[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第53回 「サステナブルエアポート (14)」  ~2022.12.26~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

  

 今後回復から増加が期待される航空需要に対応するために必要となる空港のあり方、すなわち、サステナブルエアポートの実現方策について考察を進めています。前々回からSAGAのデータベースに最近追加された事例について紹介していますが、今回はその最終回としてエネルギ・気候と社会的責任を対象にしたものについてまとめます。

● エネルギ・気候

◆No.8:運用・メンテナンスおよび投資計画の確立

 老朽化した公共インフラは、多くの場合、補修しながら、ときには更新や拡張することによって、適切に運用していく必要がある。インフラの運用ならびにその補修・更新・拡張に必要な資金を調達するためには、インフラ投資計画 (Capital Investment Plan,CIP)の策定が不可欠である。CIPは、インフラの新設と補修・更新の両方に対応でき、また計画の進行状況を管理するための方針とインフラ管理者の財務能力を明らかにできるものでなければならない。CIPを確立して限られたリソースを優先度の高い個別インフラに振り向けてその機能を長期的に維持することにより、インフラ全体としての持続可能性を実現できよう。したがって、CIPは現在と将来にわたるインフラの持続可能性を実現するための戦略的な方法、すなわち、優先順位を設定して個別インフラ、ひいてはインフラ全体を改善するための体系的な計画立案を可能にする方法と言える。
 CIPに基づいて確立されたインフラ改善プロジェクトを実行することにより、エネルギの節約、利用者の快適性・健康・安全性の向上、貴重な環境リソースの保全が可能となろう。特に、空港を対象としたインフラ改善プロジェクトでは、空港機能を維持するだけでなく、航空会社、貨物運送事業者、旅客等からの現時点のみならず将来における種々の要求事項に対応できるものでなければならない。

サンディエゴ国際空港の事例

 サンディエゴ郡地域空港局 (SDCRAA)は、今後20年間のCIPと予算計画を立案するために、270haの広さを有するサンディエゴ国際空港 (SAN)のインフラに関して、その持続可能性実現に必要となるアクションの策定を開始した。具体的には、SANのマスタプラン、予算計画、インフラ整備そして日常業務に関する投資を相互に結び付ける持続可能なインフラマネジメント戦略の策定である。
 最初のステップでは、インフラ責任者、部門リーダ、運用スタッフから成る計画チームを立ち上げて、種々のインフラにおけるニーズをリストアップして、関連するコストを算定した。このチームのメンバは、空港のインフラやシステム、そしてそれらのニーズについて専門的知見を有するスタッフの中から選定された。空港全体でみた場合の個別インフラのニーズの妥当性ならびにリダンダンシ(冗長性)を判断するために、部門横断的会議が追加で開催された。
 その結果、個々のインフラにおけるニーズを評価して、改善プロジェクトに優先順位を付けるための基準が作成できた。それに基づいて優先順位を明確にした上で、投資スケジュールを最適化できるCIP、すなわち簡潔かつ利用しやすさに重点を置いた今後20年間を対象としたCIP、を提案することができた。
 次に、SDCRAAはインフラ全体のマネジメント戦略を構築した。この戦略には個別インフラのライフサイクルを延長することによりインフラ全体としての持続可能性を実現するとの概念を取り込んでいる。すなわち、現存するインフラが、環境面に配慮し、かつ経済的実行可能性に優れたものである場合は更新あるいは新設する必要はなく、その性能が限界に達した場合に最もリソースの利用効率がよくレジリエンスの高い方法により更新あるいは新設すればよいとしている。
 この事例に関する詳細情報は次のとおり。

 

● 社会的責任

◆No.9:余剰資機材の活用

 空港ならびに航空会社からは日常的に廃棄物が大量に排出され、その多くはリサイクルが難しいため埋立処分されている。一方、売店スペースや旅客エリアの改修、オフィス機器のアップグレード、資機材のブランド変更等に伴って不要となる製品や機器も大量に発生するが、それらをそのまま埋立処分に回すことは妥当性を欠こう。これら不要製品・機器は、その大半が技術の進歩、需要やし好の変化といった理由で陳腐化してしまったものであるが、まだ正常に機能していて再利用やリサイクルが十分可能であるものも多い。
 この場合、不要となった製品、機器、資材を受け入れている慈善団体等がその受け皿として機能することが期待できる。これらの団体は余剰物を再利用やリサイクルする活動をしていることから、空港で発生した余剰資機材をそれら団体に提供することにより、単なる埋立処分に代わる社会的に有意義な活用ができるものと考えられる。空港管理者、航空会社やテナント・ベンダは、このような地域のパートナと協力することにより不要な製品・機器や資材の新しい用途を見出すことができよう。なお、これは税制上も有利になろう。

アメリカン航空の事例

 アメリカン航空はシカゴ・オヘア国際空港 (ORD)で約9,000人のスタッフを雇用している。それらスタッフには5年ごとまたはアメリカン航空のロゴマークが変更されるたびに新しいユニフォームが提供されているが、その際古いユニフォームは、セキュリティ上の観点からロゴマークを取り除いて埋立処分に回されている。冬の寒さが厳しいシカゴでは2014年の調査でホームレス人口が約125,000人と推定されているが、アメリカン航空は、1,000人以上の退役軍人のホームレスを支援している市内の医療センターに対して冬用コートとジャンプスーツの寄付を続けている。寄付した冬用コートはその後の3年間で2,500着を超えている。
 このほか、アメリカン航空は、市内の障がい者ワークセンタのリサイクルセンタと連携している。このリサイクルセンタは、障がい者を雇用して、企業・組織や個人から電気電子機器廃棄物を直接収集し、それらを分解して金属や銅スクラップとして再利用を図っている。アメリカン航空はこのリサイクルセンタに対してORDのハンガに保管している大量の電気電子機器廃棄物を寄付しているが、1回の寄付によりリサイクルセンタは6ヶ月分の人件費をまかなうことができている。
 この事例に関する詳細情報は次のとおり。

 

◆No.10:余剰食品の慈善団体への提供

 米国では、2010年に、小売用食料品全体のほぼ1/3に相当する6千万トンの食料品が廃棄された。これは小売価格で千6百億ドルにも上る。一方、フードバンクや無料食事サービスを利用している人は2014年で国民の7人に1人という数に上ってもいる。
 空港で廃棄される食品は膨大な量に上る。たとえば、バンクーバー国際空港では、有機廃棄物が廃棄物全体の68%を占めており、その管理が大きな課題となっている。調理済み食品が未開封である場合にそれを慈善団体等に寄付できれば、堆肥化するよりも環境的に好ましいばかりではなく、社会的ニーズにも対応するものとなろう。
 空港のテナントやベンダは、余剰食品の堆肥化プログラム、慈善団体への寄付のいずれにおいても重要な役割を有しているものの、賞味期限切れの食品の寄付については、その多くが食品の安全性の点から消極的である。ただ、重大な過失や意図的な不正行為がない限り、寄付行為者の責任を問うことはないとする法律が制定されたことから、テナント・ベンダはこの種の寄付プログラムに参加しやすくなっている。また、グリーンコンセッションポリシ* といったイニシアチブを採用することにより、余剰食品の寄付プログラムを促進することも可能であろう。これに加えて、余剰食品の収集方法の一元化、プログラム関連外部スタッフの認証方法の簡略化といったことにより、食品収集プロセスの合理化が図られよう。

HMSHostの事例

 世界最大の旅行者向けフードサービスの提供会社であるHMSHostは、売れ残りの食品が大量に廃棄されているという事態に対処すべく、慈善団体等への食品寄付プログラムを1992年から実施している。これは、環境、栄養と健康ならびに地域コミュニティのパートナーシップの3本柱からなるサステナビリティイニシアチブを支援する取組みである。具体的には、地域のフードバンクに対して未消費の食品やパック入り食品等の余剰食品を寄付しており、2014年には寄付食品個数が全米で180万個にも上っている。なお、HMSHostはスタッフに対して一連のトレーニングを施した上で、この食品寄付活動に参加させている。
  この事例に関する詳細情報は次のとおり。

 

(注)

* Green Concession Policy.シカゴ航空局が制定した、廃棄物を最小限に抑えてリサイクルを推進し、環境的に好ましい食品の需要を増加させることにより、旅客とスタッフにより健康的な食品を提供するためのガイダンス・基準。

 

参考資料
Airport Sustainability Practices, ACRP Synthesis 77, Transportation Research Board, 2016.
https://www.flychicago.com/community/environment/concessionspolicy/pages/default.aspx
https://www.hmshost.com/

(続きは次回)

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