[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第6回 「滑走路の安全性(その2)」  ~2015.3.2~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

滑走路・誘導路の計画と設計

 空港インフラ計画の重要なコンセプトは、空港の容量を十分にし、安全性に悪影響を及ぼすことなく、運用効率の最適化を図ることです。また、空港インフラ設計における重要な因子は、従来安心・安全の問題に係るものでしたが、徐々に運用効率と環境保護がそれらと同等レベルのものになってきています。計画・設計のいずれにおいても、ICAO、国、地域等による規制を遵守しなければならないのは当然ですが、土地利用計画、横風、騒音、環境、経済性といったものによる制約を考慮しなければなりません。
 滑走路の安全性を向上させるための、滑走路、誘導路等の空港インフラの計画・設計に係る事項として、空港マスタープラン、インフラの新設設計、既設インフラの計画・再設計、誘導路名称に関する規則、ストップバー、視覚補助施設、滑走路端安全区域について、次のように具体的に記述しています。

空港マスタープラン

 空港のマスタープランにおいては以下の事項を明確にすべきである。

  • 空港および周辺の土地利用の将来計画
  • 開発スケジュール
  • 財務計画
  • 技術的、手続的な計画の正当化
  • 国、地域といった様々なレベルでの規則を満足する実施計画

 マスタープランでは、短期(1~5年)、中期(6~10年)、長期(10~20年)における整備目標を示し、それらの内容について毎年見直して必要に応じて修正し、5年ごとに全面的に評価、修正すべきである。
 マスタープランにおいては、次のような事項を具体化すべきである。

  • 安全性を主要な項目とする。すなわち、空港整備に関わる安全性評価の要件を明確化する。
  • 将来の交通レベル、旅客数、貨物量、サービスレベルの維持・改善等を考慮する。
  • 空港の必要性ならび予想される将来のイベントに応じた、タイムスケールを明らかにする。
  • 状況の変化に対応できる柔軟性を有する。
  • インフラ整備を整然かつ協調して進行できる。

インフラの新設設計

 滑走路・誘導路の新設設計における主要な目標は、航空機運用の効率性、安全性の確保である。そのためには、滑走路立入(incursion)の危険性をなくすことが不可欠であり、立入防止対策について十分に考慮しなければならない。
 立入防止対策における重要な注意事項は次のとおりである。

  • 交差したり集中したりするように滑走路を配置することは、誘導路の形状を複雑化し、航空機の地上走行に制約を与えることとなるので、避けるべきである。
  • 2本の滑走路を小間隔で設けるクロスパラレル滑走路は、空港容量の劇的な増加とはならないことから、採用すべきではない。空港用地の制約上採用せざるを得ない場合には、迂回誘導路やストップバーのような滑走路立入危険性の低減対策を採るべきである。
  • 誘導路は、航空機が滑走路とエプロンへの移動走行に極力影響を及ぼさないで円滑に走行できるように配置すべきである。
  • 滑走路への取付誘導路は、離陸航空機専用とし、滑走路に直角に配置すべきである。
  • 脱出誘導路は、航空機が滑走路から出たあとに滑走路と前方誘導路の両方に影響を与えない位置で停止するために必要となる直線部分を有すべきである。
  • 高速脱出誘導路は、他の滑走路を横断することがないように配置すべきである。
  • 複雑な形状を有する誘導路、例えば、複数の誘導路が交差するもの、Y字型のもの、高速脱出誘導路に接続するもの、V字型滑走路に接続するもの、は避けるべきである。

既設インフラの計画と再設計

 滑走路への航空機立入の危険性を軽減するために、また空港容量を拡大するために、既設インフラの改良が必要となる場合がある。
 ACIの見通しでは航空旅客数は今後20年間で2倍以上に増加するとなっており、空港もこの需要増に対応する必要がある。多くの空港では用地拡張が難しいという現状であるが、航空機の横風時における性能向上に着目して、横風用滑走路を閉鎖して誘導路やエプロンにしている事例もある。
 滑走路との離隔が十分ではない平行誘導路にあっては、滑走路立入防止対策を講ずることが必要である。対策の一つとして、滑走路を横切らないように迂回して平行誘導路を配置することが挙げられる。この場合、走行する航空機が滑走路制限表面にかからないようにすることが肝要であるが、空港用地の制約上これが難しいときには、滑走路停止位置マーキング、指示サイン、ストップバーを設置して誘導路の走行を規制すべきである。

誘導路名称に関する規則

 誘導路名称の付与方法については、次のような単純かつ論理的な方法が必要である。

  • 誘導路の名称は、空港の一方の端から始めて他の端まで続ける(東から西まであるいは北から南まで)。
  • 数字との誤認を避けるために、I、OおよびZの英字の使用を避け、Xについても施設閉鎖と誤解される恐れがあることから使用を避ける。
  • 誘導路名称の重複使用を避ける。
  • 滑走路を横断する誘導路には、滑走路の左右で異なった名称を付与する。なお、交通量の多い場合には滑走路の両側で同じ名称を使用することをFAAが勧告している。
 滑走路に接続する誘導路の名称は、英字と数字を組み合わせたもので、数字は滑走路の一方の端を開始点として1から連続して付与すべきことをACIは勧告している。滑走路と接続しない誘導路には英字1文字とすればよい。

ストップバー

 「Never cross RED(赤色を越えない)」という原則もあり、ストップバーは、航空機・車両による滑走路立入を防止するための最も重要な対策となっている。ストップバーについては、ICAOは視界不良時の空港運用対策として設けることを勧告しているが、ACIは交通量、視界の状況を考慮の上、滑走路新設時にはすべての滑走路停止位置に設けることを勧告している。
 気象条件によらず常時作動しているストップバーは、効果的な滑走路立入防止対策として、航空機パイロットと車両ドライバーに非常に大きな安全上の利益をもたらしている。

視覚援助施設

 ● マーキング
 滑走路の立入防止を図るための最善かつ最も簡単な方法は、すべての滑走路進入地点に滑走路停止位置マーキングを設けることである。図には一連のマーキングを示している。

6-zu1
  • パターンA滑走路停止位置マーキング:誘導路上に黄色により塗装した2本の直線と2本の破線であり、滑走路停止位置サインと同じ位置に設ける。
  • パターンB滑走路停止位置マーキング:誘導路上に黄色により塗装した水平梯子状のものであり、ILS制限区域を示すために設ける。赤地に白色文字によるILSのカテゴリーを示すサインをこれに隣接して設ける。
  • 強調誘導路中心線マーキング:誘導路中心線の両側に黄色により塗装した破線であり、滑走路停止位置マーキングから最長45mの長さで設ける。
  • 指示マーキング(滑走路名称):赤地に白色文字により滑走路名称を示したものであり、滑走路と誘導路の交差点手前の誘導路中心線の両側に設ける。

 ● サイン
 すべてのサインは、それぞれのサインの機能を明確に表す色により塗装する必要がある。具体的には、指示サインには赤と白を、案内サインには黄と黒を使用しているが、これは他の交通輸送システムにおける色に関する規則を踏襲している。サインとしては次の4種類がある。

    6-zu2
  • 指示サイン(滑走路停止位置):航空機・車両が許可なしで立入できない位置を赤地に白の文字にて表示している。滑走路・誘導路交差点、滑走路・滑走路交差点における滑走路停止位置に設ける。
    6-zu3
  • 位置サイン:現在位置する誘導路を黒地に黄色の文字にて表示している(視認性を高めるために黄色の境界線を付加する)。単独または方向サイン、滑走路停止位置サインとともに誘導路側方に設置する。
    6-zu4
  • 方向サイン:誘導路が交差する地点でそれぞれの誘導路の名称と方向を黄色地に黒の文字にて表示している。位置サインとともに交差点の手前に設置する。
    6-zu5
  • 行先サイン:旅客ターミナル等、特定の目的地点への方向を、黄色地に黒の文字・矢印にて表示している。

 ● 地上照明施設
 滑走路運用に関する照明施設はICAO規準に適合するものでなければならない。
 滑走路への立入防止の強化策として、ACIは先進型地上走行誘導管制システム(A-SMGCS、 Advanced Surface Movement Guidance and Control Systems)* を検討することを勧告している。A-SMGCSに基づくストップバーの設置とその24時間作動はより経済的かつ効果的な対策となろう。

滑走路端安全区域

 滑走路端安全区域(RESA、 Runway End Safety Areas)は、航空機が滑走路をオーバーランまたはアンダーシュートした場合に、航空機の損害の危険性を最小にする目的で設置する滑走路両端部の区域である。RESAは、コード番号が3、4の滑走路(長さ1、200m以上)とコード番号1、2の計器着陸用滑走路(長さ1、200m未満)で必要である。
 RESAの最小の長さ(縦断方向)は、コード3、4の滑走路、コード1、2の計器着陸用滑走路の着陸帯の末端から90mである。幅(横断方向)は、滑走路中心線の延長線の左右対称で、最小でも滑走路幅員の2倍、通常着陸帯と同一幅とすべきである。
 滑走路を新設する場合には、以下のとおり、縦断方向により長いRESAを整備することをICAOは勧告している。

  • コード3、4の滑走路の場合は着陸帯末端から240m
  • コード1、2の計器着陸用滑走路の場合は着陸帯末端から120m

 RESAとしての十分な長さが確保できない場合は、アレスティングシステム(航空機拘束システム)を代替策として設置することも可能である。

 

注)
 *先進型地上走行誘導管制システム:空港面監視レーダーなどと視覚援助施設を連接して航空機の地上走行を誘導・管制するシステム。視程条件、交通密度、空港の形状の複雑さにかかわるすべての環境下で空港内の航空機と車両を安全で秩序正しく、かつ効率的な移動を支援することを目的としている。

(続きは次回)

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