[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第8回 「滑走路の安全性(その4)」  ~2015.7.1~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

メンテナンス、一時使用制限および建設工事

 滑走路、誘導路とその周辺区域でのメンテナンス作業、滑走路の一時使用制限および建設工事は航空機の運航にとって大きなハザードで、事故の原因ともなりかねません。以下では、このようなハザードに起因する事故・インシデントを防止する上で有効な方法を紹介しています。具体的には、滑走路の安全性を確保するためのメンテナンス、滑走路の一時使用制限、建設工事の安全性といったものです。

滑走路の安全性を確保するためのメンテナンス

 滑走路に関するすべての要素を適切に維持管理(メンテナンス)することによって、滑走路の安全性に関する所要のレベルを確保できる。メンテナンスには、滑走路の機能を確認・評価する方法に加え、滑走路の機能を維持・回復する方法が含まれる。メンテナンスの基本的な方法は次のとおりである。

○点検:滑走路の運用状態を確認・評価する。これには、臨時点検および定期点検があり、後者の場合、点検の準備、種類、結果報告、評価等を規定した点検計画を整備する。
○メンテナンス・オーバーホール:施設や機器を必要レベルに維持・回復する。サービス提供時間、サービス内容、適合性の報告等を考慮して具体的な方法を規定する。
○補修:点検の結果、あるいはサービス提供中に問題を発見したら、速やかに補修を実施する。これには、軽微な作業から運航障害にもなる舗装表面処理のような規模の大きい工事までが含まれる。

 空港の運用の効率性および安全性は、施設の状態が良好な場合にのみ確保可能である。メンテナンスは、そのような状態を保持するために必要であり、これにより施設の老朽化や損傷が軽減でき、延命化もできる。

滑走路舗装の表面状態

 滑走路舗装の表面は、航空機の運航上危険となる形状変化や破片散乱(FOD)がないようにメンテナンスを行う。特に、次のような舗装表面と舗装区域の端部に注意を払う。

○舗装本体部、ショルダ、安全区域間の段差(FAAでは7.5cmを超えないと規定)
○航空機の操縦性に影響を及ぼすひび割れ
○航空機の操縦性に影響を及ぼすポットホール(FAAでは直径12.5cm、深さ7.5cm、側面勾配45度を超えないと規定)
○舗装表面上の泥、破片、ゴム除去に使用した液剤等
○マーキングの視認性、航空機の操縦性に影響を及ぼす水たまりや氷盤

 上記のような状況を発見したら直ちに必要なメンテナンス作業を開始する。これが遅れる場合にはNOTAMを発出する。
 また、滑走路舗装表面の摩擦抵抗が規定レベルを下回る場合にも回復措置を講ずる。これは、舗装表面に付着したタイヤゴムの除去から大規模補修まで多岐にわたる場合があるが、代表的なものを以下に示す。

○表面処理
○グルービング
○粗面化・切削

 このほか、舗装表面は、ひび割れが発生しなくても、時間の経過により平坦性が低下する可能性がある。凹凸が局所的でかつその程度も著しいものでなければ、粗面化・切削が機能回復に有効であるが、損傷が著しい場合にはオーバーレイのような大規模補修が必要になる場合もある。
 図は、舗装の劣化がある時点で急激に進行することを示している。供用初期の予防保全にかかる1ドルがその後の補修作業にかかる4~5ドルに相当することから、舗装表面状態のメンテナンス計画としては、ライフサイクルコスト(LCC)を考慮に入れたものを検討する。

 

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航行援助施設

 航行援助施設のメンテナンス作業を行うために、担当者は航空機運航区域に立ち入らなければならないので、航空交通管制や無線通信方法の知識を習得するとともに、滑走路と誘導路の配置を理解して、滑走路への立入(incursion)をするようなことがあってはならない。航空機運航区域内で使用する車両には規定に従ってマーキングを施し、照明を作動させる。

 予防保全プログラム

 視界不良時の空港の運用、安全性の確保のために、航行援助施設の信頼性を高く保持することが重要である。予防保全プログラムにより、サービスの信頼性を高め、機器を適切に運用することが不可欠であり、航行援助施設については、表のようなPMI(予防保全点検)スケジュールに従って点検を行う。

 

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 滑走路灯火の最小使用可能割合

 規定された滑走路の運用条件に適合させるために、滑走路灯火の使用可能な割合として表に示す最小値を確保する。

 

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 マーキングのメンテナンス

 舗装上のマーキングペイントの塗替え計画は、色の変化や退色の状況を考慮して策定する。塗替えを迅速に行うために、適切な色のペイントと機器を現地で常時使用できるようにしておく。

舗装表面付着物の除去

 滑走路の舗装表面には、雪、スラッシュ、氷、水、泥、ダスト、砂、オイル、ゴムなどが付着して、航空機タイヤのスリップを引き起こしたり、マーキングを消したりする可能性がある。また、異物や破片は、舗装表面の摩擦抵抗を低下させることに加えて、航空機の機体・エンジンに被害を与えたり、航空機の操縦性に影響を及ぼしたりする可能性があるので、発見次第直ちに取り除く。

 タイヤゴムの除去

 タイヤゴムを除去する目的は舗装面のマクロテクスチャを回復することにあり、これにより舗装が湿潤状態であってもタイヤとの接触面を水のない状態にすることが可能になる。ゴム除去の年間計画は航空機着陸回数に基づいて策定し、作業自体はオフピーク時に行うようにする。
 具体的なゴム除去方法には、以下に示すものがある。

○高圧水ブラスト:高圧水を舗装表面に対して斜めに吹き付ける
○ショットブラスト(サンドブラスト):金属球、砂等を舗装表面に対して斜めに吹き付ける
○化学的処理:液剤を散布装置付きの車両または人力により散布する。液剤の揮発性、毒性の確認が不可欠であり、排水システム、周囲の植生、野生生物および近隣の小河川に対する影響を考慮する。液剤の反応時間はゴムの厚さにより8~15分と変わるが、液剤が舗装表面に残ると、マーキングまたは舗装材料自体が損傷を受ける可能性がある。
○化学的処理・高圧水ブラスト併用:液剤散布後に高圧水で洗い流す
○圧縮高熱空気ブラスト:ゴムを焼却する(残った分はブラシ研掃機で除去)

 雪氷の除去

 積雪が少ないときは作業車両による高速除雪が可能なので、降雪後ただちにこれによる除雪作業を開始する。無風あるいは横風が強くないときは除雪は中心線からショルダーに向かって行い、横風が強いときは風上から風下に向かって行う。

 作業車両の必要台数は次の条件による。

○気候条件
○作業時間
○作業範囲
 除雪計画は冬になる前に策定する。これには次に示す情報を含める。
○冬期の空港運用に対する責任
○除雪作業による運航障害に関する規則
○冬期の運用についての情報伝達・公表に関する規則
○航空機運航区域における除雪作業の優先順位
○除雪作業車両と機器の準備方法
○冬期の空港運用の性能
○航空機運航区域における舗装表面の摩擦抵抗の測定方法

排水

 排水施設は、雨水の空港外への排水を確実に行うとともに、地盤の航空機・車両に対する支持力が確保できるように、また、鳥等の野生生物をひきつけることがないように、次の方法により管理する。
○蓄積した土砂の除去
○水生雑草の成長の防止
○多雨期の前の点検(必要ならば浚渫の実施)

植生

 滑走路の周辺区域の植生は次の点に注目して管理する。
○樹木が制限表面から突出することがない
○すべての航行援助施設が明瞭に視認でき、規定どおり運用できる
○植生が鳥をひきつけない

 草刈作業においては、着陸帯では芝の高さは約15cmより低く、その他の区域では約25cmより低くする。このほか、生物環境等の研究に基づいて、鳥類をひきつけない植生といったものを選定することも可能であろう。

 滑走路安全区域や制限表面に近い区域での草刈・樹木の刈取り作業は、滑走路が使用されていないときに行う。刈り取られた草木類は、FODを引き起こすことがないように、航空機運航区域から速やかに取り除く。

(続きは次回)

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