八谷 好高 客員研究員(SCOPE)
今後回復から増加が期待される航空需要に対応するために必要となる空港のあり方について考察を進めています。今回は、サステナブルエアポート実現に向けた戦略として経済的インパクトに対するものについてまとめます。
◆経済発展
空港は、言うまでもなく、その所在する地域や国の経済発展の原動力となっている。たとえば、2015年の時点でヨーロッパにある空港は合計で1,230万人の雇用*1 を生み出している。また、空港によって提供される空のコネクティビティ*2 は国内総生産 (GDP)と密接な関係があり、コネクティビティ指数が10%増加すればGDPは0.5%増加する。このことは、COVID-19終息後においては、空のコネクティビティを回復することが重要であることを示している。
経済発展に関する持続可能性実現までのルートは、バランスの取れたビジネスモデルを追求しながら、経済的インパクトを評価してそれを高めるためのアクションプランを実施することに焦点を当てている。イノベーションとパートナーシップのイネーブラー(目的達成手段)は、スタッフのトレーニングや就業・雇用プログラム等のイニシアチブ(具体策)と、サプライチェーンにおける空港周辺地域、地方自治体や自国のサービス・製品の使用を促進するための方策に焦点を当てている。後者の場合、空港は大口のバイヤー(サービス・製品の購入者)としてだけでなく、多くの潜在的なサービス・製品の供給者・購入者を対象としたビジネスハブとしての役割を果たす必要があるからである。たとえば、地元のサプライヤーを対象として、空港ビジネスに関わることが可能となるように自社の製品やサービスを紹介できるイベントの開催といったことも考えられよう。
COVID-19により多くの空港とそのパートナー企業・組織はスタッフを一時解雇したり一時帰休させたりせざるを得ない状況に陥っている。このような極端な場合を別にしても、現在、空港には運営コストの削減に加え、デジタル化、自動化等も求められており、空港は長期的にみると既存業務の一部が不要となって、スタッフの雇用に影響が出かねない状況となっている。これに対処するためには、より質の高いサービスを旅客・来訪者等に提供して、スタッフの雇用を維持し、可能な場合は増加することが必要となる。この場合、新技術関連の新事業創出支援プログラムやスタッフのスキル向上プログラムは、利害関係者と協働して実施できるイニシアチブの例である。
このほか、派生的雇用を増加できる方策を採ることにより、デジタル化と自動化が経済に与える負のインパクトを小さくできよう。また、空のコネクティビティを高めることにより、他のセクターの経済活動をサポートでき、その結果として、雇用の増加ももたらされよう。
◆サプライチェーン
空港では、多くの場合、空港自体のスタッフをはるかに超える数のサプライヤーや事業者のスタッフが業務を担当しているので、人権、社会、環境等に関しては、空港よりもサプライチェーンのほうが非常に大きいリスクを有している。サプライチェーンは、これらのリスク、具体的には、人権侵害、公正な労働慣行、環境変化等、多くの重要な課題に直接関係しており、空港の持続可能性を実現する上で最も重要な要素の一つになっている。このような課題については、空港はバイヤーとしての影響力を行使して、所定のパフォーマンス基準を満たすサプライヤーを特定したり、パフォーマンス基準を満たす製品・サービスの調達金額をモニターしたりすることによる対応が可能である。現に、一部の空港では、ラベルを付与することにより製品の調達金額を把握できるようにしている。
サプライチェーンに関する持続可能性実現までのルートは、サプライチェーンにおけるホットスポット、すなわち調達金額とリスクに基づいて最も重要なサプライヤーとそのカテゴリーを特定することから始まる。特定されたホットスポットについては、サプライヤーのパフォーマンスに関するデータを収集するとともに、入札時に持続可能性について評価することが必要となる。この場合、サプライチェーンについて空港が関与する範囲を広げ、下請け業者のパフォーマンスについても影響を及ぼすことができるようにする必要がある。サプライヤー向けの行動規範の策定は、コンプライアンスの評価と持続可能性の実現のための重要な要素である。また、サプライヤーや事業者の社会的および環境的リスクを特定することは、イネーブラーの策定にとって重要である。
◆観光地
海外旅行客は、1950年の2,500万人から2030年までには18億人に増加すると予測されており、観光・旅行セクターは、直接的、間接的、誘発的インパクトを含めると、2016年には世界全体のGDPの約10%を占めている。
その反面、オーバーツーリズム、いわゆる観光公害は、観光がその対象地域に与えるインパクトに関係しており、住民と観光客の両方に負のインパクトを与えている。オーバーツーリズムの課題に取り組み、持続可能な観光を促進するためには、都市インフラの改善、地域コミュニティとの関係の改善、観光客の分散等、多くの方策が考えられる。これらの方策は、観光の量的および質的特性(成長性、持続可能性等)のみならず、空港の役割にも影響を及ぼす。たとえば、空港は、旅客に対して持続可能性に関する意識を高め、観光の目的地や行動について考えさせることも可能であろう。このほか、公共政策としても、主要な利害関係者間の交流、民間部門の活用および観光部門と非観光部門の間の協働を促進するような方策が必要となろう。
観光地に関する持続可能性実現までのルートは、対象地域の観光の状況と観光に対する空港の役割の評価、持続可能な観光を実施するためのイニシアチブの開発、主要な利害関係者とのパートナーシップの構築、そして成果の達成度の定量化に焦点を当てている。パートナーシップのイネーブラーは、効果的な公共政策を策定するための、国や地方自治体、他の企業、NGO等との連携に関連している。
◆インターモーダル性
インターモーダル性*3 は、経済、社会、環境面での改善につながる可能性があるため、バランスの取れたビジネスモデルを策定・実施する上で重要な要素である。前述した空のコネクティビティは、航空輸送に関係するものであるが、他の輸送モードと空港へのアクセスにも当然関係する。すなわち、空港へのアクセス方法を多様化することで、空港の影響の及ぶ範囲が拡大して、それらの地域やコミュニティに対して空港が社会的および経済的利益をもたらすようにできる。それと同時に、空港自体のビジネスも強化できる。また、環境の点からみても、炭素排出量が比較的少ない鉄道等の交通手段の利用を促進することにより、航空機による旅行・移動が気候変動へ及ぼす影響を小さくできる。
インターモーダル性は、旅客の満足度を高め、また貨物のハンドリングを効率的に行う上で重要な要素でもある。インターモーダル性のメリットを生かすためには、統合的ソリューションの実現、たとえば発券、チェックイン、バゲージハンドリングの統合が欠かせないが、それぞれのシステムについてもさらに開発・整備を進める必要がある。また、空港へのアクセスのしやすさはスタッフの満足度にも大きな影響を与えよう。
インターモーダル性に関する持続可能性実現までのルートは、空港へのさまざまなアクセス方法を評価し、改善するための方策を特定することから始まる。その結果として得られるインターモーダル性の改善方策は、地域コミュニティにも利益をもたらすことになろう。この場合のイネーブラーは、革新的なテクノロジーの研究・開発に焦点を当てている。
注)
*1 雇用形態には次の4種類がある。
· 直接雇用:空港自体ならびに空港とその周辺地域内の企業等による雇用。空港の運営と管理に関連している。
· 間接雇用:空港の運用をサポートしている企業等による雇用。卸売業者、機内ケータリング用食材の供給事業者、航空燃料の製造事業者等。
· 誘発雇用:空港関連企業等のスタッフによるサービス・製品等の購入に関連する雇用。食品の購入、飲食、育児・医療サービス、住宅改修等。
· 派生的雇用:空港以外の経済セクターによる雇用。貿易、観光、投資等。
*2 空のコネクティビティは、国際航空運送協会(International Air Transport Association, IATA)によるコネクティビティ指数 (Connectivity Index) 等により定量化可能である。この場合、対象空港により提供される航空機便数と座席数の加重平均として定義されている。
参考資料
Sustainability Strategy for Airports, ACI EUROPE, 2019
Sustainability Strategy for Airports, Second Edition, ACI EUROPE, 2020
Air Connectivity - Measures the connections that drive economic growth, IATA
InterVISTAS: Study on the Economic Impact of European Airports, 2015
https://www.berlintxl.de/en/service/glossary/detail/intermodality.html
https://www.eltis.org/glossary/intermodality
(続きは次回)