[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第63回 「空港緊急時対応計画 (3)」  ~2024.09.02~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

 

 空港の緊急時対応計画について、米国のものを事例として考察しています。今回は、米国連邦航空局が規定している空港緊急時対応計画について、その様式、基本計画、機能別計画とハザード別計画について紹介します。

● AEPの様式

◆コンセプト

 空港緊急時対応計画 (AEP)では、その機能が十分に発揮できるように、関連する情報が体系的にかつ使いやすく整理されていることが肝要である。そのため、AEPの構築プロセスにおいては、AEPチームは、緊急事態発生時に必要となるタスクを特定して実行したり、機能を特定して回復したりする責任を個人・組織に割り当て、それら個人・組織が標準作業手順 (SOP)を周到に準備していることを確認しなければならない。
 AEPは次のコンポーネントで構成される。

  基本計画
  機能別計画
  ハザード別計画
  SOPとチェックリスト

◆基本計画

 基本計画は、空港の緊急事態対応組織とその対応方針について概要を示している。

  緊急事態対応活動に関する法的根拠の明示
  AEPに基づく緊急事態対応方針の記述
  緊急事態対応活動に関する一般的事項の記述
  緊急事態対応計画の立案と実行に関する責任の割当て

◆機能別計画

 機能別計画は、次の機能を対象とした、様々なタスクを示している。

  指揮統制
  情報伝達
  警報と警告
  緊急情報
  保護活動
  警察・セキュリティ
  消防と救急・救命
  保健・医療
  リソース管理
  空港運用とメンテナンス

◆ハザード別計画

 ハザード別計画は、各ハザードへの対応に必要な機能に関する情報を示している。これはスタンドアロン型なので、緊急事態発生時には対象となるハザードに関する計画のみを抜き出して使用すればよい。

◆SOPとチェックリスト

 SOPとチェックリストは、個人・組織がAEPで割り当てられたタスク、すなわち緊急事態に対する基本的な対応と復旧活動を実行するときの方法を示したものであり、ハザード別のものとすることが一般的である。これは、緊急事態が最悪のタイミングで発生するという最悪のシナリオを想定したものとする必要があるが、緊急事態の状況に応じて柔軟に対応できるように一般性を持たせることも重要である。

◆AEPの作成方針

 AEPは、各ハザードで全く異なったものとすることも可能であるが、次のような機能的アプローチを用いて作成することが一般的である。

  計画作業の重複を避けるため、AEPを4つのレベル(基本計画、機能別計画、ハザード別計画およびSOP)に分ける。
  すべての関連情報にアクセス可能な使いやすい方法を用いる。
  予期せぬものを含むあらゆるハザードに対応するため、各ハザードに共通する機能の回復を目的としてAEPを構築する。
  空港とその周辺地域に最大のリスクをもたらすハザードに重点を置いて、ハザード別計画を作成する。
  あらゆる空港がその規模、状況と利用可能なリソースに応じて、特定のニーズに適応できるように、AEPに柔軟性を持たせる。

● 基本計画

 基本計画は、緊急事態発生時において空港管理者や関連組織が必要とする情報を容易に参照できるようにすることを目的としている。そのため、緊急事態発生時の対応について、関連方針、対応組織、タスクの割当てを中心に記述する。その構成は次のようなものである。

◆前文

 前文には、AEPを使いやすくするために次のような項目を記述する。

  発行者
  タイトル
  発行・変更記録
  配布記録
  目次

◆目的

 AEPの目的について、基本計画、機能別計画、ハザード別計画の内容を盛り込んで、簡潔に記述する。

◆対象

 AEPの対象範囲として、リスク分析に基づくハザード情報、緊急事態対応活動に影響を及ぼす可能性のある空港の特性、AEP作成時の情報の有効性等について記述する。

◆運用

 空港の緊急事態対応活動の全体的な順序と対象範囲について詳細に記述する。具体的には、活動内容、タイミング、指揮命令者、責任といったものである。

◆対応組織と責任の割当て

 緊急事態に対応するために必要となる組織について記述する。これは責任者(役職)・組織のリストとタスクを含むが、タスクとしては機能別計画に記述するような詳細なものは必要ない。複数の組織が同じ種類のタスクを実行する場合には、一方に責任を持たせ(一次的)、他方に補助的な役割を持たせる(二次的)必要があるが、組織と責任領域のマトリックスを作成してこれが容易にわかるようにするとよい(下表)。なお、空港によっては、リソースの制約から、1人あるいは1組織が2つ以上の役割を担当せざるを得ないこともあろう。

 

 

 以下はAEPに記述すべき個人・組織の責任の例である。

  空港管理者
 - 全体的な緊急事態対応と復旧活動の実施
 - AEPの作成、公表、維持、運用
 - 空港閉鎖に関する調整とNOTAMの発行(必要時)
  航空会社・航空機運航事業者
 - 搭乗人数、燃料、危険物等、航空機関連情報の提供(必要時)
 - 負傷していない乗客の輸送、宿泊施設等の手配
 - 職員、物資、機器の利用に関する調整
  航空管制部門
 - 航空機のインシデント・アクシデントに関連する情報の航空機救難消防部門への提供
 - 緊急事態に巻き込まれる恐れのある区域からの航空機の移動に関する調整
 - 支援航空機の緊急事態発生現場への移動あるいは現場からの移動に関する調整
  空港テナント
 - 利用可能な機器と物資の活用に関する調整
 - 様々な事項に関して技術的知見を有する人材の活用の調整
  緊急事態管理組織
 - AEPに関する地域緊急時対応計画 (EOP)との調整
 - EOPにおいて空港が対応可能な支援策の検討
  AEP担当者・組織
 - 最新の職員名簿とSOPの管理
 - 緊急事態発生時のニーズの分析と通信リソースの特定
 - 追加の機器・物資の調達先の特定
 - 以下の措置による緊急事態対応活動の継続性の確保
・主要な指揮命令系統の確立
・緊急事態への対応に不可欠な記録、施設、機器の保護
・緊急事態対応スタッフの保護
  航空機救難消防部門
 - 消火および救助活動の管理・指揮
  インフラ技術部門
 - インフラ事業関連のリソースの管理と業務の指揮
 - 電力、ガス等の民間インフラサービスの停止・再開
 - 民間インフラ部門のリソースの公共インフラ部門での活用
  保健・医療部門
 - 保健・医療に関する対応活動全般の有効性と相互活用性の確保
  緊急医療サービス部門
 - 緊急医療サービスの提供
 - 緊急事態対応・復旧活動に関する病院、消防署、警察署等との調整
  病院
 - 病院の災害計画に関するAEPおよびEOPとの調整
  精神保健機関
 - 緊急事態遭遇者等への長期的なケアプログラムの提供
  赤十字
 - 被害者・家族、緊急事態対応者等へのサポート
  聖職者
 - 死傷者、遺族・家族に対する見舞・弔問
  動物のケア・管理部門
 - ペットケア専門家のAEP策定への関与と緊急事態発生時におけるサポート
 - 緊急事態に遭遇した動物のサポート
 - 航空機との衝突に巻き込まれた野生動物への対応
  警察・セキュリティ部門
 - 道路等の交通管理と警察・セキュリティ関連活動の指揮
  爆発物処理チーム
 - 爆発物処理に関する技術的サポート
  有害物質対応チーム
 - 有害物質に関する緊急事態への対応・復旧
  沿岸警備隊
 - 空港または周辺水域における救難・救助(必要時)
 - 救難・救助作業に関する他の相互援助組織との調整
  捜索・救助部門
 - 空港外での航空機に関連する緊急事態発生時の捜索・救助(必要時)
  検死官
 - 遺体の身元確認と調査活動
  連邦捜査局 (FBI)
 - 爆発物、人質、ハイジャック事件等、重大犯罪に関する調査
 - ハイジャックおよびその他の犯罪捜査に関する指揮
  軍隊
 - 利用可能な隊員、物資、機器等のAEPへの統合(軍事施設が空港または周辺にある場合)
  相互援助機関
 - 相互援助協定とSOPに基づく緊急サービスのAEPへの統合
  地域環境部局
 - 環境、有害物質等に関する緊急事態への対応・復旧の支援
  通信サービス部門
 - 民間および公共の通信サービス機関、スタッフ、機器、施設等の特定
 - 緊急事態発生時における通信サービス、機器等の修復可能性の特定
 - 緊急事態発生時における通信プロトコルの確立
  郵便局
 - 郵便物に関するセキュリティの確保、郵便資産の保護と各種サービスの回復
  広報・メディア
 - 正確な情報の収集と公表・報道
  FAA
 - 航空セクタの慣行・手順の遵守
 - 緊急事態発生時における安全性向上と規制強化に関する調査(必要時)
  行政機関
 - 空港に課す義務、監察、制約事項等の明確化
  国立気象局
 - 気象に関連する技術的サポート
 - 気象関連の緊急事態に関する警報・警告発信プロセスのサポート
  国家運輸安全委員会
 - 米国内での民間航空機関連事故の調査

◆AEPの管理およびロジスティクス

 AEPを管理する上で必要となる次の事項について記述する。

  緊急事態発生時に対応可能なサービスとサポート
  リソースの管理
  相互援助協定の締結状況
  スタッフの増強とボランティアの募集
  空港の財務記録の保持、報告および調査

◆AEPの策定と維持

 AEPを策定・維持する上で必要となる次の事項について記述する。

  全般
AEPの担当者は、AEPの方針、手順および関連情報を定期的に確認する必要がある。そのため、すべての担当者は、これらに変更がある場合には最新情報を把握できるようにトレーニングを受ける必要がある。
  確認スケジュール
AEPを確認するためのスケジュールを規定する必要がある。主要な要素に関するスケジュールは次のとおり。
 - AEPに記載されている電話番号について四半期ごとに正確性を確認する必要がある。特に、緊急時の電話担当者・組織の変更に注意する。
 - AEPに記載されている無線の周波数について毎月確認する必要がある。
 - 緊急時のリソースについて定期的に検査する必要がある。その頻度は機器や物資によって異なる。なお、これについては空港自己点検プログラムに組み込むことを検討するとよい。
 - 職務と責任に関する説明担当者については半年ごとに配置を見直す必要がある。
 - 相互援助協定について毎年あるいは規定期間ごとに見直す必要がある。
 - 空港外でのインフラ関連事業について注意を払う。空港の緊急事態対応活動に影響を及ぼす可能性のある道路事業等、主要な公共事業を把握するために、インフラ担当部門との情報交換が必要である。
  訓練と演習
AEPの維持と検証に関する重要な情報は、トレーニング、反復練習および総合演習プログラムから得られる。これらを実施する際にはフィードバックプログラムの導入が肝要であり、その結果をAEPの策定・維持プロセスに組み込む必要がある。

◆権限と参考資料

 基本計画には緊急事態発生時の対応に関する法的根拠を示す必要があることから、緊急事態に関連する法令や規制、契約を委任された権限とともに記載する。また、EOPのような参考資料を引用することにより、AEPの作成過程がわかるとともに、AEPを大部のものとする必要もなくなる。

● 機能別計画

◆構成

 機能別計画は、空港における緊急事態への対応と影響軽減のために必要となるサービスについて記述する。これはあらゆるハザードに関する緊急事態に適用できることから、それぞれがAEPの重要な要素になっている。その構成は前述の基本計画のものを踏襲したものとなっており、次の点に重点を置いて内容を詳細に記述する。

  機能に関する責任者・組織の対応
  機能の内容とその対応責任者・組織
  機能に関する責任、タスクと実行方法
  緊急事態や災害に対する効果的な対応活動
  緊急事態の発生前、発生中および発生後における方針、プロセス、役割および責任
  責任体制、指揮命令系統および連絡体制

◆対象とする機能

 空港によって、その規模、組織構成、行政機構が異なり、また緊急時支援能力も異なる。そのため、機能別計画は、リスク分析の結果とEOPに応じて策定する必要がある。したがって、すべての空港に適用可能な機能別計画を示すことはできないが、共通する次のコア機能に関しては可能である。

  指揮統制
  情報伝達
  警報と警告
  緊急情報
  保護活動
  警察・セキュリティ
  消防と救急・救命
  保健・医療
  リソース管理
  空港運用とメンテナンス

このほか、空港ごとにニーズを評価し、必要に応じて機能を追加する必要がある。

  初期段階ならびに最終的な被害査定
  捜索・救助
  インシデントの緩和と復旧
  集団ケア
  化学、生物、放射線、核および高出力爆発物に対する防護

◆コア機能の記述内容

 機能別計画は基本計画と同じ様式に従って記述する。すなわち、その内容は次のようなものである。

  目的
  状況と想定
  運用
  組織と責任の割当て
  管理とロジスティクス
  計画の策定と維持
  権限と参照先

● ハザード別計画

◆対象とするハザード

 ハザード別計画に取り込む必要のあるハザードについては、リスク分析プログラムを使用して特定する必要がある。連邦航空規則に記載されている空港緊急時対応計画では、空港管理者に対して次に示す緊急事態への対応計画と手順の作成を義務づけている。

  航空機のインシデント・アクシデント
  爆発物事件
  建物火災
  燃料供給施設や燃料貯蔵区域における火災
  自然災害
  危険物・有害物質事件
  妨害行為、ハイジャック事件等業務妨害
  航空機移動区域における照明の電源障害
  水難救助(必要時)

 空港の閉鎖と再開は空港管理者の責任であるが、インシデント・アクシデント発生直後は、空港管理者は空港運用の継続あるいは空港の閉鎖を決定できる立場にない可能性がある。この場合、空港運用の安全性を確保するには、空港管制部門と協働してガイドラインを設けた上で航空管制官に空港を閉鎖できる権限を与える手順を確立する必要があろう。なお、空港閉鎖後の運用再開は次の場合に可能となろう。

  緊急事態に関連する救助・避難活動が空港の運用再開によって影響を受けない場合
  アクシデントが空港の運用再開にハザードとならない場合

◆ハザード別計画の開発手順

 ハザードに対応した計画とその手順を開発する方法は、各空港のニーズに応じて記述する必要がある。ハザード別計画の開発手順は下図に示すとおりである。

 

 

◆ハザード別計画の内容

 ハザード別計画の内容は、各ハザードに対する必要事項に重点を置いて、機能別計画の内容と重複しないようにする必要がある。各計画では、その内容を詳細に記述するとともに、空港の機能を正常に回復するために必要となるアクションについて記述する。
 ハザード別計画には、機能別計画と同様に、必要に応じて、目的、状況と想定、運用、組織と責任の割当て、管理とロジスティクス、計画の策定と維持、権限と参照先といった項目を含める必要がある。このほか、次のような事項についても記述する必要がある。

  空港特有の事項と種々の法令・規則に関連する事項
  緊急事態対応組織の構成メンバ
  AEPチームのメンバ

 下表は、前述のコア機能に関連してハザードごとに考慮すべき事項を示している。

 

 

 

参考資料
Airport Emergency Plan, AC 150/5200-31C, FAA, 2009.

(続きは次回)

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