[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第4回 「永久舗装 (その2)」  ~2014.11.1~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

永久舗装 (その2)

永久舗装の表彰

 APAは、2001年以来、次の規準を満たすアスファルト舗装を永久舗装として表彰しています。

● 35年以上構造的破壊がない

● アスファルト混合物を表層と基層に用いている

● 35年以上にわたって10cm以上の増厚となる補修がない

● 平均補修間隔が13年以上である

● 区間長が3km以上である(道路の場合)

  2001年以来2013年までに、93のプロジェクトが永久舗装として表彰されています。2013年は8件が表彰を受けており、それらのカテゴリは州間高速道路 (Interstate Highway) から市町村道・街路 (Municipal Roadway/Street) まで多岐にわたっています。このうち、市町村道・街路は1977年に建設されて以来何ら維持補修がされていないオクラホマ州タルサ市 (City of Tulsa) の街路で、市町村道・街路のカテゴリとしては初めてのものです。 これまでに表彰を受けたプロジェクトの大半は道路舗装ですが、空港も数件含まれています。そのうちの一件は、2002年に表彰を受けた首都ワシントンDCの第三の空港として位置付けられているボルチモア・ワシントン国際空港 (Baltimore Washington International Airport、BWI) です。BWIは、Friendship International Airportとして1950年に開港され、その後1973年にボルチモア・ワシントン国際空港と改称されました。現在では、長さ3,201m、2,896m、1,829m、1,524mの4本の滑走路(アスファルト舗装)を有し、旅客数22百万人、離着陸回数28万回、貨物取扱量11万トンの輸送実績があります(2011年)。

  表彰の対象となった舗装は、最も短いもの以外の3本の滑走路、それらとエプロンをつなぐ連絡誘導路のアスファルト舗装です。1949年に建設された滑走路の舗装の構成は、下から30cm厚の砂利路盤、骨材に砂利を用いた25cm厚のアスファルト混合物層、表層である4cm厚のアスファルト混合物となっています。その後、1964年には2.5cm厚のレベリング層(厚さ調整用)と4cm厚の表層が、1973年には5cm厚のレベリング層と5cm厚の表層がオーバーレイとして加えられました。さらに、1987年には7.5cmの切削オーバーレイがなされ、1993年には接地帯部分の5%にあたるアスファルト混合物路盤が撤去・再敷設されました。2002年時点で、51年間滑走路と誘導路のアスファルト混合物には構造的破壊がみられず、95%以上のアスファルト混合物路盤がそのまま残っています。

  わが国においても35年前には70以上の空港が供用されていましたので、永久舗装の表彰対象になるようなものがあるかもしれませんが、残念ながら確認できていません。

永久舗装設計法と疲労設計法の比較

 図は、永久舗装設計法と材料疲労に基づく舗装設計法(疲労設計法)の違いを説明しています。疲労設計法は実線で示した流れです。まず、舗装の層構成と材料特性を仮定し、気象条件を勘案して、適当な解析モデルを使用して荷重に対する舗装の応答(応力、ひずみ、たわみ)を計算します。次に、これらの応答値についての疲労破壊回数Nfをあらかじめ求めておき、これに対する設計期間中の繰返し載荷回数nの比、すなわち疲労度D (= n/Nf)を算定します。そして、疲労度が1.0を超えない範囲で最大となる値が得られるまで層構成を変更して計算を繰り返し、最終的な舗装構造を決定します。

 これに対して、永久舗装設計法は舗装応答を算定するまでは疲労設計法と同じですが、それ以降の部分が異なっています(図中の破線部分)。すなわち、舗装応答があらかじめ設定しておいた規準値を超過する割合を求め、それが許容値内に収まるまで層構成を変更して計算を繰り返し、最終的な舗装構造を決定します。これらの規準値は前回の永久舗装の構造設計に記したとおりです。

                                        

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 2009年に開催された永久舗装に関する国際会議での基調講演では、アスファルト混合物の規準ひずみ(疲労限界ひずみ、Fatigue Endurance Limit (FEL))を最高温度時で70マイクロとして検討した結果として、アスファルト混合物層厚には路床に比べてアスファルト混合物の影響が大きく出ること、疲労設計法により求めたアスファルト混合物層厚にはFELを考慮することの影響がほとんどないことが報告されています。前者については、アスファルト混合物と路床の弾性係数によるアスファルト混合物層厚の違いをまとめた表から明らかです。

 

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空港用永久舗装の試設計

 永久舗装の構造設計で記した基本方針に基づいて、空港を対象とした永久舗装について検討します。この場合の計算方法は上図のフローに従うものとしますが、舗装応答の規準値超過割合の許容値が現時点では設定できないことから、舗装応答が規準値を超えることのないように舗装の構造を決定することにします。舗装応答はアスファルト混合物層下面水平ひずみ、路床上面垂直ひずみを採用し、それぞれの規準値は、70マイクロ、200マイクロとします。また、設計条件としては、基本的には「空港舗装設計要領及び設計例」に記載されている設計例に準拠するものとします。具体的には、アスファルト混合物層と粒状材下層路盤からなる舗装構造(図)、環境条件は同一ですが、荷重条件として航空機B777-300、年間離着陸回数17.5万回としている点が異なります。

 

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 路盤を設けない場合すなわちフルデプス舗装から路盤厚を60cm程度までにした場合の、永久舗装設計法によるアスファルト混合物層厚と疲労設計法によるアスファルト混合物層厚を比較します。図に記載しているHMA(アスファルト混合物)と路床のラインは、それぞれの規準を満足するアスファルト混合物層厚です。アスファルト混合物、路床いずれの規準をみても、永久舗装によるもののほうが疲労設計法によるものよりも5倍程度大きくなっています。また、路盤を厚くしてもアスファルト混合物層厚が大きく減少するような傾向はみられません。ちなみに、疲労設計法による舗装のアスファルト混合物、路床のひずみは、700~400マイクロ、900~700マイクロとなっており、永久舗装設計法における規準値より数倍大きい値となっています。

 このような結果となった理由は、永久舗装設計法におけるひずみ規準として今回用いたものがもともと道路舗装を対象にしたものであることから、空港舗装のように交通量の少ない場合に用いることは適切でないことにあると思われます。わが国の道路舗装の場合で交通量区分が最大となっている計画交通量が3,000台以上/日・方向であるのに対し、空港の場合では一日当たりの離着陸回数は最大でも500回ほどで、かつ横断方向の走行位置分布の広がりがあるので、両者の交通量は2オーダー程度異なっていると思われます。

 

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 永久舗装の概念は、滑走路本数に余裕がなく、大規模な補修・補強工事が容易ではないわが国の空港における舗装マネジメントシステムを構築する上では魅力的なものであり、その具体化が早急に必要と思われます。ちなみに、米国連邦航空局空港舗装試験センターにおいては、現在、CONSTRUCTION CYCLE – 7 として、試験舗装を製作、載荷試験を実施して、空港用永久舗装の設計法を研究・開発しています。

注)APAはAsphalt Pavement Alliance(アスファルト舗装同盟)のことで、アスファルト研究所(AI)、全国アスファルト協会(NAPA)、各州アスファルト協会(SAPA)から構成され、アスファルト舗装を品質、性能、環境の面から確かなものとするために、研究、技術開発・移転、教育等を実施している米国の組織です。

参考資料

空港舗装設計要領及び設計例(一財)港湾空港総合技術センター 2008年

FAA Airport Pavement R&D Section Program Update, Airport Pavement Working Group 2013年

 

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