八谷 好高 客員研究員(SCOPE)
今後回復から増加が期待される航空需要に対応するために必要となる空港のあり方、すなわち、サステナブルエアポートの実現方策について考察を進めています。サステナビリティを中核に据えたコロナ禍からの空港の回復方策の事例として、今回はコロンビア・ボゴダエルドラド空港を紹介します。
コロンビア・ボゴダ市にある共用空港。長さ3,800mの2本の滑走路を有し、旅客数は33百万人、貨物取扱量は71万トンである(2018年)。Opain SAがコンセッショナとして運営している。
コロンビア・ボゴダエルドラド国際空港 (BOG)は、国、地方自治体および周辺地域のコミュニティと協働して、旅客ターミナルビルをバイオセーフティプロトコル*1 要件に適応したものとしている。
COVID-19に対しては、特に、対応の柔軟性、状況の正確な分析、恒久的なアップグレード、技術ツールの使用、アイデアの創成等が必要であった。この新しい現実に直面して、技術革新を加速し、対応と改善を図った結果として、検査・診断サービス会社であるSYNLAB社と提携してCOVID-19の検査施設を設置するに至った。
気候変動に関しては、優先順位付けと長期継続性に焦点を当てた方策(アクション)を策定して、CO2排出量の削減に取り組んでいる。コロナパンデミックの段階では、真に必要なものだけに限定して、エネルギ消費量を可能な限り削減した。また、照明システムの更新プロジェクトを開始し、従来型の高圧ナトリウム灯、メタルハライド灯、蛍光灯といったものをLED照明に交換した。2020年までに交換した照明の総数は1万4千個に上り、月45万kWhほどの省エネにつながった。
今後も、イノベーションを継続することにより、旅客によりよいサービス、体験、テクノロジを提供し、コネクティビティ、サステナビリティ、バイオセキュリティに関するベンチマークとしての地位を保持できるとしている。
図のようなマテリアリティマトリックス*2 を、利害関係者との関係を強化するために利用した。これにより、空港を継続して運営していく上でのリスク、インパクトそしてチャンスを管理できるようになった。2020年には、この分析に基づいて目標と実施計画を設定した。
◆社会的インパクト
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周辺地域のコミュニティとの間によりよい相互関係を構築する取組みを実施した。これは空港周辺の15地区で実施した。 |
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食料品、マスク、コンピュータを青少年に贈るとともに、クリスマスプレゼントを地域コミュニティに贈った。 |
・ | 英語等に関する研修を受講するために必要な奨学金を500件地域コミュニティに提供した。 |
・ | 空港周辺の13地区で消毒作業を実施した。 |
◆スマートインフラとテクノロジ・情報・イノベーションの活用
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赤外線カメラ、セルフチェックインシステム、自動セキュリティチェックシステムおよび乗客の戻り防止ドアを設置した。 |
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他者との接触回避を目的として、バゲージドロップシステムを20箇所に設置するとともに、セルフチェックイン機のリモート管理を実施するといったデジタルエコシステムを強化した。 |
◆セルフケア
・ | セルフケア(自己管理)、他者への気遣い、予防といった文化を醸成した。 |
・ | 多様なトレーニングをスタッフに提供した。 |
◆効率的な運営
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水管理、電気ネットワークと照明システムの改善、駐機スペースの拡張等、空港の様々なシステムの改善に重点を置いたプロジェクトを実施した。これらインフラを最適化するために26億ペソ(8千万円)以上を投資した。 |
◆ミチゲーションと適応
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科学的根拠に基づく目標*3 の考え方を用いて、2015年パリ協定の目標達成に貢献できるように、温室効果ガス(GHG)排出量削減の目的・目標を明確化した。 |
・ | CO2排出量を2025年までに18%、2028年までに48%削減することを目標として設定した。 |
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GHG排出量については、GHGプロトコル*4 手法とACIが開発したツール(Airport Carbon and Emissions Reporting Tool, ACERT)を適用してモニタした。 |
◆エネルギ
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照明システムを改造して、1万4千個の高圧ナトリウム灯、メタルハライド灯および蛍光灯をLED照明に交換した。これにより大幅な省エネ、資源保全、生活環境の保全および視覚的な快適さの向上を図った。 |
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既存建築物については環境に配慮した運用とメンテナンスを実施した。以下のような点について1年間継続した審査を受けた結果、環境配慮建築物認証制度であるLEED*5 の最上位レベル(プラチナ)として認定された。 - エネルギ効率 - 水消費の効率性 - 廃棄物管理 - 室内環境と旅客・スタッフの体験 - 都市・交通システムとのコネクティビティとイノベーション |
◆効率的なリソース管理
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コロナパンデミックにより空港が閉鎖されたために、2020年の廃棄物発生量は2019年の4.9千トンから1.9千トンにまで、すなわち約4割にまで減少した。また、発生した廃棄物量の56%を回収したが、これは国としての目標(2030年まで30%減少)を上回ることになった。 |
・ | 2017年以来8.5千トンの廃棄物を再利用した。 |
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2021年までに廃棄物の65%を再利用することを目標として設定した。これは、今後材料取扱業者や処理業者と協力して空港としての循環型経済を強化することで、さらに高くできよう。 |
◆廃水の質・管理と水源・水域の保護・保全
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空港から排出される廃水は2020年時点ですべて処理されている(53万m3)。処理後の水質は、環境当局によって設けられた物理的、化学的、微生物学的、その他の規制に適合したものとなっている。 |
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貨物ターミナルビル、管理棟等の140箇所の蛇口を、安定的な給水が可能で、節水効率のよいものに変更した。 |
◆廃棄物の発生量・処分量の削減と使い捨て資材の削減
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廃棄物の適正分別化とカラーコードの使用を促進するために、空港スタッフ4千人を対象として、90回ほどのトレーニング(ウエブと対面)を実施した。 |
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ポリ袋の有償化やマイボトル給水等、使い捨て材料の使用量を削減するためのイニシアチブを含む、廃棄物ゼロシステムを構築した。 |
◆廃棄物の再利用に関する利害関係者との協働
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廃棄物の適切な管理を促進するために関係団体が実施するポストコンシューマプログラムに参加し、天然資源の保全と管理の両方を取り込んだビジネスモデルを構築した。 |
・ | 空港運営により発生する廃棄物の再利用率を2025年までに70%に増加する。 |
◆生物多様性にとって重要な生態系の特定および野生生物の保護・保全のイニシアチブ
・ | 空港にとって重要な水環境資源であるボゴタ川を含む空港周辺の湿地の連続性を確保した。 |
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エルドラド空港環境管理計画に基づいて、鳥類管理プログラムを策定した。これにより、鳥類等野生生物の標本捕獲や狩猟を防止でき、また視覚・聴覚を利用する野生生物排除方法を用いることにより、危害を加えずに野生生物を追い払うことができる。 |
◆生物多様性保全のための利害関係者との協働
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野生生物の違法取引を防止するための広報ならびに意識向上方策として、中南米における野生生物の違法取引に関するビデオを研修コースにおいて使用した。 |
◆路線数の増加
・ | 2つの国際路線と1つの国内路線を新たに開拓した。 |
◆ビジネスモデルの再構築
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空港再開後の旅客のニーズを満たすことができるようにすべての準備を整えた。たとえば、テナント等に対する救済措置として、店舗使用料が通期で旅客数に応じて変わるような契約方式を一時中止し、空港再開後の旅客数を対象とする契約方式に移行した。これにより、契約を解除したテナント数は4件に止まった。 |
◆サプライヤ選定、サプライチェーンにおけるリスク管理
・ | 322社のサプライヤのうち63社について評価を見直した。 |
・ | 商品やサービスについて、Kraljicマトリックスを使用して調達戦略を決定した。 |
・ | サプライヤとの協働により長期的に安定した調達の仕組みを新たに構築した。 |
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サプライヤを適切に選定することにより事業の継続性が確保可能となり、長期目標に従った空港運営が可能となった。また、サプライヤならびに調達プロセスを管理するために、戦略的調達ツールを導入した。 |
空港運用に関するベストプラクティスとガバナンスコードを組み込んだガバナンスモデルを導入するとともに、GRIスタンダード*7 に従って情報を公開している。また、取締役会には、その機能を適切に発揮できるように、監査・財務・リスク、サステナビリティ・コーポレートガバナンス、人事・報酬、調達・販売という4つの補助委員会を設けている。
(注)
*1バイオテクノロジに起因する遺伝子組換え生物によってもたらされる潜在的なリスクから生物多様性を保護することを目的として制定された規格。
*2 重要性マトリックス。Peter Kraljicにより1983年により提唱された、サプライヤをリスクと収益性という2つの点に基づいて分類する手法。
*3 Science Based Targets。GHG排出量を削減するための明確に定義された目標。企業・組織等が設定する目標が、最新気候学によりパリ協定の目標(地球温暖化を産業革命前から2℃より十分に低く、1.5℃に制限)達成に貢献するとみなされる場合にのみ、「科学的根拠に基づく目標」となる。
*4 企業・組織からのGHG排出量ならびにGHG排出量緩和方策の効果を計測・管理するための包括的な標準化フレームワーク。
*5 Leadership in Energy and Environment Design(エネルギと環境設計におけるリーダーシップ)。米国グリーンビルディング協会 (US Green Building Council: USGBC)が開発した環境評価システムであり、建築物の運用、敷地利用、省エネ効果を評価対象としている。当コラム第45回参照。
*6 Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字。
*7 持続可能性の概念を可視化した指標。GRI (Global Reporting Initiative)により策定された。当コラム第41回参照。
参考資料
Sustainable Recovery Case Studies, Airports Council International, 2021.
https://ghgprotocol.org/
https://sciencebasedtargets.org/how-it-works
https://store.aci.aero/form/acert/
https://www.forbes.com/sites/jwebb/2017/02/28/what-is-the-kraljic-matrix/?sh=7ba51443675f
https://www.niid.go.jp/niid/images/biosafe/kanrikitei3/Kanrikitei3_20200401.pdf
https://www.usgbc.org/leed
(続きは次回)