野田 巌 研究主幹(SCOPE)
今回は、3月1日に開催された「総合評価方式の活用・改善等による品質確保に関する懇談会」(国土交通省)の配布資料(データは26年度工事)に沿って、我が国の総合評価方式の現状と、主な課題を列挙してみます。
技術提案評価型において、年々、落札者と非落札者の技術評価点の差が狭まっている状況がみられ、当初期待された効果が得られていない現状が報告されています(WTO技術提案評価型S型 落札者平均得点率-非落札者の平均得点率 8.2ポイント(H21d)→5.2ポイント(H24d)→3.6ポイント(H26d))(P.4)。理由としては、標準設計の変更を伴わない範囲での提案を求めるため、自ずから提案内容が限定され、技術的に有意な差を得る余地が少ないと分析されています。
技術点の一位同点が多い工事も散見されており、その割合が高い工種は、WT0型では、鋼橋上部工事が6割以上、PC工事が5割以上、一般土木工事が4割程度、非WTO型ではPC工事が3割弱である。技術点の1位と2位の得点差が小さい工種は、トンネル工事が1%の差、PC工事が2%の差となっていますが、逆に1位と2位の得点差が大きい工事は堤防・護岸工事が6%の差、鋼橋上部工事が5%の差であり、これらの工種は他と比べると技術的に優位な差を得る余地が残されていると考えられます(P5~6)。
二極化に当たって推奨された「段階選抜方式」の効果が検証されており、今後の方向性が示されています(P.11)。
中長期的な技術者確保を目的とする試行の実施状況が報告されています。➀若手技術者の配置を促す入札契約方式の試行工事の入札参加者数は、平均7.3者で、同年度の一般土木工事全体の入札参加者数の平均は7.4者とほとんど違いがありません。しかし、➁女性技術者の登用を促すモデル工事の試行においては、平均3者ですが、同年度の一般土木工事全体の入札参加者数の平均7.4者と比較すると明らかに競争性が阻害されており、時間をかけた導入が必要かと思われます。
総合評価方式が抱える課題の改善が何点か報告されています。しかしながら、総合評価方式を適用していても、最終的には価格競争に陥らざるを得ない現状を顕著に示しています。
・入札率と調査基準価格率との差が縮小傾向にあり、近年では調査基準価格付近の価格で入札が行われている(P.13)。
・WTO対象工事の技術評価点一位同点者数は、平成22年度まででほぼ倍増し、H23年度とH24年度は一時減少していたものの、H25・26年度は再び増加している(P.9)。
・入札率と調査基準価格率の差が0%に集中する傾向である(P.20)。
・WTO対象工事で技術評価点一位同点者が多く発生している(44%)(P.25)。
・技術提案評価型A型(旧高度技術提案型)では、技術評価点最高得点者の落札者に占める割合が年々低下(8割(H22d)→5割(H23d)→1割台(H24d))していたが、25年度より再び増加(5割(H25d)→10割(H26d))している(P.10)。
・総合評価のタイプ別(価格競争型、施工能力評価型、技術提案型)の落札状況をみると、難易度が高い工事で最も多く採用されているのは技術提案型であるが、落札率は3タイプの中で最も調査基準価格率に近づいている (P.21)。
これらの資料は、「港湾空港関係を除く直轄工事」について調査・分析・報告されているものですが、我が国で実施されている総合評価方式が陥っている現状を的確に表していると思われます。港湾空港関係工事についても、同じような課題を抱えています。
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