[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第46回 「サステナブルエアポート (7)」  ~2021.11.01~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

  

 今後回復から増加が期待される航空需要に対応するために必要となる空港のあり方について考察を進めています。前回一部紹介しました、SAGA (Sustainable Aviation Guidance Alliance)による「持続可能な航空リソースガイド」では、空港におけるサステナビリティプログラム策定時の留意事項として、サステナビリティチームの構築、具体的な取組み方法の決定、上位のサステナビリティプログラムへの統合について記述されています。今回は、このうち後の二つについてまとめた後、具体的なプログラムの例を二つ紹介します。

● サステナビリティプログラムの策定

◆具体的な取組み方法の決定
 空港のサステナビリティを実現するためには、サステナビリティプログラムを計画、実行、改善、そして維持するためのマネジメントシステムを構築することが肝要である。このマネジメントシステムではシステムを構成する個別要素の内容と意思決定機構が規定されており、これを使用することにより既存のビジネスおよび環境に関する方策と矛盾しないようにサステナビリティプログラムを策定できる。また、リソースの合理化、部門間の調整、利害関係者への関与も可能で、空港のサステナビリティに関するすべての活動の基盤となるガイドラインが確立できる。なお、マネジメントシステムは、スタンドアロンとすることも、環境や安全衛生等、既存のマネジメントシステムと統合することも可能である。
 サステナビリティマネジメントシステムのコンポーネントは下の図と表に示すとおりであり、このシステムのフレームワークは、目標の継続的な評価およびパフォーマンスと結果のモニタリングにより、プログラムの策定プロセスを強化するというものである。フレームワークの重要な部分は、結果に基づくフィードバックループの構築と空港全体の財務計画と予算・経営戦略の構築の二つである。
 ここに示したサステナビリティマネジメントシステムは、スケーラブルで柔軟性を有しているので、個々の空港の状況、ニーズおよびリソースに応じて変更することにより、最適なサステナビリティマネジメントシステムとすることが肝要である。これにより、サステナビリティへの取組み方針を整理し、実現に向けた方策を選定・モニタリングするプロセスを確立し、進捗状況を把握し、それぞれの作業を適切に行うことが可能となる。特に、リソースが限られている場合には、実施項目の優先順位付けが容易になる。
 このシステムの適用が難しい場合には、対象とする取組みに特化したものとしてプログラムを確立し、これを通じてマネジメントシステムの基本的な実施方法を経験し、将来的には空港の状況とリソースに応じた包括的なサステナビリティプログラムを構築することができよう。

 

図 サステナビリティマネジメントシステムの構成

 

表 サステナビリティマネジメントシステムの内容・成果

ステップ
内容
成果
サステナビリティ サステナビリティプログラムに参加する利害関係者を特定し、役割と責任を規定する。サステナビリティチームの情報共有計画を作成する。 組織図
役割と責任の規定
チームの構築 多様性のあるサステナビリティチームの構築をサポートする。 サステナビリティチームの情報共有計画
方針の策定 将来のサステナビリティ戦略の基盤となる、空港のサステナビリティに関する方針を策定する。 サステナビリティの方針
重点分野と目標の特定 上の方針に基づいて、空港にとって重要な課題が含まれている重点分野を特定する。この場合、すでにある課題を含めて目標を設定する。 重点分野のリスト
目標のリスト
初期評価の実施 現時点におけるサステナビリティ戦略の状況を評価する。そのために、主要業績評価指標 (KPI) を確立する。現在の状況、プログラムおよび主要項目を評価することにより、今後の方策を決定するためのベースラインを確立する。 サステナビリティの現状評価レポート
KPIの定義
方策の特定とランク付け 方針、目標、サステナビリティの現状評価結果を分析して、サステナビリティプログラムを推進するための方策を特定し、目標との整合性を評価する。そして、さまざまな基準に従って方策をランク付けする。 ランク付け基準のリスト
ランク付けした方策のリスト
目標の修正 重点分野と目標を再評価し、現状と方策の整合性をとるために目標を修正する。 修正した目標のリスト
実施項目の選定と目標の設定 方策のランクと修正した目標に基づいて、実施項目を最終的に決定する。計測単位と目標を設定する。 実施項目、計測単位と目標のリスト
実施・モニタリング計画の作成 選定した実施項目について、リソースを調整し、サステナビリティチームの役割と責任を決定し、進捗状況の評価方法を確立するために、実施計画とモニタリング計画を作成する。 実施計画
モニタリング計画
実施項目の実行 実施計画の承認を受けて、選定した実施項目を実行する。その内容は、ガイダンス、手順、標準、仕様やベストプラクティスの開発・改訂であり、その時期は提案・見積依頼、入札前・設計前、建設工事、運用・維持や調達といった様々な段階である。 実行チームとそのメンバーのリスト
サステナビリティ戦略
実施項目の実行による具体的な成果
パフォーマンスのモニタリング 設定した計測単位、目標とモニタリング計画に基づいて、目標の達成に向けたパフォーマンスを計測する。 毎月または3か月ごとの進捗評価レポート
プログラムの評価 進捗評価レポートを分析して、サステナビリティプログラムによる成果をサステナビリティ戦略と照合する。このフィードバックループを財務計画ならびに予算・経営戦略と組み合わせることにより、将来のサステナビリティ方策とビジネスパフォーマンスを適切に計画する。 半年ごとのプログラム評価レポート
修正必要項目のリスト
サステナビリティとビジネスパフォーマンスに関するレポート
進捗状況の報告 既存の広報活動と連携して、成果を中間目標と定期的に照合することにより、最終目標を達成する。 年次レポート
ウェブサイトの更新
プレスリリース

 

◆上位のサステナビリティプログラムへの統合
 空港の日常的管理・運用方法の改善に注目するだけでなく、空港のサステナビリティプログラムと地方、国、世界レベルのサステナビリティプログラム相互の関係性について考慮することも重要である。これにより、サステナビリティそのものに対する視野を広げ、リソースと専門知識を共有し、さらには方策の決定に有用となる情報も収集・共有できることになろう。また、空港のサステナビリティプログラムも、他のサステナビリティプログラムの進歩に貢献できることになる。たとえば、次の機関・組織とのコラボレーションを検討することが考えられる。
· 地方自治体、国や航空業界により構成された、サステナビリティの全体または一部(気候変動、都市開発、交通、水資源、エネルギー管理、資材・リソース等)を活動対象とした組織
· 地域のビジネスグループやコミュニティ
· 新技術の開発に関係する産業(再生可能エネルギー、舗装技術、代替燃料等)
· 地域の運輸交通機関
· 都市計画関係機関・組織
· 地域・国の環境関係機関・組織
· 地域のトレーニングや教育機関・組織
· サステナビリティに関係する研究機関・組織やNGO

●サステナビリティプログラムの例

以下に示す二つの例はサステナビリティマネジメントシステムの実行事例である。最初(例1)は、サステナビリティプログラムを試行する場合に使用できる程度の小規模なプロジェクトの例である。すなわち、リサイクルプログラムを構築するというサステナビリティ戦略である。次(例2)は、上記のサステナビリティマネジメントシステムを適用した、包括的なサステナビリティプログラムの例である。

◆例1 地方空港におけるリサイクルプログラム
 リサイクルはコミュニティやテナントによって重要な問題として認識されており、特定の物品・材料については使用規制も検討されている。また、廃棄処分より大幅なコスト削減も期待できる。サステナビリティプログラムはこのリサイクルに重点を置いたものである。

 

表 リサイクルを対象とした空港のサステナビリティプログラムの例

ステップ
内容
成果
サステナビリティチームの構築 理事長は環境部門から選出されており、運営委員会のメンバーは複数の部門から選出されている。なお、アドバイザ会議は設けられていない。 サステナビリティチームの構成
・理事会:サステナビリティ戦略と空港運営に関与しているスタッフ
・運営委員会:旅客ターミナルビル担当者、廃棄物運搬会社担当者、ターミナルとオフィスの廃棄物処理担当者
方針の策定 理事会は、運営委員会との合同会議を開催してリサイクルプログラムの方針について検討する。具体的には、空港におけるリサイクル率を最大化すること、地域のリサイクル戦略に参加することである。 運営委員会によるリサイクル方針の作成
重点分野と目標の特定 理事会と運営委員会の会議において、リサイクルプログラムを成功させるために必要となる重点分野を特定する。また、リサイクルについてコミュニティに対する約束を含んだ戦略的な目標も策定する。 重点分野と目標
・リサイクルの対象物:紙、段ボール、プラスチック等
・実施要領の策定:リサイクル可能物の収集・処分に関する実施要領の策定
・コミュニティに対するアウトリーチ:空港利用者に向けたリサイクルプログラムの公表
初期評価の実施 現時点における廃棄物の種類と量を評価する。理事会は、廃棄物の搬出状況を確認し、その量と処理費用をまとめることから評価を開始する。また、ターミナルマネージャ・スタッフに対するインタビューも行う。ターミナルとオフィスの廃棄物の詳細を確認して、廃棄物処理のプロセスを評価する。 現状評価の内容
・廃棄物処理費用の評価
・ターミナルマネージャ・スタッフへのインタビュー
・廃棄物処理プロセスの評価
方策の特定とランク付け 理事会はリサイクルの現状を評価し、リサイクルプログラムの実施方法について検討を始める。運営委員会との会議を開催して、プログラムの内容について検討する。プログラムの実施方法には、対象物ごとのリサイクル方法と収集方法、地域のリサイクル戦略への参加といったものが含まれる。
方策については、重点分野・目標との整合性について評価して、必要に応じて修正を加える。ランク付け基準を設定して、それに基づいて各方策のスコアの決定と優先順位付けを行い、方策の選定について空港管理者に対してアドバイスを与える。
ランク付けの基準
・環境面での利益
・社会的利益
・財務的インセンティブ
・人的有用性
・技術的実現可能性
目標の修正 廃棄物処理とリサイクルに関する現状と改善方法について十分に理解し、それに基づいて重点分野と目標を見直す。運営委員会は、評価結果を提示し、重点分野と目標の修正についてコンセンサスを得る。 修正した目標
・リサイクルの対象物:紙、段ボール、アルミニウム、プラスチック、ガラス
・実施要領の作成:リサイクル可能物の収集・処理方法の確立
・コミュニティへのアウトリーチ:空港利用者に対するリサイクルプログラムへの参加方法の提示
・トレーニング:スタッフにトレーニングを実施して、不要物の収集・廃棄プロセスを確実に実施
実施項目の選定と目標の設定 理事会と運営委員会は、方策の優先順位に基づいて、翌年実施すべきものを選定する。方策を実施項目として具体化し、それぞれの目標を設定する。この場合、目標を適切に設定するために、現時点の業界標準についてベンチマーク調査を実施して、ベースラインとベンチマークを設定する。 実施項目と目標
・リサイクル対象物:リサイクルにより、2008年の廃棄物量の25%に相当する分の廃棄物を2011年までに削減
・実施要領の作成:リサイクル可能物の収集と処分に関する実施要領を2010年までに確立
・コミュニティへのアウトリーチ:リサイクルプログラムに関する掲示物を10個設置
・トレーニング:廃棄物処理と空港業務のスタッフに対するトレーニングを6か月ごとに実施
実施・モニタリング計画の作成 実施項目について、リソースを特定し、作業を合理化するためにアクションプランを作成する。アクションプランには、実施項目、優先順位、責任者、成果物、リソースのニーズ、調整の必要性、スケジュール・中間目標を記述する。アクションプランの進捗状況を適切に評価し、情報の収集・記録を適切に行えるようにモニタリング計画を作成する。 アクションプランの構成
・実施項目
・優先順位
・責任者
・成果物のリスト
・リソースのニーズ
・調整の必要性
・スケジュールと中間目標
実施項目の実行 アクションプランを実行する。理事会はすべての実施項目を監督する。 なし
パフォーマンスのモニタリング 理事会と運営委員会は、3か月ごとにアクションプランについてその進捗状況を確認して、必要に応じて調整する。 なし
プログラムの評価 理事会は、半年ごとに進捗状況に関するレポートを分析し、リサイクルプログラムの変更の必要性について判断する。変更が必要な場合、その内容については、運営委員会が検討する。
リサイクルプログラムの導入による処理費用の低減等のコスト削減状況を定量化する。このコスト削減は年間の財務・予算計画に一体化される。
変更必要事例
・プログラムのオフィスセンターまでの拡大:リサイクル目標の達成に必要となった場合にリソースを直ちに割り当て
・コスト削減評価レポート:リサイクルプログラムによるコスト削減に関するレポートを空港管理者へ提出
進捗状況の報告 理事会はプログラム開始の1年後に進捗状況に関するレポートを作成し、必要に応じて運営委員会による修正を経た後、空港管理者に報告する。ウェブサイトを通じてリサイクルプログラムの進捗状況を定期的に公表する。 報告・公表状況
・空港管理者への年次レポート
・ウェブサイトの更新

 

◆例2 大規模空港におけるサステナビリティプログラム
 空港の管理と運用に関する業務のサステナビリティを改善するためには、サステナビリティプログラムの確立が肝要であると認識されている。このサステナビリティプログラムは包括的なものである。

 

表 包括的な空港のサステナビリティプログラムの例

ステップ
内容
成果
サステナビリティチームの構築 サステナビリティチームは、理事会、アドバイザ会議、運営委員会、実行チームにより構成されている。それぞれの役割と責任を明らかにした上で、メンバーが各部門から選出されている。 サステナビリティチームの構成
・理事会:サステナビリティ戦略と空港運営に関与しているスタッフ
・アドバイザ会議:空港管理者、航空会社、コミュニティ
・運営委員会:委員長、部門長、サステナビリティ戦略担当者、投資計画担当者、コンサルタント
方針の策定 理事会は運営委員会との合同会議を開催して、サステナビリティに関する方針を決定する。この場合、アドバイザ会議における検討を経る必要がある。 方針
・アドバイザ会議による評価・承認
重点分野と目標の特定 理事会と運営委員会の会議では、方針について詳細な検討を行い、最も重要な重点分野を特定する。次に、各重点分野における目標を設定する。 重点分野と目標
・エネルギー:エネルギー需要の抑制
・コミュニティ:地域説明会参加者数の増加
・水:飲用水使用量の抑制
初期評価の実施 サステナビリティに関する活動の現状について評価する。理事会は、現時点におけるサステナビリティ活動に関する情報収集を開始し、活動の進捗状況を計測するためにKPIを決定する。この評価には、施設、運用、メンテナンス・工事等の各部門が対象となる。その結果をサステナビリティ評価レポートとしてまとめる。 KPI
・乗客一人当たりの電力使用量
・説明会参加者数
・乗客一人当たりの水使用量
方策の特定とランク付け 理事会はサステナビリティに関する現状評価を行い、サステナビリティプログラムの改善が必要な事項について検討する。この場合、主要な利害関係者と協議することにより、アイデアや改善方法についての情報が得られよう。
サステナビリティプログラムを推進するための方策については、改善必要事項を重点分野ならびに目標の観点から検討して、調整する。ランク付け基準を設定して、それに基づいて各方策のスコアの決定と優先順位付けを行い、方策の選定について空港管理者に対してアドバイスを与える。
ランク付けの基準
・環境面での利益
・社会的利益
・財務的インセンティブ
・人的有用性
・技術的実現可能性
目標の修正 サステナビリティに関する現状と改善方法について十分に理解し、それに基づいて重点分野と目標を見直して、修正する。運営委員会は、評価結果を提示し、重点分野と目標の修正についてコンセンサスを得る。 修正した目標
・エネルギー:効率化によるエネルギー消費量の削減
・コミュニティ:説明会参加者数の増加
・水:水使用量の削減
・持続可能な設計と工事:持続可能な設計と工事の基準の作成と実施
実施項目の選定と目標の設定 理事会と運営委員会は、方策の優先順位に基づいて、翌年実施すべきものを選定する。方策を実施項目として具体化し、それぞれの目標を設定する。この場合、目標を適切に設定するために、現時点の業界標準についてベンチマーク調査を実施して、ベースラインとベンチマークを設定する。
ベースライン値が得られなかった場合には、基準について再検討し、フォローアップ会議においてベースラインとベンチマークを設定する。
実施項目と目標
・エネルギー:5年後までに乗客1人あたりのエネルギー消費量を25%削減
・コミュニティ:翌年の説明会参加者数を20%増加
・水:1年後までに水使用量を10%削減
・設計と建設工事:2年後までにプロジェクトの90%においてサステナビリティを確保した設計・工事基準を策定
実施・モニタリング計画の作成 実施項目について、リソースを特定し、作業を合理化するためにアクションプランを作成する。アクションプランには、実施項目、優先順位、責任者、成果物、リソースのニーズ、調整の必要性、スケジュール・中間目標を記述する。アクションプランの進捗状況を適切に評価し、情報の収集・記録を適切に行えるようにモニタリング計画を作成する。 アクションプランの構成
・実施項目
・優先順位
・責任者
・成果物のリスト
・リソースのニーズ
・調整の必要性
・スケジュールと中間目標
実施項目の実行 アクションプランを実行する。理事会はすべての実施項目を監督する。 なし
パフォーマンスのモニタリング 理事会と運営委員会は、3か月ごとにアクションプランについてその進捗状況を確認して、必要に応じて調整する。 なし
プログラムの評価 理事会は、2年ごとに進捗状況に関するレポートを分析し、サステナビリティプログラムの変更の必要性について判断する。変更が必要な場合、その内容については、運営委員会が検討する。
現行のプログラムを評価して、必要に応じて改善事項を追加する。毎年改善事項を再評価して、実施項目を追加する。
サステナビリティプログラムの導入によるコストの削減ならびに追加分を定量化する。コストに関する情報は空港管理者に報告され、空港全体の財務・予算計画に一体化される。
変更必要事例
・プログラムのオフィスセンターまでの拡大:水使用量目標の達成に必要となった場合にリソースを直ちに割り当て
・方策の更新:2年ごとに方策のリストを更新、追加実施項目を選定
・コスト評価レポート:サステナビリティプログラムによるコストの削減・追加分に関するレポートを空港管理者へ提出
進捗状況の報告 理事会は進捗評価レポートを作成し、必要に応じて運営委員会・アドバイザ会議による修正を経た後、空港管理者に報告する。ウェブサイトを通じてサステナビリティプログラムの進捗状況を定期的に公表する。 報告・公表状況
・サステナビリティに関する年次レポート
・ウェブサイトの更新
・定期的なプレスリリース

 

参考資料
Sustainable Aviation Resources Guide, SAGA, 2009.

(続きは次回)

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