[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

コラム

第69回 「空港緊急時対応計画 (9)」  ~2025.09.01~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

 

 空港の緊急時対応計画について米国のものを事例として考察しています。始めに空港として確保しなければならない機能別の対応計画について取り上げましたが、前回からはハザード別のものを対象としています。今回は、爆発物事件と建物火災に対する緊急時対応計画です。

● 爆発物事件

◆概要

 爆発物事件、すなわちテロ事件については、市民の安全を守るために、また実際に爆発物が発見された場合にはそれによる被害を最小限に抑えるために、徹底的に調査しなければならない。テロ事件に関する情報は、空港セキュリティプログラムにある機密セキュリティ情報(SSI)に相当し、必要な場合にのみ公開される。

◆目的

 このセクションでは、空港で爆破予告があったか、または実際に爆発物事件が発生した場合の対応活動について記述する。また、この爆発物事件対応計画は、空港緊急時対応計画 (AEP)の基本計画ならびに機能別計画と併せて、標準作業手順(SOP)とチェックリストに含まれるべき事項の基本となる。

◆状況と想定

 すべての空港は潜在的なテロ事件の標的であるとみなされ、空港、航空機、その所有者・運航事業者、そしてその他空港に関係する組織に対して攻撃が行われる可能性がある。そのため、空港の場合、爆破予告への対応手順は連邦規則CFR Title49 Part1542に規定されている空港セキュリティプログラム (Airport Security Program, ASP)に則って確立されている。同様に、航空機運航事業者の場合も、連邦規則CFR Title49 Part1544に規定されているセキュリティプログラムに則って対応手順が確立されている。なお、爆破予告があった場合、その真偽が明らかになるまでは重大な脅威として認識されることになる。
 このセクションでは、爆発物事件に関して空港の状況を表す上で必要となる事項について記述する。具体的には次のようなものである。

 - 航空機が対象の場合にはその駐機スポットの位置。この場合、可能であれば旅客ターミナル、格納庫、その他の公共エリアから離れた地点に設定する必要がある
 - 爆発物処理スタッフと装備の可用性。具体的には、スタッフの氏名、所在、空港までの移動時間といったもの
 - 爆発物脅威緩和プログラム。具体的には、施設の構造上の特徴やスタッフのトレーニングプログラムといったもの

◆運用

 このセクションでは、空港で爆破予告があったか、または爆発物事件が発生した場合の対応活動として、次のような事項について記述する。

 - 爆発物事件への対応と復旧活動に関するAEPならびにFBI、その他が策定している緊急時対応計画との関係
 - 空港スタッフによる爆発物事件への対応・復旧活動およびその手順
 - 航空交通管制部門との協定を含む相互支援協定

◆組織と責任の割当て

 このセクションでは、爆発物事件に対応する組織とその責任について記述する。

◆管理とロジスティクス

 このセクションでは、爆発物事件に特有のサポート要件について記述する。爆発物事件への対応は他とは大きく異なる特殊なものとなるため、専門的な爆発物処理サービス等を活用しなければならない。

◆計画の策定と維持

 このセクションでは、爆発物事件への対応計画の改訂について調整して、それを最新の状態に保つ方法ならびにSOPとチェックリストを策定・更新する方法について記述する。

◆権限および参照先

 このセクションでは、爆発物事件に関する法令、規則等について記述する。

◆爆発物事件特有の検討事項

 このセクションでは、爆発物事件への対応計画を作成する上で必要となる、機能別の対応計画をリストアップする。

◆SOPとチェックリスト

 爆発物事件への対応計画において、SOPとチェックリストに記載する事項は次のとおり。

  電話による爆破予告を受けた場合
 SOPは、米国国家安全保障省 (DHS)の爆破予告対応手順に則って作成する必要がある。また、チェックリスト作成時には、周辺地域の電話サービス事業者に対して通話追跡や発信者確認等の可能性について確認する。なお、必要に応じて、チェックリストにその点について記述する。
  メールや郵便等による爆破予告を受けた場合
 対応手順は次のとおり。
 - 爆破予告を直接行ったり伝えたりした人物を監視下に置く。
 - 対象となる人物の数、それぞれの年齢、身長、その他の特徴を記録する。
 - 対象となる人物が現場から何らかの地上交通機関により立ち去った場合は、その種類、モデル、ナンバーほかの特徴を記録する。
 - 空港警察に対してすべての情報を提供する。

● 建物火災

◆概要

 空港に対するハザードとなる建物火災は構造物火災と燃料火災の二つに分けられる。構造物火災は、空港の敷地、構造物、建築物、施設、設備といったもので発生する火災であり、燃料火災は給油施設や燃料貯蔵施設で発生する火災である。
 AEPの計画立案チームは、建物火災の危険性が高い施設、機器等を特定するためにリスク評価を実施する必要がある。これにより、多岐にわたる構造物や燃料施設の火災に効果的に対応するための機器やその他のリソースに関する重要なデータを得ることができる。リスク評価では、旅客ターミナル、貨物ターミナル、燃料貯蔵区域等、特別な対応をしなければならない施設を特定する必要がある。

◆目的

 このセクションでは、建物火災が発生した場合の対応活動について記述する。また、建物火災対応計画は、AEPの基本計画ならびに機能別計画と併せて、SOPとチェックリストに含まれるべき事項の基本となる。

◆状況と想定

 このセクションでは、建物火災に対応する上で必要となる情報について記述する。この場合、ハザード分析とリスク評価により判明した、火災の影響を受ける施設の地図と地理・地形的特徴、環境に影響を及ぼす可能性のある地域とアクセス経路、関連する気候・気象要因、緊急対応活動に影響を及ぼす可能性のある時間的要因(時刻別、月別および季節別気象条件)が対象となる。
 空港で建物火災が発生したときに生ずる事態を想定して、次のような事項について記述する。

 - 空港内の建物とそれぞれの防火システム(スプリンクラー、警報器等)のリスト
 - ARFFの構造物火災および燃料火災への対応能力とトレーニングの状況
 - 空港内の建物火災への対応活動を支援可能な周辺地域の消防署の名称、所在地、担当部局とおおよそのレスポンスタイム
 - 消火栓の位置と給水システムの消火活動への対応能力

◆運用

 このセクションでは、建物火災が発生した場合の対応活動について記述する。具体的には次のようなもの。

 - 緊急事態対応組織の役割と関係を含む、空港と周辺地域の役割分担
 - 構造物火災および燃料火災に関する相互支援協定のリスト
 - 緊急事態対応センタ (EOC)の立上げ基準
 - 緊急事態発生前、緊急事態対応中、緊急事態発生後(復旧中)の一連の活動内容
 - 建物火災に特化したSOPとチェックリスト
 - 建物火災に関連するトレーニングプログラム

◆組織と責任の割当て

 このセクションでは、建物火災が発生した場合の対応活動について空港の部門別に記述する。

  航空交通管制部門・管制塔
 - 管制塔が火災に巻き込まれた場合は、FAAが所有するものを含めた施設・機器の損傷や操作性について検査する。
 - 航空機運航事業者に対して情報を提供したり、指示を与えたりする(必要に応じて)。
 - 緊急事態対応活動に必要となる航空および地上交通管制業務を提供する(必要に応じて)。
 - 適切なNOTAMを発行する(必要に応じて)。
  空港管理者
 - 定められた手順に従って関係する組織・機関に通報・通知する。
 - 市民とスタッフに対する保護活動を実施する(必要に応じて)。
 - 空港テナントおよび地方自治体と対応活動について調整する(必要に応じて)。
 - プレスリリースを作成・提供するとともに、メディア等との連絡・調整を行う(必要に応じて)。
 - EOCを立上げる(必要に応じて)。
  消防・救助部門
 - 定められた方針と手順に従って建物火災(警報含む)に対応する。
 - 火災発生時のインシデントコマンドシステムを活用する。
 - 火災の影響を受けた施設のスタッフに対する、避難、その他の保護活動の必要性について判断する。
 - 燃料火災に対して適切な消火剤を提供する(インシデントコマンダの要請に応じて)。
  警察・セキュリティ部門
 - 空港における警察活動・セキュリティサービスを継続する。
 - 群衆コントロールや交通規制を行う(必要に応じて)。
  救急医療サービス部門
 - 救急医療サービスを提供する(必要に応じて)。
  メンテナンス部門
 - ユーティリティシステム・サービスを含む基幹サービスについて支援または提供する(必要に応じて)。
 - インフラの安全性について検査する(必要に応じて)。
 - インフラの復旧について支援する。
  広報および周辺地域担当部門
 - 広報に関してメディアと連携する(状況に応じて)。
 - 空港の運用状況に関するプレスリリースを作成・提供する。
 - 空港テナント間の連絡・調整について支援する。
  空港テナント
 - 自主的にまたは既存の契約に従って必要な支援を行う。

◆管理とロジスティクス

 このセクションでは、建物火災に特有なサポート要件について記述する。

◆計画の策定と維持

 このセクションでは、建物火災への対応計画の内容を最新の状態に保つとともに、SOPおよびチェックリストを策定・アップデートする方法について記述する。

◆権限と参照先

 このセクションでは、建物火災に関する法令、規則等について記述する。また、ガイダンスや情報として使用するものについても記述する。

◆建物火災特有の検討事項

 このセクションでは、ハザードが建物火災である場合のAEPを作成する上で特に必要となる事項について記述する。また、AEPの計画立案チームが検討すべき建物火災特有の事項ならびに規制上必要となる事項についても記述する。

  指揮統制
 指揮統制機能に関する補足として、次のような事項に対応するための規定を作成する。
 - 追加の対応組織を待機させるタイミングと現場へ派遣するタイミング
 - EOCの立上げ
 - 通常の機能・サービスの停止・縮小ならびに緊急事態対応活動の開始
 - 市民への警告、空港の閉鎖と関係施設の閉鎖といった重要事項を実施するタイミング
 - 建物からの生存者や負傷者の救出と応急処置ならびに重傷者の医療施設への搬送支援
 - 被害範囲の調査
 - 瓦礫、残骸等の除去・処分
 - 関係施設とその周辺区域へのアクセスの制限
 - 電気、ガスと水の供給の遮断または復旧(必要に応じて)
 - 関係する建物・施設の安全性の検査
 - その他必要な調査の実施
  警報・警告
 火災発生時の通報方法とその宛先である緊急事態対応組織について記述する。
 - 火災報知機
設置場所と緊急信号送信先を明らかにしておく。
 - 緊急通報装置
使用方法と通報先を明らかにしておく。
 - 一般電話サービス
通報の宛先と通報内容を明らかにしておく。具体的には次のようなもの。
・市民に対する火災の通報・通知と緊急援助の要請
・影響を受ける一般市民および空港スタッフに対する通報・通知
・聴覚障害者に対する通報・通知
  緊急広報
 通報・通知、最新情報および指示メッセージを作成・配布するための規定について記述する。次のような検討事項についてはこのセクションの付録として記述する。
 - 構造物火災や燃料火災の通報・通知を含む、緊急援助の要請
 - 特定の空港施設からの避難
 - 市民に対する行政無線放送等による広報
  保護活動
 建物火災に巻き込まれたスタッフに対する一般的な保護活動は避難である。その手順策定に当たっては次の点について検討する必要がある。
 - 非常口は航空機運航区域 (AOA)に通じている可能性があるため、関連する安全ならびにセキュリティ上の事項について考慮に入れる。
 - 避難経路図の掲示、トレーニング等を含む施設からの避難に関する基準を策定する。

◆SOPとチェックリスト

 建物火災への対応計画におけるSOPとチェックリストに記載する事項は次のとおり。

  緊急事態の発生前
 - 適用される法律、規則、基準等
 - 空港の建物ごとの、次の事項を含む火災予防計画
・消火能力
・給水能力(消火用含む)
・締結済みの相互支援協定
  緊急事態への対応中
 ARFF、警察、救急医療サービス部門、テナント等の対応活動に関するSOPとチェックリストを作成する。なお、これは火災の規模によって異なることに注意する。
  緊急事態の発生後(復旧中)
 復旧活動は、建物火災の重大性、被害の規模、被害を受けた施設・機器およびリソースの可用性によって異なったものとなる。復旧活動には次のものが含まれる。
 - 状況分析チームの編成
状況が深刻な場合、空港の関係する部門、テナント等から構成される状況分析チームを編成する。この場合、状況分析チームは、被害状況の定期的な査定と建物火災対応計画の記載事項について分析する。具体的には次のようなものである。
・被害状況の最終的な査定
・情報の公表
・インフラの補修
・リソースのリスト化と補充の状況
・費用
・実施した措置
・スタッフの勤務状況ならびにストレスの状況(必要に応じて)
・機器の使用状況
・清掃活動
・AOAの検査
 - 適切なNOTAMの発行
 - 対応活動全体の評価
対応活動全体を評価して、得られた教訓を計画およびトレーニングプログラムに盛り込む。

 

参考資料
Airport Emergency Plan, AC 150/5200-31C, FAA, 2009.

(続きは次回)

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