[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第45回 「サステナブルエアポート (6)」  ~2021.9.01~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

  

 今後回復から増加が期待される航空需要に対応するために必要となる空港のあり方について考察を進めています。前回までにACI EUROPEによるサステナブルエアポート実現に向けた戦略についてまとめましたが、今回と次回の2回でSAGAによる「持続可能な航空リソースガイド」を紹介します。

● 空港のサステナビリティ

 「持続可能な航空リソースガイド (Sustainable Aviation Resource Guide)」は、空港の持続可能性(サステナビリティ)に関するハンドブックとして、SAGA (Sustainable Aviation Guidance Alliance)*1により2009年に発表された。このとき、同時に、900種類を超える持続可能性実現戦略の具体策(サステナビリティイニシアチブ)に関するオンラインデータベースも発表されている。いずれも、サステナビリティイニシアチブを特定し、サステナビリティプログラムを作成、維持、強化するためのプロセスの開発に関するSAGAの活動の成果である。

◆サステナビリティの必要性
 空港では、サステナビリティの実現に向けていろいろな取組みを実施している。その理由の1つとして、サステナビリティに関する法律・条例が整備され、空港等の交通機関を始めとする公共機関に対してサステナビリティの実現が強く要求されていることが挙げられる。これらの法律・条例では、公共機関がサステナビリティプログラムを開発して、その運用とインフラ関連プロジェクトに取り込む必要のあることが規定されている。また、これ以外にも、空港を管理する上ではサステナビリティがコミュニティと環境に利益をもたらすだけでなく、ビジネスとしても成り立つということを空港自体が認識して、サステナビリティプログラムの採用・実施に取り組んでいる。
 サステナビリティの実現に向けた取組みを進めている具体的な理由には次のようなものがある。
· 世界的な意識の高まりと世界経済の状況
· 航空業界の財政難
· エネルギコストの上昇
· 自然と環境に関する空港の責務
· 天然資源の減少
· インフラの老朽化
· インフラのメンテナンスコスト
· 技術の発展
 多くの空港では、包括的なサステナビリティプログラムを実施しているとまではいえないものの、サステナビリティプログラムに含まれている個別方策を実施している。たとえば、「地元での調達」、「リサイクル」、「建設資材の備蓄と再利用」、「空港でのショッピング」等である。これらは、サステナビリティの定義に適合する方策であり、適切に文書化することがサステナビリティプログラムの構築につながる。

◆サステナビリティの定義
 サステナビリティプログラムの策定に着手する場合は、まず対象空港のサステナビリティを定義する必要がある。これは、プログラムを策定・実施する上での基盤を確立するための最初の重要なステップとなる。
 サステナビリティは空港のコミュニティと環境に関連づけて定義することが必要である。そのためには、コミュニティから様々な情報を入手するとともに、サステナビリティプログラムへの参加を求めることが重要で、これによりコミュニティもサステナビリティプログラムに対する責任を有する形となって、実効性のある方策の作成・実施が可能となろう。
 サステナビリティの定義としてはいろいろなものが提案されているが、広く受け入れられているものは、1987年に国連の環境と開発に関する世界委員会*2が示した、「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズを満たす発展」というものであろう。空港に関しては、SAGAがTRB、ACI等の定義を踏まえて取りまとめている。
 TRB(Transportation Research Board、 米国運輸交通研究会議)は、「空港におけるサステナビリティの実践 (Airport Sustainability Practice)」と題する報告書で、空港のサステナビリティを「空港管理に適用できるさまざまな方策を包含する一般的な用語」と定義して、次のような目標を達成する方法について取りまとめている。
· 天然資源の保全を含む、環境の保全
· すべての利害関係者のニーズに対応できる社会の実現
· 安定した高水準の経済成長と雇用の維持
 また、ACI北米部門のサステナビリティ委員会は、空港の運用を組み込むことによりTRBのものを一歩進め、「空港の経済的な継続性、運用の効率性、天然資源の保全性と社会的責任 (EONS)*3を確保するために必要な空港マネジメントへの包括的な取組み」と定義している。
 SAGAは、サステナビリティへの取組みは空港によって異なるものとならざると得ないことから、空港とコミュニティの特性を考慮してサステナビリティを定義すべきとしている。とはいえ、トリプルボトムラインにおける不可欠な要素、すなわち、経済成長、社会的責任、環境マネジメントを組み込むこと、さらには空港の運用を含めることが肝要であるとしている。
 以上のように、サステナビリティについては各空港が独自に定義して、サステナビリティプログラムを開始することになるので、その必要性について、空港の運用とインフラ整備に関わる部門ならびに空港管理者・スタッフ・理事会、地方自治体、テナントおよびコミュニティ全体が理解することが肝要である。そのためには、透明性を持ってサステナビリティを定義する必要がある。

◆サステナビリティのメリット
 サステナビリティプログラムに取り組むメリットとしては、空港の運用のスリム化と運用・メンテナンスコストの削減による競争力の向上が挙げられる。サステナビリティプログラムの内容は、エネルギー消費、環境への影響、インフラ全体のライフサイクルコストを含め、広範囲に渡っている。具体的なプログラムの内容は次のようなものである。
· アセットの効果的・効率的な利活用
· 環境負荷の低減
· テクノロジーの最適化
· インフラ整備に関わるコストの削減
· 債券格付けの改善
· コミュニティが受けるメリットの向上とコミュニティからのサポートの強化
· スタッフの業務環境の改善による生産性の向上
· 環境、健康、安全に関するリスクの低減
 サステナビリティプログラムの実施によりもたらされるメリットについては、次のとおりいろいろな空港が注目している。
· シカゴ・オヘア空港
 サステナビリティへの取組みは、空港の環境に対するインパクトを軽減するために重要なものであると同時に、空港自体にとっても財務ならびに運用上のメリットを有するものである。現在および将来の世代の生活の質を向上させるために、可能な限り環境的、社会的、財務的に優れている、責任のある方策を取り入れる必要がある。
· ロサンゼルス空港
 サステナビリティプログラムを実施することにより、空港が作られた環境 (built environment)*4に及ぼす影響を最小限に抑えるよう取り組んでいることを明らかにできる。コミュニティにサステナビリティプログラム策定の早い段階で参加を要請することが肝要である。
· ナポリ空港
 サステナビリティプログラムの実施により、コミュニティに対して責任を果たすことに留意している。ホームページ上でプログラムを公表して、パブリックコメントと建設的な意見を求めている。
· フェニックス空港
 サステナビリティに関する認識が高まった結果として、エネルギー消費量はこの1年間で7%減少できている。また、旅客ターミナルビルのアップグレードにより25万ドル以上のコスト削減も達成できている。機械・照明システムのイノベーションによりさらなるエネルギー消費量の削減が可能と考えている。
· アイオワ州ドゥビューク空港
 サステナビリティはコミュニティにおける最優先事項であり、サステナビリティプログラムの実施は経済、社会そして環境面で利益をもたらすと認識している。具体的には、旅客ターミナルビルにおけるエネルギーと水の消費の効率化、透水性舗装の採用等に取り組んでいる。
 サステナビリティプログラムの実施に際しては、それによる空港の運用とインフラの整備におけるメリットを具体的に示すことが重要である。たとえば、テナントはそれ自体の運営やメンテナンスに関するコストを削減できることになるが、この点について教育やコラボレーションを通じてテナントから理解を得ることが肝要である。サステナビリティプログラムの実施に際してはテナントの積極的な協力や関与が欠かせないものであり、それが成功のためのポイントとなる。

◆サステナビリティの計測方法
 サステナビリティは、空港自らが作成したり他の機関・組織により作成されたりした規準に基づいて計測・定量化できる。これにより、ベースラインの決定、パフォーマンスの傾向の特定、課題の予測、実施方策案の評価、パフォーマンス目標の設定、プロジェクトや空港組織の評価が可能となる。
 サステナビリティの計測に関する一般的な規準としては、米国ビルディング協会 (USGBC)によるもの*5やGRI (Global Reporting Initiative)によるもの*6がある。空港の場合は前者、すなわちLEEDプログラムを採用していることが多い。これによりプロジェクト全体のサステナビリティについて包括的に評価できる訳ではないが、プログラムを構成するコンポーネントの多くが空港インフラの設計・施工に適用できるため、各空港は必要に応じてコンポーネントを選択した上で、独自のサステナビリティについてのガイドラインと計測単位を作成している。

●サステナビリティプログラムの策定

◆サステナビリティプログラムへの取組み
 規模や所在地域によらず、空港ではサステナビリティプログラムを策定・実施することにより、環境的、社会的、経済的なメリットをもたらすことができる。サステナビリティプログラムは、空港によって異なることが当然であり、空港ごとにその運用状況とリソースに基づいて策定することが必要である。
 空港のサステナビリティプログラムを策定するときに留意すべき事項としては、次のものが挙げられる。
· サステナビリティチームの構築
 サステナビリティプログラムを作成、実施、改善そして維持するときには、サステナビリティについての認識を空港コミュニティで共有することが重要である。空港組織のすべてのレベルにおいてサステナビリティプログラムについて理解し、受け入れる必要がある。
· 具体的な取組み方法の決定
 サステナビリティプログラム策定に向けた取組みの方法は、短期的および長期的な目標の特定、目標を達成するための実施項目の優先順位付け・選定、そして進捗状況の計測・評価・報告のプロセスの確立という要素により構成される。
· 上位のサステナビリティプログラムへの統合
 空港のサステナビリティの策定に際しては、地方、国そして世界レベルにおける他のサステナビリティプログラムとの間の相互関係について考慮する必要がある。これにより、サステナビリティは空港全体のビジネスモデルに反映され、空港が社会全体に与えるインパクトに影響を及ぼすことになる。
 サステナビリティに対する取組みを組織的な方法で行うことは極めて重要である。サステナビリティプログラムは、慎重に計画することはもちろんであるが、進捗状況を正確に計測できるようなアプローチを用いることにより、成功を収めることができよう。
 サステナビリティプログラムを実施するためのリソースは、大規模空港だけが有している訳ではなく、規模の小さい空港も、すべてとは言えないまでも、有しているので、あらゆる空港においてその状況とリソースに応じたサステナビリティプログラムの構築が可能である。また、サステナビリティは、最終目標ではなく、プロセスと捉えることが肝要であり、サステナビリティプログラム自体が、利用可能なリソースに応じて容易に調整・改善できるものでなければならない。

◆多様性のあるサステナビリティチームの構築
 サステナビリティプログラムを成功に導くためには利害関係者の参加が不可欠である。空港の全部門と、地方自治体、テナント、周辺地域、航空会社、コンサルタント等のコミュニティ・利害関係者が一体となった、多様性のあるチームを構築することにより、さまざまな視点からの検討が可能となるとともに、プログラム策定、方策・コラボレーションの実施に対するモチベーションの向上がもたらされよう。また、チームの縦・横両方向、すなわち部門のトップダウン・ボトムアップ方向と横断的方向からみて統合されている、サステナビリティプログラムを確立することも可能になる。
 サステナビリティチームでは、適切なメンバーが適切に活動できるようになっている必要がある。サステナビリティチームの組織と役割・責任は下の図と表に示すようなものである。メンバーの説明責任を明確にし、また、メンバー全員が進捗状況を把握できるように、サステナビリティチームの情報共有システムを確立する必要がある。

 

 

注)
*1 SAGA (Sustainable Aviation Guidance Alliance) は、サステナビリティプログラムの計画、実施、維持をサポートするために航空関係者により2008年に設立されたボランティア組織。当時、多くの空港が個々にサステナビリティプログラムやインフラの設計・施工に関するガイドラインの開発・改善を始めていたが、これらの取組みの多くが重複しており、また独自のプログラムを作成するためにはリソースが不足している状況にあった。そこで、それらのリソースをまとめて、すべての空港が利用できる形での包括的なサステナビリティに関するリソースを作成すべく、SAGAが設立されている。
*2 環境と開発に関する世界委員会 (World Commission on Environment and Development, WCED)は、人間環境の悪化と天然資源の減少、そしてそれらが経済と社会へ及ぼす影響に関する懸念の高まりに対処するため、1983年に国連に設置された。委員長であるブルントラント (Brundtland)・ノルウェー首相(当時)の名をとってブルントラント委員会とも呼ばれる。
*3 EONSは、包括的な空港管理を実施するために必要となる、経済的・生態学的・社会的要素に運用効率を加えた4項目 (Economic viability, Operational efficiency, Natural resource conservation and Social responsibility)の頭字語。
*4 作られた環境 (built environment)は、人々が日常的に生活し、働き、そして休養する建造物・空間を含む人工的空間。構築環境。建造環境。
*5 米国グリーンビルディング協会 (U.S. Green Building Council,USGBC)が開発した、LEED(Leadership in Energy & Environmental Design、エネルギー・環境設計におけるリーダーシップ)プログラム。インフラの新設や補修に関する設計・施工の性能評価認証システム。
*6 GRI (Global Reporting Initiative)が開発した、GRIスタンダード。第41回コラム「サステナブルエアポート(2)」参照。

 

参考資料
Sustainable Aviation Resources Guide, SAGA, 2009.
Airport Sustainability Practice, Airport Cooperative Research Program (ACRP) Synthesis 10,TRB, 2008.
Karen Roof & Ngozi Oleru. Public Health: Seattle and King County’s Push for the Built Environment, J. Environmental Health, Vol. 71, No. 1, 2008.

 

http://www.airportsustainability.org/

(続きは次回)

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