[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第65回 「空港緊急時対応計画 (5)」  ~2025.01.06~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

 

 空港の緊急時対応計画について米国のものを事例として考察しています。今回は、米国連邦航空局が規定している空港緊急時対応計画における、緊急広報機能、防護措置機能、警察・セキュリティ機能に関する計画について紹介します。

● 緊急広報機能

◆概要

 緊急広報機能は、緊急事態下におけるタイムリで正確かつ有用な公共情報と指示を一般市民へ提供するプロセスに対応している。緊急広報 (Emergency Public Information)を担当する部門は、空港内で危険にさらされている人たちへの情報提供にまず重点を置く。また、友人・家族や同僚・スタッフに関する情報を知りたいという要望にも対応しなければならない。質の高いタイムリな情報提供は、空港の通信ネットワーク、輸送インフラおよびスタッフのオーバーロードを防ぐのに役立つ。
 緊急広報プログラムが、緊急時に効果的でない、組織化されていない、正確でないといった場合には、非常に深刻な問題を引き起こしてしまう可能性がある。プログラムが効果的でないと人々の不安のレベルが高まり、組織化されていないと状況が正確に伝わらず、正確でないとリスクや被害の程度が誇張される可能性がある。
 緊急広報プログラムを効果的なものとするためには、空港の緊急広報部門があらゆる種類の地元メディア、すなわち、テレビ、ラジオ、新聞、Webサイト等と相互協力関係を構築する必要がある。これらの協力関係の対象となる範囲は、緊急速報(空港が伝えたい情報をメディアに伝えてもらう必要のある場合)からニュース報道(メディアが伝えたいストーリーの作成のために空港に協力してもらう必要がある場合)にまで及ぶ。基本的に、このようなメディア対応は緊急広報機能の範ちゅうに入り、すべて広報担当者 (Public Information Officer,PIO)が担当することとなる。
 地元メディアは、言うまでもなく、緊急事態後も存続するが、空港と周辺地域の状況を中心に、地域社会に提供するサービスについて責任を有している。また、地域社会のニーズに敏感で、PIOと協力して緊急情報を速報するとともに、時間と状況が許す限り緊急事態の側面についてニュースとして報道する。緊急事態が大規模なものとなる場合には、ニュース報道に対する需要が大きくなり、空港の緊急広報部門の対応が難しいものとなりかねない、すなわち、タイムリで正確かつ有用な情報を一般市民に提供することができない恐れも出てくるため、メディアとの関係性が大きな課題となることもあろう。そのような場合に備えて、地元メディアに加えて全国メディア・近隣以外の周辺メディアとの間で事前に協力体制を構築しておくことが有効である。地元住民がこのような形で空港緊急広報部門からの情報を入手できることを認識していれば、緊急事態対応活動の妨げとなることはないであろう。

◆目的

 このセクションでは、緊急事態対応活動の全体を通じて、タイムリで正確かつ有用な公共情報と指示を提供するための手段、組織およびプロセスについて記述する。

◆状況と想定

 このセクションでは、緊急広報システムを構築する上で考慮する必要のある状況について記述する。具体的には次のようなものである。

  状況
 - 全般
 緊急広報部門の立ち上げが必要となるハザードについてリストアップする。航空機事故のような特別な対応が必要なハザードの場合には、インシデントが発生した空港のみならず、航空機が出発あるいは到着予定の空港におけるメディアのニーズを考慮する。
 - 広報の方法
 緊急時に公共情報を広報できる能力について記述する。
  手段
緊急情報を広報する手段、すなわち地元および全国のテレビ、ラジオ、新聞、インターネット等について記述する。具体的な情報として、連絡先情報、テレビ・ケーブルTV・ラジオ局の放送時間、新聞の発行部数、使用言語等をリストアップする。また、車載拡声器、戸別訪問等の代替手段についても記述する。
  範囲
放送局がカバーできる範囲、ケーブルTVの加入者数や新聞の購読者数について大まかに把握する。
  脆弱性
緊急広報の手段がハザードにより受ける影響について記述する。たとえば、ハリケーン、竜巻、洪水、地震等の自然現象により電話システムが機能しなくなることがあったり、メディアを使用した大規模なイベントの開催中に携帯電話システムが不安定になったりするといったものである。
 - 広報の対象者
 緊急広報の対象者に関する次のような事項について記述する。
  特別な配慮が必要な人たち
空港の来訪者やスタッフのうちで非英語圏の人たちを対象にして、英語以外の外国語メディアや翻訳手段について記述する。また、空港内には視覚、聴覚、運動機能等に障害のある人たちが滞在・勤務していること、空港の施設やその危険性についてほとんどの人たちがあまり理解していないことについても考慮する。
  準備
緊急広報に関する資料や印刷物、トレーニング等、緊急広報の準備プログラムについて記述する。
  想定
 - メディア
 メディアと広報対象者に関しては次のような想定をする必要がある。
  地元メディアの協力
地元メディアは、少なくとも緊急事態対応の初期段階では、空港と地域社会の緊急情報についての報道をニュース報道よりも優先する。
  地元以外のメディアの関心
緊急事態の内容によっては、かなりの数のメディアが空港に来ることになるため、緊急広報部門の増強が必要になる。地元以外のメディアは、緊急事態に関する詳細な情報よりも、緊急事態の特定の部分にスポットを当てたニュースの報道に重点を置く傾向がある。
 - 広報の対象者
  準備の程度
緊急広報に関して準備する程度について記述する。たとえば、ターミナルビル内を対象にした広報に関しては、ターミナルビル内の滞在者数の変動が大きいので、全体的に見て準備の程度はそれほど高くない。
  情報に対するニーズ
放送されるものより多くの情報を電話により入手しようとする人たちが多くいることに留意する。

◆運用

 このセクションでは、緊急事態発生時の公共情報について空港の来訪者とスタッフならびに一般市民に対して広報する方法に関して、その方針、方法および一連の活動について記述する。

  全般
 緊急広報部門立上げの対象となる緊急事態の状況と責任者、緊急広報部門のメンバーに対して通知する方法、緊急事態対応センタ、緊急事態に関する情報の報告先(広報室等)について明らかにする。この場合、情報の整理と発表、一般市民からの問合わせへの対応、デマ情報の防止、メディア対応等に関して優先的に対応する必要がある。また、空港自体の緊急事態対応活動に関する情報へのアクセス先を緊急広報センタのみとすることを空港全体の方針として定めることも肝要である。
  緊急広報活動の流れ
 - 準備体制の強化
  準備活動
緊急事態の発生が予想される場合、その前日以前に実行可能な準備活動には次のようなものがある。
  空港管理者との調整
  メディアとの連絡体制の確立
  準備活動の情報と指示の発表
  広報資料の準備
  地元メディアへの連絡
  一般市民からの問合わせやメディア対応関係のスタッフの増強(必要に応じて)
  メディアセンタ等、緊急広報活動用施設の準備
  提供情報の内容
事前に広報すべき情報の内容は次のとおり。これは、緊急事態への準備活動に使える時間とハザードの種類によって異なる。また、ハザード固有の情報と指示を追加する必要がある。
  ハザードの種類と内容
  インシデントの予想範囲と時間または期間
  防護対策(土のうの準備、航空機の移動、機器の固定等)
  72時間生存するために必要な災害用キットの内容
  避難指示(地元の緊急事態対応組織と調整が必要)
  緊急事態に関するその他の必要事項
  問合わせ用の電話番号(特定の事項に関して)
 - 警報・警告の発表
  活動
緊急事態に関する警報・警告が発表された場合の緊急広報部門の活動は次のとおり。
  外部避難、屋内退避等、防護措置の決定(空港管理者と調整が必要)
  詳細事項を記載した緊急広報に関する指示書の準備
  警報・警告システムの起動の確認(必要に応じて)
  緊急広報の種類と内容の確認
  地元メディアへの連絡
  警報・警告の内容
警報・警告の内容は次のとおり。ただし、ハザードの種類によって異なったものとなるので、ハザード固有の情報を追加する必要がある。
  人々や財産に対するハザードとリスクの種類
  インシデントの影響範囲と発生予想日時
  防護措置の指示。空港来訪者とスタッフに伝えるべき緊急事態に関する詳細情報(防護措置、外部避難等が周辺地域に影響を及ぼす場合には地元の緊急事態対応組織と調整が必要)
  パンフレット等、簡易視覚情報
 - インシデント発生後
  緊急広報の実施
インシデントが発生した場合には緊急広報に関して次のような対応をする。ただし、空港に応じて調整する必要がある。
  地元メディアとの連絡体制の確立とインシデントに関連する情報と指示の提供
  地元メディアの報道の正確性についてのモニタリングとデマの予防・訂正についての適切な対応
  一般市民からの問合わせやメディアへの対応スタッフの増強(必要に応じて)
  緊急事態対応活動の時系列的整理
  緊急広報の内容
  現時点におけるインシデントの状況の説明
  現時点において空港で実行されている緊急事態対応活動
  地元の緊急事態対応組織と連携した情報(必要に応じて)
  救助や援助を受けられる場所と方法
  健康被害に関する情報
  主要な電話番号
  Webサイトのアドレス(該当する場合)
  現時点における緊急事態対応活動
  内部調整
 緊急広報に関する情報発信元を一元管理する。具体的には、インシデントコマンダを補佐する広報担当者 (Public Information Officer,PIO)と代替スタッフを指名して、メディアを通じて一般市民に公式の緊急情報と指示を伝えるようにする必要がある。また、様々な組織の広報担当者との間の連絡体制について、情報の検証と承認の手順も含めて調整する必要がある。
 緊急事態対応活動が大規模なものとなって、メディアが空港に集中する状況への対処方法についても検討する。この場合、次のような事項に関する規定が必要である。
 - メディア対応チームの一部のターミナルビル等への移設
 - 航空関係の経験のある外部組織の広報スタッフの雇用もしくは他の組織の広報スタッフからのサポート(緊急事態対応活動が大規模になる場合にPIOをサポート)
 - メディアの代表者の指名
 - メディアの現場へのアクセスに関する警察との調整
  空港と行政機関の間の調整
 - 空港~地元
 緊急広報に関する空港と地元自治体や他の組織との調整方法について記述する。また、インシデントが航空会社に関連するといった場合は、空港テナントとの調整方法についても記述する。対象空港で航空機事故等のインシデントが発生していない場合でも、その空港が航空機の出発あるいは到着予定の空港である場合は、メディアや一般市民からの問合わせが多数あることが予想される。
 - 空港~地元~州
 緊急時の公共情報に関する地元自治体と州との調整方法については州法で定められている。州知事による緊急事態宣言を伴う災害等、州が関与する可能性のあるインシデントについては、地元自治体ならびに州の緊急事態対応組織との調整方法について検討する必要がある。
 - 空港~地元~州~国
 大規模な航空機事故や州の対応能力を超えてしまう恐れのある災害等、インシデントに国が直接関与することが必要となる場合がある。状況によっては、連邦対応計画 (Federal Response Plan)が発動され、情報の一貫性と正確性を確保するために、共同情報センタ (Joint Information Center,JIC)を通じて情報を発信することが必要となる。JICでは、メディアがあらゆる情報にアクセスできるほか、さまざまな組織の広報担当者同士で情報交換ができる。なお、JIC以外でも共同情報システム (Joint Information System)によりPIO、ニュースセンタ等をネットワークでつなぐことが可能である。

◆組織と責任の割当て

 緊急広報部門の構成を表す組織図を作成する。この場合、情報収集と整理、メディアのモニタリングとデマの防止、一般市民からの問合わせ、メディア対応という4つの領域に分けて組織を構築する必要がある。緊急広報部門全体の機能が十分に発揮できるようになるために必要なタスクは次のとおり。

  空港管理者
 - メディアに対する情報の発信(またはそのタスクをPIOに委任)
 - 緊急指示および情報発表に関する最終承認(またはそのタスクをPIOに委任)
 - インシデント指揮所から緊急事態対応センタへの情報発表権限の委譲(インシデントコマンドシステム導入時)
 - メディア対応場所・施設の指定
 - メディアの一本化に関する特別規定の作成
  PIO
 - 緊急広報部門の全体的な管理
 - 緊急広報機能の遂行
 - 緊急広報に関する資料のタイムリな準備・発表
 - 空港外部の緊急広報担当者とのタイムリで適切な調整
 - インシデントの現場に出向く広報担当者への概要説明
 - 記者会見等のスケジュール調整
 - メディアセンタの管理
 - メディアの報道内容の正確性の確認
 - デマ防止活動の調整
 - 緊急事態対応活動の時系列的記録
  地元メディア
 - 発表前の緊急情報の保存
 - インシデントならびに緊急事態対応活動の進行状況に関するPIOへの照会
 - 緊急事態対応訓練等、公的教育活動への協力
  ボランティア組織
 - 一般市民からの問合わせに関するサポート(要請があれば)
 - 緊急広報資料の配布に関するサポート(要請があれば)
  すべての担当組織
 - PIOへの情報の提供(要請があれば)
 - 緊急事態関連情報の提供に関するPIOへの照会)
 - 緊急広報活動をサポートするスタッフの指名(要請があれば)
 - メディアからの問合わせに関するPIOへの照会

◆管理とロジスティクス

 このセクションでは、緊急広報機能に関する管理とロジスティクスについて記述する。

  管理
 緊急広報における報告と情報の流れについて記述する。この場合の報告としては次のようなものがある。
 - メディア報道についての概要
 - 一般市民の反応と懸念事項(電話による問合わせや災害後の批判に基づく)
 - 緊急広報活動の最終的な時系列的記録
  ロジスティクス
 - スタッフの配置
 一般市民やメディアへ対応するために必要となる緊急広報スタッフの増強方法について記述する。
 - 施設と設備
 緊急広報活動において使用する場所と施設について記述する。使用施設は、一般的に緊急事態対応センタ、近隣会議室またはメディアセンタになるが、追加施設が必要な場合は航空会社等の空港テナントと調整する必要がある。そのため、これら場所・施設の設置に関するSOPやチェックリストを作成するとともに、設備・機器とその使用方法についても記述する必要がある。
 - 調達と契約
 プリンタ、コピー機等の調達について記述する。その調達先とメディアの連絡先(昼間、夜間とも)も添付する。

◆計画の策定と維持

 このセクションでは、緊急広報機能に関する部分の策定・改訂、添付資料のアップデート、SOP・チェックリスト等の作成・アップデートの担当者について記述する。

◆権限と参照先

 このセクションでは、必要に応じて、地元自治体の緊急事態対応方法や条例等について記述する。

● 防護措置機能

◆概要

 防護措置機能は、緊急事態発生時に空港の来訪者とスタッフの健康と安全を防護するプロセスに対応している。

◆目的

 緊急事態発生時における空港の来訪者とスタッフに対する防護措置は、次のいずれかの方法で、緊急事態または災害の影響を取り除いたり、軽減したりすることを目的とした緊急措置である。

  影響範囲から離れる(外部避難)
  屋内に入る(屋内退避)

 このセクションではこれらの措置の具体的な方法について記述する。つまり、空港においてハザードの脅威にさらされている人たち(場合によっては航空機等の機器も含まれる)の安全かつ秩序ある外部避難、避難時間が確保できない場合のその場における避難(屋内退避)といったものである。
 対象となるインシデントは、空港全体に関係する防護措置が必要となるもの(ハリケーン、影響が広範囲に及ぶ危険物等)から限定的なもの(ターミナルビルの火災・爆弾事件、影響が限定的な危険物等)まで多岐にわたる。

◆状況と想定

 このセクションでは、空港の来訪者、スタッフそして周辺住民に対して何らかの防護措置が必要となる状況として次のものについて記述する。

  防護措置が必要になる可能性のある緊急事態が空港で発生する(した)場合
  空港が洪水、地震、山火事等が発生しやすいといった、防護措置が必要となる可能性の高い地域に位置する場合
  空港またはその周辺地域で危険物を使用、保管、生産、輸送する場合
  ターミナルビル避難計画、グリッドマップ等、特定の避難計画および地図を作成する場合
  視覚、聴覚、運動障害を有するといった、特別な配慮を必要とする人たちが空港にいる場合

 また、空港周辺地域の避難計画との調整が必要な事項についても記述する。具体的には、空港緊急時対応計画 (AEP)を周辺地域の緊急時対応計画 (EOP)に適合したものとし、EOPに含まれている地域全体の避難プロセスにおいて空港が適切に位置づけられていることを確認する必要がある。
 防護措置を検討する際には、次のような状況を想定する必要がある。

  ハザードに対して警報・警告を受けてから防護措置を講ずるまでに十分な時間的余裕を確保できる。
  緊急事態対応組織は、移動・輸送手段、通信機器およびスタッフの可用性といった、防護措置を実施するために必要となるリソースをすべて認識している。
  臨時スタッフは、防護措置の実施に際してサポートとガイダンスを必要とする場合がある。
  推奨された防護措置を無視する人たちがいる。
  ハリケーン等の季節的ハザードの場合には、空港外へ出た人たちは特定の経路を使用して避難できる。
  突発的な緊急事態に遭遇した場合の外部避難は現場対応的に実施される場合がある。現場指揮官がその責任者となり、その避難指示は想定される健康リスクと屋内待機の可否の判断に基づいて行う必要がある。
  外部避難よりも屋内退避のほうが妥当と判断される状況も少なからずある。

◆運用

 防護措置を計画する際には様々な要素、すなわち、ハザードまたはリスクの特性、規模、深刻さ、発生速度、期間、空港への影響といったものを考慮する必要がある。これにより、防護措置の種類(外部避難または屋内退避)、影響を被る人たち、影響が継続する期間、通知方法、外部避難の場合はその目的地が定められる。

  全般
 最適な防護措置を決定するための方針と手順を確立する必要がある。一般的に、屋内退避は、イベントが外部由来で、リードタイムがほとんどあるいはまったくなく、またその期間が比較的短い場合に適する。外部避難は、空港からの一部または完全な避難であり、通常はより長期に及ぶ。
  屋内退避
 屋内退避を行う場合には、外部避難が屋内退避よりも危険であるということを明らかにする必要がある。外部避難には多くのリソースを必要とするので、避難所、移動・輸送手段、医療その他のリソースの可用性が防護措置を決定する上で重要な要素となる。このセクションでは次のような点について記述する。
 - SOPに従って行動するためにインシデントコマンダが有する権限の範囲
 - 防護措置を講ずる必要性を一般市民に通知する方法
 - シェルタとなる建物の安全性を確保する方法および空調システムの停止等、外気の流入を遮断する手順
  外部退避
 空港から人々を外部に避難させるための措置について記述する。まず避難の対象となる範囲を定め、次に避難ルートと避難先を特定する必要がある。また、避難する人たちの移動・輸送に使用する手段についても記述する必要がある。具体的には、次のような点である。
 - SOPに従って行動するためにインシデントコマンダが有する権限の範囲
 - 特別な配慮が必要な人たちを避難させるための措置
 - 対象となるハザードに対して人々を防護して避難させるための避難方法と代替避難ルート
 - 避難する人たちの再移動・輸送に必要となる手段
 - 避難方法について周辺地域と調整する方法(必要に応じて)
 - 避難地域へのアクセスを管理する方法
 - 移送または残置されている資産を保護するためのセキュリティの提供に関する規定
  管轄区域間の調整
 周辺地域の緊急事態対応組織との間で締結する必要のある取決めと緊急時対応計画について記述する。これにより避難する人たちの移動・輸送が容易になり、大規模ケア施設での避難やその他のサービスの提供も可能となろう。

◆組織と責任の割当て

 このセクションでは、担当組織に割り当てられる防護措置に関する責任について記述する。防護措置機能全般をサポートするために、次のようなタスクが割り当てられる。

  空港管理者
 - 避難方針に関する方針の発表(避難指示に従わない人たちに関するものも含む)
 - 防護措置に関する指示の発表
 - 防護措置コーディネータの指名
  防護措置コーディネータ
 - 緊急事態に関する情報の整理と空港管理者への勧告
 - 移動・輸送手段、避難経路の特定と周辺地域の緊急事態対応組織との調整
  警察・セキュリティ部門
 - 避難行動中の交通規制
 - 避難区域ならびにシェルタ施設へのセキュリティの提供
 - 避難区域ならびにシェルタ施設へのアクセスの管理
  PIO
 - 防護措置の指示に関する資料等の配布
  すべての担当組織
 - 影響範囲内にある施設の防護
 - 移設が必要な設備・資機材の特定と移設

◆管理とロジスティクス

 このセクションでは、防護措置機能に関する管理とロジスティクスにおいて対応すべき具体的な分野について記述する。

  管理
 - 防護措置の進行状況に関する記録と報告の作成
 - 指定された避難経路を示す地図の添付
  ロジスティクス
 - 避難する人たちの活動継続に必要な資機材の避難区域からの移設方法
 - 避難する人たちに対するサポート(警察、医療サービス、輸送車両等)に関する近隣管轄区域との相互支援協定
 - シェルタとなる建物への外気の流入を遮断するために必要な手順と設備

◆計画の策定と維持

 このセクションでは、空港の防護措置機能に関する部分の策定・改訂、添付資料のアップデートおよびSOP・チェックリスト等の作成とアップデートの担当者について記述する。

● 警察・セキュリティ機能

◆概要

 警察・セキュリティ機能は、空港における法執行サービス機関が緊急事態および災害へ対応するプロセスに対応している。

◆目的

 このセクションでは、緊急事態下において法執行サービス(警察・セキュリティ機能)を提供する方法について記述する。対象は法執行サービス全般、特に、要員と機器の概要、それらの場所および通知手順である。

◆状況と想定

 このセクションでは、空港における法執行サービスの状況について記述する。また、法執行サービスに影響を及ぼす可能性のある制約や状況についても記述する。具体的には次のようなものである。

  空港内外の緊急事態に対応する法執行サービス機関は、定められた契約、計画および手順に従って活動する。
  法執行サービス機関はそれぞれの責任を十分に認識している。
  緊急事態対応活動が大規模なものになる場合、遠方からの相互援助機関による法執行サービスが必要になることがある。
  爆弾事件、ハイジャック等の緊急事態では、爆発物処理担当者、軍事専門家、FBI等の専門的なサポートが必要になる。
  空港および周辺地域の法執行サービス機関自体がインシデントや災害の影響を受ける場合がある。
  広域災害の場合等、空港における法執行サービス機関が相互援助支援の恩恵を受けられずに活動することがある。

◆運用

 このセクションでは、空港における法執行サービスの提供方法と緊急時における空港外部の法執行サービス機関との調整方法について記述する。また、空港制限区域のセキュリティと運用といった、空港における法執行サービスの提供方法についても記述する。これは、計画、対応、事後検討といった、緊急事態対応活動のすべての段階が対象となる。これら法執行サービスについては法執行コーディネータが責任をもって担当することが望ましい。規定の必要な事項としては次のようなものがある。

  空港内外の緊急事態への空港法執行サービス機関の対応に関する全般的な方針、計画と手順
  緊急事態に対応するために提供可能な法執行サービス機関の人数と装備
  AEPに基づく他の法執行サービス機関との調整
  空港内外の救難救急消防組織のスタッフに対するトレーニングプログラム
 - 航空機、車両と歩行者の施設に対する誤侵入や逸脱を防止するためのトレーニング
 - 各車両用のグリッドマップ
  FBI等、空港内外の法執行サービス機関の要員の動員と装備の使用
  他の緊急事態対応組織との法執行サービスに関する調整
  空港内外の法執行サービス機関の要員に対する空港全般に関するトレーニングプログラム
  空港での法執行サービスに関するインシデントコマンドシステム

◆組織と責任の割当て

 このセクションでは、緊急事態の種類に応じて構築される法執行サービス機関の組織構造とその責任について記述する。

  空港管理者
 - 法執行コーディネータの指名と緊急事態対応センタへの報告(必要に応じて)
 - 空港外部の緊急事態対応活動に対する空港法執行サービス機関の要員の動員と機器の使用に関する方針の確立
  警察署長・法執行コーディネータ
 - 十分な訓練を受けた法執行サービス機関の動員による24時間体制でのサポート
 - 爆発物、危険物、暴動、その他に対する法執行サービスの基準・規制への適合性の確認
 - 必要となる緊急事態対応機器の可用性の確認
 - 法執行サービス担当者の緊急事態対応センタへの参加(必要に応じて)
 - 空港が複数の管轄区域に分かれている場合の法執行サービスの調整
 - 緊急事態対応活動における法執行サービスの時系列的整理
  軍隊
 - 爆発物処理チーム等、法執行サービス以外の活動をサポートするための要員と装備の提供
  担当機関
 - すべての専門的および法的基準・規制を遵守した職務の遂行
 - 法執行コーディネータへの継続的な状況報告
 - 医療・救急医療、消防、公共事業部門等の他の緊急事態対応組織との調整(必要に応じて)
 - メディアからの情報要求に関する法執行コーディネータまたはPIOへの照会(必要に応じて)
 - 緊急用品、装備、要員等に関する一覧表のアップデート
 - 緊急事態対応活動を担当するスタッフの指名
 - 詳細なSOPとチェックリストの準備(スタッフの連絡先情報と通知方法、タスクを実行する手順、他の管轄区域の法執行サービス機関の連絡先情報および無線通信のコールサインと周波数のリスト等)

◆管理とロジスティクス

 このセクションでは、法執行サービス機能に関する管理とロジスティクスに関して、対応すべき具体的な分野について記述する。

  管理
 - 緊急事態の通知を受ける担当者の連絡先情報(電話番号、無線周波数等)が記載されたSOPまたはチェックリストの添付
 - 空港外部での対応可能範囲を示す地図の添付(必要に応じて)
  ロジスティクス
 - 法執行サービスに使用する機器のテストと保守に関する方針と手順
 - 損傷した機器の修理または交換に関する方針と手順
 - 複数のインシデントが発生した場合への対応に関する方針と手順
 - 空港の法執行サービス能力を強化するために必要な民間組織、要員、機器および施設の使用に関する契約

◆計画の策定と維持

 このセクションでは、必要に応じて、法執行サービスに関する計画、手順、SOPおよびチェックリストの作成と改訂について記述する。

◆権限と参照

 このセクションでは、必要に応じて、空港セキュリティプログラム等に関する権限と参照について記述する。

 

参考資料
Airport Emergency Plan,AC 150/5200-31C,FAA,2009.

(続きは次回)

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