[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第62回 「空港緊急時対応計画 (2)」  ~2024.07.01~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

 

 空港の緊急時対応計画について、米国のものを事例として考察しています。今回は、米国連邦航空局が規定している空港緊急時対応計画について、その構成、内容、作成・更新、訓練・演習について紹介します。

● FAAによる空港緊急時対応計画作成に向けた体系的アプローチ

 米国連邦航空局 (FAA)は、緊急事態をもたらすリスク・ハザードが空港によって異なるため、すべての空港に適用できる標準的な空港緊急時対応計画 (AEP)を示すことは難しいものの、AEP作成のアプローチはすべての空港に共通するものとして体系化可能としている。このアプローチは、前回の当コラムで記したように、米国連邦緊急事態管理庁 (FEMA)が1996年に示した包括的緊急事態管理方針 (CEM)に従うものであるが、CEMの四つのフェーズ(軽減、準備、対応と復旧)のうち、第3フェーズの「対応」、すなわち初動対応と応急復旧に重点を置いたものである。

● AEPの構成

 空港および周辺地域で緊急事態が発生した場合、空港は救急消防と警察の支援をする拠点となるだけではなく、人々の避難時の集合場所になったり、緊急消防援助隊等の集合場所になったりする。そのため、空港周辺の相互支援対応組織・機関と緊密に連携して、必要となるリソースに関して十分に調整しておく必要がある。したがって、AEPには、集合場所、群衆コントロール、避難所、公衆衛生、食料・飲料水提供等に関して詳細に記述しなければならない。
 緊急事態発生時には人々と車両の両方が安全にかつ混乱することなく移動できることが肝要である。この場合、人々の生命に関わりかねなかったり、多大な物的損害をもたらしかねなかったりする事故を発生させないためには、空港のスタッフや車両ドライバに対する訓練が十分でなければならず、AEPにはその点についての記述も不可欠である。
 具体的には、AEPには次の項目について記述する必要がある。

  組織・個人への責任の割当て
  組織構成と担当範囲
  人々と財産の保護方法
  活用可能な人材、装備、機器、設備、施設、資材等のリソースの特定
  法的根拠、目標、前提条件
  応急対応と短期的な復旧方法

 このほか、AEPはそれぞれの空港のニーズに応じて追加・修正が容易にできるものとすることも重要である。

● AEP策定チームの設立

 救急消防、医療、警察、セキュリティ、危険物処理等、AEPに記載すべき専門分野は多岐にわたるため、真に有効なAEPとその実施手順を個人でまとめることは不可能である。そのため、AEPの作成・更新を担当する専門チームを設立して、チームとしてのアプローチをとることが肝要である。AEP策定チームを設立することには次のような利点がある。

  AEP に関わるすべての人々の参加とコミットメント
  より多くの専門的知識の組込み
  緊急事態発生時におけるスムーズな調整とチームワークの確保

 AEP策定チームの主要メンバーは次のようになろう。

  空港当局(管理者・スタッフ)
  航空交通管制
  航空会社
  パイロット
  空港テナント
  救急消防
  病院
  警察
  セキュリティ
  爆発物処理
  FAA
  広報・メディア、等

 AEP策定チームは対応分野別にいくつかのグループから構成されるものとし、各グループのリーダーにはリスク分析のプロセスとその結果、緊急事態発生時におけるそれぞれの役割を十分に理解し、過去に発生して今後再び発生する可能性のある災害、それへの対応の準備状況、対応方法の評価結果を確認することが求められる。

● AEP構築時の検討事項

◆既存の緊急時対応計画等のレビュー
 AEPは、その構築を一から始める必要はなく、周辺地域やその他の緊急時対応計画 (Emergency Operations Plan, EOP)と対応手順等についてまず検討する必要がある。特に、それらEOP等の適用性と有効性について、これまで実施された訓練・演習、実際の緊急事態発生時の対応に関する報告事項や反省事項に基づいて確認する必要がある。対象となる資料は、具体的には次のようなものである。

  規制、基準およびガイド
FEMA、州・地方、ICAO等の規制、基準、ガイド等
  既存の各種計画
空港セキュリティ計画、航空会社・テナント等の緊急時対応計画、地方・地域の緊急時対応計画等
  既存の相互支援協定
空港に関連する協定や地域・民間セクタとの緊急時対応協定等

◆リスクの分析
 リスク分析を実施することにより、対象となるリスク・ハザード、行動計画、リソースを容易に特定ならびに決定できるようになる。この場合、周辺地域におけるリスク分析の実施状況を確認し、AEPを作成するためにさらなるリスク分析が必要と判断される場合には、空港と周辺地域の両方のできるだけ多くの人々や組織・機関から様々な情報を収集し、分析対象・結果が特定の専門分野のみに偏ることがないようにする必要がある。
 リスクの特定、優先順位付け、シナリオの作成に引き続いて、リスクへの対応計画とそれに必要なリソースについて検討する。この場合、リスクの重大性の把握から始めて、警報・警告の発出、空港・周辺地域に対する影響の把握、災害の発生への対応に至るまでの進行を予測する必要がある。

◆リソースのデータベース化
 緊急事態への対応と復旧に利用できるリソースを事前に十分に把握しておく必要がある。リソースをデータベース化するときには、緊急事態への対応時に必要不可欠な施設・設備等とそれらが受ける影響について考慮する必要がある。
 リソースについては、空港内で利用できるものと空港外から調達しなければならないものを把握し、不足があるときには民間事業者や周辺地域のコミュニティと協定を結ぶことが必要となろう。ほとんどの場合、空港は地域コミュニティのEOPにおいて緊急事態に対応するためには不可欠な施設としてリストアップされていることから、緊急事態への対応と復旧活動のためのリソースの配分は空港に対して優先されるべきであると考えられる。地域コミュニティのEOPによって対応できないような問題については、空港はAEPにより別途対応せざるを得ない。

◆特別なリスクへの対応
 空港の特殊な地理的・地形的要因がAEPの運用に影響を及ぼす可能性もあるので、この点について注意が必要である。たとえば、空港の中でも、滑走路が1本しかない、アクセス道路が限られている、橋梁が地震で被災する可能性があるといったものや、聴覚・運動障害者等特別なサポートが必要な人々に対する規定のないものがある場合である。また、これ以外にも、次のようなリスクについて考慮する必要がある。

  航空機の水没
  航空機と建築物に係る事故の発生
  電話回線やコンピュータシステムの障害や多数の人々の空港内での孤立
  十分な訓練を受けたり経験が豊富だったりする者だけが認識できるリスクの発生

● AEPの構築プロセス

 AEP策定チームによるAEPの構築プロセスは次のとおりである。

  AEPを構成する各分野のドラフトの作成
  AEPの分野別委員会の設立、スケジュールの作成およびフォローアップ会議の計画
  上記委員会と協働したドラフトの追加・修正
  必要な図表、地図等の作成
  最終ドラフトの作成とAEP策定チーム内での調整・合意
  責任部門・組織の最終ドラフトについての同意
  最終ドラフトの空港管理者による承認ならびに公表
  AEPの印刷、すべての関係者への配布および配布記録の保管

● AEPの検証

 AEPの構築後に、関連する規制・条例や規格・標準との適合性をチェックし、AEPが想定したとおりに機能することを確認する必要がある。その方法には次の二つがある。

  AEPの見直し・更新を、周辺地域におけるEOPの更新サイクルに合わせて実施する。AEPには周辺地域のEOPの内容が取り込まれることになるため、そのレビュープロセスに参加し、提案された改善点をAEPにも活用することが肝要である。
  AEPに基づいて緊急事態に対する机上演習や現場演習を実施する。これらは、AEPが有効に機能すること、担当者に十分に理解されていることを確認するための最良の方法である。

● 訓練と演習

 AEPに記されている緊急事態対応担当者がそれぞれの役割と責任を十分に理解することが肝要である。そのため、トレーニング、反復練習そして総合演習という三種類の訓練・演習を通じてAEPについての担当者の理解を促進するとともに、理解度を確認することが肝要である。

  トレーニング(training)
担当する役割とその実施手順のパフォーマンスを改善することを目的として、知識、技能、能力等の学習と育成を促進する活動。教育訓練。
  反復練習(drill)
担当する役割を実施手順に従って正しく、確実にそして迅速に遂行できるようになることを目的として、練習を繰り返し行う活動。訓練。
  総合演習 (exercise)
緊急時対応計画が確実に機能することを確認・検証することを目的として、トレーニングを実施して、評価、練習および改善する活動。演習。

● トレーニング

◆トレーニングの目的
 緊急事態に対応する空港内外の担当者は、AEPにおける最も重要な要素である。担当者は互いの担当設備・施設等について十分に理解する必要があるが、中でも空港外の担当者がセキュリティ、走行中の航空機のリスク、通信といった空港特有の事項を理解することが重要になる。これは、夜間やその他の視界の悪い時間帯にはきわめて重要な点である。
 空港内外の施設、設備、車両等を適切に使用して緊急事態に機能的に対応するためには、担当者に対する十分なトレーニングが不可欠である。次の事項がその対象になる。

  AEPが対象とする施設、設備、車両等に関する空港スタッフの知識
  AEPが対象とする施設、設備、車両等に関する救急消防、医療、警察等の緊急事態対応組織・機関のスタッフの知識

◆トレーニングの種類
 トレーニングには、初期トレーニングと専門的トレーニングの2種類がある。前者は、すべての空港スタッフを対象にした、主として標準作業手順 (Standard Operating Procedures, SOP)に重点を置いたものであり、後者は、スタッフそれぞれの役割に応じて必要となる専門的なものである。空港によっては、人的リソースの不足からスタッフが担当外のものに割り当てられたり、時間の経過により知識の劣化や技術の低下も想定されたりすることもあるので、トレーニングを定期的に繰り返して行う必要がある。

◆初期トレーニング
 初期トレーニングは、すべての空港スタッフが次の事項を確実に理解できるようになることを目的として実施する。

  SOP
通常時、異常時、緊急時の役割に関するSOPについて理解する。
  施設配置
空港の施設について理解する。映像資料や現地ツアーでは、通常時・緊急時の出入口、通信機器、その他の施設の安全対策に重点を置く必要がある。
  通信機器
空港内外の組織・機関と連絡をとるために必要となる通信機器の設置場所、プロトコル、使用方法等に加え、緊急時に優先して発信すべき重要情報について理解する。
  緊急用機器
担当する役割に関連する緊急用機器の設置場所と使用方法について理解する。緊急用機器の紛失、盗難、破損があれば直ちに報告を行い、必要に応じて、一時的に交換する措置を採る。

◆専門的トレーニング
 専門的トレーニングは、緊急事態対応担当者がそれぞれに割り当てられた役割を確実にこなせるようになることを目的として実施する。専門的トレーニングは定期的に繰り返して実施する必要があるが、このような反復トレーニングはトレーニングの成果を確認するだけでなく、追加トレーニングの必要性を判断するためにも重要である。

 専門的トレーニングの対象となる事項は次のようなものである。

  緊急事態発生時に障害者や高齢者を支援する手順
  緊急事態発生時の各担当者のSOP
  緊急事態発生時の各担当者の責任
 担当者別の専門的トレーニングは次のようなものである。

  航空交通管制担当者
緊急事態に対する最初の対応を求められることが多いため、次のような事項に関するトレーニングが必要である。
- 空港の施設・設備等の状況の把握
- 航空機、電力、通信システム等の機能、制約・故障の有無等の把握
- 救急消防、警察等、初動対応者に対する現場への誘導
- 航空機および救急消防部局に対する個別緊急周波数の割当て
  救急措置担当者
次のような外傷や症状を有する乗客、来訪者、スタッフ等に対する救急医療措置に関するトレーニングが必要である。
- 出血、打撲、けが
- 頭と背中の損傷
- 心肺停止
- 呼吸閉塞とけいれん
  空港の運用、メンテナンス、セキュリティの各担当者
緊急事態発生時における空港の運用、メンテナンス、セキュリティ関連の緊急事態への対応に関するトレーニングが必要である。
  群集コントロール担当者
緊急事態発生時における群衆のコントロールとパニックの防止に関するトレーニングが必要である。

◆反復トレーニング
 最新事項への対応を含め、特に、次の事項に関してトレーニングを繰り返し行うことが肝要である。

  担当者の緊急事態対応プロセスと設備・装備等の変更に関する理解
  担当者のパフォーマンスの向上
  担当者のスキルの維持・向上

◆トレーニングの方法と設備
 トレーニングの方法に関するマニュアルを作成する必要がある。これは、机上トレーニングと現場トレーニングの両方が対象になるが、いずれも、トレーニングを定期的に実施することにより、担当者が空港の運用ルール、担当する役割、SOPを確実にかつ容易に理解できるようになるために必要である。

 ◇机上トレーニング

  規則、SOPおよび緊急事態対応手順の理解
机上トレーニングでは、規則、SOPと緊急事態対応手順を十分に理解する必要がある。その理解度に関しては試験を行って確認する必要がある。
  視聴覚プログラムの利用
AV (Audio Visual)機器を用いた視聴覚プログラムを利用することによってAEPについての理解が容易になる。この場合、モックアップと組み合わせることにより机上トレーニングの効果を大幅に高めることができる。また、判断力強化を目的とした意思決定訓練といった、コンピュータベースのプログラムも有効であろう。

 ◇現場トレーニング
 現場トレーニングには、OJT、現場見学、デモンストレーション、対面トレーニングといったものがある。

◆空港外の緊急事態対応組織・機関のスタッフに対するトレーニング
 空港の緊急事態に対して空港内外で連携して機能的に対応するためには、周辺地域の救急消防、医療機関、警察、緊急事態管理機関、メディア、その他の空港外の緊急事態対応組織・機関に対して、緊急事態対応手順に関するトレーニングを提供する必要がある。このトレーニングには次の項目を含む必要がある。

  AEP、空港の施設・設備等の説明と通常および緊急時の運用手順の説明
  空港の施設配置と形状を理解してもらうための現地ツアー。この場合、セキュリティやアクセス管理、通信プロトコル、航空機関連リスク等、空港の運用状況に重点を置く。
  空港におけるあらゆるレベルのトレーニングと総合演習への参加
  就航航空機についての十分な理解。これには、高リスクのハザード箇所、航空機乗員関連事項、緊急停止手順等を含む。

● 反復練習と総合演習

◆反復練習と総合演習の目的
 AEPは、空港および周辺地域における消防、医療、警察といった組織・機関が空港の緊急事態発生時に協働できるようにする枠組みである。これらの組織・機関が様々な種類の空港緊急事態を想定した個別トレーニングと反復練習を実施し、さらにはそれらを組み合わせた形で総合演習を実施することで、次の事項が達成可能になろう。

  緊急事態の内容と発生場所に応じたAEPの構築
  効果的な緊急事態対応方法の迅速な構築
  AEPの有効性の確認と修正
  緊急事態対応担当者のAEPに対する信頼度の向上と施設やリソース等についての理解度の向上

◆反復練習・総合演習の種類
 FEMAは、総合演習を「緊急事態への備えを促進し、緊急事態への対応に係わる方針、計画、手順、施設を検証し、緊急事態対応担当者を訓練し、対応能力を実証するために計画された活動」と定義し、5種類の要素を示している。それら要素のそれぞれが一つ前の要素に基づいて構築されているため、順番に実施する必要がある。

  オリエンテーション
オリエンテーションでは、緊急事態対応担当者や空港、救急消防、警察、航空会社、空港テナント、メディアといった組織・機関のスタッフが集まって、AEPと訓練・演習の計画について認識する必要がある。このときには、担当者全員の役割、手順、責任等についても理解する必要がある。
  反復練習
反復練習は、最も低いレベルでのAEPの検証に相当するものであり、1種類の緊急事態への対応手順に関するスキルを検証し、スキルのレベルを維持あるいは必要に応じて向上させるために実施する。たとえば、担当者や組織・機関への通報の確実性を検証することを目的として、緊急時通報プロセスに焦点を当てたものが考えられる。このような反復練習はトレーニングの一部と考えられる。
  机上総合演習
机上総合演習は、上記の反復練習よりも高いレベルでの検証に相当するものであり、トレーニングを施し、計画と手順を評価することに加え、時間的制約のない状況におけるシミュレーションを行うことにより、緊急事態対応担当者の責任の分担を明確にするために実施する。この机上総合演習は、機器を使用せずにディスカッション形式で行い、参加者からのフィードバックによりAEPの方針、計画、手順を検証し、必要があればAEPを修正する。
  機能的総合演習
機能的総合演習は、最高レベルの検証に相当するが、緊急事態の対応に関わる空港内外のスタッフの動員や施設・設備等の稼働といったものは含まれない。機能的総合演習では、時間的制約がある中で特定の機能に関する参加者の能力を検証するという、空港と外部の緊急事態対応組織・機関の緊急事態への対応状況を検証できる。
  統合演習
本格的な総合演習、すなわち統合演習は、包括的な検証に相当するものであり、実際に緊急事態対応担当者を動員し、施設・設備等を稼働させ、かつ時間的制約のある状況下における緊急事態対応システムの運用能力を実証するために行う。この統合演習では、あらゆるリソースを使用し、実際の緊急事態を模した状況を設定することが必須のものとなる。なお、パート139クラスI認証空港では少なくとも36箇月ごとにこれを行うことが義務づけられている。

◆総合演習プログラムの構築
 総合演習プログラムについては次のステップにより構築する。

 ◇対象とする事項と範囲の特定
 最初のステップは、緊急事態対応プログラム中で実施が特に難しい部分を特定することである。これについてはリスク分析を実施することにより判断できよう。反復練習と総合演習は、リスクが最も高いハザードに関して優先的に実施する必要がある。対象が複雑な場合には、小規模なトレーニングから始めて、その後に机上総合演習を行うようにすることが最善であろう。
 総合演習の対象範囲については、次の5つの要素に基づいて決定する必要がある。

  検証すべき空港内外の対応や手順の内容
  関係する組織・機関
  緊急事態の再現精度
  対象とするリスク・ハザードとその優先度
  問題発生の可能性がある場所

 ◇目的と目標の確定
 訓練・演習の実施を公表するときには、日付と場所に加え、その目的を明確かつ簡潔に示す必要がある。なお、予告なく実施する場合には公表内容を簡略化する。
 目標の確定は、多額の費用と膨大な準備作業を必要とする総合演習を実施する上での最も重要なステップの一つである。この中で、演習の必要性、対象事項・範囲ならびに目的についても十分に検討する必要がある。
 総合演習は、混乱やフラストレーションを避けるため、回数を限定して、集中して実施すべきであり、現実的かつ具体的であると同時に、結果を重視した定量化可能なものとする必要がある。たとえば、通信に係わる反復練習の場合、「開始から2分以内にすべての対象組織・機関への通報を完了する」といったものが考えられよう。

 ◇シナリオの作成
 総合演習の種類と目標を確定したら、次にそのシナリオを作成する必要がある。シナリオの内容は総合演習の種類によって異なり、たとえば、通信に係わる机上総合演習の場合は、通報能力に制約があったり、危険物資を輸送したりといった条件を付加することにより、上記の単なる反復練習よりも複雑なものとする必要がある。シナリオの作成は通常空港スタッフが担当すればよいが、空港単独での対応が不可能な大規模自然災害等を対象とする場合等、空港外の専門家によるサポートが必要になることもあろう。

 ◇課題の要約
 総合演習の種類によっては、一連の主要なイベントのリストと詳細事項のまとめに加え、課題内容の要約の作成が必要となる。主要なイベントのリストでは、総合演習の開始から終了までに対応が必要となるイベントがリストアップされており、詳細事項のまとめでは主要なイベントに関するものが記述されている。課題内容の要約は、参加者に十分な情報を提供して、参加者が適切に対応できるようにすることを目的としており、主に反復練習や机上総合訓練で使用される。

 ◇評価の実施
 総合演習の結果の評価は、適切な評価チームに参加者も加わって実施する必要がある。評価チームは次のような活動を行う。

  シナリオ作成と演習への参加
  専門分野において十分な知見を有するメンバーによる結果の評価
  演習評価書(評価シート)の作成

 評価チームは、演習終了直後に評価報告会を開催し、後日詳細な報告書を作成する必要がある。評価報告会では、演習参加者に結果を報告し、演習における達成事項およびその改善必要事項について討議する。報告書は、評価チームや参加者による観察事項と推奨事項に基づいた書面によるものである。

 ◇リスクの管理
 総合演習は、それ自体が事故を引き起こす可能性があるので、その管理を慎重に行うことが肝要である。この場合、次のようなリスクが考えられる。

  航空機走行区域へのアクセス
総合演習については、ほとんどの場合、空港が通常どおりに運用されている状況下で実施する。この場合、参加者の多くは航空機の走行に不慣れなため、意図せず航空機の走行妨害をしてしまう可能性がある。その予防措置には次のようなものがある。
- 空港内への立入りの制限
- 演習実施場所への航空機の侵入を防止するためのバリケードの設置
- 空港スタッフの車両乗入れのためのチェックポイントの設定
- 現場までの走行ルートについての周知徹底
- 人・車両と航空機を分離できる交通制御システムの導入
- 人・車両の動きをモニタするセキュリティ担当スタッフの配置
  模擬被災者
模擬被災者には、緊急事態発生時における行動をなぞることができるように適切に指示をする必要がある。この場合、救急消防や医療関係者からの指示が必要となることもあろう。トラックや救急車が衝突したり、人と接触したり、また人と車両等の接触により模擬被災者が担架から落ちる等、実際の被災者と模擬被災者を区別することが難しい状況となることもあるので、注意が必要である。なお、模擬被災者を含め、演習参加者が負傷する可能性があるため、すべての責任問題に対して対応を事前に準備しておくことが重要である。

 ◇広報・メディアへの通知
 空港の緊急事態は、訓練・演習であったとしても非常に目立ち、一般の人々の大きな関心を集める。そのため、周辺地域のコミュニティに対して総合演習を予定していることや実施中であることを事前に周知する必要がある。また、ターミナルビル内では演習実施中に定期的にアナウンスを行うことが望ましい。
 地元メディアに対しては総合演習への参加を呼びかける必要がある。これは、メディアにとっては総合演習がAEPに関する情報を収集するための絶好の機会となるからである。

◆AEPの修正
 総合演習の主な目的の一つは、緊急事態対応プログラムにおける改善が必要な事項を明らかにすることである。すべての評価報告を確認した後、計画と手順の見直し、トレーニング・再トレーニング、反復練習および総合演習の刷新といった形でAEPを修正することが不可欠である。

● AEPの維持・更新

 空港の状況が変化したり、新たな課題が出現したり、AEPと実際との間のギャップが明らかになったり、行政からの要求事項が変更されたりといった場合に対して、AEPが有効かつアップデートされたものとなっているように維持・更新する必要がある。
 AEPを維持・更新するためのプロセスは次のとおり。

  現状のAEPにある問題点の特定、解明および修正
  演習や被災後の報告書からのAEPの問題点の抽出
  上記の問題点に関する是正措置の検討
  組織・機関やスタッフ用のSOPの作成
  役割の実施に役立つ詳細事項の記載
  少なくとも毎年1回のAEPの維持・更新作業の実施

 

参考資料
Airport Emergency Plan, AC 150/5200-31C, FAA, 2009.
Guide for All-Hazard Emergency Operations Planning, State and Local Guide (SLG) 101, FEMA, 1996.

(続きは次回)

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