八谷好高客員研究員(SCOPE)
滑走路、誘導路とその周辺区域でのメンテナンス作業、滑走路の一時使用制限および建設工事は航空機の運航にとって大きなハザードです。今回は、前回のメンテナンス作業に引き続いて、滑走路の一時使用制限と建設工事を安全に行うために有効な方法を紹介します。
メンテナス作業や建設工事により滑走路の使用を一時的に制限する場合には、次のような事項に注意する必要がある。
空港内のメンテナンス作業や建設工事が滑走路の運用に影響を及ぼすときには、滑走路公示距離* を再計算して、公表する。
メンテナンス作業や建設工事の間、航空機や他の物件が制限表面から突出する場合には、滑走路進入端や制限表面を一時的または恒久的に移設することを検討する。ただし、滑走路進入端の移設は、滑走路の有効着陸距離に影響して滑走路の運用上重大な問題ともなるので、両者の間のバランスを考慮する。また、精密進入滑走路の場合にはILS関連の事項についても十分に配慮する。
滑走路進入端の移設位置については、航空機の種類、視程・雲底、障害物件の位置、進入表面の勾配のほか、滑走路進入端の移設地点の手前1,200mまでの滑走路中心線から左右75mの範囲における移動物件も考慮に入れて決定する。
メンテナンス作業や建設工事が滑走路の諸元、公示距離、制限表面や航行援助施設に影響を及ぼす場合には、その情報を発信する。具体的な事項としては、使用可能滑走路、滑走路長、仮設の固定・移動物件、航行援助施設、滑走路と誘導路の接続状況といったものが挙げられる。
メンテナンス作業や建設工事のスケジュール、それが航空機やGSEに及ぼす影響、ハザードの明確化とそれによるリスクについては、空港管理者・滑走路安全対策チームで協議して、必要に応じて次のような事項の変更を行う。
◎基準・規格と目的
◎目標
○空港の運用・安全関係者、インフラ・プロジェクト担当者、交通管制担当者の間の調整
・工種ごとの作業と航空機運航・地上サービス業務との調整
・作業スケジュール
・ハザードの明確化とそれによるリスクの評価
・航空機運航・地上サービス業務に影響を及ぼす仮設工事とメンテナンス作業の連絡・公表
・空港インフラならびにその運用に関する恒久的な変更
◎作業・工事
○空港インフラならびにその運用に関する変更事項の把握
○一時的または恒久的な変更事項と工事時期が影響を及ぼす事項の把握
・航空機の運航
・航空交通管制および航行援助施設
・地上サービス
・緊急時の対応
・荒天時の空港の運用
・野生生物の管理
・空港の検査・管理
・路面摩擦抵抗、FODを含む滑走路の状態
○作業・工事および恒久的な変更に係る情報の分析・周知
・航空路誌改訂版(AIP amendment)
・航空路誌補足版(AIP supplement)
・エアラック(AIRAC)
・ノータム(NOTAM)
・飛行準備情報・データ
・飛行場情報放送業務(ATIS)
・航空図
インフラ・設備やそれらの運用・操作手順に関する一時的な変更ならびに空港の運用や安全性に関する恒久的な変更は適切な方法により空港内の組織に伝達する。
空港内の救急消防(Rescue Fire Fighting、 RFF)能力の低下が避けられないときは、ノータムを発出して、 RFFカテゴリー(対応可能な航空機サイズで表示)の一時的な低下を周知する。その状態が長期化したり、恒久的なものになったりする場合は、航空路誌補足版・改訂版を発行する必要がある。
メンテナンス作業や建設工事により救急車・消防車のレスポンスタイムが影響を受ける場合には、出動ルートを変更したり、場合によっては臨時救急消防拠点を別途設けたりすることを検討する。
設定された期間内に撤去される障害物件は、一時的ハザードとみなすことができる。これには、滑走路周辺でのメンテナンス作業や建設工事で使用される建設機材、機械装置、資材、車両といったものが含まれる。
一時的障害物件が航空機の運航安全性、標識および灯火に及ぼす影響については、関係部局の照査を経て、その影響度合いを以下の要因により決定する。
◎滑走路幅員
◎航空機の種類と交通量の分布
◎代替滑走路
◎横風あるいは卓越風の成分
◎降雨・降雪および視程といった気象条件
◎公示距離の減少と進入表面上の障害物件のバランス
なお、一時的障害物件・ハザードについては公表する。
障害物件がILS機器に及ぼす影響を調査し、滑走路が規定通りに運用できない場合にはILSのカテゴリを下げざるを得ない。そのため、ILSの性能、滑走路の処理能力を考慮して、メンテナンス作業や建設工事の期間を決定する。
ハザードの明確化とそれによるリスクの評価の結果、航空機の運航安全性が確保できないことや残存するリスクが十分には緩和できないことが判明した場合、滑走路を一定の期間閉鎖することを検討する。その場合には関連する情報を連絡・公表する。
滑走路を閉鎖することだけではハザードや立入・逸脱リスクの終了とはならない。滑走路の閉鎖に対する対策が不十分であったり、情報が不正確・不統一であったりする場合には、航空機は閉鎖された滑走路を離着陸に使用してしまう恐れがある。そのため、情報の公表に加えて、次の措置を検討する。
◎メンテナンス作業や建設工事のために滑走路を閉鎖する期間中は、閉鎖に関する情報と作業区域を適切に連絡・公表し、仮設標識・マーキングをはっきりと表示する。
◎閉鎖された滑走路へ接続する誘導路はマーキングや照明を施したフェンスを使用して閉鎖し、航空機や車両の誤進入を防止する。
◎閉鎖された滑走路に関する無線航行援助施設は航空機の誤進入を防ぐために無効にする。
◎閉鎖された滑走路上のすべての障害物件をはっきりと表示し、照明を付ける。
◎安全に関する情報をあらゆる手段により公表する。
滑走路、誘導路とその周辺区域で建設工事を安全に行うためには、次のような事項に注意する必要がある。
建設工事を慎重に計画・調整することにより航空機運航の混乱を最小に、また空港の運用を十分に安全なものとできる。プロジェクトの完成までの計画を確実なものとするために、建設工事と航空機の運航とが互いに影響しているという状況を理解し、建設工事全体を調整するための工事安全計画を策定する。
工事安全計画は次の5つのステップから成る。
◎影響範囲の特定:建設プロジェクトによって影響を受ける区域を特定する。
◎現行運用状況の把握:プロジェクトの各段階においてその影響を受ける区域ごとに運用状況を把握する。
◎運用の一時的変更の承諾:工事期間中は可能な限り現行の運用方法を継続するが、それが不可能となるときは運用方法を変更する。
◎運用の変更に必要となる措置の実施:航空機運航のレベル・タイプに従って、工事期間中の安全性を確保するための対策を決定する。
◎安全性リスクの管理:建設工事に関する安全性リスクの管理活動を調整する。
工事安全計画には次のものを含む必要がある。
◎調整
○空港管理者と工事業者の間での安全性に関する会議
◎工程
○工事の各フェーズの期間
○工事の開始・終了時刻
◎工事の影響を受ける範囲と航空機の運航状況
◎航行援助施設の保護
◎工事業者への連絡体制
○空港セキュリティフェンスに関する情報
○運転訓練が必要となる人員のリスト
○資材運搬車両の誘導に関する情報
◎無線通信
○無線の種類とバックアップ方法
○無線連絡担当者
○上記担当者と連絡できない場合の連絡先
◎野生生物の管理
○野生生物の立入防止方法
○野生生物に関する報告の方法
◎FODの管理
○建設資材や土砂を含むFODの抑制装置と方法
◎有害物質の管理
○有害物質の漏出防止装置と方法
◎建設工事に関する情報公開
○工事業者の連絡先
○工事業者の緊急連絡先
○高さのある建設機械、使用期間、プラントの情報
◎検査
○日常検査および特別検査の方法
◎地中埋設物
○発見・確認方法
◎罰則
◎特約条項
◎滑走路・誘導路のマーキング、灯火、標識等の視覚航行援助装置
○マーキング、灯火、標識を見えないようにするための設備と方法
○一時閉鎖マーキングの設備と方法
◎アクセス経路のためのマーキングと標識
○車両ドライバーを適切な経路へ誘導する方法
◎危険表示マーキングと照明
○掘削作業区域を周知するための設備と方法
◎滑走路・誘導路安全区域の保全方法
○誘導路安全区域を保全するための設備と方法
○航空機運航区域と工事区域を分離するための設備と方法
工事区域は、航空機運航区域からバリアによって隔離する必要がある。このバリアは、航空機パイロットや車両ドライバーに警告を与え、それらの立入を防止するものであり、日中用としてマーキングを、夜間用として照明を適切に施す。また、工事区域に接続している航空機運航区域の灯火は工事中消灯するとともに、警備員や誘導員を備えた仮設ゲートを複数箇所に設ける。
滑走路・誘導路の灯火、マーキングおよび標識に変更がある場合には、それによるハザードを特定してリスク評価を実施する。変更に当たっては、次のような措置をとる。
◎工事区域につながる灯火への電力の遮断
◎工事区域につながる灯火の撤去またはマスキングテープによるカバー
◎航空機運航を維持するために必要となる灯火回路の接続
◎マーキングの撤去と工事区域につながる標識のカバー
◎工事区域への誤進入防止のための新しいマーキングと標識の設置
◎関連する無線航行援助装置の無効化
空港の区域ごとに必要となる灯火、マーキングおよび標識のチェックリストを準備する。この場合、滑走路立入や逸脱防止のために灯火、マーキング、標識を変更するときには、特に細心の注意を払う。また、制限表面、インフラを復旧する前に、灯火、マーキング、標識について適合性試験、動作確認試験等を実施する。
なお、航空機パイロットや車両ドライバー向けに建設工事に関する正確な情報を備えることは、工事区域についての意識を確立、維持する上で非常に有効である。
空港工事で最も重要なことは担当者全員が安全手順に注意することである。これを確認するために有効な方法は、安全を強調するメッセージを日々の作業開始ミーティング時の注意事項に含めることである。
工事区域へのアクセス経路については、航空機の運航に影響を及ぼすことがないように慎重に計画・設定する。掘削や盛土・埋戻工事では、工事車両を使用する箇所、資材の積込み方法、資材の落下防止方法等を事前に確認するとともに、工事車両が滑走路や誘導路を走行する箇所での落下物や外部からの飛来物を除去する方法を事前に準備する。なお、工事車両が工事区域から退出する前には清掃する。
夜間工事の場合、航空機のパイロットが工事車両のライトにより操縦を誤ることのないように、工事車両はハイビームを使用しない。また、車両が故障したときや位置を把握できなくなったときのために、すべてのドライバーには地図や情報を提供する。
車両駐車場、建設資機材の保管場所を計画する場合には、それらが着陸帯や誘導路帯内に置かれないこと、車両、機材等が制限表面に接触しないことを確認する。
着陸帯や誘導路帯で掘削工事を行う場合、航空機の運航開始前にはその部分を復旧する必要があるため、工事の中断を引き起こす恐れのある車両、機材等の故障や降雨に関する危機管理対策を準備する等、工事計画を慎重に策定する。
工事区域の保全についての計画および対策として、次の項目を検討する。
◎安全性に関する定期的な検査
◎フェンスの変更と航空機および運航に関する管制官との調整
◎経験のあるドライバーによる車両の誘導
◎FODのための専任スタッフ
◎FOD軽減および除去措置と航空機に付着する土砂の減少
建設工事やメンテナンス作業の影響がある航空機運航区域においては、使用再開の前に、その区域の状況を工事計画とスケジュールに照らし合わせて検証し、その区域がすべての規定に適合していることを確認する。
使用再開前には、工事区域から安全にかつ適切な時期に人員および車両を退出させ、フェンスを撤去する。また、FODが工事区域やその周辺に放置されていないことを確かめるとともに、マーキング・標識・灯火の適合性試験、動作確認試験を行う。なお、使用再開は、残置物件の発見の容易性を考慮して、日中に行う。
このほか、空港全体でもサービス性能を点検し、必要に応じて、航空図、空港の運用マニュアル、標準運用手順書、航空路誌およびノータムを修正し、すべての関係機関に通知する。
注)
*滑走路公示距離:航空機の離陸または着陸に使用可能な滑走路長 declared distance
参考資料
Runway Safety Handbook First Edition (2014), Airports Council International, 2014
ICAO Safety Report, 2014 Edition, ICAO, 2014
ICAO Journal, Volume 66, Number 2, ICAO, 2011
Reducing the Risk of Runway Excursions, Flight Safety Foundation, 2009
(続きは次回)