[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第51回 「サステナブルエアポート (12)」  ~2022.09.01~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

  

 今後回復から増加が期待される航空需要に対応するために必要となる空港のあり方、すなわち、サステナブルエアポートの実現方策について考察を進めています。今回は、SAGAのデータベースに最近追加された事例について紹介します。

● サステナブルエアポートの実現方策の事例

 サステナビリティはもはや大規模で豊富なリソースを有する空港だけが考慮すべき事項ではなく、あらゆる規模、あらゆる地域の空港がそれを追求している。各空港が実践しているサステナビリティプログラムに関する情報を共有すべく、2008年にSAGA* が設立された。その目標は、サステナビリティとその空港での実現可能性、サステナビリティプログラムの計画・維持、持続可能な設計と建設工事、持続可能な空港運用とメンテナンス等、サステナビリティに関する情報を統合することである。これを実現するために、SAGAは、空港のサステナビリティに関する具体的な事例を収集して、データベースに収録する活動を継続している。
 SAGAのデータベースに最近追加されたサステナビリティプログラムの事例として、以下に10件紹介する。プログラムの対象は、経済的パフォーマンス、水・廃棄物、エネルギ・気候、社会的責任に関するものに分類される。その実施主体は、空港管理者、航空会社、コンセッション事業者となっている。

 

 

● 経済的パフォーマンス

◆No. 1:インフラマネジメント計画の作成
 インフラマネジメント計画 (Asset/Infrastructure Management Plan, AMP)では、インフラ、そのパフォーマンスそして供用期間中のリスクとコストを適切に管理するための一連の活動・行動(アクティビティ)とその実施方法(プラクティス)を具体化する必要がある。AMPは、その対象を単一の事項ではなく、システム全体とし、インフラにサステナビリティを持たせるとともに、必要なサービスレベルを確保しつつインフラの整備・運用に関するコストを最小化する手段として用いられている。AMPを使用することにより、インフラに関するデータを共有して、そのマネジメントに関する意思決定を速くできる。AMPでは次の点について明確にする必要がある。

対象とするインフラの範囲
パフォーマンスの定義
現時点のパフォーマンス
アクティビティ・プラクティス(アクション)の計画
コスト
メリット
パフォーマンス改善の可能性

 AMPを導入するメリットは次のとおり。


 
空港の運用・メンテナンスを効率的かつ集中的に行うことで、インフラの寿命を延ばし、最適な修繕・更新方策を決定できる。
サステナビリティに重点を置いてマネジメントを実施できる。
パフォーマンスを保持するために不可欠なアクティビティに焦点を当てて予算を編成できる。
将来のパフォーマンスを規制事項とその値(規制要件)に適合したものとできる。
緊急事態への対応方法を改善できる。
インフラのセキュリティと安全性を向上できる。
インフラの運用と整備の両方に関するライフサイクルコストを削減できる。

 AMPの導入により投資に関する意思決定も速くできる。その結果として、空港の経済状況の向上、パフォーマンスのレベルの向上・保持、規制要件および商業環境の変化への柔軟な対応等ができるようになる。さらには、旅客に対するサービスのレベルの向上、基準の変化やインフラの老朽化への迅速な対応が可能となり、サステナビリティを長期にわたって確保できよう。

 

ダラス・フォートワース国際空港の事例

 ダラス・フォートワース国際空港 (DFW)は、増え続けるインフラをより適切に管理するために、意思決定プロセスにおいてサステナビリティを考慮できるように、包括的なインフラマネジメントシステムを構築している。このシステムを使用することで、インフラごとに詳細なデータを作成して、そのパフォーマンスの評価と予防的および事後的なメンテナンスのスケジュールの管理をできるようになる。この場合、ライフサイクルコストの算定に必要となる資機材購入費用と人件費を集計して、投資収益率が最大となるように修繕・更新のスケジュールを決定できる。
 インフラマネジメントシステムの一例として、ランプバスに関するものがある。このシステムのデータベースに収録された走行距離や使用時間といった運用に関するデータを使用して、個々のランプバスの状況を全体平均と比較できる。また、燃料、メンテナンス作業、交換部品等に関する費用を合計することにより、個々のランプバスの距離または時間あたりのコストを計算できる。メンテナンス作業の効率は、予防保全対事後保全、部品代対人件費およびメンテナンス作業のタイムラインといった観点から定量化できるので、これによりランプバスの修理、配置換えおよび更新といった運用とその予算に関する分析が可能になる。
 この事例に関する詳細情報は次のとおり。

 

 

◆No. 2:環境パフォーマンスのモニタリングシステムの開発
 環境マネジメントシステム (EMS)は、体系的なアプローチにより環境に関するサステナビリティの目標を達成する上で有用である。EMSを使用することにより、規制要件と自主的な目標を明確化した上で、コンプライアンスと進捗状況をモニタできるようになる。これは、コンプライアンス違反につながるリスクの軽減、スタッフ・市民の健康と安全性の向上、環境アクティビティに関する透明性の向上、パフォーマンスの改善に結びつく。
 EMSの基本要素は次のとおり。

環境目標のレビュー
環境への影響と規制要件の分析
環境への影響を小さくして規制要件に適合するために必要となる環境目標の設定
環境目標を達成するためのプログラムの確立
環境目標の達成に向けたアクティビティの進捗状況のモニタリング
スタッフの環境に関する意識の醸成と能力の強化
EMSの進捗状況の確認・改善

 EMSで一般的に使用されているフレームワークは、PDCAサイクルを回すものが標準となっている。

 

リノ・タホ国際空港の事例

 リノ・タホ空港公社 (RTAA)は、リノ・タホ国際空港 (RNO)およびゼネラルアビエーション (GA)用のリノ・ステッド空港 (RTS)の所有・管理者である。RTAAは、空港が地域経済と地域コミュニティの生活の質の向上に重要な役割を果たすとともに、航空セクタがサステナビリティを実現する上では、健全な自然環境が不可欠と考えている。RTAAが有する環境プログラムは、航空セクタの持続可能な発展を促進し、自然環境を保全するために環境アクティビティの改善、環境汚染の抑制・防止および環境マネジメントの促進を図ることを目的としている。これにより、日常の意思決定や業務活動において、法律の遵守に留まらず、それを上回る健全な環境アクティビティを実施できる。
 2008年以来、RTAAは、環境意識の醸成、資源の保全ならびに廃棄物の削減、リユースおよびリサイクルの促進を図るために、EMSを日常業務に組み込んでいる。その一例として、RNOの旅客ターミナルビルにおけるリサイクルプログラムでは毎年約60〜80トンのリサイクル可能廃棄物(資源ごみ)を再利用しており、また、アスファルトならびにコンクリートの再利用プログラムでは解体に伴う舗装廃材を100%リサイクルしている。さらに、事務用品の使用量の削減とグリーン購入方針を導入することにより、紙使用量を約10%削減するとともに、リサイクル率の高い製品を購入するようにしている。
 このほか、大幅なエネルギ節約を可能とするプロジェクトも実施している。具体的には、既存の照明器具のLED化を始めとするエネルギ効率の高い照明システムの導入により、年間25万ドル以上のエネルギコストを削減できている。また、冷暖房・空調システムのアップグレードにより運用・メンテナンスコストの大幅削減が可能となり、エネルギコストを年間約20万ドル削減できている。さらに、代替エネルギ生成施設によるエネルギコストの削減、たとえばRNOの航空機救急消防施設への太陽光発電システムの設置による26万kWhの年間電力購入量の減少、電気料金では3万ドルの削減、もできている。RTAAにおけるEMSの最も効果的な規定は、スタッフ、地域の自然環境、そして航空セクタの持続可能な発展が可能となるアクティビティを実施しなければならないという、スタッフ個人としての責任を明らかにしていることである。
 この事例に関する詳細情報は次のとおり。

 

 

◆No. 3:空港プロジェクトにおける気候変動レジリエンスの検討
 気候変動が空港にもたらすリスクには多様なものがあり、そのインパクトは非常に小さいものから劇的に大きいものにまで広範囲にわたる。たとえば、空港の地勢的位置によっては、降水量の増加による滑走路の閉鎖や気温上昇による舗装や航空機の機器の損傷といった大きな影響を受ける可能性がある。近年、巨大台風・集中豪雨や干ばつ等の発生が顕著になってきていることから、空港は気候・気象の極端現象というニューノーマル(新しい正常)に対処していく必要がある。
 航空機運航の遅延の70%が気象に起因しているとのFAAによる調査結果があるように、空港は気象の極端現象に対して非常に脆弱であることから、空港プロジェクトについては気候変動に対するレジリエンス** に重点を置いて検討する必要があろう。ここでいう空港のレジリエンスとは、気候変動が空港の運用へ影響を及ぼすことのないように、それに起因する事故、災害等の困難な状況に対して効果的な計画、対応、回復方策を講ずることばかりではなく、被害を被った地域へのアクセスを提供し、緊急物資輸送、被災者の救助・救援、その他リソースのライフラインとしても機能できることを意味する。
 新しいプロジェクトでは気候変動に対するレジリエンスについて十分に検討することが肝要である。たとえば、気候変動の影響を十分に考慮して自然災害への対応計画を事前に準備することは、既存インフラを改造したり、インフラが大きく被災した場合にその状況からの回復を図ったりするよりも、対費用効果がはるかに大きくなる。設計ガイダンスにレジリエンスについての検討を組み込むことで、新しいインフラの設計・建設段階において気候変動のインパクトに効果的に対応でき、投資を最小限に抑えて、供用開始後の気象の極端現象に起因する混乱を防ぐことができよう。

 

ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社の事例

 ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社 (PANYNJ)は、所有・管理するインフラに対する気候変動のインパクトが大きいことを考慮して、予想される気象の極端現象に対応するためにレジリエンス設計ガイドラインを整備している。ガイドラインでは、気温上昇、降水量増加、海面上昇、暴風雨等、発生する可能性が高い気象のインパクトを考慮している。たとえば、洪水については、近年その発生確率が増加していることから、インフラへ及ぼす影響を回避することに焦点を当てた10段階のステップからなるアプローチを採用している。このアプローチでは、プロジェクトエンジニアがプロジェクトを主導し、レジリエンスおよびサステナビリティ担当グループを含むさまざまな部門が共同作業をすることとなっている。
 10段階のステップは次のとおり。

  1. プロジェクトにおける洪水リスクを特定する。
  2. プロジェクトの安全性の判定に必要となる、場所・システムに及ぼす影響を評価する。
  3. プロジェクトが緊急対応計画やリスク対応計画に含まれる場合には、これらの計画について考慮する。
  4. 洪水による予想浸水深さを算定する。
  5. 公的資金の提供を受ける場合は、資金提供元の要件またはガイドラインを確認する。
  6. 重要なインフラを特定する。
  7. プロジェクトの設計供用期間を設定する。
  8. 洪水防御レベルを設定する。PANYNJはインフラの設計供用期間と重要度に基づいて洪水防御レベルを設定している。
  9. 費用便益分析を実施して、新規投資、ミチゲーション、投資なしの場合のコストを算定する。
  10. 設計時に使用する洪水レジリエンス基準を確定する。

 以上に示したように、PANYNJは、洪水のリスクマネジメントに重点を置いてレジリエンスを考慮するための設計要因を新しいプロジェクトに取り込んでいる。その成果の例として、ラガーディア国際空港 (LGA)では、変電所を洪水から保護可能な高さに設置していることが挙げられる。
 この事例に関する詳細情報は次のとおり。

 

 

 

(注)

* SAGA (Sustainable Aviation Guidance Alliance)は、サステナビリティプログラムの計画、実施、維持をサポートするために航空関係者により2008年に設立されたボランティア組織。当コラム第45回「サステナブルエアポート (6)」参照。
** レジリエンスは、イベントが発生する前にそれを防ぐための対応を計画し、イベント発生中では効果的にそれに対処でき、イベント後には混乱が生じないように迅速に機能を回復すること。強靭性。

 

参考資料
Airport Sustainability Practices, ACRP Synthesis 77, Transportation Research Board, 2016.
Kulesa, G.: Weather and Aviation: How Does Weather Affect the Safety and Operations of Airports and Aviation, and How Does FAA Work to Manage Weather-Related Effects?, The Potential Impacts of Climate Change on Transportation, 2003.

(続きは次回)

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