[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

  • Googleロゴ

    

コラム

第5回 「滑走路の安全性」  ~2015.1.5~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

滑走路の安全性 (Runway Safety)

 「インフラ通信簿」、「永久舗装」に続いて、今回からは「滑走路の安全性 (Runway Safety)」を取り上げます。言うまでもなく、滑走路の安全性は航空輸送の安全性確保上非常に重要な事項です。また、その内容も多岐にわたっています。以下では、まず航空事故の状況についてまとめてから、空港インフラの航空事故との係り、そして空港インフラに係る航空事故防止対策といったものを紹介していきたいと思います。

航空事故

 2013年の全世界の定期航空旅客数(国際・国内)は約31億人と前年より2億人ほど増加し、また、全定期旅客便数も3,210万便に達して、航空輸送の重要性はますます増加してきています。  航空輸送の安全性も年々高まっており、2013年の定期航空便の事故数は前年より10%減少しています(5,700kg以上の離陸重量の航空機)。また、定期航空便の事故率も2.8件(100万回あたり)と、前年の3.2件から13%減少しています。さらに、航空事故による死亡者数は173人と前年より53%減少しています。これは過去5年間の平均より65%ほど低い値です。

                                        

5-zu1

  

 2010年に、米国、EU、ICAO*、IATA**は、全世界的な安全性情報の交換に関する了解覚書 (Memorandum of Understanding (MoU) on a Global Safety Information Exchange (GSIE))に調印して、航空安全性の分野における危険性低減活動を推進するための情報交換を開始しました。情報の共通化のために、航空事故は次のカテゴリに分類されることとなりました。

                                        

5-hyou1

  

 2013年における情報共通化対象の航空事故は、不定期便、回送便を含めると、103件(離陸重量5,700kg以上)となっています。事故が発生したときの航空機の運航状況は着陸時が43%と全体の半数近くを占めています。また、事故をカテゴリに分類すると、RS (滑走路安全性不足)、GS(空港安全性不足)と空港インフラに直接関係するものが52件と、約半数に上ることがわかります。

                                        

5-zu2

 

5-zu3

  

航空機事故防止・対応に関するベストプラクティス

 ACI***は、滑走路上の安全性を検証する上では、excursion(逸脱)、incursion(立入)、confusion(誤進入)****、FOD (異物による損傷)、野生生物の管理が重要であるとして、航空機事故を防止または航空機事故に対応するためのベストプラクティス (Runway Safety Handbook)を2014年に発表しました。ハンドブックは、次の4章から構成されています。

○滑走路安全性

 滑走路安全性検証チームの設置、滑走路安全性検証計画の実行方法を記述

○企画・設計
 空港のマスタープラン・設計において、滑走路逸脱、立入、誤進入事故に係る空港インフラの
 障害・危険性の防止・軽減方法を記述

○滑走路運用
 滑走路の点検方法、航空情報サービス(AIS)の伝達方法およびFOD・障害物の除去・管理方法を記述

○保守、臨時規制、仮設工事
 これらの作業に起因する事故・トラブル(アクシデント・インシデント)の防止・軽減方法を記述
以下に、それぞれの章の内容を紹介します。

滑走路上での安全性

滑走路安全性検証チーム

 滑走路安全性検証チームは滑走路安全性検証計画において不可欠な部分である。チームは空港の管理・運営に係るいろいろな組織を結びつけ、それぞれの組織が空港における安全性の意識を共有化して、全体的な合意形成が可能となるように活動する必要がある。

●現地滑走路安全性検証チーム(LRST)の機能

 LRSTは、空港管理・運営スタッフに対して次の事項についてアドバイスする。

○滑走路、誘導路とその周辺の状況

○懸念事項、重要事項

○懸念事項・重要事項に対する軽減・対応方法

●報告文化

 空港の安全性について明確、自由かつ公正に報告する文化を確立することが非常に重要である。このような文化があることにより、LRSTは事故の危険性が潜在的にあると思われる事項に係る情報へのアクセスが可能となる。

●LRSTの設立

 LRSTには、少なくとも、空港管理部門、航空保安部門、航空交通管制部門の代表者が含まれていなければならない。

●活動事項

 LRSTが次のような活動を行うことにより、滑走路上の安全性を高めることが可能となる。

○対象空港の施設等のICAO Annex 14の規定との整合性の検証

○滑走路上でのインシデントの種類、重要度、発生頻度の監視

○危険因子および局所的問題点の抽出

○危険のある箇所(ホットスポット)の特定

○日常業務における問題点の特定、等

●ホットスポット

 ホットスポットは過去に航空機の衝突や滑走路立入等があった空港内の箇所である。空港内の航空機地上運行計画の立案は重要な安全活動であり、地上運行計画を適切なものとすることにより事故防止が可能となる。

●滑走路の潜在的問題点の特定

 LRSTは、最新の情報や業務実施方法を把握して、次のような事項に係る滑走路の潜在的問題点を明らかにする必要がある。

○滑走路の設計および維持

○マーキング、標識および灯火

○空港スタッフの標準的な業務実施方法

○鳥および野生生物

○異物破片(FOD)

○立入・逸脱(航空機)

○立入(航空機以外)

●研修

 LRSTのメンバーは専門家として評価されるとともに、それぞれの分野における最高レベルの安全教育を受けなければならない。

滑走路安全性の認識

 LRSTの活動は、空港管理・運営スタッフが滑走路安全性に係る事項に対する認識を高め、滑走路立入・逸脱、野生動物関連事故、車両・工事用機器事故を防止することが目的であり、LRSTはその活動により明らかになった滑走路安全性に係る問題点をスタッフ全員が認識できるように、各空港において安全性意識向上キャンペーンを開始する必要がある。また、得られた経験、メンバー個人のキャリアならびに出版物・安全キャンペーンから得られたベストプラクティスは、LRSTのすべてのメンバーにより共有される必要がある。

滑走路での工事

 滑走路を維持するための建設・一時規制は、航空機運航に対する障害となる危険性がある。LRSTは建設・維持計画の各段階で安全性評価を行う必要がある。

●計画段階

 LRSTは、次のような項目をレビューして、建設計画の安全性の評価を行う。

○建設現場の保全計画

○建設現場へのアクセス計画

○交通管制計画

○航空情報計画

●建設開始段階

 LRSTは、次のような項目に関して、建設工事の開始前に現場確認と書類審査を実施することにより安全性の評価を行う。

○計画に基づく建設現場の保全方法

○局所的な危険性に対する対応方法

○AIPおよびNOTAM

●建設終了・運用再開段階

 LRSTは、次のような項目に関して、建設工事の終了・運用再開の前に現場確認と書類審査を実施することにより安全性の評価を行う。

○フェンス、固定設備、車両等の撤去状況

○工事箇所のマーキング、標識および灯火の規準適合性

○AIPおよびNOTAMの改訂

 

注)

 * ICAO:国際民間航空機関 (International Civil Aviation Organization)。国際連合経済社会理事会の専門機関の一つで、国際民間航空条約に基づいて1947年に発足。
 ** IATA:国際航空運送協会 (International Air Transport Association)。国際線を運航する航空会社、旅行代理店等の団体。
 *** ACI:国際空港協議会 (Airports Council International)。国際空港の管理者団体。
 ****逸脱:航空機が離陸または着陸時にオーバーランまたは滑走路側方へ逸脱する事故
   立入:航空機、車両または人間が滑走路や制限区域内に不正に立ち入る事故
   誤進入:航空機が、間違った滑走路や誘導路へ意図しない進入をする事故

(続きは次回)

ページの先頭へ戻る

ページTOPへ