八谷 好高 客員研究員(SCOPE)
今後回復から増加が期待される航空需要に対応するために必要となる空港のあり方について考察を進めています。今回は、空港のサステナビリティプログラムに関して米国で実施されたアンケート調査結果について紹介します。
環境、社会、経済的圧力が高まるにつれ、サステナビリティは空港のみならず、あらゆるものの存続に欠かせない概念となっている。現在、多くの企業・機関が、サステナビリティの価値を認識して、サステナビリティ活動に取り組んでいる。
サステナビリティ計画はサステナビリティプログラムを成功させるための中心的な要素である。包括的なサステナビリティプログラムを作成するためには全体的なサステナビリティ計画を作成・公表する必要がある。これにより利害関係者と協働してサステナビリティ実現に向けた共通の戦略と最終目標を設定できるようになる。ただし、このような全体的な計画によらなくても、サステナビリティ活動を推進できることは言うまでもない。
サステナビリティは、設計と実行という異なる2つの段階に分けられ、それぞれにおいて必要となる分析方法やツールが異なる。設計段階では、サステナビリティに焦点を当てて将来計画を見すえながら、パフォーマンスの状況を把握する必要がある。インフラの更新プロジェクトは、それにサステナビリティをもたせるための最良の機会である。実行段階では、サステナビリティ活動は、より効率的な空港運用方法、低金利の資金調達システム、スタッフの健康増進プログラム等、さまざまな形をとる。
サステナビリティの実現方策は、すべての空港に適用できるような統一されたものはなく、大規模な国際ハブ空港から小規模なゼネラルアビエーション (GA) 空港までの、空港の規模によって異なる。また、ガバナンス構造は、国、地方、第三セクタあるいは民間といった空港の管理者によって異なるが、いずれの場合においても、年次報告システムの構築といった空港管理者からのサポートや環境マネジメントシステム等のツールが必要となる。
サステナビリティ実現に向けたプロジェクトを実施することにより、企業・機関は、最終的にその活動に必要となるコストやスタッフの労働時間を低減できるというメリットを享受できる。しかし、予算額やスタッフ数に余裕がない場合には、サステナビリティプログラムに着手できない恐れがある。このような問題は大規模空港よりも小規模空港で顕在化することが多く、小規模空港においてサステナビリティプログラムを策定する場合には、柔軟性をもって創意工夫に取り組むことが必要になる。また、サステナビリティ活動によってもたらされるメリットを明らかにするために、廃棄物のリサイクル、植樹、LED照明の導入といった試行的なプロジェクトをまず実施してみることも必要となろう。一方、資金、組織、制度等の面であまり制約を受けない大規模空港であれば、より大規模かつ複雑なサステナビリティプロジェクトを実施できよう。
サステナビリティの実現方策について考察するために、主として小規模空港におけるサステナビリティについてのニーズとサステナビリティプログラムの実施状況についてアンケート調査が実施されている。調査対象は、次の表に示すとおり、米国21州の31空港である。なお、ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社とフェニックス市は2空港をまとめて1件として回答しているので、以下では29空港の回答としてまとめている。
* Deer Valley Airport と Goodyear Airport,Stewart Int'l Airport と Teterboro Airportについては、それぞれ一つの回答としてまとめられている。
29空港のうち包括的なサステナビリティプログラムに取り組んでいるのは22空港であり、残りの7空港は包括的ではなく、試行的・暫定的なサステナビリティプログラムを実施しているという段階にある。
◆調査対象空港の規模とテナント
調査対象の空港は、その規模*¹ を次に示すとおり、小規模空港の中でも比較的大きいものが中心となっている。ほとんどでは地方航空路線が運航しているが、2つの空港では国際航空路線が運航しているほか、ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社やフェニックス市管理の空港は大規模空港システムの一部を担っている。
· 中型ハブ空港:6件 | |
· 小型ハブ空港:5件 | |
· ノンハブ空港:12件 | |
· GA空港:6件 |
◆サステナビリティプログラムの資金
サステナビリティプログラムの計画と実行に必要な資金については、包括的なサステナビリティプログラムに取り組んでいる22空港のうち16空港がFAAから資金の大部分の提供を受けている。この資金の重要性は図2のとおりであり、16空港中11空港はFAAからの資金が不可欠あるいは資金がなければ不可能だったかもしれないとしている。
FAA以外の資金調達先としては、公益事業体(13)や地方公益事業体(10)からの助成金、再生可能エネルギー購入による利益(6)、電気自動車の充電ステーションに対する助成金(5)といったものを挙げている。また、今後は今までアプローチしていない資金源を探すことも必要としている。
29空港中21空港は、他所からの資金に加えて、自己資金を使用している。その理由としては柔軟性の向上(3)、スピードアップ(2)、自由度の確保(2)といったものを挙げている。
◆サステナビリティプログラムの実施主体
サステナビリティプログラムの実施主体については、図3に示すとおり、29空港中14空港ではマネジメント担当スタッフが、8空港では複数の事業分野の代表者により構成される委員会が実施主体となっている。後者の場合は、サステナビリティの実現に向けたより広い視点からの検討が可能となるとともに、部門を横断した協働が促進されよう。
◆サステナビリティの定義
サステナビリティプログラムの計画と目標を明確にするためには、サステナビリティについて定義することが重要である。空港においては、サステナビリティの定義として、経済、社会、環境という3つの一般的な観点からのものに加え、4つ目として運用の観点からのものが必要であることは既報のとおりである *³。特に、小規模空港でのサステナビリティプログラムは、試行的な取組みから始まることが多いため、そのサステナビリティと構成要素に関する定義は包括的なサステナビリティプログラムのものとは大きく異なることも多い。調査対象空港では、以下にいくつか例を示すように、その状況に合わせて独自のものを策定している。
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イノベーションとサステナビリティを実現して、天然資源の節約、空港運用の効率化、旅客の利便性向上、地域への貢献を図る。 | |
・ | 環境にとって不利にならない方策を実施する。 | |
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地域に対して全国的な航空輸送システムへのアクセスを提供し、安全性、効率性、サステナビリティならびに財務のいずれの面においても適切な方法で空港を運営するとともに、将来のニーズに対応ができるように空港インフラを整備する。 | |
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経済、社会、環境面への配慮とサステナビリティの到達目標のバランスを将来にわたって確保する。 | |
・ | 以下に示す方策を実施する。 |
- | 環境への影響を最小限に抑える。 | |
- | サステナビリティ活動を日常業務に組み込む。 | |
- | 空港全体のパートナーと協力する。 | |
- | サステナビリティを有する設計・施工方法を採用する。 | |
- | アセットを長寿命化する。 | |
- | 地域社会と積極的に関わる。 | |
- | 業務を安全に実施できる環境を提供する。 | |
- | サステナビリティプログラムの進捗状況について報告する。 |
◆サステナビリティ計画に関する考慮事項
サステナビリティプログラムの構成要素には、理念の策定、計画の立案、設計・施工のガイダンスの作成、個別実施項目の選定、パフォーマンスのモニタリング方法の開発、マネジメントシステムの開発、レポートの作成といったものがある。
このうち、サステナビリティ計画は、サステナビリティを実現する上での課題を抽出し、空港全体における利害関係者を緊密に結びつけて、空港全体の最終目標ならびに実施項目とその目標についてコンセンサスを得る上で重要である。このサステナビリティ計画は、最終到達点ではなく、出発点であり、パフォーマンスを継続的に改善していく上での基盤となる。全体的なサステナビリティ計画でなくても部分的なものは実行できるが、全体的なものであれば実施項目の優先順位付けが適切に実施できることから、このほうが望ましいことは言うまでもない。
サステナビリティプログラムは、空港の経済、社会、環境および運用面に関する方策・実施項目についてのパフォーマンスを適切に管理し、継続的に改善することにより洗練されていく。最初に、サステナビリティ実現に向けた理念を決定し、計画を確立するための基盤としてその理念を用いてパフォーマンスを向上させるための実施項目を選定し、目標を設定する。次に、計画を実行する。そして、そのパフォーマンスをモニタして目標の達成度合いを確認し、未達の場合には是正措置を講ずる。さらに、その結果をレビューしてパフォーマンスを評価する。最後に、サステナビリティの理念と最終目標を再検証して、必要があれば、計画を修正して実施項目の選定と目標の設定をし直す。このサイクルを繰り返すことによってサステナビリティプログラムは継続的に改善されていくことになる。このアプローチは、PDCAR「計画 (Plan)‐実行 (Do)‐評価 (Check)‐改善 (Act)‐洗練 (Refine)」サイクルと称されている。各ステップの詳細は以下のとおりである。
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計画:サステナビリティの理念に基づいて、実施項目の優先順位付け・目標設定、パフォーマンスの評価を行うための体系的な方法を開発する。そのためには、潜在的なリスクとその改善機会を含めて、プログラムの対象について十分に理解する必要がある。 | |
・ | 実行:計画を実行する。選定した実施項目を実行して、空港の能力を向上させる。 | |
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評価:設定した目標の達成度合いを確認する。すなわち、主要な実施項目に関するパフォーマンスをモニタ・計測して、必要に応じて是正措置を講ずる。 | |
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改善:モニタリング結果に基づいてパフォーマンスと是正措置をレビューし、必要に応じて、計画を修正して、実施項目・目標を調整する。 | |
・ | 洗練:評価・改善のステップで得られた情報に基づいて計画を洗練されたものにする。 |
調査対象空港のほとんどではサステナビリティ計画を策定中ではあるが、計画の進捗状況に関する質問に対して回答のあった21空港のうち、6空港が全体的な計画を完了し、さらにはそのうち2空港だけが計画を実行済みとしているのが現状である(図4)。この場合、サステナビリティ計画を実行済みと回答した空港であっても空港ごとに計画の中身は異なっているが、少なくとも次の3点は共通している。
・ | サステナビリティの実現に向けた明確な最終目標の設定 | |
・ | それら最終目標の達成 | |
・ | パフォーマンスのモニタリングによる改善の継続 |
◆サステナビリティチームの構築
包括的なサステナビリティプログラムの計画には、空港管理者、テナント、コンサルタント、FAAの意見が反映される必要がある。特に、サステナビリティプログラムを成功させるためには、テナント、スタッフ、地域コミュニティといった利害関係者の積極的な関与が必要である。この場合、特定の個人や部門だけからではなく、さまざまな部門、組織等からアイデアや提案を求めることで、より確実かつ十分な情報に基づいた計画が策定できよう。
サステナビリティプログラムの計画策定に関与した部門・組織としては、図5に示すとおり、空港スタッフと外部専門家が多く (18)、次いでFAA (12)、テナント (10)、主要利害関係者により構成されるアドバイザ委員会 (9)となっている。委員会を設置している空港は、総じて、プログラム開発の初期段階からその計画と進捗等に関する意見を委員会に求めることが可能であることの優位性を挙げている。このほか、地域の大学を利用して学生に対して航空・空港に関する教育を施したり、地域コミュニティとの良好な関係を構築したりすることも重要であるとしている。
◆リソース
ほとんどの空港では内部にサステナビリティや環境に関する専門家がいないため、サステナビリティプログラムの計画・実行に際して外部からの情報提供を必要としている。具体的には、ACRPの出版物 (19)、ACI主催等空港に関する会議のプレゼンテーション・資料 (16)、FAAのサステナビリティ計画に関する報告書 (14)、SAGA (Sustainable Aviation Guidance Alliance)データベース (12)といったものを挙げている(図6)。中でも、空港に関する会議では参加者からさまざまな情報や有益なアイデアが得られ、特に小規模空港にとっては大規模な全国会議に参加するよりも地域会議のほうが有意義であるとしている。これは、コストを抑えられることに加え、同じような課題を共有する中小規模の空港からの参加者と交流できることがあるからであろう。
◆サステナビリティ活動のマネジメント
サステナビリティプログラムを成功させるためには積極的なマネジメントが必要で、特に、トップマネジメントからのサポートがリソースの確保やスタッフの意欲向上にとって不可欠である。マネジメントの方法は、さまざまなものがあり、すべての空港に適用できるものはない。それでも、主要な方法として、指標とベースラインを設定した上でパフォーマンスをモニタするもの (14)、サステナビリティの方策と優先度の高い実施項目のパフォーマンスに注目するもの (12)、実施項目の実行状況をモニタするもの (11)、パフォーマンスと目標達成度合いに注目するもの (8)を挙げている。
サステナビリティ活動のマネジメントを容易にするためには正確なデータが不可欠である。また、サステナビリティプログラムの進捗状況を見極めてその見直し等を合理的に実施するためにも、さまざまな方法によりデータを収集することが肝要である。調査対象空港は、注目しているデータとして廃棄物量 (13)、公共サービス利用料金 (11)、実施項目についての投資収益率 (9)といったものに加え、コミュニティ (8)・スタッフ (6)・テナント (5)からの情報も挙げている。
◆サステナビリティ計画策定のステップ
調査結果から、サステナビリティプログラムの計画を策定するためのステップは次のようにまとめられる。
・ | トップマネジメントからサポートを得る。 | |
・ | スタッフ、テナント、コミュニティ等の利害関係者に情報を提供し、参加を求める。 | |
・ | 優先項目を決定する。 | |
・ | 予算を決定して、資金を確保する。 | |
・ | 明確で達成可能な目標を設定する。 | |
・ | 計画を作成し、それを利害関係者に公表する。 | |
・ | パフォーマンスをモニタする。 | |
・ | パフォーマンスを評価して、必要に応じて目標を修正する。 | |
・ | 計画の進捗状況を利害関係者に公表する。 | |
・ | サステナビリティプログラムのマネジメントを継続的に実施する。 |
(注)
*¹ 空港をその規模により以下のように区分している。
・ | 大型ハブ空港:旅客数が全国旅客数の1%以上である空港 | |
・ | 中型ハブ空港:旅客数が全国旅客数の0.25~1%である空港 | |
・ | 小型ハブ空港:旅客数が全国旅客数の0.05~0.25%である空港 | |
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ノンハブ空港:旅客数が全国旅客数の0.05%未満かつ10,000人以上である空港 (以上は米国連邦法第49編第47102条 (US Code Title 49 § 47102)による) |
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・ | GA空港:定期便がないか、利用する航空機数が年間2,500機未満である空港 |
*² FBO (Fixed Base Operator、運航支援事業者)。GA空港において、空港管理者から運航、燃料、駐車場、格納庫等、航空関連サービスの提供が許可された事業者。
*³ 当コラム第45回「サステナブルエアポート (6)」。SAGA により取りまとめ。
参考資料
Lessons Learned from Airport Sustainability Plans, ACRP Synthesis 66, Transportation Research Board, 2015.
Sustainable Aviation Resources Guide, SAGA, 2009.
https://corpuslegalis.com/us/code/title49/definitions40
(続きは次回)