[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第10回 総合評価方式で加点対象となる項目は、どこまで拡がるのか?

高木栄一上席研究員(SCOPE)


 平成17年4月1日施行の「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(以下、品確法という)では、総合評価方式で加点対象となる項目は、「技術提案」でした。しかし、同年8月に閣議決定された品確法の基本方針では、「企業評価」「配置予定技術者評価」および「防災活動への取組等により蓄積された経験等」を評価することも考えられるとし、加点対象項目を大きく拡げました。
 同年12月に策定された「公共工事における総合評価方式活用ガイドライン」(公共工事における総合評価方式活用検討委員会)では、基本方針に示された「防災活動への取り組み等」を評価項目として採用(以下のように例示)しました。
・地域内における本支店、営業所の所在地の有無
・過去10年間の近隣地域での施工実績の有無
・過去5年間の災害協定等に基づく活動実績の有無
・過去5年間のボランティア活動の実績の有無
・労働福祉の状況
・地産品の使用状況
 これら項目は「地域精通度・貢献度」(または「社会性」)として、「企業評価」「配置予定技術者評価」と並ぶ三大評価項目の一つとなり、新しい項目が加わっていきました。


 平成24年2月、「総合評価落札方式の改善(案)」(総合評価方式の活用・改善等による品質確保に関する懇談会)が策定されました。いわゆる「二極化」と称した総合評価方式の簡素化案です。
 二極化に至る過程で、総合評価方式の課題の一つとして「手持ち工事量や地域貢献の評価要望による評価項目の複雑化」は「品質確保の理念からのかい離」であるとして、「基本に立ち返った議論が必要」とされました。しかし、残念ながら最終結論としては、「『地域精通度・貢献度等』の評価は『企業の能力等』の中で必要に応じて設定する」こととして、各発注者(地方整備局)の意向を受け入れた形になり、根本的な改善には至りませんでした。
 さらに平成27年1月、改正品確法の運用指針では、「必要に応じて豊富な実績を有していない若手や女性などの技術者の登用も考慮して、(中略)評価する」と明記されたこともあって、「若手技術者」(35歳以下または40歳以下)や「女性技術者」を配置すれば総合評価方式で加点する案件も多数、公告されています。当初から求めてきた経験豊富で優秀な実績を有する技術者を評価してきた「配置予定技術者評価」とは相容れない評価項目ではないでしょうか?


 また、平成27年7月に国土交通省から発表された資料「新技術の活用 過去最大~平成26年度 公共工事等における新技術活用システム(NETIS)の状況~」では、以下のように報告されています。
・新技術活用率(新技術を活用した工事件数を総工事件数で除したもの)は、平成26年度では45.8%となり、平成16年度以降の統計で最大となりました。
・「施工者希望型」(入札契約の総合評価方式における技術提案、又は契約締結後における施工者からの技術提案に基づき、施工者が新技術を活用する)の割合が年々増加しており、平成26年度では5つの型に占める割合は91.2%となりました。
 この傾向は、総合評価方式でNETIS登録工事を活用すれば加点評価されることから、当然の結果であり、総合評価方式を利用した政策推進策の一つと考えられます。


 今年度に入って、防衛省と法務省は、新たな加点対象項目を発表しました。発表資料または新聞報道記事をご覧下さい。


(平成27年6月10日、産経ニュース)

予備自衛官採用企業を優遇、防衛省、7月の工事発注から

 防衛省が自衛隊施設の建設工事を発注する際、災害など緊急時に自衛隊の応援要員となる予備自衛官を雇用している企業を優遇する落札方式を7月の公告から導入することが9日、分かった。自衛官OBが採用対象者となる予備自衛官と即応予備自衛官は平成26年度末現在で計約3万7千人で、定員(約5万6千人)の3分の2程度にとどまっており、定員充足率を高めるのが狙いだ。
 新しい総合評価落札方式の対象となるのは、自衛隊の駐屯地や演習場で行われる工事で、予定価格が6億円未満の案件。庁舎や車両整備場、体育館の建設などを念頭に置いている。
 防衛省は当初「定員充足率は低下傾向にあり、有事や災害時に人員不足が生じかねない」として昨年9月以降に新方式を導入する方針だった。財務省などが公平性の観点から難色を示して遅れていたが、防衛省が制度設計を修正し新基準を設けることで7月以降の導入にこぎ着けた。
 新基準では、工事が行われる駐屯地や演習場で実際に勤務した経験がある予備自衛官を雇用している企業の「信頼性・社会性」を評価の対象に追加。駐屯地内では火気取り扱いや、事故が発生した場合の避難経路などに独自の規制があり、規制を理解していなければ部隊運用を阻害しかねないためだ。予備自衛官が現場監督者を補佐する立場にあることや、現場配置日数が延べ30日以上であることなども判断基準とする。


(防衛省 装備施設本部施設計画課 施設契約室 施設契約審査第2係)

総合評価落札方式における予備自衛官等の評価について

 防衛省が発注する自衛隊施設の建設工事の総合評価落札方式において、工事の品質の確保又は品質の向上を図るため、駐屯地等の事情に精通した退職自衛官である予備自衛官等を一定の条件の下に現場配置する場合、「企業の信頼性・社会性」の評価区分において、加点評価を行うこととしましたのでお知らせします。
(対象工事)
 自衛隊の駐屯地、分屯地、基地、分屯基地及び演習場内で行われる工事で、1件につき予定価格がWTO基準額(6億円)未満のもののうち、総合評価落札方式により入札を行う工事

 

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(平成27年9月7日付け、日刊建設工業新聞)

法務省、出所者の建設業就業支援強化、短期訓練コース新設、雇用会社向け奨励金も

 法務省は、年間平均2万人以上に上る刑務所出所者の建設業への就業支援策を強化する。刑期中に任意で受講できる職業訓練に期間1カ月の「短期建設技術科」を16年度に新設。刑期を終える直前まで出所後の就業希望業種を決められない受刑者が多い中、短期コースで最低限の基礎だけでも身に付けてもらい、選択肢を広げられるようにする。企業に対する出所者の雇用奨励措置も継続する。出所者の再犯防止と建設技能労働者の確保を両立させる狙いだ。
 出所後の就業支援策として刑務所で行われる職業訓練には約40課程があり、うちほぼ半数を建設関係が占めている。主な職種は建設躯体工や溶接工、建築塗装工など。それぞれ資格の取得を前提に期間3カ月~1年の訓練が行われている。
 16年度からは、この職業訓練を拡充し、建設業の職種で期間1カ月の訓練コースとして短期建設技術科を新設。特に求人倍率が高い建設躯体工(5月時点で6・29)と溶接工(同2・55)の2課程を設ける。いずれも資格を取得するまでのスキルは身に付けられないが、基礎的な作業や図面の読み取りなどを行えるようにする。刑期中に出所後の人生設計を描けないうちに職業訓練を受講するタイミングを逃した受刑者が、刑期を終える直前でも受講できるようになるのが最大のメリットになると法務省はみている。
 短期コースは、職業訓練を行っている63カ所の刑務所のうち、作業スペースや他の訓練課程との兼ね合いを考慮し、建設躯体工は4カ所(場所名は非公表)、溶接工は17カ所(同)でそれぞれ実施する。講師は原則として各刑務所に配置されている資格を持った技術系の刑務官が務めるが、他の訓練課程との兼ね合いなどで難しい場合、地元の建設業団体などから資格を持つ講師を招くことも検討する。
 法務省は、出所者を積極的に雇用している「協力雇用主」を支援するため、雇用1人当たり年間最大72万円の奨励金を支払う制度を15年度に導入した。この支援措置を16年度も継続する。協力雇用主は全国に約1万4500社あり、ほぼ半数が建設会社という。
 今年7月に始めた同省発注工事の入札で出所者の雇用実績を加点評価する取り組みの試行案件もさらに増やし、早期の本格移行を目指す。官民の建設投資の回復で建設業の担い手不足は深刻化している。女性や外国人、予備自衛官など多様な人材からの確保を急ぐ建設業にとって、出所者の雇用は新たな一手となりそうだ。


 このように、諸施策の推進に利用するために、総合評価方式の加点対象となる項目はますます増える傾向にあります。「品質確保の理念からのかい離」に歯止めをかける必要があります。

 

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