[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第7回 「品確法施行から10年、改めて『総合評価方式』を考える」  ~2015.4.2~

高木栄一上席研究員(SCOPE)


 平成17年4月1日、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(ここでは、「品確法」という)が施行されました。今から10年前のことです。
 この10年間、品確法を根拠に実施されてきた総合評価方式は、どのような変遷を遂げてきたのでしょうか?国土交通省の取組を中心に、振り返ってみます。

「総合評価方式」導入に向けて

 品確法の施行に伴い、「総合評価方式」を具体的に導入するため、2つの大きな動きがありました。
 一つは、国土交通省の「公共工事における総合評価方式活用検討委員会」(平成17年5月~21年3月、以下「委員会」という)による直轄工事での「総合評価方式」の具体的な検討です。この委員会は、現在「総合評価方式の活用・改善等による品質確保に関する懇談会」(平成21年11月~、以下「懇談会」という)として継続中です。
 もう一つは、中央建設業審議会に設置されたワーキンググループ(平成17年12月設置)によるもので、「地方公共団体向け総合評価実施マニュアル」(平成19年3月)が取り纏められました。「市区町村向け簡易型」、すなわち過去の実績のみで評価する方法を提案しています。国土交通省が二極化への移行で95%の件数で実施している「施工能力評価型」と全く同じ性質のものです。

「型」の変遷

 関東地方整備局のHPには、平成17年度以降、全ての年度の総合評価方式ガイドラインが掲載されています。上記委員会・懇談会と関東地方整備局のHPから、「型」の変遷を振り返ってみます(以下「( %)」は加算点のうち、過去の実績の評価割合を示します)。

◇ 平成17年度委員会:簡易型、標準型(0%)、高度技術提案型
 標準型には、過去の実績の評価はありません。

◇ 平成17年度関東:簡易型、標準型(44%)、WTO標準型(0%)、高度技術提案型
 上記委員会による標準型を大きく二つに分けています。WTO標準型には、過去の実績評価はありませんが、標準型では加算点の半分近くを過去の実績が占めます。

◇ 平成20年度委員会:実績重視型(100%)、簡易型、標準Ⅱ型、標準Ⅰ型、高度技術提案型
 市区町村向け簡易型を実績重視型として紹介しています。標準Ⅱ型は、「従来の簡易型の手続き」を踏襲したもので呼称変更です。標準Ⅰ型は「従来の標準型の手続き」を踏襲したものです。

◇ 平成20年度関東:簡易型(100%)、標準Ⅱ型(74%)、標準Ⅰ型(74%)、WTO標準型、高度技術提案型
 簡易型では、施工計画を求めますが、「可・不可」で評価します。二極化後の施工能力評価型(Ⅰ型)に相当します。

◇ 平成22・23年度各地方整備局:型の呼び名は異なりますが、実績重視型を全面的に実施しています(簡易型、簡易型(実績重視方式)、簡易Ⅱ型、実績重視簡易型、特別簡易型など)。二極化後の施工能力評価型(Ⅱ型)に相当します。

◇ 平成25年度懇談会:施工能力評価型Ⅱ型(100%)、施工能力評価型Ⅰ型(100%)、技術提案評価型S型(50%、WTO対象は0%)、技術提案評価型A型
 遂に、実績のみで評価する実績重視型(当初、市区町村向け簡易型として提案されたもの)が、「二極化」と称して、正式に位置づけられました。

技術提案評価から実績重視へ、その根拠

 このように、平成17年度当初の委員会のガイドラインから始まった「技術提案を評価する総合評価方式」は、この10年の間に「実績を重視する総合評価方式」へと変貌して行きました。
 「技術提案を評価する総合評価方式」は、平成17年4月に施行された品確法第十五条「発注者は、競争に参加するものに対し、技術提案を求めるように努めなければならない」にその根拠があります。
 では、「実績を重視する総合評価方式」の根拠はどこにあるのでしょうか?平成17年4月の品確法第三条には、「公共工事の品質は、(中略)経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要素をも考慮し、価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることにより、確保されなければならない」とありますが、「過去の実績」を明確に示しているわけではなさそうです。
 実は、品確法第八条に則り、平成17年8月に「公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針(基本方針)」が閣議設定されましたが、その中で次のような「考え」(赤字部分)が述べられています。
 「一般的な工事において求める技術提案は、施工計画に関しては、施工手順、工期の設定等の妥当性、地形・地質等の地域特性への配慮を踏まえた提案の適切性等について、品質管理に関しては、工事目的物が完成した後には確認できなくなる部分に係る品質確認頻度や方法について評価を行うものとする。これらの評価に加えて、競争参加者の同主・類似工事の経験及び工事成績、配置予定技術者の同種・類似工事の経験、防災活動への取組等により蓄積された経験等についても、技術提案とともに評価を行うことも考えられる。
 「これらの評価に加えて」以降のわずか2行半で、過去の実績の「評価を行うことも考えられる」とされています。この部分については、改正品確法(平成26年6月施行)に伴い閣議決定(平成26年9月)された基本方針においても、全く変更されていません。

低入札対策と落札率

 総合評価方式の本格導入に合わせたように、低入札の嵐が吹き荒れました(図参照)。総合評価方式本格導入の約1年後に、低入札対策が導入されました。現在、最も機能している低入札対策は、「施工体制確認型」総合評価方式の導入ですが、それでも落札率が低入札調査基準価格率に近接しています。その背景には、「獲得加算点に差が付かない」「獲得加算点1位同点者が多数存在する」という現実があり、結局は価格競争せざるを得ないという大きな課題を抱えています。さらに、低入札の結果、「無効」となる応札者が多数存在するという実態があります。

 

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 また、国土交通省では、調査基準価格の算定式を4度に渡って変更しました(平成20、21、23、25年度)。それに伴い、見かけ上の落札率は、回復傾向にあります。ただし、平成27年度は、積算基準の改定(一般管理費等率、現場管理費率)に伴い、調査基準価格率は1ポイント程度下がることになりそうです。

オーバースペック対策

 総合評価方式の本格導入は、「技術ダンピング」という造語を生み出しました。「本来、発注者が求めている仕様を大幅に超えた技術を提案して、それに見合わない価格で応札している」と指摘したものです。
 これに対して、各発注者は、「発注者側でオーバースペックを防ぐために留意している事例」等を例示し、これらの提案に対して、高い評価は行わないとしています。
 これも、獲得加算点(技術提案評価)に差がつかない一因だと考えられます。

当初から変わらないものは?

上記のように、平成17年4月の品確法施行以来、総合評価方式は大きく変化してきました。しかし、当初から変わらないものもいくつかあります。それに対する改善提案も併せて示します。
◇ 標準点100点:除算方式の分子に加算点(数十点)に比べて、100点という大きな点数が加算されますので、獲得加算点の差を薄める作用をしてしまいます。施工体制評価点と併せると130点になります。
→ 標準点を0点、施工体制評価点も0点(施工体制に課題がある場合は、マイナス計上)する方式も検討すべきではないでしょうか?
◇ 分子は入札金額(1億円単位):算出される評価値の大きさに影響しています。予定価格が小さいものほど、評価値が大きく計算されます。
→ 分子には応札率(%、小数点以下2桁程度)を用いればどうでしょうか?予定価格による評価値の齟齬はなくなりますし、応札価格が評価値に及ぼす鋭敏性も消えます。また、評価値の有効桁数は一定にすべきです(たとえば、4桁)。
◇ 加算点評価は判定方式または数値方式:加算点1位同点者が多数存在する現行の総合評価方式の最大の欠点と言えます。
→ 「順位方式」を実施してみてはどうでしょうか?全ての順位に伴う得点をあらかじめ決めておく必要はありません。1位と2位(または1位と2位、3位)に対する加算点を決めておき、残りの応札者に対してはそれ以下の点数(一定の差がある)を付与する方法です。現行の「優・良・可」方式の一変形と考えられます。
 改正品確法で「技術提案・価格交渉方式」が導入されました。最も優秀な提案を選定し(1位を決定)、その者と価格を交渉する方式です。現行の総合評価方式は、それとのギャップが大きすぎます。そのギャップを少しでも埋め、価格競争に陥っているWTO対象工事の技術提案評価型を改善する必要があります。「試行」という方法があります。
◇ 評価値の算出は除算方式:一時期、年間30件程度、加算方式が試行されたことがありましたが、それ以外はすべて除算方式です。確かに、加算方式は応札価格が評価値に及ぼす鋭敏性は低いのですが、現状の総合評価方式の大きな課題には加算方式でも対応できません。すなわち、加算点1位獲得者が多数存在する場合は、加算方式でも価格競争になってしまいます。
◇ 一般競争入札で総合評価方式:国土交通省では、平成19年度以降、ほぼ全ての工事で総合評価方式(一般競争入札)が適用されています。
→ 総合評価方式には、様々な課題が残されています。特に、予定価格制度や低入札調査基準価格制度のある我が国では、その課題が顕著に表れます。
 「原則全ての工事で総合評価方式」ではなくて、一部の工事では価格競争(公募型指名競争入札)を実施することも考えるべきではないでしょうか?改正品確法でも「発注者は、入札及び契約の方法の決定に当たっては、(中略)多様な方法の中から適切な方法を選択」することを規定しています。

改正品確法における「総合評価方式」

 改正品確法では、総合評価方式について以下の点が追加されています。
・公共工事の品質確保に当たっては、(中略)その請負代金の額によっては公共工事の適正な施工が通常見込まれない契約の締結が防止される(中略)ように配慮されなければならない。
・発注者は、(中略)技術提案を求めるに当たっては、競争に参加する者の技術提案に係る負担に配慮しなければならない。
 改正品確法第二十二条により定めることとされた「発注関係事務の運用に関する指針」(運用指針、平成27年4月1日運用)には、以下の記述があります。
・技術提案に係る事務負担に配慮する。
・過度なコスト負担を要する(いわゆるオーバースペック)と判断される技術提案は、優位に評価しない。
・豊富な実績を有していない若手や女性などの技術者の登用も考慮して、施工実績の代わりに施工計画を評価する。
・提出を求める技術資料の内容を同一のものとする一括審査方式を活用する。
・施工能力や実績等により競争参加者や技術者を評価する総合評価落札方式(施工能力評価型総合評価落札方式)を活用する。
・施工体制確認型総合評価落札方式の実施に努める。
 現在、国土交通省で実施している総合評価方式のメニューが列挙されています。
 なお、一部の発注者では、「若手技術者・女性技能者が現場に従事したことを確認した場合に、工事成績で加点評価する試行工事」が行われています。
 しかしながら、工事成績評定結果は、様々な場面で活用されています。
・総合評価方式の加算点(企業、配置予定技術者)
・総合評価方式導入の効果の検証
・総合評価方式の「型」の妥当性の確認
・低入札調査基準価格率の算定式変更の根拠 など
 このような状況の中で、工事成績の上昇に直接繋がらないようなことに加点評価するのはいかがなものでしょうか?工事成績評定の連続性が失われるのではないでしょうか?

 

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