[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

コラム

第67回 「空港緊急時対応計画 (7)」  ~2025.05.01~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

 

 空港の緊急時対応計画について米国のものを事例として考察しています。今回は、米国連邦航空局が規定している空港緊急時対応計画における、リソース管理機能と空港運用・メンテナンス機能に関する計画について紹介します。

● リソース管理機能

◆概要

 緊急事態への対応には多種多様なリソースが必要である。具体的には、物資、機器と設備の確保に加え、トレーニングを受けた専門性を有するスタッフの派遣が必要になる。これらのリソースの管理機能は次の事項を確実に実行するために必要である。

  リソースとその可用性の把握
  リソースを最も必要とする場所への適切なタイミングでの提供と活用
  緊急事態に対応する上で脆弱となっているリソースのリスト化
  緊急事態対応組織の保有するリソースが不足したり損傷したりした場合のリソースの確保
  空港所有のリソースの使用に関する説明責任の確保

◆目的

 このセクションでは、緊急事態によって生じるニーズを満たすために必要となるリソースを迅速に特定、取得、割り当て、そして配布するプロセスについて記述する。

◆状況と想定

 このセクションでは、空港の緊急事態への対応および復旧活動をサポートする能力に直接影響する、リソース管理機能の計画要素について記述する。リソース管理機能を確保するために考慮すべき要因は次のとおりである。

➤状況

  ハザード
ハザードの中でもリソース管理機能を特に効果的、効率的に発揮する必要があるものを対象にする。その場合、次のような事態について記述する必要がある。
 - 電力、飲料水、消火剤、携帯用電子機器等、不足すると重大な問題を引き起こすことになる事態
 - 緊急事態対応組織のリソースをすべて活用することになる事態
 - 橋梁の崩壊、空港アクセス道路の利用制限等、交通インフラへ影響を及ぼすことになる事態
  リソース
リソースとそれが必要となる要件については、リスト化して、計画、標準作業手順 (SOP)およびチェックリストに記載する。特に、次のようなカテゴリのリソースに関しては内容を要約しておく必要がある。
 - 熟練技能者、スペシャリスト、専門家等を含むスタッフ
 - 通信装置
 - 乗客、貨物と瓦礫除去用車両および航空機
 - 建設機械
 - ポータブルポンプおよびホース
 - 燃料、砂、土のう、ビニールシート、木材、スコップ等の復旧用資機材
 - 救急用品、飲料水、毛布、衛生用品、ライト等のケア用品
 - ポータブル発電機
  相互援助
空港が所有するリソースだけでは対応が不可能な場合には、周辺地域からリソースを調達する必要がある。そのためには、そのような支援を確実に受けられるように相互援助協定を事前に締結しておく必要がある。

➤想定
 リソース管理機能に関しては次のような状況を想定する。

  情報
リソースマネージャがリソースの一覧表やデータベースを管理する。
  自力対応
緊急事態対応組織は緊急事態発生後24時間は自力で対応する。
  ボランティア
リソース管理機能のパフォーマンスはボランティアの人数によって変わる。
  相互援助
相互援助協定の締結先の中には、空港の緊急事態発生時に対応できない組織もある。その場合にはリソースについての支援は受けられない。

◆運用

 このセクションでは、リソース管理を担当する組織の起動プロセスと活動の流れについて記述する。

➤一般事項

  優先事項
緊急事態の被害者に対してはリソースを優先的に割り当てる。具体的には、リソースマネージャが空港管理者と協議して決定する。
  最終手段
緊急事態対応組織は、相互援助協定を締結している組織からの支援等、独自の対策を講じた後、最終手段としてリソース管理サービスを利用する。
  費用
リソースの購入や契約に関する費用は、可能な限り計画策定時に確定させる。

➤活動の流れ

  通知
リソースマネージャが緊急事態発生の通報・通知を最初に受け取る仕組みを確立する。警報・警告が発表された場合には、緊急時リソース供給契約締結済みのサプライヤに対して契約を発動する可能性のある旨通知する。
  起動と展開
空港管理者、緊急事態管理者等、リソース管理機能の起動者を指定する。また、管理機能の実行組織とスタッフも明らかにする。
  緊急活動
緊急リソース管理においては次の4つの事項について明らかにする。
 - ニーズの査定
 - リソースの調達
 - リソースの配送
 - 財務的・法的責任の確認
  ニーズの査定
 - ニーズの評価
すべての組織は現場において必要となるリソースをリソース管理組織に伝える。これには、被害の予測と過去の経験に基づいて推定されるニーズに対して各組織が単独では対応できないものも含まれるが、ほかに緊急事態が進行していく状況下で追加が必要になるものもあろう。リソース管理組織は、必要なリソースならびにリソースの代替可能性、必要量、使用組織、使用場所および使用時期に関する情報を抽出・整理する。
 - 優先順位付け
リソースマネージャは要求されたリソースの優先順位を決定する。
 - フォローアップ
要求されたリソースについては、記録・優先順位付けのあと、リソース調達・輸送部門に通知する。その状況についてはモニタリングを可能とすることが望ましい。
  リソースの調達
 - サプライヤへの通知
警報・警告が発表された場合、調達部門は、契約サプライヤに対してリソース供給契約を発動する可能性のある旨通知する。この場合、リソースの可用性を検証し、重要なリソースについては予約する必要がある。
 - リソース要求の評価
リソースの要求があった場合は、その時点で確保できているかあるいは契約済みであるリソースにより充当する。そのようなリソースについて、調達部門はサプライヤに連絡し、輸送を手配し、入荷したリソースと優先順位を配送部門に通知するとともに、その状況について要求部門に連絡する。必要なリソースが事前契約済みのサプライヤから調達できない場合には、別途調達または雇用するか、寄付を募る必要がある。
 - 調達および雇用
優先度が高い場合には、調達または雇用プロセスを迅速に進める必要がある。この場合、調達部門は、サプライヤへの連絡、条件の交渉、輸送の手配、配送部門および要求部門への連絡を実施する。緊急事態が宣言されている間は調達手順を簡素化できるようにする必要があろう。
  リソースの配送
 - 主要施設の設置と運用
リソースマネージャは輸送されるリソースの受領場所を決定する。可能であれば、計画段階で総合リソース受領所を決定しておく。
 - 交通規制
配送部門は、優先度の高いリソースを所定の場所に迅速に配送できるように交通を規制する。
 - 配送
配送部門は、調達したリソースの配送に関する規定を整備しておく。
 - 報告と調整
配送部門は、総合リソース受領所に到着予定のリソースとその優先順位を通知する。受領所は、配送部門がリソースの配送状況を把握できるように、リソースの到着状況について定期的に報告する必要がある。
  財務的・法的責任の確認
財務部門は、リソースマネージャと調達部門に、承認された予算、取引のプロセスと記録、口座の状況確認、場合によっては追加資金の確保の必要性について注意を喚起する。また、法務部門は、法的義務および緊急事態下における特別権限について注意を喚起する。
  緊急事態収束後の復旧活動
リソース管理組織は、リソースに関するニーズがほぼ満たされ、緊急事態が収束し、空港が通常通り機能し始めた段階で、次の4つの事項に対応する。
 - 余剰リソースの処理
余剰リソースは、危険物に関係するもの以外は通常の手順で処理可能である。貸与を受けた機器は所有者に返却する。
 - 担当解除
リソース管理組織のスタッフについては、必要な文書類の作成・保管が終了したら速やかに担当を解除する。施設についても緊急事態への対応を解除する。
 - 金銭的補償
被害を受けた人に対して金銭的補償や援助が必要となる場合がある。
 - サポートに対する謝意
リソースのサプライヤと寄付者・支援者に対して謝意を表する必要がある。また、新たなサプライヤに対しては、今後の緊急事態に備えて緊急時リソース供給契約の締結について交渉する必要がある。
  ボランティア団体との調整
リソース管理に関するボランティア団体との調整方法について規定しておく。この場合、ボランティア活動に関するポリシーと責任についても明確にする必要がある。

◆組織と責任の割当て

 リソース管理組織の構造は、前述のとおり、ニーズの査定、リソースの調達、リソースの配送および財務的・法的責任の確認を担当する部門により構成されるが、具体的なものは空港の状況に応じて変わってくる。たとえば、ある空港では担当者が1人でリソース管理全体を把握できるが、別の空港ではいくつかのグループに分かれて担当しなければならないといったことがある。いずれにしても、重要な点はリソース管理のプロセス全体が適切に機能していることである。この点を確認するために、各部門は次のようなタスクを実行する必要がある。

  リソースマネージャ
 - 査定、調達および配送部門の活動の指揮・監督
 - 緊急事態管理者およびスタッフと連携した、ニーズと優先順位の調整
 - 緊急事態対応中のリソースの確認とインシデントコマンダに対する助言
 - リソースの保管場所の指定(必要に応じて)
  査定部門
 - リソースに関する要求の受付とニーズに対する適合性の確認
 - 要求者からの特定の要求に関する情報の聞取り
 - リソースの要求受付の確認(複数の現場で緊急事態が発生した場合には現場ごとに)
 - リソースの要求状況についてのリソースマネージャへの定期的な報告
  調達部門
 - リソースの確保(必要に応じて、調達、スタッフおよび寄付にチーム分け)
 - 調達手段の決定
 - 不当な売込みへの対応
 - リソース要求への対応状況についての要求部門への連絡
 - リソースの空港への輸送状況とその優先順位についての配送部門への連絡
 - 配送部門へのリソースの輸送に対する支援の要請(必要に応じて)
 - 契約済みのサプライヤからの調達プロセスにおけるデータベースやリソースリストの利用
 - 契約済みのサプライヤに対する契約発動の意向の表明(警報・警告が発表された場合)
 - サプライヤに対するリソースの輸送に関する情報の提供
  財務部門
記録の保存、調達と輸送に関する予算、寄付の要請等、リソース管理における財務面の監督
  法務部門
契約、その他関連する法的事項に関するリソース管理組織に対する助言
  配送部門
 - 収集、仕分け、配送、保管および在庫のモニタリングによる、リソース配送の確実化
 - リソースの所在、配送および在庫状況についてのリソースマネージャへの報告(複数の箇所での緊急事態発生の場合)
  その他の空港組織
リソース管理をサポートするためのスタッフの提供(必要に応じて)

◆管理とロジスティクス

 このセクションでは、リソースの管理とロジスティックに関する要件について記述する。

➤管理

 次の事項について明らかにする。

  報告書および記録の種類、媒体、フォーマット、原本、担当者および保管方法・期間
  保有資金の支出に関する財務方針および予備資金の使用可能性
  緊急調達に関する方針
  緊急事態対応スタッフの雇用、特別業務の割当て等に関する手続き

➤ロジスティクス

 次の事項について明らかにする。

  スタッフ
 - 幹部の配置が必要なリソース管理機能の特定
 - リソース管理の対象となる施設の数と種類およびそれらのサポートスタッフの最大人数
 - リソース管理部門以外の空港スタッフの再配置、空港テナントスタッフの活用、空港外部からの支援等、リソース管理担当スタッフの不足への対応方法
  施設
 - リソース管理活動の実行場所(緊急事態対応センタ (EOC)設立時以外)
 - すべてのリソースを受入れ可能な、便利かつ安全な総合リソース受領所
 - 規模とアクセスのしやすさを考慮したステージングエリア*
 - 緊急事態収束後に余剰リソースを保管する倉庫
 - ボランティアや政府職員に対する宿泊施設(必要に応じて)
  通信
 - 複数地点間の信頼性の高い通信手段。電話、ファックス、電話回線、コンピュータ端末、無線機等の必要数は、リソース管理の規模により異なる。
  コンピュータおよびソフトウェア
 - データベースや表計算ソフト等の自動化による大量の情報の適切な処理
  事務機器および備品
  配送手段

◆計画の策定と維持

 このセクションでは、リソース管理に対するサポート活動について記述する。具体的には、会議の計画、リソースリストの更新、リソースの状況の監視、契約書・覚書・相互援助協定書の作成、公開資料の作成、SOPとチェックリストの作成と改訂、トレーニングの実施、機能テストの実施等である。

◆権限と参照先

 このセクションでは、次の事項について記述する。

➤権限

  地方および州の緊急事態関連法規
  空港、地方および州の調達に関する規則。特に、プロセスの迅速化に関するもの
  空港、地方および州の人事に関する規則。特に、特別な雇用および権限に関するもの

➤参照先

  空港、地域および州のリソースのリスト
  空港、地方および州の合意文書
  その他のリソースのリスト

● 空港運用・メンテナンス機能

◆概要

 空港の運用部門とメンテナンス部門の日常的な役割は通常異なったものとなっているが、緊急時対応計画では空港運用とメンテナンスの機能については一体的なものとして整備する。

◆目的

 このセクションでは、緊急事態発生時における空港の運用・メンテナンス部門の役割と責任について記述する。内容は次のとおりである。

  スタッフと装備
  所在
  通知方法
  対応能力

◆状況と想定

 このセクションでは、空港の運用とメンテナンスに関する全体的な状況について記述する。これには、スタッフとその配置、スケジュールおよび緊急時の運用とメンテナンスに影響を及ぼす可能性のある制約や状況といったものが含まれる。
 状況として想定されるものは次のとおり。

  すべての運用・メンテナンス部門のスタッフは、担当する役割を十分に理解している。
  多くの場合、空港の緊急事態には運用とメンテナンスを担当するスタッフが最初に対応する。
  緊急事態の初期段階では、運用スタッフが空港管理者としての役割を果たさなければならない場合がある。
  運用・メンテナンス機能は常時有効になっているとは限らない。
  緊急事態が発生した場合、メンテナンススタッフが空港施設の安全性について最初に判断しなければならない。

◆運用

 このセクションでは、次の状況に関する規定について記述する。

  緊急事態には運用スタッフが対応し、メンテナンススタッフは救援要請に備えて待機する。
  運用スタッフは、空港の状況と何か被害があった場合にはそれが空港全体の機能に及ぼす影響について判断する。
  運用スタッフは、緊急事態対応のスタッフや組織へ情報が適切に伝達されるようにする。
  運用スタッフは、空港閉鎖の可能性を含めて、NOTAM発行の必要性について暫定的に決定する。

◆組織と責任の割当て

 このセクションでは、空港組織の部門ごとに運用・メンテナンス機能に関する事項について記述する。

  空港管理者
 - 空港運用コーディネータの指名とEOCへの報告
 - 空港メンテナンスコーディネータの指名とEOCへの報告
 - 運用・メンテナンススタッフによる空港外への対応に関する方針の策定
  空港運用コーディネータ
 - 該当する航空に関する基準と規則の遵守
 - 指揮車両の現場への派遣
 - 航空管制官との緊急事態対応活動に関する調整
 - 必要なNOTAMの発行の確認
 - 空港内外のメンテナンススタッフのための空港全体に関するトレーニング
 - 緊急事態収束時における空港検査の実施
 - 詳細なSOPとチェックリストの準備
 - 空港の状況に関する情報の報道機関への提供(広報担当者経由)
 - 空港運用サービスの時系列的整理
  空港メンテナンスコーディネータ
 - 空港リソースのリストの作成と更新
 - 重要かつ不可欠な施設へのライフラインの復旧(必要に応じて)
 - 火災、地震等に対する施設の安全性の確保
 - バックアップ電源の供給
 - 瓦礫の撤去(必要に応じて)
 - 飲料水の供給
 - 詳細なSOPとチェックリストの準備
 - トイレの提供
 - 空港メンテナンスサービスの時系列的整理
  警察・セキュリティ部門
 - 航空機運用区域へのアクセスの管理
 - その他の警察・セキュリティサービスの支援(必要に応じて)
  その他の部門
 - 空港に関するすべての規則・規制を遵守した職務の遂行
 - 空港運用・メンテナンスコーディネータへの状況報告(必要に応じて)

◆管理とロジスティクス

 このセクションでは、空港運用・メンテナンス機能に関する管理とロジスティックについて記述する。

➤管理

 空港運用とメンテナンスに必要なスタッフの雇用および機器と物資の調達の相手先を特定する。リソースに関する情報はリソースマネージャを通じて得られるが、メンテナンスマネージャから入手できる場合もある。これらのリソースを入手するための SOPとチェックリストを作成する必要がある。

➤ロジスティクス

 緊急事態対応活動に対する全体的なサポートニーズを満たすために、次の事項に関する調整が必要である。

  施設および設備
 - 移動式緊急シェルタ
 - ポータブルトイレ
 - ポータブル照明
 - ポータブル電源
 - ポータブル暖房機器
 - コーン、支柱、旗および標識
 - 機器、重機、クレーン等
 - 輸送車両
 - 燃料除去機器
  サプライヤ
 - サプライヤとの契約
 - サプライヤの昼・夜間の連絡先

◆計画の策定と維持

 このセクションでは、空港運用とメンテナンスに関する計画、手順、SOPおよびチェックリストの作成と改訂について記述する。

◆権限と参照先

 このセクションでは、災害対応および復旧作業のための空港の運用とメンテナンスに関する権限と参照先について記述する。

 

注)

* ステージングエリア:スタッフが報告したり、ブリーフィングを受けたり、リソースの使用箇所を割り当てたりする場所・施設

 

参考資料
Airport Emergency Plan, AC 150/5200-31C, FAA,2009.

(続きは次回)

ページの先頭へ戻る

ページTOPへ