[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

コラム

第75回 「空港緊急時対応計画 (15)」  ~2026.09.01~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

 

 空港の緊急時対応計画について米国のものを事例として考察しています。前回までに,米国連邦航空局 (FAA)が規定している基本計画と機能別ならびにハザード別計画の骨子についてまとめました。今回からは、米国の空港において実際に用いられている緊急時対応計画に関するアンケート調査の結果といくつかの空港での事例を紹介します。

● 空港緊急時対応計画についての実態調査

 空港は、さまざまな手段や方法を通じて緊急事態に対応する準備を行っており、その一環として、前回までに記したように、空港緊急時対応計画(AEP)の策定ならびにその更新を行っている。AEPは、緊急事態下における関係者の役割と責任を定義し、空港に影響を及ぼす可能性のあるハザードを特定し、関係者および関係組織間の情報共有・意思決定を迅速に行う手段・方法を確立することを目的としている。
 米国の多くの空港では、米国連邦規則ならびにFAAの規定に適合させるとともに、固有のハザードに対応できるものとしてAEPを整備している。このAEPについて、2019年にその時点における状況に関して以下の点を目的として実態調査が行われている。

  AEPを有用かつ実行可能なものとして活用する上での問題点、克服すべき課題ならび具体的な対応策を明らかにする。
  空港周辺地域における緊急事態対応組織との協力体制の構築ならびに演習やイベント後の検証の方法を総括する。
  AEPの改善を図るためのプロセスを整備する。
  AEPを空港全体の危機管理プログラムの策定プロセスへ適合させる方法を確立する。

 この調査は、同年に開催された空港の危機管理に関する国際会議 (AAAE International Airport Emergency Management Conference)におけるパネルディスカッションのほか、オンライン調査ならびに電話インタビューによりアンケート形式で行われた。アンケートの回答が得られた件数は、オンライン調査が45名、電話インタビューが7名と、合計52件であった。オンライン調査における45名の回答者は、その53%が緊急事態管理担当者、38%が空港管理者、9%がそれ以外となっている。回答者が所属する空港の規模については30名から回答を得られたが、その内訳は、大規模ハブ空港17、中規模ハブ空港6、小規模ハブ4、GA空港等3となっている。

● 実態調査における質問事項

質問事項は全体で67問であるが、そのうちAEPに直接関係するものは次のとおりである。

  Q.1:AEPの実状に関する13項目についての定量的評価
  Q.2:AEPの策定、改訂および更新における成功要因
  Q.3:AEPの策定、改訂および更新において直面した課題
  Q.4:AEPと緊急事態に対する具体的な対応・復旧活動計画との統合の方法
  Q.5:対応・復旧活動において経験した、AEPを使用する上での課題
  Q.6:FAAの規定(AC150/5200‑31C、以下ACと表記)以外に付録としてAEPに追加している事項
  Q.7:AEPにAC以外の事項を追加する(した)場合の意思決定方法
  Q.8:AEPにAC以外の事項を追加する(した)動機
  Q.9:AC以外の事項の追加計画の策定方法
  Q.10:追加計画策定時の実行チームのメンバー
  Q.11:AEPの定期的な更新の間隔
  Q.12:空港管理責任者によるレビュープロセスの有無
  Q.13:空港管理責任者によるレビュープロセスの内容
  Q.14:更新されたAEPの共有ならびに周知方法
  Q.15:更新されたAEPを共有・周知するためのトレーニングツールならびに関係者の理解度の確認方法
  Q.16:計画、対応および復旧活動に関する知識・知見の共有支援ツールの有無
  Q.17:AEPの開発、改訂および更新プロセス全体を通して認識された課題
  Q.18:AEPの課題に対する解決策
  Q.19:新しいAEPをテストし、検証する方法
  Q.20:演習やイベントの後の検証の有無
  Q.21:事後検証プロセスならびにAEPとの関連性
  Q.22:事後検証を行わない場合は、その理由
  Q.23:得られた教訓のAEPへの反映方法
  Q.24:インシデント、イベント、演習等から得られた教訓、ベストプラクティスおよび最新情報のAEPへの取込み方法
  Q.25:AEPを実行可能でかつ多くの関係者にとって適切なものとする方法
  Q.26:これらの課題を解決するための対策
  Q.27:対策の成功要因
  Q.28:AEPを今後に向けて改善するための方法
  Q.29:AEPに関するACの有用性についての定量的評価
  Q.30:Q.29の回答の理由
  Q.31:AEPの更新が必要な事項
  Q.32: AEPの更新により実際の対応活動にもたらされる効果
  Q.33:本アンケートで取り上げられていない課題
  Q.34:AEPの活用状況
  Q.35:活用している場合はそのタイミングと方法、活用していない場合はその理由

● AEPの実効性

 本調査におけるいくつかの質問は、AEPの実効性に関するものとなっている。
 Q.29では、AEPに関するACの有用性について、「現状のAEPに関するACは、AEPを新たに開発あるいは更新する上で十分なものである」という記述に対する賛否の程度を10点満点で問うている(0は「否定」、10は「賛成」)。回答の平均点は5.1となり、これはこの記述に対して回答者が賛成でも反対でもないことを示している。その理由を問うたQ.30の回答では、AEPは空港管理・運用上のニーズを満たしており、実際の適用を通じて改善が可能となるとみていること、ACについても更新が可能であるとみていることが明らかになっている。その一方で、ACで規定されている範囲を超えて、空港独自のAEPとして必要な計画、付録や補完的な手順の作成に主体的に取り組んでいるとの回答もあった。このほかの回答は以下のようにまとめられる。

  AEPは、ACの更新(現時点では第3版)以降、得られた教訓が取り込まれていて、その熟度は向上している。
  ACには、空港の拡張、テナントの増加、そして宇宙港についても取り込む必要がある。
  ACは、有用かつ必要な情報と要件を提供しているが、結果として、複雑で使いにくいものとなっている嫌いがある。
  AEPの更新、維持と管理に加え、関係組織との共有には多大な労力を要することから、専任スタッフを割り当てることが有効である。
  AEPを理解することで緊急時対応計画の基本事項を把握でき、また、AEPには必要に応じて内容を追加できる。
  ハザード別計画を更新する必要がある。
  インシデントに対する対応・復旧計画は、AEPよりも空港全体の危機管理プログラムの一部として策定する必要がある。
  ACは、現在の空港のリスク状況を正確に反映しなくなっている。
  AEPは多くの空港にとって基本的な対応・復旧計画を提供するという目的を果たしているが、あらゆるハザードに対応できるものとする必要がある。

 Q.1では、表に示す13項目について5点満点での定量的評価(0は「否定」、5は「肯定」)を求めた。

表 Q.1において定量的評価を求めた項目と評価の平均点
No.記  述平均点
1AEPは実行可能であり、その内容は十分なものである3.13
2AEPについては定期的に利用している2.85
3AEPはイベントへ適切に対応したものであり、空港の機能を回復させるための適切かつ実行可能な情報を備えている3.03
4AEPは一般的な記述に留まっている3.41
5AEPを補完する形でハザード特有の計画を策定する必要がある4.11
6AEPには脅威となる可能性のあるあらゆるハザードが含まれている2.46
7他の空港でのイベントから得られた教訓はAEPに反映されている4.08
8AEPとすべての準備計画の策定・更新は専任スタッフが担当している3.13
9AEPの見直しと更新のプロセスには、すべての関係者が積極的に参加している3.15
10AEPの更新は容易ではない2.92
11AEPは形式的なものに過ぎない2.81
12トレーニング・演習についてはACの規定以上に実施している3.67
13AEPは改善できる4.66

 No.1(AEPは実行可能であり、その内容は十分なものである)については、回答者の41%が肯定し、34%が否定している。また、No.4(AEPは一般的な記述に留まっている)については56%が肯定していることから、AEPの内容には不十分な点があると認識していることがわかる。この点については、No.12(トレーニング・演習についてはACの規定以上に実施している)については、回答者の67%が肯定していることからもわかる。
 No.5(AEPを補完する形でハザード特有の計画を策定する必要がある)には、回答者の80%が肯定している。また、No.6(AEPには脅威となる可能性のあるあらゆるハザードが含まれている)に対して回答者の20%が肯定したが、60%は否定している。これは、ACには含まれていないものも含めた、あらゆるハザードへ対応可能なAEPを整備する必要があることを示していると思われ、この点については本調査において収集できた付録、標準作業手順書(SOP)およびハザード対応計画の多くがカスタマイズされていることからも推定される。このときには、No.7(他の空港でのイベントから得られた教訓はAEPに反映されている)についてほぼ肯定されていることから、これらの情報が十分に活用されているものと思われる。
 AEPの策定と更新プロセスは、No.8(AEPとすべての準備計画の策定・更新は専任スタッフが担当している)について過半数が肯定していることから、専任スタッフが担当していることがわかる。ただし、No.9(AEPの見直しと更新のプロセスには、すべての関係者が積極的に参加している)には回答者の約43%が肯定し、35%が否定していること、ならびに、No.10(AEPの更新は容易ではない)については回答者の45%は肯定している一方、30%は否定しており、23%はどちらとも言えないとしていることから、専任スタッフ以外の関係者のAEPの策定・更新プロセスへの積極的な参加を促す必要のあることがわかる。
 No.13(AEPは改善できる)については、回答者の85%が肯定しており、AEPについてはさらなる充実が求められているものと思われる。

● AEPの策定と更新における成功要因

 AEPの策定と更新における成功要因を問うたQ.2では、29名から回答が得られた。その多くは、関係者との連携に関してであり、具体的には、以下のようなものであった。

  関係者からのフィードバック
  関係者との連携
  AEPの見直しと更新のプロセスを通じた、警察、消防と空港運用部門の緊密な協力関係
  AEPの策定や更新への協力についてのパートナー企業の意欲
  責任・役割を明確化したことによる関係者のAEPの策定・更新への積極的な関与
  スタッフからのフィードバックによるAEPの実用性の向上
  AEPの更新時における関係者間の連携
  緊急事態対応組織以外の関係者からの情報の追加

これ以外の成功要因としては以下のようなものが挙げられている。

  空港の運用方針に応じたAEPのカスタマイズ
  外部コンサルタントとの契約によるAEPの修正
  AEP更新作業の各部局への割り当て
  ベストプラクティスを特定するためのプロセスの確立
  テナントの最新の連絡先情報の電子情報化・配布
  3年周期でのAEPの見直し

なお、そもそもAEPがあること自体を成功と捉えているとする回答もあった。

● AEPの策定と更新における課題

 AEPの策定と更新における課題を問うたQ.3に対する回答には、AEPの様式の定型化、関係者の参加、AEPの更新に対する抵抗、優先順位の競合、そしてAEPの更新に要する期間といったものが多い。このほかの回答として、AEPには重複している部分が多いというものがあった。AEPには、その様式上、基本計画、機能別計画およびハザード別計画において同じセクションが含まれているため、全体でみると重複している部分は多い。たとえば、指揮統制のセクションは基本計画のほか、残りの二つの計画にも含まれているが、多くの空港では指揮統制の構造・形式は一部のハザードに対するわずかな違いを除いて同一のものとなっているのが実状である。また、様々なハザードに対応するためにはAEPを包括的なものとしなければならないこと、準備活動や長期復旧活動などの情報についてはAEPへの追加が難しいことも課題として挙げられている。
 関係者がAEPの策定・更新プロセスへ積極的に参加すれば、プロセス全体が活性化し、関係者が協力して新しいアイデアも生み出せよう。最も多く挙げられた成功要因が関係者の積極的な参加であったとする一方、最大の課題としては関係者の不参加や関係者からのフィードバックの遅さが挙げられている。このほかの関係者に関する課題としては次のものがあった。

  関係者・関係部局の迅速な対応
  計画プロセスへの参加
  関係者全員のAEPに対する理解と確認
  AEPについてのプロセスとレビュー
  タイムリーなフィードバック

 AEPが策定されたままでほとんど更新されていないような場合には、AEPの更新に対する関係者の抵抗も課題として挙げられている。空港全体を対象とした危機管理プログラムは、あらゆるハザードに対応可能な包括的な計画を必要とするが、それが高度化されるにつれて、AEPによる規定では不十分であるという懸念も持たれ始めている。とはいえ、包括的な危機管理プログラムがリソースや能力の不足等により実行できなくなった場合には、緊急事態対応活動への影響が大きくなる可能性があるとの懸念も表明されている。また、AEPの変更点が多すぎるとFAAの承認が得られない可能性もあるとの意見も出されている。
 AEPがエアサイドのイベントに重点を置いており、ランドサイド、公共スペース、ターミナル地区や保安区域のイベントには必ずしも重点を置いてはいないとの懸念が複数表明されている。また、AEPや危機管理プログラムの策定プロセスに、食品、手荷物、ホテル等のサポートサービスを詳しく記述すべきとの意見もあった。その結果、付録、SOPおよび個別計画をAEPに追加している事例もみられた。多くの空港では、AEPの利用頻度と適用範囲の広さから、AEPそれ自体ではなく補足計画の策定・更新に時間と労力を集中させている。このほか、時間上の制約や優先順位の変更により、他の部局や関係者がAEP策定プロセスへ参加することが困難になっているとの回答もあった。
 ACについては、次のような見直しが必要との回答があった。

  概ね空港のニーズを満たしているものの、改善の余地がある。
  現状でも機能を果たしているが、もっと使いやすいものが望ましい。
  AEP策定の基礎となるが、さらなる改善が必要である。

 回答者の大多数は、AEPはFAAの規定を最低限満足しなければならないが、それだけでは実際の緊急事態への対応には不十分であるとみているようである。AEPとしては、タイムリーかつ効率的な緊急事態への対応を図るために、様々な緊急事態へ対応するための詳細な指針となる、機能別およびハザード別の個別計画を作成することが必要である。
 AEPの更新に要する期間は6ヶ月未満から1年以上と長くなっていることがアンケートにより示された。その要因として、回答者の61%が空港管理責任者によるレビューのプロセスに原因があると回答している。これは、レビューを担当する責任者の数とレビューのプロセスによって大きく変わってこよう。
 これらの回答により明らかになった課題を解決するために様々な改善策が講じられてきている。たとえば、あらゆるハザードに対応可能なAEPの策定、チェックリストやAEPの情報を統合したガイドの作成、トレーニングの実施、実際のイベントや年次レビューの成果を反映したAEPの更新といったものである。

● インシデント発生時にAEPを使用する場合の課題

 AEPの策定や更新時だけでなく、インシデント発生時の対応・復旧活動中にAEPを使用する際に直面した課題を問うたQ.5に対しては、インシデント発生時にはAEPは使いにくいあるいは全く使用していないという回答が多くあった。その理由としては、使用方法が煩雑すぎる、記述内容が詳細なものではない、また更新されていない、そして必要な情報が不足しているといったことが挙げられている。このほかに挙げられている課題は以下のとおり。

◆AEPの使用方法

  チェックリストの項目が多すぎる、またはチェックリストの順序がインシデントへの対応の流れに合っていない。
  AEPは、現地や災害対策本部においてリアルタイムの参照情報として使用できない。
  緊急時に大量の文書を参照する作業は煩雑である。
  AEPは分量が多く、柔軟性にも欠けるため、トレーニングが難しい。
  インシデント発生時には、時間的な制約からAEPは参考資料としてのみ使用する。
  AEPの分量が非常に多いため、現場で使用するには実用的ではない。
  AEPは精緻すぎるため、使用できない。
  AEPは使用しにくいため、利用マニュアル、クイックアクセスガイド等が必要である。

◆AEPの記述内容

  付録が更新されていない。
  AEPは、具体的な対応活動をする上で不十分である。
  AEPは対応および復旧活動の全てに対応するには不十分である。
  復旧活動に関する詳細な情報が不十分である。
  航空会社の対応計画との整合性がとられていない。
  AEPには初期対応以降の対応・復旧活動については記載されていない。
  AEPに記載されている契約業者の連絡先情報が最新のものではない。
  AEPの内容が一般的すぎて、取るべき行動や、把握・軽減すべきリスク・ハザードに関する詳細な情報が不足している。
  AEPは、空港周辺地域の状況を正確に反映していない。
  復旧に関する項目には、瓦礫処理や被害の査定に関する記述がない。

◆AEPの形式

  AEPの文書は複雑で、そのレイアウトも迅速な参照には適していない。
  AEPはACには準拠しているが、インシデント発生時に必要な情報を十分には提供していない。

◆スタッフのAEPに関する認識

  スタッフを含めた関係者のAEPについての理解が不足している。
  スタッフは、AEPの規定によらず、自ら有用または必要と判断した活動を実施している。また、招集や要請がない場合でも自発的に対応している。
  更新情報についてはすべての現場対応スタッフに周知する必要がある。

◆コミュニケーション

  AEPを更新する際に管理部門のスタッフと現場対応スタッフとの間でのコミュニケーションが不足している。また、管理部門のスタッフは、更新内容について現場対応スタッフと協議していない。

 AEPと緊急事態に対する具体的な対応・復旧活動計画との統合方法について問うたQ.4に対しては、両者の統合は不可能または困難とする回答が多い。中には、AEPは事後的に使用しているとの回答や、AEPが提供している対応ならびに復旧活動に関するチェックリストのほとんどはエアサイドに焦点を当てたものであり、ターミナル地区やランドサイドは対象外になっているとの回答があった。
 AEPを緊急事態に対する具体的な対応・復旧活動計画に統合する方法についての意見は次のとおり。

  スタッフ、トレーニング状況、対応能力を正確に反映した実行可能なAEPを作成する。
  危機管理プログラムの策定プロセスを活用して、緊急事態対応・復旧活動の指針となる空港運用継続計画を策定する。
  AEPと対応活動計画の整合性を確認する。
  AEPをSOPに対する上位文書として位置づけるとともに、SOPにおける初期対応活動を担当するスタッフ向けの文書として活用する。
  AEPをトレーニング用資料および参考資料として活用する(場合によっては確認用チェックリストとして)。
  緊急時にAEPを参照できるようにする。
  実際の対応状況に基づいてAEPを検証・更新する。
  AEPに基づく詳細なチェックリストや運用ガイドラインを作成する。

 なお、トレーニングや演習は、AEPを緊急事態の対応および復旧活動計画に統合するための効果的な方法と認識されていることは明らかである。

 

参考資料
Airport Emergency Plan, AC 150/5200-31C, FAA, 2009.
Practices in Airport Emergency Plans, ACRP SYNTHESIS 115, National Academy of Sciences, 2021.

(続きは次回)

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