?総合評価方式適用の成果が表れない工事については、価格競争方式を適用することを考えるべきではないでしょうか?それこそが、入札契約制度や総合評価方式の効率化に最も資する選択ではないでしょうか?

 

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