[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第39回 「建設工事中の空港・航空安全マネジメント (8)」  ~2020.9.1~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

  

 供用中の空港における建設工事に関して、工事と空港運用の両方の安全性を確保しつつ、効率を高める方法について考察を進めています。今回は、前回に引き続いて、供用中の空港における建設プロジェクトのケーススタディとしてパリ・シャルルドゴール国際空港の事例をまとめ、そのあとに、工事中のアクシデント・インシデントについて紹介します。

 

● ケーススタディ4:パリ・シャルルドゴール国際空港

 シャルルドゴール国際空港 (CDG)ではこれまでに多種多様な工事が実施されている。それらの工事を実施する上で必要になった、誘導路の閉鎖、エプロンスポットの閉鎖、滑走路の短縮・閉鎖等に際して使用された標識・マーキングの方法をまとめている。

◆建設工事中の空港の安全性
 空港での建設工事は、一時的ではあるが、安全性に対して新たなハザードとなりかねないため、施設や運用の手順に関して何らかの変更が必要になることが多い。過去には、工事による施設や運用の手順の変更に関連したアクシデント・インシデントが発生したことがあるが、そのときにより確実な情報、特に視覚的な情報が提供されていれば防止できた可能性がある。
 パイロットの空港施設・工事等に関する状況認識は最も重要な課題である。過去の事例から、パイロットへの工事等に関する情報提供手段として通常用いられている方法が必ずしも十分なものではないことがわかっている。一例として、AIP補足版を公開しても、その情報をパイロットが認識しているとは限らないことが挙げられる。これが、情報提供手段として、適切、詳細かつ明瞭な標識・マーキングが非常に重要なものとなる理由である。
 2011年、CDGで工事中の運用上の安全性に関する研究プロジェクトが開始された。これはCDG以外の空港、ACI、米国連邦航空局 (FAA)等と協力して実施され、最終的には既存の方法を補完する推奨事項を示すとともに、新しい情報提供方法が開発された。

◆供用中の誘導路に接続する誘導路の閉鎖
 供用中の誘導路に接続されている誘導路を工事のために閉鎖する場合には、2種類のバリアと閉鎖施設を表す”X”形のマーキングを用いて明示する必要がある。その要点は次のとおり。
・供用中の誘導路の誘導路帯の境界に当たる位置(誘導路中心線からd1の距離)に、閉鎖誘導路を横断する形で赤色の灯火を5 m間隔で設置する。閉鎖誘導路が曲線状の場合には、航空機のジェットブラストによる移動・損傷を防止するために、灯火を舗装に固定することも必要になろう。
・供用中の誘導路の無物件区域 (TOFA)の境界に当たる位置(誘導路中心線からd2の距離)に、閉鎖誘導路を横断する形で赤、白交互に着色されたコンクリートブロックまたはバラストプラスチックブロックを設置する。この位置は、誘導路が曲線状で、設計航空機の標準的な翼端クリアランスがd2より大きい場合には、翼端クリアランスに相当する位置に置き換えられる。これらのブロックは、車両や工事関係者の立入を防ぐための物理的な境界となる。
・プラスチックブロックは、質量70 kgで、中には小さな袋に入ったバラストが充填されている。この場合、プラスチックの損傷を考慮して、砂や水は使用しない。なお、誘導路の閉鎖が短期間の場合は、バラストコーンを5 m間隔で設置することでの対応も可能である。
・これらの赤色灯とブロック・コーンは、供用中の誘導路上の航空機の動線に対して平行に配置する。ブロックを使用する場合には、救急消防車両のアクセス用に、5 m幅の通路を確保する必要がある。閉鎖する誘導路の誘導路中心線灯と誘導路灯は消灯もしくは撤去し、誘導路中心線は消去する。

 

 

◆ガイドラインの通行止め

 工事のためにエプロンのガイドラインを一時的に通行止めにするときは、隣接する供用中のスポットの航空機安全ライン (safety line)を延長した位置に、ガイドラインを横断する方向に赤色灯を5 m間隔で並べる。さらに、コーン(短期閉鎖の場合)やブロック(長期閉鎖の場合)を赤色灯から所定のクリアランス (d1)を確保した位置に設置する。閉鎖スポットに最も近い誘導路の交差部には、通行止めを示す標識を設置する。誘導路中心線灯は消灯もしくは撤去し、誘導路中心線は消去する必要がある。

 

 

◆供用中の滑走路に接続する誘導路の閉鎖
供用中の滑走路に接続する誘導路を閉鎖するときの要点は次のとおり。
・閉鎖誘導路上で、滑走路中心線から所定の距離 (d1=30 m)離れた位置に、滑走路に平行に赤色灯を設置する。
・閉鎖誘導路上で、滑走路中心線から所定の距離 (d2=90 m)離れた位置(CAT Iの影響領域の境界)に、滑走路に平行に赤、白交互に着色したバラストプラスチックブロックを並べる。この場合、コンクリートブロックは、航空機が滑走路から逸脱したときに壊れにくいため使用しない。
・閉鎖誘導路上で、滑走路中心線から所定の距離 (d3=150 m)離れた位置、最小でも着陸帯の境界の位置に、滑走路に平行に赤、白交互に着色したコンクリートブロックを並べる。これは、工事区域からの車両と工事関係者の滑走路への立入を防止するためである。
・滑走路から閉鎖誘導路へ向かう誘導路中心線を消去する。

 

 

◆滑走路の閉鎖
●モバイルマーキング
 滑走路が工事のために閉鎖されているときには、その状況についてその滑走路へアプローチしようとしている航空機のパイロットに明確に認識されるようにする必要がある。CDGでは、2011年から2015年の間に閉鎖滑走路への誤着陸が少なくとも4回発生している。ICAO標準では、閉鎖が長期になる場合、滑走路に長さ36 mの白い”X”型マーキングを300 m以下の間隔で表示することと規定されている。
 しかし、工事中常にすべてのマーキングを表示することが不可能だったり、一時的なマーキングが消去作業後にも残ったりすることがあろう。そこで、2014年の滑走路 08R/26Lの補修工事用に、滑走路閉鎖用モバイルマーキングが開発された。このモバイルマーキングは、ICAO標準のマーキングと同じ寸法を有し、ジオテキスタイル製で木製フレームにしっかりと固定されているもので、フレームの底面には木製のスタンドと車輪がついているため4人ほどで移動できるようになっている。なお、モバイルマーキングは、空港管理者の承認を受けた上で、滑走路本体部かショルダに仮置きすることが望ましい。滑走路全幅が工事対象の場合には、着陸帯に配置すればよい。
●照明付きマーキング
 滑走路を一晩以上閉鎖するときには、照明付きの”X”型マーキングが有効で、グライドパスの方向に向けて滑走路面に立てて設置する必要がある。このマーキングはトレーラーに固定され、発電機も装備されている。
 照明付きマーキングは、その設置に時間がかかるため、閉鎖が必要となる、夜間の短時間のメンテナンス作業の場合には向いていない。この問題に対処するため、新たな方式のマーキングが検討中であり、これにより滑走路の閉鎖プロセスが簡略化され、安全性レベルが向上できることが期待されている。
●閉鎖中の滑走路を横断する誘導路
 航空機の走行ルートとして閉鎖中の滑走路を横断する形の誘導路を確保することが必要になる場合がある。このときには、前述の誘導路の閉鎖に用いる方法と同じものを使用すればよい。ただし、航空機が閉鎖中の滑走路に誤進入しないように、コンクリートブロックを使用する必要がある。航空機がコンクリートブロックに対して低速で衝突する場合は、被る損傷は軽微なものであるが、工事車両等と高速で衝突する場合には、損傷が重大化するとともに死傷者の発生につながる恐れが大きい。
◆滑走路の短縮
●滑走路端を変更しない滑走路短縮
 滑走路端を変更しないで滑走路を短縮する場合、航空機の運航禁止部分には白色の”X”型マーキングが設置される。安全性に関するリスクについて慎重に検討して、この部分に向けての離陸が可能とされた場合には、滑走路への取付誘導路に短縮された離陸滑走距離 (TORA)を示す標識が設置される。なお、この航空機運航禁止部分への着陸はできない。
●滑走路端を一時的に移設する滑走路短縮
 滑走路端を一時的に移設する場合には、工事中でも離着陸可能である。この場合の離着陸は図-4に示すように行われる。

 

 

 移設滑走路端のマーキングは、ICAO標準とは異なる場合もあるが、明確で一義的なものが最も認識されやすいことは言うまでもない(図-5はCDGのもの)。この場合、滑走路の両側に滑走路末端灯と滑走路末端補助灯を設置する、ICAO標準の「ウィングバー」を用いて強調するようになっている。また、進入角指示灯 (PAPI)を一時的に使用することにより、パイロットはグライドパスと接地帯の移設について確実に認識できることとなろう。

 

 

 滑走路端を移設する前、すなわち本来の滑走路端のマーキングは消去したりカバーしたりする必要がある。過去には、本来のマーキングが(一部)残っていたことによりアクシデント・インシデントが発生したこともある。多くの場合、アンダーシュートが発生する危険性が高い。
◆仮設情報標識
●開発の経緯
 CDGを始め、数多くの空港でパイロットが滑走路の短縮に気づかないまま離陸するというアクシデント・インシデントが発生していたことから、2012年から2015年にかけて工事と安全性に係る標識が新たに開発された。この場合、標識の背景色(地色)として、黄色が一般的な情報を表す標準色であることから、オレンジ色が選択された。この色は、現在、国際民間航空条約第14付属書で規定されている。
●現地での試験
 オレンジ色の仮設情報標識はCDGと米国の6空港において試験的に用いられた。全体として、オレンジ地に黒字の組合せ、文字の大きさ、色については、工事区域についての警告としてわかりやすく、目立ち、さらに適切であると、航空機パイロットと車両ドライバが評価した。
 「CONSTRUCTION AHEAD(前方工事区域)」の標識については、米国の6空港での合計131人の回答者(33人のパイロットと98人のドライバ)のうち、114人(87%)が目立つと評価し、116人(88%)が工事区域手前の適切な位置から認識できると評価した。
 「CONSTRUCTION ON RAMP(エプロン工事中)」の標識については、51人中47人(92%)が目立つと評価し、45人(88%)が工事区域手前の適切な位置から認識できると評価した。
 「REDUCED TAKEOFF RUN AVAILABLE(短縮滑走路)」に関する情報を表す標識については、27人中25人(92%)が目立つと評価し、22人 (81%)が滑走路手前の適切な位置から認識できると評価した。
●仕様
 仮設情報標識は、背景色が黄色ではなくオレンジ色である点を除き、標準的な情報標識の仕様を満たしている。文字は、色が黒色で、寸法(縦)が現地試験中にパイロットから要求された400 mmである。標識には2個の点滅式照明が備え付けられている。なお、標識を設置するために十分なスペースがない場合にはオレンジ色のマーキングを考慮する必要がある。
●実施例
 パイロットが意味を的確に理解しやすい4種類の情報標識が開発された。
 「REDUCED 08L TAKEOFF RUN AVAILABLE 3000 m(滑走路 08Lの離陸用延長が3,000 mに短縮)」の標識は、有効離陸滑走路長(TORA)、有効離陸距離(TODA)、有効加速停止距離(ASDA)の変更に応じて、適切な滑走路への取付誘導路に設置する必要がある。この場合、既存の標識の近くに配置するとともに、既存標識は撤去またはカバーする必要がある。なお、高速での工事区域への進入や建設機器との衝突を防ぐ意図で、「08L」を「08L WORKS(工事中)」に変更することも可能である。
 「CONSTRUCTION AHEAD(前方工事区域)」の標識は、リスクが正確には特定できない場合に設置する必要がある。たとえば、工事区域から供用中の誘導路に車両や工事関係者が立入るリスクが高い場合である。これは、工事区域から150m手前に配置する。また、工事区域の終点が明確でない場合は「END CONSTRUCTION(工事区域終了)」の標識を追加する必要がある。
 「MAXSPAN 65 m(最大許容翼幅65 m)」の標識は、最大許容翼幅が制限される場合、たとえば、誘導路帯での工事のために通常の最大許容翼幅を制限しなければならない場合に設置する必要がある。これは工事区域に近づくルートを選ぶことができるすべての誘導路交差部に設置する。
 「DEAD END(通行止め)」の標識は、誘導路に一時的に通行止めがあることを示すために使用する必要がある。これは工事区域に近づくルートを選ぶことができるすべての交差部に設置する。なお、通行止めのある誘導路を明確にする必要がある場合には誘導路の名称・矢印を追加する。このほか、高速離脱誘導路の閉鎖を強調する場合にもこれは使用可能である。

 

 

◆航空機を対象としない標識
●工事区域境界
 工事区域の周囲はオレンジ色のプラスチックネットによって囲む必要がある。このネットは、等間隔に置かれたポストに取り付けられるものであり、毎日その状況を確認する必要がある。
●道路標識
 建設業者は空港内のサービス道路に必ずしも精通しているわけではなく、工事車両はルートを間違えて、供用中の誘導路や滑走路に立入る危険性がある。工事車両がルートを見失うリスクを軽減するために、使用するサービス道路の交差点には、道路標識を目立つように設置する必要がある。なお、工事区域はわかりやすい名称とする。
 複数の建設プロジェクトが同一区域で同一時期に実施される場合、プロジェクトごとに標識の色を変えることにより、車両を各プロジェクトのサイトにスムーズに誘導できよう。この標識は、2016年にCDGの南側滑走路 08L/26Rに初めて導入され、南側滑走路とその周辺において約12件のプロジェクトが同時に実施された。
●誘導路と交差するサービス道路
 仮設サービス道路を設置する場合には、航空機を優先するために、サービス道路が誘導路を横切る箇所に「STOP(停止)」の標識を設置する必要がある。航空機と車両の両方の交通量が少ない場合はこの標識で十分である。交通量が多い場合には信号機によりこれらの道路標識を補足する必要がある。このときの信号は、航空機が交差点に近づくと赤で表示され、それ以外の場合は黄色で点滅するものである。なお、工事担当者は空港内での車両運転と標識認識のためのトレーニングを受けなければならない。

 

● 工事中のアクシデント・インシデントの例

◆閉鎖滑走路の工事区域での衝突事故(台湾・桃園国際空港、2000年)
 桃園国際空港の滑走路 05Rは補修工事のために部分的に閉鎖されていた。二本の並行する滑走路05Lと滑走路05Rへ接続している誘導路N1からの滑走路05Rへのアクセスはバリア等による禁止措置が取られておらず、マーキングと灯火による禁止措置が取られているだけであった。また、パイロットには閉鎖滑走路に関する情報がNOTAMと飛行場情報放送業務 (Automatic Terminal Information Service,ATIS)によって周知されていた。台風による低視程と大雨の条件下で、B747は滑走路05Lではなく滑走路05Rに誤って進入して、そのまま離陸を開始し、約131ノットの速度で建設機械と衝突し、機体が大破した。179人の航空機搭乗者のうち、83人が死亡し、39人が重傷を負った。
◆短縮滑走路における複数のイベント(オーストリア・ウィーン国際空港、1997年)
 ウィーン国際空港の滑走路11/29は、補修工事のために、両端が一時的に移設され(片方が527 m、もう片方が1,150 m)、短縮運用されていた。工事期間中に合計で10件の航空機運航の安全性に係るアクシデント・インシデントが発生した。具体的には、9件のアンダーシュートと工事フェンスとの離隔が5mほどしかなかった離陸の1件である。
◆滑走路端の一時的な移設時のアンダーシュート(オーストラリア・パース空港、2005年)
 滑走路端が一時的に移設されていたパース空港の滑走路21にA340がアンダーシュートした。このとき、本来の滑走路端におけるマーキングはそのままで、過走帯標識 (Chevrons)と灯火はショルダに設置されていた。また、2008年にはB737が本来の滑走路端に向けて2度のアプローチのやり直しを繰り返したあとに、移設滑走路端に向けて着陸した。同様のインシデントは、1997年にポルトガル・ポルト国際空港、2004年にニュージーランド・オークランド国際空港でも発生した。
◆ 短縮滑走路での離陸(パリ・シャルルドゴール国際空港、2008年)
 シャルルドゴール国際空港の滑走路27Lが末端部分における工事のために一時的に短縮運用されていた。その末端部分に位置する誘導路Y11から、B737が夜間の有視界気象状態の下で滑走路に進入し、そのまま離陸を開始した。航空機は、走行中に滑走路端の仮設灯火とプラスチック製の誘導標識を破壊し、ブラストフェンスとの離隔が非常に小さい状態で離陸した。同様のインシデントは、2009年にシカゴ・オヘア国際空港と2012年にチェコ・プラハ国際空港でも発生した。

 

参考資料
・Managing Operations During Construction, First Edition, Airports Council International (ACI), 2018
・Operational Safety on Airports During Construction, AC 150/5370-2G, Federal Aviation Administration (FAA), 2017
・Airport Design, AC 150/5300-13A, FAA, 2012

(続きは次回)

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