八谷 好高 客員研究員(SCOPE)
空港の緊急時対応計画について米国のものを事例として考察しています。今回は、米国連邦航空局が規定している空港緊急時対応計画における、指揮統制機能、情報伝達・通信機能、警報・警告機能に関する計画について紹介します。
◆概要
指揮統制機能は緊急時対応計画における最も重要な要素である。特に、インシデントへの対応・管理、組織・機関内の縦横両方向の情報伝達およびリソースの一元管理には、中央指揮統制の仕組みの導入が不可欠である。これは、航空機救難消防 (Aircraft Rescue and Firefighting, ARFF)、警察、救急医療サービス (Emergency Medical Services, EMS)、公共工事サービス等の緊急事態対応組織は、緊急時に協働して活動できるが、これ以外の組織・機関が補助的なサポートに加わる場合には、緊急事態対応活動をスムーズに実施することは難しいからである。中でも、航空機が関係する緊急事態の場合には、現場に入ってくる外部の緊急事態対応組織・機関やメディア、国土安全保障省や連邦緊急事態管理庁といった組織・機関の多くは通常協働することがないことから、緊急事態下での協働活動はなおさら難しい。そのため、すべての緊急事態対応組織・機関は、自らを含めて、緊急事態発生時における各組織・機関の担当事項を把握しておくことが肝要である。
空港における緊急事態の状況は、インシデントの種類、規模・程度、深刻さ、期間によって大きく異なったものとなる。そのため、緊急事態発生時に求められる指揮統制機能は、あらかじめ定められたものではなく、初期活動から回復活動へ移行するといった緊急事態の経過につれて大きく変化しよう。どのような状況下にあっても、緊急事態対応システムは、言うまでもなく、インシデントの種類や対応組織・機関の違いによらず有効に機能しなければならない。このシステムには、それ自体が一般的なビジネス管理システムと大きく変わるものではないので、ビジネス管理システムと同様の管理原則が適用できるが、インシデント特有の危険、生命の危険、財産の毀損という要素を有していることから、これにより下される決定はまさに生と死を分けるものとなる。
◆目的
このセクションでは、緊急事態発生時における初期およびその後の継続的な対応活動と復旧活動を指揮統制するためのメカニズムについて記述する。すなわち、緊急事態の発生中ならびに発生後に人命を救い、財産を保護し、空港を復旧するために必要不可欠となる活動について記述する。また、緊急事態への対応活動の各段階においてスタッフを指揮統制する個人や組織・機関についても記述する。
◆状況と想定
このセクションでは、緊急事態発生の通知とスタッフの動員を行う条件について記述する。また、緊急事態への対応能力に影響するリソース、空港外のスタッフそして設備・機器の使用方法についても記述する。
◆運用
このセクションでは、緊急事態対応活動を担う、次のような個人や組織・機関の指揮統制について記述する。
| ・ | 全体的な指揮統制の機構 | |
| ・ | インシデントコマンダ (Incident Commander, IC)を含む主要な緊急事態対応スタッフの権限と活動範囲 | |
| ・ | 緊急事態対応活動・復旧活動の対象となるすべての活動範囲と組織・機関の間の調整 | |
| ・ | 指揮統制システムの確立 これには、集中型と現場型の2種類がある。 |
| - | 集中型:緊急事態対応センタ (Emergency Operations Center, EOC)が中央指揮統制を担って、現場ユニットの活動計画の立案,調整および全体的な指揮統制を容易にするシステム。これは,ハリケーン、洪水等が発生する危険性が高いという警報・警告が発出された場合、航空機事故が発生した場合等に適用する。 | |
| - | 現場型:インシデント指揮所 (Incident Command Post, ICP)が現場指揮統制を担う、すなわち、現場に入った組織・機関が個々の対応活動の指揮統制を担うシステム。これには現場での緊急事態対応活動と復旧活動の指揮統制、EOCとの情報伝達窓口、現場ユニット等に関して規定を設けることが肝要である。 |
| ・ | 緊急事態対応組織の構成 現場での指揮統制には国家標準である、インシデントコマンドシステム (ICS) *1 を使用する。空港における緊急事態の場合、ICSの5つのモジュールの内容は次のとおりである。なお、緊急事態対応活動があまり複雑ではないと想定される場合には5つのモジュールはICが一人で実行可能なものの、活動の規模が大きくなるとICSもそれに応じて拡大・複雑化せざるを得ないため、責任と管轄範囲を含めた管理規定を確実なものにすることが肝要である。 |
| - | 指揮統制:現場のすべてのリソースを最大限に活用できるように、スタッフの指揮と機器の管理といった、現場の全体的な管理を担当する。 | |
| - | 運用:インシデントに応じた緊急時対応計画に従って、現場における戦術的な計画の運用を担当する。 | |
| - | 計画:インシデントに応じて現場で必要となるリソースに関する情報の収集、評価および活用を担当する。 | |
| - | ロジスティックス:インシデントへの対応活動をサポートするための施設、サービス、スタッフ、機器および資材を担当する。 | |
| - | 財務/管理:インシデントに関するコストの算出・分析、財務評価等を担当する。 |
| ・ | 指揮スタッフの構成 対応活動中、場合によっては復旧活動中も、ICはICPに詰める。上記のように、インシデントの規模や対応活動の複雑さによってはICがすべての役割を遂行できないため、スタッフをICPに配置せざるを得ない。特に、状況が急速に悪化している場合は、特定の分野の責任をスタッフに委任する等、適切な対応をする必要がある。なお、ICが管理可能なスタッフの人数は次のような事項を担当する者を含め3~7人程度と考えられる。 |
| - | 安全:緊急事態対応スタッフがさらされかねない危険やその状況を監視し、安全を確保するための対策を担当する。 | |
| - | 広報:メディアやその他の組織・機関との連絡を担当する。 | |
| - | 連絡:サポート組織・機関や調整組織・機関との連絡を担当する。 |
| ・ | ICPの種類 現場での対応活動は移動式指揮所や移動式緊急作戦センタといったICPにて実施する。これらは、昼夜を問わず現場で容易に視認できる必要がある。 |
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| ・ | 対応スタッフの識別 主要な緊急事態対応スタッフは、反射ベスト、ヘルメットや識別マーク・バッジ等によって現場で容易に識別できるようにする必要がある。 |
◆組織と責任の割当て
このセクションでは、各部門の指揮と管理に関する責任について記述する。以下はその例である。
| ・ | 空港管理者:EOCを立ち上げて、すべての担当組織・機関に対して定められた計画と手順に従って適切に対応するように指揮する。 | |
| ・ | ARFF:標準作業手順 (Standard Operating Procedure, SOP)に従って適切なスタッフと消防設備・機器を準備して現場に対応する。 | |
| ・ | 警察:緊急事態発生の通知を受けた場合、SOPに従って適切に対応する。 | |
| ・ | 公共工事担当:緊急事態発生の通知を受けた場合、必要に応じて対応チーム、機器、車両を現場に派遣・配備する。 | |
| ・ | 広報担当:メディアへの対応を行う。 | |
| ・ | 保健医療担当:現場で医療サービスを提供するすべての組織・機関の保健医療活動を調整する。 | |
| ・ | 情報伝達・通信担当:EOCの情報伝達・通信部門を管理する。 | |
| ・ | 動物ケア担当:要請があった場合、現場あるいはEOCに代表者を派遣するとともに、動物ケアサービスに関する取組みを管理する。 | |
| ・ | 空港運用担当:ロジスティクスと空港運用に関する指揮統制をサポートする。 | |
| ・ | その他の組織:上記以外の航空会社、空港テナント等は、それぞれ緊急事態対応に関する指揮・管理を実行する。 |
◆管理とロジスティクス
このセクションでは、指揮統制機能に関するサポート要件、すなわち管理とロジスティクスについて記述する。
| ・ | 管理:保存する必要のある記録を特定し、報告の対象と頻度について記述する。 | |
| ・ | ロジスティクス:指揮統制を担当する組織に対するサポート体制(食料、水、非常用電源、燃料、機器等)について記述する。 |
◆計画の策定と維持
このセクションでは、緊急時対応計画の指揮統制機能に関する部分の策定・改訂について記述する。この場合、添付ファイルやSOPも対象となる。
◆権限と参照先
権限と参照先は、相互援助協定等、必要に応じて記述する。
◆概要
情報伝達・通信機能は、緊急事態の際に情報を確実かつ効果的・効率的に伝達するプロセスに対応している。ここでは、情報通信システムとプロセス全体について詳しく記述する。
◆目的
このセクションでは、緊急事態対応活動中に必要となるあらゆる種類の通信機器・設備の設定、使用および維持の方法や拡張、リダンダンシ(多重性)の確保に関する情報について記述する。
◆状況と想定
このセクションでは、緊急事態発生時に必要となる緊急通信システムに関する広範な考慮事項について記述する。空港には、著しいレベルの騒音環境、航空管制通信システムの運用、高レベルのセキュリティ保持等、情報伝達・通信に影響を及ぼす独特な運用条件がある。
このセクションでは、緊急事態発生時に想定される空港の通信システムの状況についても記述する。具体的には、次のようなものである。
| ・ | 大規模なインシデントに対する緊急対応等、空港の設備・機器の容量を超える通信能力が必要になる場合 | |
| ・ | 地域の緊急事態対応組織・機関からの通信サポートが利用できる場合。あるいは、利用できない場合 | |
| ・ | アマチュア無線民間緊急サービス、無線緊急通信チーム、地域の産業界、タクシー会社、運輸会社等からの通信サポートが利用できる場合 |
◆運用
このセクションでは、EOC、現場ユニット、緊急事態対応組織・機関、ラジオ・テレビ局、病院、アマチュア通信ネットワーク、周辺地域のコミュニティ、軍事施設等、相互の情報伝達・通信方法について記述する。
緊急事態下の情報伝達・通信は、すべての組織・機関に共通する情報伝達・通信計画を策定した上で実行する必要がある。複数の組織・機関の連携を図る場合、用語の解釈の違いによって問題が生じかねないので、情報伝達・通信に関するSOPは、用語の共通化を図ってから作成する必要がある。
また、双方向通信は、メッセージの送信・受信ともに重要であることから、インシデント管理システムの効果的な活用に不可欠である。この場合、通信の相互運用性*2 を確保することにより、緊急事態に対応する個人および組織・機関が、必要に応じて、音声、データ、画像・映像を管轄区域の内外のその他の組織・機関に対してリアルタイムで提供することが肝要である。
共通情報伝達計画と相互運用可能な通信システムを開発・利用することにより、関係機関の運用部門とサポート部門の連携、通信の確実性の確保、状況認識の共有と協働が可能になる。通信システム・プロセスの準備計画においては、音声・データによるインシデント管理に関する情報伝達・通信の実現に必要となる機器、システムおよびプロトコルに対応しなければならない。
◆組織と責任の割当て
このセクションでは、情報伝達・通信に関する責任について記述する。
| ・ | 空港管理者:適切な通信システムが整備されていることを確認する。 | |
| ・ | 通信コーディネータ:EOCの情報伝達・通信部門を管理し、すべての担当スタッフを監督する。また、必要に応じて、メディアセンタの通信をサポートする。 | |
| ・ | その他の緊急事態対応組織・機関:通信機器を維持・管理し、現場で活動するスタッフとの情報伝達・通信を確保するための手順を確立する。 |
◆管理とロジスティクス
このセクションでは、情報伝達・通信機能に関するサポート要件について記述する。
| ・ | 管理:情報伝達・通信に関する管理、すなわち、報告書・記録の作成・保管、SOPに記載されている電話番号リストと無線周波数の確認等について記述する。 | |
| ・ | ロジスティクス:民間組織との通信契約、周辺地域との相互援助契約、損傷した通信機器の修理・交換に関する規定といった、情報伝達・通信に関するサポート要件について記述する。 |
◆計画の策定と維持
このセクションでは、空港の情報伝達・通信分野の整備・更新、関連する資料の更新、SOP・チェックリスト等の策定・更新について記述する。
◆概要
警報・警告機能は、空港、テナント、緊急事態対応機関のスタッフや一般市民に対して、潜在的なものも含めた緊急事態の警報・警告を発出するプロセスに対応している。この警報・警告プロセスは、緊急事態対応組織へのタイムリーな通知と現場ユニットの対応を確実なものにするとともに、一般市民の死亡・負傷や財産の毀損を回避するために必要な時間を確保する上で不可欠である。
◆目的
このセクションでは、空港および周辺における緊急事態をすべての空港スタッフに知らしめる方法と手順について記述する。また、空港におけるさまざまな警報・警告システムと設備・機器およびそれらの使用方法と条件、起動・停止やテスト・メンテナンスについて記述する。
◆状況と想定
このセクションでは、警報・警告システムの起動が必要となる状況について記述する。特に、空港の設計ならびに利用方法に大きな影響を及ぼす特殊な状況、たとえば空港制限区域への緊急退避方法・ルートについて記述する。また、空港外の組織・機関との調整が必要になる状況についても記述する。
具体的には次のような状況が想定される。
| ・ | 警報・警告システムが聴覚障害や運動障害を有する人たちにとって有効ではない場合 | |
| ・ | 警報・警告信号を無視したり、理解できなかったりする人たちがいる場合 | |
| ・ | 警報・警告のプロセスに関して消防、警察、空港運用や外部組織・機関のスタッフの支援が必要となる場合 |
◆運用
このセクションでは、空港における警報・警告システムの使用方法に関する次のような情報について記述する。
| ・ | 緊急事態発生時における警報・警告の通知の対象となる、空港、テナント、緊急事態対応組織・機関とそのスタッフならびに一般市民 | |
| ・ | 警報・警告を発出する責任者ならびに緊急事態対応組織・機関とそのスタッフへ警報・警告を通知する方法 | |
| ・ | 緊急事態に応じた警報・警告システム(火災警報、サイレン、ポケベル、無線等) | |
| ・ | 騒音の大きい箇所、エプロン上の航空機等、空港特有の場所における警報・警告の通知手順 | |
| ・ | 聴覚障害者、視覚障害者等、特別なニーズを有する人たちへの警報・警告の通知手順 | |
| ・ | 警報・警告システムが故障したときの対応 | |
| ・ | すべての警告信号の意味 |
◆緊急事態対応組織
緊急時には警報・警告の迅速な発出と情報伝達が重要になる。このセクションでは、警報・警告の発出と通知に関する責任について記述する。
| ・ | 空港管理者:警報・警告システムを起動する権限と責任を有する個人を特定する。また、システムが機能しなくなった場合に警報・警告を発出するための緊急時対応計画を準備する。 | |
| ➢ | その他の緊急事態対応組織:警報信号または警告メッセージを受信したら、緊急事態対応活動を担当するすべてのスタッフとボランティアに緊急事態の発生を通知するといった、内部通知手順を整備する。 |
◆管理とロジスティクス
このセクションでは、警報・警告機能に関するサポート要件について記述する。
| ・ | 管理:緊急事態対応者等の連絡先情報を含むSOPやチェックリストの整備、警報・警告システムの対象エリアを示すリストや地図の整備等について記述する。 | |
| ・ | ロジスティクス:警報・警告の発出時に使用する設備・機器のテストと保守、損傷した設備・機器の修理・交換に関する方針、手順、優先順位等について記述する。 |
◆計画の策定と維持
このセクションでは、警報・警告分野の計画、手順、SOPおよびチェックリストの整備について記述する。
注)
*1 インシデントコマンドシステム:Incident Command System (ICS)。米国連邦緊急事態管理庁 (FEMA)により2004年に制定された米国インシデントマネジメントシステム (NIMS)の中核に位置づけられた、あらゆる緊急事態下で使用しなければならない最も基本的な指揮統制システム。インシデントコマンダ、運用、計画、ロジスティクスと財務/管理の5つのモジュールから成る。当コラム第61回「空港緊急時対応計画 (1)」参照
*2 相互運用性:interoperability。地理的、組織的境界によらず、多様なシステム間で情報・データが安全かつ自動的に交換できること。これによりリアルタイムでの情報・データの共有が可能になる。
参考資料
相互運用性:interoperability 地理的、組織的境界によらず、多様なシステム間で情報・データが安全かつ自動的に交換できること。これによりリアルタイムでの情報・データの共有が可能になる。
(続きは次回)
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