八谷 好高 客員研究員(SCOPE)
供用中の空港における建設工事に関して、工事と空港運用の両方の安全性を確保しつつ、効率を高める方法について考察を進めています。建設工事、特に空港工事は、本工事の前後、すなわち事前準備、事後処理も本工事同様に重要な要素です。今回は、前回の事前準備に引き続いて、本工事と事後処理についてまとめます。
◆工事区域の管理
空港管理者は、工事に起因するインシデントを防止するために、工事期間中工事区域を適切に管理する必要がある。特に、工事区域の閉鎖、車両・機器の管理、FODの発生防止等を確実にすることが肝要である。
●工事区域の閉鎖
工事区域は航空機運航区域と分離することが基本である。工事が長期にわたる場合は、工事区域をフェンスで囲むほうがよく、こうすることにより工事関係者、工事車両等に対する立入許可証の発行が不要となる。その具体的な工事の例としては、エプロン新設や滑走路増設が挙げられる。
工事区域の閉鎖は、関係者全員が認識できるように、フェンス、マーキング、照明を設置する等、目立つ方法による必要がある。閉鎖が不完全であれば、FODのはみ出し、工事関係者や車両の航空機運航区域への侵入等にもつながる危険がある。
●車両・機器の管理
工事区域では、工事車両を使って資機材を搬入・搬出する必要があるため、それらの走行ルートに沿ってFODが発生しかねない。また、工事車両が供用中の誘導路やエプロンを走行・横断する場合は、航空機にとってハザードとなる危険がある。このような工事車両に関わるインシデントを防止するために、次のような予防措置を講ずる必要がある。
・入退場ゲートを指定し、そこから工事関係者や工事機械等を入退場させる。
・工事車両の走行ルートを指定する。
・車両誘導員を主要な誘導路との交差部に配置する(必要に応じて)。
・これらの交差部には、FODが発生しないように清掃員や機器を配置する(必要に応じて)。
・工事関係者は車両で移動させ、航空機運航区域を歩行させない。
・車両ドライバに対してトレーニングを適切に行う。
●FODの発生防止
入退場ゲートと工事区域間の工事車両・機器の移動や廃棄物の搬出時には、航空機運航区域でFODを発生させる危険がある。これを最小限に抑えるには、車両の入退場ゲートと走行ルートを指定し、それに応じた走行許可証を発行する必要がある。また、指定ルートを確実に走行させる方策をとることが肝要である。
土砂や余剰資材を運搬する工事車両の荷台にはカバーを付ける必要がある。なお、工事車両の走行ルートが航空機運航区域を走行・横断するようになっている場合には、清掃機器やスイーパーを配置するとよい。
◆航空機運航区域の閉鎖
●閉鎖計画
エアサイドでの建設ならびに施設更新プロジェクトのために、滑走路、誘導路、エプロンの航空機運航区域を一時的に閉鎖することも必要になろう。この場合には、関係者間の調整を行って閉鎖計画を正確なものとすることが必要であり、これにより、航空機運航の安全性の確保に加えて、工事期間の精度のよい推定、工事担当者の効率的な配置計画の立案等が可能になる。
具体的な閉鎖方法は、航空機交通量と施設の配置状況によって異なる。言うまでもなく、航空機運航区域の閉鎖は空港容量の低下となるので、閉鎖計画については、関係者と十分に調整した上で、次のように3種類に分けて立案する必要がある。
・中長期間の閉鎖計画
中長期間の閉鎖計画は、通常、工事期間が数年間にわたるプロジェクト、たとえば、埋立工事や滑走路の新・増設工事等を実施する場合に必要となる事項について規定するものである。投資の高額さ、工事の複雑さと時間的制約のために、空港管理者、航空会社、航空局等の空港関係者への十分な説明、また理解と協力が不可欠である。この中長期計画はプロジェクト実施計画の基礎となり、これに基づいて必要なリソースが決定される。
・短期間の閉鎖計画
短期間の閉鎖計画は、閉鎖時の日々の工事・作業方法について規定するものである。短期計画は、定期的に見直すことにより、短い期間、たとえば1週間といった単位でのものとできる。これにより、実際の作業のために閉鎖が必要となる箇所を設定できる。
・不測の事態に対する緊急閉鎖計画
緊急閉鎖計画は、想定外の事態に対応するために必要となる緊急閉鎖に関する事項について規定するものである。施設によって損傷の進行状況が異なるため、メンテナンスは、空港の安全性が保持できるように、運用の効率性とのバランスを考えて実施する必要がある。そのため、空港運用部門とメンテナンス部門はタイムリーにかつ緊密に連携する必要がある。
●閉鎖の準備
短期間の閉鎖計画を実行に移すときには、プロジェクトの進捗に遅れが生じないように、定期的にミーティングを開いて工事関係者間で情報を共有することが肝要である。会議時間を短くすることにより、すべての工事関係者が参加して、閉鎖の具体的な方法について調整することが可能となる。
閉鎖期間を有効に利用するために、複数の工事が並行して実行できるかどうかプロジェクトの進捗状況を考慮して判断する必要がある。この役割を担当する調整担当者(コーディネータ)は、特別な注意が必要となる工事について、事前に情報を把握して、発生する危険のある事象に関するモニタリングの必要性を工事関係者に周知する等、重要な役割を有している。
供用中の空港における工事は、時間的制約の下で実施しなければならないことに加え、航空機運航区域へアクセスする等、航空機の運航へ直接影響しかねないことから、実施に当たっては細心の注意が必要である。特に、航空機運航区域での工事は、終了後の航空機の運航再開をスケジュールどおりに行わなければならず、そのためには、航空機の正確な運航方法と時間を把握しておかなければならない。また、航空機の運航に及ぼす影響を最小限に抑えるために、工事車両の走行ルートと資機材運搬方法を慎重に計画する必要がある。
●工事前ミーティング
航空機運航の安全性に関わる対策を十分に講ずることにより、航空機運航区域やその周辺における規制・規則について工事関係者に遵守させることができるようになる。
特に、工事前ミーティングは、各工事の責任者が出席して、工事開始の2〜3時間前には開催することが肝要である。この工事前ミーティングでは、天気予報、フライト遅延状況とそれが工事工程に及ぼす影響、閉鎖区域で作業を予定している建設業者と作業員数等、最新の情報が出席者、ひいてはすべての工事関係者に対して提供される。また、不測の事態が発生した場合の航空機運航区域の供用再開時期に関して工事責任者が工事現場と緊密に連絡を取るといった場合にも役立つ。
工事前ミーティングではすべての文書と各種許可証の最終チェックも行われる。また、工事現場での安全性についての適合性を確保するために、工事責任者が工事・作業方法とそれに関する安全方策を詳細に示す必要もある。
◆工事の管理に適用可能な技術
技術の進歩により工事実施位置の正確性が必要とされる工事の管理方法が大幅に改善されるようになった。GISやBIM/CIMは、これを使用することによりプロジェクトについて3次元データを処理して視覚的に分析可能となることから、工事管理に広く用いられている。これをGPSと組み合わせてモバイル機器で使用することにより、大規模な空港における工事の管理が容易になる。
●工事の計画
GISやBIM/CIMを使用することによりデータ分析が効率的に行えるので、空港管理者は構造物・施設のパフォーマンスを適切にモニタできるようになる。
緊急メンテナンスが必要になった場合、メンテナンス部門は、カタログ化されたデータベースを用いてメンテナンス履歴を迅速に特定して、適切な措置を講じなければならない。このとき履歴の特定に手間取ると、空港の運用能力が低下するとともに、供用再開にも支障が生じかねない。
電子化されたデータベースは、不測の事態への対応に役立つことに加えて、将来の工事計画の立案にも役立つ。また、データが正確であれば、工事区域の事前調査に必要となる時間が節約でき、テストピットの数量も最小限に抑えられる。
●工事の実施
工事対象の構造物・施設の3次元データをGPSと組み合わせて使用することにより、工事の実施位置に関する精度が向上する。工事関係者は、航空機の動きに注意しながら、GPSを使用して工事実施箇所に正確に移動・到達できる。
◆安全性に関する監査・検査の有効性
どんな工事も第三者にけがをさせたり損害を与えたりするような危険を有している。中でも、空港での工事は、空港利用客や関係者に何らかの影響を及ぼしかねないので、その安全確保が最優先事項である。
一般的には、プロジェクトごとに安全性に関するプログラムを作成する必要がある。プログラムの内容はさまざまであるが、指針を作って空港の運用を管理するという点では同じである。
空港の安全性に関する意識を高める手段として、定期的な監査(内部監査)と検査(外部検査)が一般的に用いられている。
●安全性に関する定期的監査
一般的な工事の安全性に関する監査が工事自体の安全性を最大にすることに焦点を当てているのに対して、空港の安全性に関する監査は航空機運航の安全性確保の観点に立った工事の方法に焦点を当てている。
監査は工事と空港運用の両方に関する業務を経験したことのある職員によって行われる必要がある。監査の方法については、監査の目的と範囲を含めて、すべての工事関係者の合意を得る必要がある。監査報告では、監査の結果と、安全性が懸念される作業を防止して安全性の向上を促進するためにフォローアップが必要となる事項を詳述する必要がある。
●安全性に関する定期的検査
安全性に関する検査を適切なタイミングで行うことにより、危険な工事・作業が防止でき、工事ならびに運用の安全性の確保が可能になる。検査の頻度は、工事・作業の種類とそのリスクに見合ったものとする必要がある。すなわち、リスクが高いほど検査の頻度も高くすることが必要である。
検査担当者は、監査と同様、工事と空港運用の両方に精通していなければならず、過去の検査記録をレビューした上で、課題と実施された是正措置について報告する必要がある。検査により工事・作業の継続的な改善ができるとともに、実施された是正措置の妥当性が確認できる。
◆リスクレジスタの整備と継続的な更新
安全性に関する従来のモニタリング方法では、近年の著しい交通量の増加と複雑化している航空航法システムによりもたらされる新たな安全性に関するリスクに対応できなくなっている。そのため、安全性に関するデータにより具体化されたリスクに基づいて、新たな規制・規則作りに取り組んできている。
安全性に関するデータについては、その収集、分析、交換が極めて重要である。安全性に関する情報共有のためのネットワークを確立することにより、情報交換が容易となり、リスクが確実に把握できるようになるため、事故や災害の発生が防止可能となる。
空港における建設ならびに施設更新のプロジェクトでは、空港の運用に関するリスクレジスタ(登録簿)を整備することで、安全性に関するリスクを管理・軽減できる。プロジェクトのさまざまな段階でリスクレジスタを積極的に活用することが肝要である。また、リスクレジスタは、工事計画の不可欠な部分であり、工事・作業の実施ならびに供用開始段階で継続的に更新する必要がある。
工事中のリスクを軽減するために、空港管理者は、工事・作業の担当者が適切な資格を有していること、リスクマネジメントプログラムの下で確立された安全な工事・作業システムを遵守していることを確認する必要がある。また、空港運用の効率性を確保するために、航空機の運用に直接影響する工事・作業について厳格に管理する必要がある。特に、個々の工事・作業の工程や資機材運搬等に関する詳細なリスク評価が必要である。
リスクの分類については、安全管理者、運用管理者、利害関係者ならびに工事責任者が協力して行う必要がある(図1)。工事・作業全体について包括的なレビュー体制を確立して、リスクに関する軽減措置が忠実に守られていることを確認する必要がある。
工事の終了から供用開始までのプロセスは次のとおりである。
・工事終了
・検査と承認
・引渡し
・情報の周知
・供用準備
・供用開始
◆検査と承認
建設工事は空港管理者と建設業者との間の契約に基づいて行われる。空港管理者は、工事を発注した事業主体として、工事の成果物(構造物、施設等)を検査して承認し、建設業者から成果物を引き継ぐ必要がある。
●検査担当者の指定
工事の終了状況を確認するために空港管理者は検査担当者を指定する必要がある。この場合、検査対象がさまざまな分野にわたることから、検査担当者を支援するために1人または複数の補助検査担当者を指定することもできる。検査を適切かつ公正に行うためには、検査担当者は契約条件と工事の仕様書と設計図に関わる情報を事前に十分把握しておく必要がある。また、工事監督者は検査担当者としないことが肝要である。
工事が航空交通管制部門 (ATC)、航空会社等の空港管理者以外によって実施される場合には、発注者の職員が検査を実施して、契約どおりに工事が実施されていることを確認する必要がある。また、空港管理者も、安全性、セキュリティ、コンプライアンス等の観点から検査を実施することができる。
●検査担当者の役割
検査担当者は、工事の仕様書と設計図に基づいて、数量、品質、機能、仕上がり等、工事のパフォーマンスを判定し、その結果を総合的に評価する必要がある。
●検査の種類
検査担当者は、部分完成検査と完成検査の2種類の検査を実施する。通常は、すべての工事が終了した後に、すべての成果物が完成していることを確認するために検査を実施する(完成検査)。このほか、すべての工事が終了する前に一部を供用する必要がある場合には、部分完成検査を実施する。
●検査の内容
検査は、実際に完成した成果物とさまざまな工事記録書類(工事成果品)を仕様書、設計図等の契約書類と比較することにより実施する必要がある。
検査には立会検査と書面検査がある。立会検査では、完成した成果物の外観、位置、数量、寸法、品質、仕上がり面、機能等について検査を実施する。また、書面検査では、数量と品質の管理状況、工事状況、現場管理状況等に関する工事記録について検査を実施する。
検査中に不適合箇所が見つかった場合、検査担当者は、修正が必要な不適合箇所と実施期限を指定して、修正を要求する必要がある。修正後には、検査担当者はその箇所を再検査する必要がある(図2)。
検査担当者が検査を実施するときには空港運用部門の職員が立ち会うことが望ましい。
●航空局と地方自治体による検査
空港管理者の検査が終了した後に、航空局、地方自治体ならびに関係機関が独自の検査を実施する場合がある。
これらの検査の目的は、関連する法律や規則への成果物の適合性を確認することである。検査は、通常成果物が空港管理者へ引渡された後に実施されるが、場合によっては引渡し前でも実施可能である。
◆引渡し
空港管理者が検査結果を承認し、成果物が仕様書と設計図に適合していることを確認した後に、成果物が建設業者から空港管理者へ引き渡される。
空港管理者や工事発注主体は、準備作業と試験供用に加えて、スタッフのトレーニングを行って、供用開始に向けた準備を行う。
◆情報の周知
●供用開始の周知
供用開始の日時は、民間航空局 (CAA)、航空交通管制業務提供機関 (ANSP)、航空会社、地上支援業務(グランドハンドリング)事業者といった内部部門や関連組織と事前に調整して設定する必要がある。
工事が終了に近づいたら、工事の進捗状況やその他の状況に基づいて供用開始の日時を正式に設定する必要がある。この日時については航空路誌 (AIP)を発行して関係者に周知する必要がある。
供用開始日時の設定に際しては、CAAが成果物を検査し、規格への適合性を確認する時間を考慮する必要がある。また、新しい航行援助施設 (NAVAID)の通電テスト、NAVAIDと飛行手順についての飛行検査、ATCやグランドハンドリング事業者等に対する新しい飛行手順や施設の使用方法についてのトレーニングの時間も考慮する必要がある。また、新しい施設や飛行手順を記載した航空路誌改訂版 (AIP Amendment)の発行日も、供用開始日時を考慮して設定する必要がある。
●「供用不可」の周知
新規の構造物・施設が完成に近づくにつれて、それが「供用可能」であると誤認される危険性が高くなる。したがって、工事の最終段階や工事終了から供用開始までの期間、マーキング、標識、フェンス等を設けて、「供用不可」であることを明示することが非常に重要である。
◆供用準備
構造物・施設の供用開始を円滑なものとするために最も重要な項目は準備作業である。設定された供用開始日時を守るため、準備作業を工事が終了する前の段階で開始する等、供用開始前までに終了できるよう準備作業には十分な時間を確保する必要がある。
一般的に、初期不良の問題は、完成した構造物・施設の供用開始直後に発生する傾向がある。そのため、構造物・施設を安定的、効率的かつ効果的に運用するためには準備を十分に行うことが肝要である。また、緊急時対応計画を作成して、初期不良や不具合を適切かつ迅速に修正できるようにすることも必要である。
●供用・メンテナンス計画の策定
供用開始前に供用ならびにメンテナンスの計画を策定して、供用開始に向けた準備をすることが必要である。空港管理者はこれらの計画、特に次のものが最新の状況を反映していることを確認する必要がある。
・供用・メンテナンス計画
供用ならびにメンテナンスの方法を確認した後、必要な計画とマニュアルを作成し、スタッフが供用ならびにメンテナンスを適切に実行できるようにする。
・トレーニングとスタッフ配置計画
供用・メンテナンス計画に基づいて、供用ならびにメンテナンスを担当するスタッフが業務を適切に実行できるようにトレーニング計画を作成する。トレーニング計画に加えて、スタッフの配置計画も必要である。
・緊急時対応計画
誤作動やその他の緊急事態に効率よく対応するために、緊急時対応計画を作成する。関連するすべての組織の緊急連絡先リストも必要である。
●試験供用
供用計画を作成した後、上記の各計画を確認するために、試験供用を実施する必要がある。その結果に基づいて、必要に応じて各計画を変更して、より効率的かつ効果的なものとする必要がある。
試験供用は、供用中に発生するさまざまな異常事態を想定して繰り返すことが重要である。これにより異常事態に対して適切かつタイムリーに対処できるようになる。
◆供用開始
空港管理者は、AIPにより公表された日時に新しい構造物・施設の供用を開始する必要がある。構造物・施設は、供用直後に初期不良や機器の故障が発生する危険性が高いので、供用直前にも上記の準備作業を再度実施して、必要な準備がすべて適切に行われていることを確認する必要がある。
参考資料
・Managing Operations During Construction, First Edition, Airports Council International (ACI), 2018
・Operational Safety on Airports During Construction, AC 150/5370-2G, Federal Aviation Administration (FAA), 2017
・Airport Design, AC 150/5300-13A, FAA, 2012
(続きは次回)