[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第7回 「滑走路の安全性(その3)」  ~2015.5.1~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

滑走路運用

 滑走路運用に係る事項として、滑走路の点検方法、航空情報サービス(AIS)の伝達方法およびFOD・障害物の除去・管理方法について記述しています。具体的には、滑走路点検、野生生物対策、FOD管理、障害物管理、通信/監視、車両および運転訓練、インシデント報告/調査/統計、悪天候、無線施設のメンテナンス、AIS/AIPについて詳細に記述していますが、本コラムでは空港土木施設に係る事項を中心に紹介します。

滑走路点検

 滑走路の点検は定期的にできるだけ頻度を上げて実施する。その方法は、車両を使用し、低速走行しながら路面を目視により点検し、その結果を記録して、エアサイド日常報告管理システム (Airside Daily Report Management System) に保管するというものである。

 

●滑走路点検における注意事項

  • 日常点検として次の4種類が必要である。

–早朝点検:滑走路全面における詳細な路面点検。これには滑走路一本につき15分程度の時間がかかる(中心線の両側で、3m離れた位置)
–午前点検:部分的な緊急点検(滑走路灯の間)
–午後点検:午前点検と同じ
–夕方点検:滑走路全面における点検。灯火点検が開始されるまでの時間帯に実施

  • 滑走路の入退場時には航空管制官 (ATC) から許可を得る。
  • 点検はON/OFF方式で実施する(滑走路の入退場を直ちに行う)。滑走路入場ごとにATCにコールする。
  • 滑走路点検の間は無線装置の受信確認を継続する。
  • 「滑走路ごとに1周波数かつ1言語 (One Runway、 One Frequency、 One Language) 」の概念を導入する。
  • ATCから滑走路クリアの要求があれば、滑走路や着陸帯の指定区域外に退避する。
  • 滑走路を横断する前にはクリアランスを確認する。
  • 点検は、安全上の理由から、航空機の離陸・着陸方向とは反対の向きで行う。同じ向きで2回点検する場合には、(1回目を終えて2回目の点検開始点に向かうまでの)「後戻り」時に遠目に滑走路全体を確認したり、滑走路に隣接する誘導路を点検したりする。
  • 点検終了時には、ATCに滑走路の状況を報告し、対応について助言する。
  • 点検の開始・終了時刻を検査記録に記載する。
  • 許可車両は、コントラストの強い明瞭な色彩とし、会社のロゴまたは識別番号を表示し、さらには点滅黄色信号を取り付ける。

 

●舗装区域の点検において注目すべき事物

  • 航空機エンジンの損傷を引き起こす可能性がある異物の存在
  • 舗装面のひび割れや損傷
  • 舗装の表面状況と降雨後に滞水する範囲
  • 灯火・照明設備の損傷
  • マーキング・標識の状況
  • 埋込灯火の状況
  • 滑走路進入灯・末端灯の損傷(航空機のジェットブラストによる)

 

●非舗装区域の点検において注目すべき事物

  • 被覆植物の状況。特に、草による灯火、標識、マーカーの視認性障害
  • 地盤沈下の兆候
  • 航空機のタイヤ跡
  • 標識・マーキングの状況
  • 舗装部分に隣接する草地(特に航空機走行区域の隣接部分)の強度
  • 草地の浸水範囲(頻繁に浸水する部分)
  • 舗装区域と非舗装区域の高さの差違

 

●点検結果の報告

 滑走路の点検時に何らかの危険を発見した場合には、無線により直ちにATCへ報告する。これによりATCは適切かつ迅速な措置をとることができる。点検の結果として滑走路が閉鎖される状況となった場合、メンテナンスサポートチームの到着を待ちながらも、他所の点検は継続して行う。
 表は日常点検結果の報告様式の例である。

 

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●滑走路上に水がある場合の報告

 滑走路中間部(全長の1/2)の路面状況について次の用語を使用して報告する。

  • DAMP(湿り気):滑走路面の色が水分により変化
  • WET(湿潤):滑走路面は湿潤状態ではあるが、滞水はしていない
  • STANDING WATER(滞水):滑走路面(使用部分)の25%が水深3mmを超える滞水状態になっている

 

●滑走路上に雪、スラッシュ、氷または霜がある場合の報告

 滑走路面の状況について次の用語を使用して報告する。可能であれば、それらの深さも報告する。

  • DRY SNOW(さらさらした雪)
  • WET SNOW(湿った雪)
  • COMPACTED SNOW(締まった雪)
  • WET COMPACTED SNOW(湿った締まった雪)
  • SLUSH(スラッシュ(部分的に溶けた雪))
  • ICE(氷)
  • WET ICE(湿った氷)
  • FROST(霜)
  • DRY SNOW ON ICE(氷の上のさらさらした雪)
  • WET SNOW ON ICE(氷の上の湿った雪)
  • CHEMICALLY TREATED(化学的処理済み)
  • SANDED(砂散布済み)

 

●滑走路面摩擦の測定

 ICAO第14付属書「飛行場」では、滑走路は路面摩擦特性の最低レベル(最小値)以上を保持していることと規定している。乾燥状態にある滑走路については、摩擦測定を定期的に実施しなければならない。
 ICAO Circular 329「滑走路の路面状況の評価・測定・報告」では、摩擦測定装置を次の2種類の目的で使用することとしている。

  • 滑走路舗装のメンテナンス。維持計画レベルと最低レベルの2つのレベルに注目して摩擦測定を実施
  • 滑走路の運用。滑走路上に締まった雪や氷がある場合に摩擦測定を実施

 気象その他の理由により滑走路が乾燥状態にない場合、滑走路面の摩擦特性を評価し、その情報をATCに提供する。滑走路が「すべりやすい (Slippery) 」と考えられる場合には摩擦測定を行う。滑走路運用上からは、次の状態のときに路面摩擦の評価を行う。

  • 滑走路が雪または氷による影響を受けているとき
  • パイロットや航空会社から要求されたとき
  • ATCから要求されたとき

 路面摩擦は次の方法により測定する。

  • 測定範囲は滑走路の全長
  • 測定位置は滑走路中心線から約5m以内
  • 摩擦校正結果は少なくとも5年間保存

雪や氷に覆われた滑走路面の摩擦は、ICAO 第14付属書に記載されているカテゴリーに従って報告する(表)。

 

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野生生物対策

 野生生物の危険性は、安全管理システム (Safety Management System、 SMS)において管理する。空港およびその周辺、特に滑走路の離着陸領域における野生生物危険性管理計画を整備する必要がある。これには、空港およびその周辺における野生生物個体数、対策ならびに管理活動に対する野生生物の反応についてのデータの収集・記録を含む。
 野生生物管理計画と対策の詳細は、ACIの野生生物管理ハンドブック(Wildlife Hazards Management Handbook)* を参照のこと。

FOD管理

 異物 (Foreign Object Debris、 FOD)には、航空機タイヤを傷つけたり、エンジン内に吸い込まれたりするといった直接的接触、またはジェットブラストによって吹き飛ばされた結果として航空機に損傷を与えるといった間接的接触の危険性がある。このほか、他の物件に損傷を与えたり人を傷つけたりする危険性もある。
 FODは、そのほとんどが組織としてのマニュアル類の未整備、個人の怠慢または手順の無視に起因する。
これらは、次の原因によって引き起こされる別のFODの元ともなる。

  • 不十分な管理、教育または監督
  • 施設の老朽化
  • 不適切な機器および装置
  • 不適切または不注意なメンテナンスまたは組立
  • 疲労およびスケジュールによる圧力

 FOD防止プログラムに関する研修、設備の点検・メンテナンスおよび当事者の協調は、FODとその影響を最小限のものとできる。FODには、工具、舗装破片、ケータリング用品、建材、土砂、荷物、野生生物といった雑多なものがある。有効なFOD防止プログラムには次の項目を含む必要がある。

  • 従業員教育
  • 問題が疑われる箇所および対策の特定
  • 従業員用のFOD事故防止ツールの整備
  • 適切な計画の立案
  • 対処方法の調整
  • 「注意の継続 (Continuous Awareness) 」方針の確立
  • 経費削減と安全性向上についての教訓についての学習

 FODの防止対策には次の項目を含む必要がある。

  • 吸引式清掃車両。

 清掃はエアサイドからFODを除去するための最も効果的な方法である。吸引式清掃車両は舗装のひび割れおよび目地から破片を除去できるので、手作業によらなければならない箇所を除いて、全ての区域において使用する。エアサイド(特に航空機走行区域、エプロンとそれらに隣接する区域を含む)は、日常的に清掃する。

  • マグネットバー。

 金属部品、破片等を拾うために、GSE車両等の車体の下にマグネットバーを取り付ける。収集した破片等が落ちないように、マグネットバーは定期的に清掃する。エアサイドで使用する車両は、部品等が落ちることがないように、定期的に点検する。

  • ランブルストリップ**。

 車両がランブルストリップを乗り越えるときに部品等が落ちる可能性がある。ランブルストリップ(長さ30~45 cm)は、ランドサイドとエアサイドの境界またはエアサイドの工事箇所との境界に設けられる。

  • FOD検出システム。

 FOD自動検出システムが商品化され、一部の空港では採用されている。ただし、現時点では価格の問題からほとんどの空港では使用されていない。

  • 工具管理(追跡)システム。

 すべての工具を元の保管場所に戻すことによりFODのリスクが軽減できるので、メンテナンス部門ではこのようなシステムを導入する必要がある。このシステムでは、バーコード等により工具と作業員ならびにその位置を自動識別できる。

障害物のコントロール

 航空機の安全な離着陸のために空港管理者はICAOの規定に従って空港制限表面 (Obstacle Limitation Surfaces、 OLS)を確立する必要がある。

通信/監視

 適切な通信手法と無線電話の標準化によって、車両やスタッフが滑走路等制限区域に不正に立入ることを防止できる。

車両および運転訓練

 航空機走行区域で車両を運転するドライバー等は、実効性のあるカリキュラムに従って研修を受ける必要がある。

インシデント報告/調査/統計

 ICAOの規定に従って SMS を導入する必要がある。これには、運用に関する障害についての記録、対応、フィードバックの記録を含む。

悪天候

 悪天候下における航空機の安全運航を確保するために、低視程下での方法 (Low Visibility Procedures、 LVPs)を航空機運航区域に適用する必要がある。

無線施設の保全

 構造物や空港の運用が空港内外における航行援助施設の運用に影響を及ぼさないようにする必要がある。

AIS/AIP

 航行援助施設や滑走路・誘導路に関する情報の変更は、航空情報サービス(AIS)に記載しなければならない。これは統合航空パッケージ (Integrated Aeronautical Package) の形で提供される。

 

注)
* ACIにより2013年に発行されたハンドブック(第二版)。野生生物の定義、野生生物ハザードマネジメント計画 (WHMP) 実施体制、野生生物リスクマネジメントならびにWHMP、実施方法、訓練、評価の章により構成されている。
** 注意喚起用に舗装面に設ける凹凸。現在FAAで滑走路立入防止対策の有効性を評価する研究が行われている。図は道路等で用いられているランブルストリップの例。

 

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(続きは次回)

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