八谷 好高 客員研究員(SCOPE)
今後回復から増加が期待される航空需要に対応するために必要となる空港のあり方、すなわち、サステナブルエアポートの実現方策について考察を進めています。前回からSAGAのデータベースに最近追加された事例について紹介していますが、今回はその2回目として水と廃棄物を対象にしたものについてまとめます。
◆No.4:空港内資源回収施設の整備
空港では、空港自体に加え、航空会社、テナント等の業務活動により膨大な量の固形廃棄物が発生するが、適切な廃棄物処理プログラムが整備されていればその大部分はリサイクルや堆肥化といった手段により回収可能である。この廃棄物処理プログラムのパフォーマンスを改善するための第一歩として、リサイクルプログラムを実行することが多い。廃棄物のリサイクルは、空港利用者が目に見える形で実行可能な環境イニシアチブの一つであり、温室効果ガス排出量の削減、コスト削減、空港運営の効率化といったコベネフィット*1 をもたらすことができる。廃棄物のリサイクル、特に堆肥化を図るために、ほとんどの空港では廃棄物回収事業者に委託して廃棄物から堆肥化可能な材料を選り分けている。また、一部の空港では、販売を目的に廃棄物を材料回収施設 (materials recovery facility, MRF)において受け入れ、分別し、処理している。MRFは廃棄物分別システムの有無により分別MRFと未分別MRFの2つに分けられ、前者では分別済みの堆肥化可能材料を受け入れるだけでいいのに対して、後者では未分別の廃棄物を受け入れ、その後人力・機械により堆肥化可能材料を選り分ける必要がある。
空港へ野生生物、特に鳥が集まる危険性に加えて、公衆衛生上の懸念もあるため、FAAはMRFを含めて廃棄物処理に関する厳格な規定を設けている。このようなこともあって、空港とその周辺にMRFを設置することは難しいと判断される場合が多いが、施設全体を遮蔽するといった適切な措置を講ずれば設置も可能であろう。これにより廃棄物の(遠距離)運搬に伴うCO2排出量を削減し、廃棄物のリサイクル率を向上するというコベネフィットも得られよう。
シャーロット・ダグラス国際空港 (CLT)では、廃棄物を当初シャーロットモータースピードウェイ近くの市営埋立地に年間約45万ドルをかけて運搬していたが、廃棄物運搬によるCO2排出量の削減と廃棄物リサイクル率の向上を図るために、リサイクルセンターを整備することにした。これは最大1万トンにも達する空港からの廃棄物を分別処理可能な2,500m2の広さを有するMRFであり、これを利用することにより環境へのインパクトを低下させて持続可能な廃棄物処理が可能となる。
MRFでは、ペーパータオルを含む食品、植物等の有機廃棄物を、190万匹のミミズを入れた長さ15mのコンポスト容器5個から成るミミズ堆肥システムにより堆肥化している。最初に、細菌を死滅させるために、有機廃棄物を巨大な回転ドラム内に投入して55~70℃の熱を3日間加えることから堆肥化プロセスは開始される。ミミズが排泄する窒素を豊富に含んだふんは、肥料(ミミズふん土)として利用可能である。
MRFは、多くても15人ほどのスタッフにより運用可能であり、CLTは1万トンの廃棄物のうち6,500トンをリサイクルすることにより年間約20万ドルの収入を得ることができると想定している。また、市場価格の変動はあるものの、当初投資した資本を6年未満で回収できるとも予想している。なお、CLTは、廃棄物のリサイクルについて啓蒙するために、市民を対象にしたリサイクルセンターツアーを四半期ごとに企画している。
この事例に関する詳細情報は次のとおり。
◆No.5:回収グリコールの再利用
グリコールは、一般的に、冷却・加熱システムの不凍液、油圧ブレーキ液、空港滑走路や航空機の防除雪氷液等として使用される。空港で防除雪氷液として使用された後に回収されるグリコールは、所定の規格を満たせば航空機の防除雪氷液として再利用可能である。その規格、すなわち全米自動車技術者協会 (Society of Automotive Engineers, SAE)規格SAE AMS 1424・1428では、次のような4種類の航空機用防除雪氷液が規定されている。
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タイプI:粘度が低く、使用後すぐに航空機の機体表面から流れ落ちるため、その有効時間は短い。通常、これを55~80℃の温度で高圧にて機体表面にスプレーすることにより、雪、氷、霜を除去する。オレンジ色に着色されている。 |
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タイプII:疑塑性 (pseudoplastic) *3 を有しており、機体表面からすぐに流れ落ちることはない。通常、航空機の走行速度が200km/h程度に達するまでは、そのままの位置に留まって流れ出すことがないため、大型航空機に適している。最近は、後述のタイプIVに置き換わりつつある。 |
・ | タイプIII:粘度がタイプIとタイプIIの中間にある。低速走行する航空機に適している。 |
・ | タイプIV:タイプIIと同様の疑塑性を有しており、残存時間も長い。通常緑色に着色されている。 |
冬季においては、航空機運航の安全性を確保するために航空機と空港の防除雪氷が必須の要件である。ただし、防除雪氷液の排出管理をせずに防除雪氷作業を行うと、環境に大きなインパクトを与えてしまう危険性、具体的には、水生生物や人間に影響を及ぼすとの危険性が指摘されている。たとえば、防除雪氷液混じりの水(spent aircraft de-icing fluid runoff, SADR)に含まれるグリコールが生分解されると、溶存酸素レベルが大幅に低下する等、水質が大きく影響を受けて、水生生物が死滅しかねない。
この対策としてはSADRを下水道へ流して処理することが可能であるが、持続可能な解決策とは言えない。その代わりに、空港エプロンに大型の特殊パッドを設置してSADRを回収し、それを地下タンクに貯留するというシステムを整備することによりSADRをリサイクルする方法がある。これにより回収されたSADRは、リサイクル施設に運搬され、一連の機械的・化学的処理を経て、防除雪氷液として再利用できる。
デトロイト・メトロポリタン空港 (DTW)は、冬季の天候の予測の不確実性、航空機の防除雪氷の必要性の増大、地域の排水処理施設の能力不足という状況の下、SADRを適切に管理して周辺の河川を保全する必要があると認識しており、エプロンに4箇所のリモート防除雪氷パッドを設置してそれによりSADRを回収する徐雪氷液リサイクルプログラムを構築している。これらのリモート防除雪氷パッドには合計で28箇所のスロットを設けて航空機の防除雪氷作業を実施しているが、ここでの作業は空港全体での90%程度を担っている。なお、これらのパッドを使用せずに通常スロット(ゲート)で航空機の除霜作業を行うこと、特定の状況下においてはゲートで防除雪氷作業を行うことも許可されているが、これらの作業では回収可能なSADRがほとんど発生しないためである。
すべてのSADRは、専門事業者によって回収され、外部のリサイクル施設に運搬されて、適切な処理が施されることにより、食品、医薬品以外で使用可能な純度99.5%以上の工業用プロピレングリコールとしてリサイクルされる。なお、回収・処理されたグリコールのほとんどは、塗料やプラスチックの製造時に使用されている。
DTWでは毎年100~200万リットルのグリコールがSADRからリサイクルされる。従来の処理方法では毎年200万ドル以上の費用を要していたが、この新たなプログラムでは、すべての人件費、運搬費、処理費用を含めて、25万ドル程度で済んでいる。
この事例に関する詳細情報は次のとおり。
◆No.6:食品廃棄物の堆肥化
空港からの廃棄物に占める食品と有機廃棄物の割合は非常に高く、ポートランド国際空港のターミナルビルとレストランの場合、2015年でそれぞれ約32%と約58%になっている。このような状況にあるため、空港では有機廃棄物の堆肥化処理、すなわち堆肥化プログラムが必須のものとなっている。
有機廃棄物のほとんどがテナント等施設運営者(コンセッショネア)から排出されることから、空港の堆肥化プログラムではコンセッショネアが堆肥化プログラム、特に有機廃棄物回収プログラムへ参加することを奨励または義務づける措置が必要となろう。廃棄物は「商品販売前」、「商品販売後」の二つの段階で発生するが、商品販売前段階では商品の準備過程で発生する食品・有機廃棄物を回収し、商品販売後段階では顧客に廃棄物の分別を求めた上で食品・有機廃棄物を回収する必要がある。いずれの場合も、食品・有機廃棄物に非有機物が混入することを防止するためには、設備・標識の設置、スタッフのトレーニングといったものが欠かせない。プラスチックで包装された食品の販売を制限するという取組みは有効ではあるが、堆肥化施設における分別基準を満たすまでには至らないことが多い。
使用済み食用油のリサイクルプログラムも有機廃棄物管理の一形態である。リサイクルされた食用油は車両や機器用のバイオ燃料として使用でき、空港やコンセッショネアの収入源ともなっている。
メトロバンクーバー (Metro Vancouvor)は廃棄物のリサイクルに積極的であり、2020年までに80%のリサイクル率を達成するという目標を立てた。これに対応するものとして、バンクーバー国際空港(YVR)は2015年に既存のリサイクルプログラムを補完するターミナルビル全体の有機廃棄物リサイクルプログラムを開始した。このプログラムでは、まずコンセッショネアの商品販売前段階における有機廃棄物の回収に焦点を当てた。これは、コンセッショネアのスタッフが廃棄物を分別して有機物を選り分けるトレーニングを受けているため、有機廃棄物リサイクルプログラムにおける目標が比較的達成しやすい、最も簡単な部分である。
有機廃棄物リサイクルプログラムのより一層困難な部分は、フードコートでの商品販売後段階における有機廃棄物のリサイクルである。フードコートの有機廃棄物回収ボックスは、有機廃棄物リサイクルプログラムに対応するために、食品廃棄物(食べ残し)と食品以外の有機廃棄物に分別できるように改修されたものの、顧客の多くはリサイクル可能な容器や紙を食べ残しと一緒に食品廃棄物回収口のほうに入れてしまう。これは、多くの場合、顧客に対する有機廃棄物のリサイクル方法についての周知が不十分なためであり、フードコートのスタッフがサポートするとともに、ピクトグラムを使用して、有機廃棄物を食品廃棄物とそれ以外のものに分別して廃棄する方法を示すことにした。
YVRでは6箇所にフードコートがあり、各フードコートの商品販売前段階における有機廃棄物リサイクルプログラムが約2週間ごとに1箇所ずつ導入された。このような体系的アプローチを採ることにより、スタッフと廃棄物回収事業者は、数週間にわたって増加し続けた有機廃棄物に十分に対応することができた。
このほか、YVRは、有機廃棄物を速やかに回収できるようにするために、コンセッショネアに対して堆肥化サポートキットを提供した。具体的には、有機廃棄物を回収するための緑色をした車輪付きのカート(グリーンビン)、分別表示板・シール、有機廃棄物リサイクルプログラムに関するパンフレット類といったものである。特に、グリーンビンを設置することが廃棄物を分別する上で非常に有効であり、有機廃棄物をリサイクルするためのリマインダーとしても機能した。
コンセッショネアによる積極的かつ迅速な対応とYVRからのサポートの結果、このプログラムは成功を収めることができた。具体的には、最初の8箇月間で223トン以上の食品廃棄物をリサイクルできた。この数字はスタッフの熟度が向上し、顧客への周知が進むことによって今後も高くなり続けるものと予想される。
この事例に関する詳細情報は次のとおり。
◆No.7:屋内広告資材のアップサイクル
屋内広告は空港にとって大きな収益となっている。広告主の多くは、デジタル広告の採用に移行しているものの、現地で広告キャンペーンを行うとそれによる売上増加効果が著しいため、屋内広告を継続し、しかもそのサイズを大きくしがちになっている。屋内広告の撤去時には廃棄物が大量に発生する可能性があるが、様々な種類のものが混在するため容易にはリサイクルできない恐れがある。空港から排出される廃棄物のリサイクル率を高めることがますます重要になる中、このような廃棄物を管理するための新たな方法としてアップサイクル*4 の手法を採用することが考えられる。屋内広告やその他の活動に使用された資材のアップサイクルは、廃棄物のリサイクル率を改善し、サステナビリティについて市民を啓蒙するための実用的かつ対費用効果の高い方法である。空港ではコンセッショネアに適用されるプログラムとポリシーを通じてこのようなアップサイクル手法を促進可能であろう。
ユナイテッド航空は2013年に新しい広告キャンペーンを展開した。このキャンペーンを促進するために、ユナイテッド航空のハブ空港であるシカゴ・オヘア空港の航空写真を両面に印刷した、高さ4m、幅2mの天吊広告をシカゴ・オヘア空港の旅客ターミナルビルの20箇所以上に設置した。しかし、その後、シカゴ航空局が広告の許容サイズを変更したことから、これらを撤去せざるを得なくなった。
ユナイテッド航空は、この機会を利用して、コロンビアカレッジ・シカゴのファッション研究プログラムのコースとして、広告資材をトラベルバッグにアップサイクルするコンテストを実施することにした。コンテストのガイドラインは次のとおり。
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トラベルバッグは、次のいずれかのテーマに基づいて、日帰りまたは1泊旅行用のものとする。 ・テーマ1 都市:タブレット、電話、充電器、アダプター、カメラ、着替え等、都市生活における必需 品を収納・運搬できる。 ・テーマ2 アウトドア:水筒、携帯電話/GPS、カメラ、サングラス、ランニングシューズ、着替え 等、ハイキングやトレイルランニングにおける必需品を収納・運搬できる。 |
・ | サイズは航空機の座席の下に収まるもの、すなわち22cm×25cm×43cmを超えない。 |
・ | 経済的かつ魅力的なもので、価格が100~200ドルである。 |
・ | 耐久性があり、ウエアラブルである。 |
・ | ユナイテッド航空の広告キャンペーンからアップサイクルされた資材を使用する。 |
その結果、約100個のトラベルバッグが製作され、インターネット上ですぐに売り切れた(写真1)。製造コストを超える収益は、ユナイテッド航空のカーボンオフセットプログラムに寄付された。
この事例に関する詳細情報は次のとおり。
(注)
*1 一つの計画や方策の成果から生ずる、複数の分野における複数のベネフィット。
*2 組織の社会的責任(CSR)を考慮して行う投資、すなわち、経済的な面に加えて、社会的および環境的な面にも配慮する戦略的投資。
*3 速度勾配が大きくなるほど粘性係数が小さくなるという液体の特性。マヨネーズ等が有する。
*4 副産物、廃棄物や不要物を、品質がより優れた、あるいは環境価値がより高い新しい材料または製品に変換するプロセス。その例として、ペットボトルの公園のベンチや遊具の材料としての再利用、解体された建物や家具等の高級家具の材料としての再利用等がある。
参考資料
Airport Sustainability Practices, ACRP Synthesis 77, Transportation Research Board, 2016.
Hazardous Wildlife Attractants on or near Airports, AC150/5200-33C, FAA, 2020.
(続きは次回)