[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第48回 「サステナブルエアポート (9)」  ~2022.3.1~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

  

 今後回復から増加が期待される航空需要に対応するために必要となる空港のあり方について考察を進めています。今回は、前回に引き続き、空港のサステナビリティプログラムに関して米国で実施されたアンケート調査結果について紹介します。

● 空港のサステナビリティプログラムの推進力、支援策、障害

 空港を始めとする多くの組織・企業がサステナビリティプログラムを導入している。このような取組みを新たに始めようとする場合、現状を変革しようという推進力を把握し、プログラムを実施する上での障害を明らかにして、それに対処するための支援策を講ずることが必要になる。表1は、アンケート調査で明らかになった、空港のサステナビリティプログラムの計画と実行の両方の段階における主な推進力、支援策と障害を示している。

 

 

◆サステナビリティプログラムの推進力
 サステナビリティプログラムを導入するための推進力として、21空港がコスト削減を第一に挙げている。サステナビリティ実現に向けた戦略のなかでもエネルギー消費量の削減やメンテナンス・廃棄物管理の強化といったものは、環境パフォーマンスを改善し、コスト削減に結びつこう。また、18空港は空港管理者のサポートを挙げている。空港がサステナビリティプログラムを導入・実施することで、地域コミュニティにおけるその存在価値を高め、経済、環境、社会的戦略を主導的に進めることが可能となろう。同じく18空港はサステナビリティプログラムに対するFAAの資金提供を挙げている。
  空港のサステナビリティプログラムは、上部機関・組織の方針・プログラムに則って実施されていることが多く、16空港は地域コミュニティとの関係性を、13空港は環境コンプライアンスを、11空港は収益機会の創出をサステナビリティプログラムの推進力として挙げている。これは、サステナビリティプログラムの3つの主要な柱が人間、地球、収益であることを明確に示している。
  図1に示すように、航空セクタや社会的な動向を推進力としている空港が多くはないことから、空港自体や地域コミュニティにおける問題意識がサステナビリティプログラムを実施する上での大きな推進力であると判断できる。

 

 

◆サステナビリティプログラムの支援策
 サステナビリティプログラムの計画と実行の両段階における支援策としては、空港管理者、国・地方自治体、地域コミュニティ、テナントならびにスタッフからのものが重要である。計画段階では、データ収集、データ分析とコンサルタントの業務がサステナビリティプログラムの基盤構築に有効である。サステナビリティ計画の策定後、すなわち実行段階では、資金、トレーニング、分析ツール、スタッフの関与、内部コミュニケーションといったものが支援策となる。
 アンケート調査の結果からは、サステナビリティに対する見方とアプローチの多様性が明らかになっている。一部の空港では、サステナビリティの社会的インパクトに関連する、プログラムのアウトリーチ、教育、内部コミュニケーション、組織・地域コミュニティのサポートを最も重要な直接的支援策として挙げている。同様に、国・地方自治体や公益事業体からの資金が非常に重要であるとしている。さらには、監査や費用便益分析、 CO2・費用・投資収益に関わるデータ収集も有効であるとしている。
 間接的な支援策としては、内部トレーニングプログラムに加えて、有効なプログラムの導入、低コスト戦略の採用、メンテナンスコストの削減、プログラムの効果計測ツールの導入といった経済的なものが挙げられている。さらには、SAGAのデータベース等のツールやリソースのほか、テナントやFAAスタッフのサポートが挙げられている。

 

 

◆サステナビリティプログラムの障害
 アンケート調査の結果からは、サステナビリティプログラムの計画・実行段階における障害として、資金の調達が計画と実行の両段階における主たるものであること、中でもサステナビリティ実現戦略に関するコストと資金不足が最も大きいことが明らかになっている。
 社会的な面での障害としては、優先順位のあいまいさ、空港管理者・スタッフのサポートの不足、関心・意識の不足が挙げられる。計画段階では、データ・情報の不足やリソースの不足に直面しているほか、既存のリース契約と優先順位のあいまいさも障害となっている。実行段階では、旧来の習慣、時間の不足、教育とトレーニングの不足、管理の不十分さ、再生可能エネルギー資源の不足、経済的制約、調達プロセスといった、さまざまな障害が挙げられている。
 経済的な面での障害としては、サステナビリティプログラムに要求される収益性とスタッフの確保が難しいことが第一に挙げられる。このほか、管理者のサポートの不足、データの不足、運用および調達に関する管理の不十分さも挙げられている。
 間接的な障害として挙げられている項目は広範囲にわたるが、主なものとしては、サステナビリティに対する意識の不足、管理者・スタッフのサポートの不足といった、組織内部の問題が挙げられている。また、費用便益分析の不十分さ、テナントやユーザーの目標との不一致、既存のリース契約、優先順位のあいまいさといった、サポート体制の不十分さに加え、再生可能エネルギー資源の不足も挙げられている。
 このほか、最近の景気後退といった経済的なものや部門間の協力不足、意識・関心の不足、トレーニングの不足といった社会的なものも挙げられている。また、調達プロセスとビジネスパートナー間の競争も挙げられている。

 

 

● サステナビリティを実現するために必要な基本的要件

◆経済的な継続性
 言うまでもなく、経済的な継続性はサステナビリティを実現するための重要な基本的要件であり、空港はこの経済的な継続性を確保しない限り存続できない。経済的な継続性は、一般的に、収益向上、コスト削減、投資回収を見込めるプロジェクトへの長期投資等、いくつかの方法で確保できるが、旅客施設使用料を徴収できない小規模空港の場合は、航空機燃料の販売、施設・土地のリース、国・地方自治体からの補助金等、他の方法で収入を得る必要がある。このような経済的制約がある中では、サステナビリティ実現戦略の最低投資回収率やコスト最小化といった点を考慮に入れて、プロジェクトの優先順位について十分に検討する必要がある。
 プロジェクトを新たに実施する場合には、サステナビリティが十分とは言えない旧式のインフラや機械設備の更新も必要となろうが、その場合には資本投入が不可欠である。たとえば、リサイクルを対象としたサステナビリティプログラムでは、リサイクル可能材料の販売により収入を得ることが可能ではあるが、ゴミ箱や看板の設置にコストがかかる。また、スタッフやリソースの有効活用を図る等、コンサルタントがサステナビリティプログラムを計画・実行する上では欠くことのできない重要な役目を果たしている。
 アンケート調査の結果からは、20空港ではリサイクルをサステナビリティ実現に向けた実行可能な低コストの戦略と見なしていることがわかる。このリサイクルに関して、一部の空港では市場価値のある、金属、紙、段ボールといった廃棄物をリサイクル事業者に販売して収益を上げている。また、15空港ではエネルギーコストを削減するためにLED照明を設置している。このほか、廃水処理事業者の協力の元、廃水を固形化して肥料として使用している空港もある。
 空港のサステナビリティ実現戦略に対する経済的な支援策として、公益事業体や地方自治体の事業体からの補助金が期待できる。前者は再生可能エネルギーやエネルギー監査、後者は電気自動車充電ステーション等に関連するものである。

 

 

◆運用の効率性
 円滑な航空輸送を確保するために必要な空港の運用に関する業務は、航空機の運航からインフラの建設・メンテナンスまで多岐にわたる。サステナビリティプログラムを実現するためには、エアサイドの運用と施設の運用との一体化、すなわち部門横断的な協働が不可欠であり、さまざまな手段を用いて運用の効率化を図ることによって収益の改善に結びつけることが可能である。
 アンケート調査の結果からは、運用の効率化を図るための戦略の多くはエネルギーに関連したものであることがわかる。具体的には、すべての空港ではLED照明の設置をサステナビリティ実現に向けた戦略として挙げている。また、22空港では感知式照明やスマートメーターの導入、設定温度の変更によるエネルギー消費量の削減や日常的な運用の改善といったインフラの管理方法の改善を挙げている。20空港では暖房・換気・空調システムをアップグレードしてエネルギー効率を高め、10空港では駐機時の航空機からのCO2排出量を削減するためにGPU(地上電源装置)を導入し、9空港ではCO2発生源をリストアップしていることを挙げている。
 このほか、いくつかの空港では、燃料消費量とスタッフの作業時間を削減するために芝刈機を大型化したり、天然ガスからの電力生成とその廃熱利用による空調用冷水の生成を可能とするコジェネレーション発電所を建設したりしている。また、電気自動車の導入、機械設備の効率化、ソーラーパネルの設置を実施している空港もある。

 

 

◆天然資源の保全性
 空港では環境と天然資源の保全に焦点を当てた戦略に取り組んでいる。その中には、グリーンビルディング(環境配慮型インフラ)、グリーン調達、環境マネジメントシステム等、通常天然資源の保全とはみなされないものも含まれている。
 アンケート調査の結果からは、25空港ではリサイクル等、廃棄物削減対策を講じていることがわかる。また、大部分の空港では水関連の取組みを進めており、20空港では水使用量の削減、19空港で地域コミュニティの水質を高めるための雨水管理、18空港で航空機騒音の管理を実施している。このほか、生物多様性の確保、環境に配慮した調達、土地利用の適正化、大気質の管理といったものに取り組んでいる。

 

 

◆社会的責任
 空港は人と物資の移動を担い、地域コミュニティと遠隔地とを結びつけている。また、娯楽や商取引のためにさまざまな人々のコミュニティの形成に資するとともに、スタッフ、テナント、航空会社、旅客、サービス提供事業者等が交流できるフォーラムとして機能している。さらに、地域住民に就業機会を提供したり、地元産品を購入したりすることにより、社会的ネットワークの形成をサポートしている。このほか、地域の慈善団体へのボランティアの派遣、コミュニティへの空港施設の提供、さらにはスタッフのワークライフバランスの向上といった社会貢献もしている。
 アンケート調査の結果では、サステナビリティプログラムの社会的責任について、多種多様な回答が得られている。15空港ではボランティア活動等の地域コミュニティへの貢献を挙げ、14空港ではスタッフの健康増進に資する戦略の採用を挙げている。同じく14空港では屋内環境の改善による、スタッフ、旅客、テナント等の快適性向上を挙げている。このほか、12空港ではスタッフに対する機会均等プログラムの実施、11空港ではスタッフへのサステナビリティに関するトレーニングの実施、10空港では障害者や高齢者の空港アクセス方法の改善、スタッフに対するキャリア開発の支援、8空港ではスタッフの定着促進プログラムの実施に取り組んでいる。

 

 

参考資料
Lessons Learned from Airport Sustainability Plans, ACRP Synthesis 66, Transportation Research Board, 2015.
Sustainable Aviation Resources Guide, SAGA, 2009.

(続きは次回)

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