[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第35回 「建設工事中の空港・航空安全マネジメント (4)」  ~2019.12.26~

八谷 好高 客員研究員(SCOPE)

  

 供用中の空港における建設工事に関して、工事と空港運用の両方の安全性を確保しつつ、効率を高める方法について考察を進めています。建設工事、特に空港工事は、本工事の前後、すなわち事前準備、事後処理も本工事同様に重要な要素です。今回は、事前準備についてまとめます。

● 事前準備

 事前準備の段階では、建設プロジェクトが空港の運用に及ぼす影響を最小限に抑え、運用に関わる安全性を所要のレベルに保持できるように、プロジェクトに含まれる建設工事のやり方を計画することが必要である。
 この事前準備は次の6つのフェーズから成る。
 ●申請
 ●計画
 ●調整
 ●承認
 ●通知
 ●実行
 各フェーズは連続しているが、一部は前後と重複する場合もある。工事を上の6つのフェーズ構造と捉えることにより、工事を論理的に分割でき、その計画と管理を容易にできるようになる。各フェーズの必要性は、プロジェクトの規模、複雑さ、重要性によって異なる。
 事前準備の段階では、工事のやり方を空港の運用と関連づけて、具体的には次の点を実現できるように整理することが肝要である。
 ●工事中の安全で効率的な空港の運用
 ●工事が空港運用に及ぼす影響の軽減
 ●工事が空港運用に影響を及ぼす期間の短縮と区域の縮小
 事前準備のプロセスを確実に実行することにより、安全、運用や工事内容の変更に関するリスク、具体的には次のようなリスクを取り除いたり、最小限に抑えたりできよう。
 ●工事期間の延長
 ●工事費用の変更
 ●工事範囲の変更
 ●工事品質の低下

● 申請フェーズ

 申請フェーズでは、空港全体、すなわちエアサイド、ターミナル、ランドサイドの建設・メンテナンス工事に関する申請プロセスを確立する。
 空港管理者は、建設業者から工事に関する許可・承認申請を受けると、空港技術部門や施設管理部門の中に土木、機械、電気といった分野の技術者が配置された工事承認オフィスを設け、あらゆる種類の工事について専門的な観点から検証することが必要となる。対象となるのは、工事の方法や技術的事項、健康・安全・環境に関する事項といったものである。
 また、工事がエアサイドの安全性や運用に及ぼす影響を最小化あるいは調整・軽減するために、同様のオフィスを運用部門内にも設ける必要がある。大規模な空港で、エアサイドとターミナル・ランドサイドを担当する部門が異なる場合には、エアサイド、ターミナル・ランドサイドにおける工事をそれぞれ担当する工事承認オフィスを設ける必要もあろう。エアサイドとターミナル・ランドサイドのどちらかで承認された工事がもう一方の側の工事に影響を及ぼす可能性があるので、これらのオフィス間での情報共有体制を確立することが肝要である。
 工事の空港運用に関する安全方策について、工事を担当する建設業者に対して提案を求めることが推奨される。これにより建設業者は事前に必要となる安全方策を計画し、それを常に遵守することに留意するようになろう。
 工事に関してそれを実施する建設業者と承認を行う空港管理者の間で合意が得られたら、両者間の正式な合意文書である工事許可証が発行される運びとなる。この申請手続きのオンライン化は、一連のプロセスの効率化に結びつく。

● 計画フェーズ

 計画フェーズでは、空港内での建設プロジェクトの進行中に空港運用の安全性が低下することのないように、プロジェクトに含まれる建設工事の調整・変更を行う。
 計画フェーズの最終的な目標は、利害関係者の合意が得られるプロジェクト管理計画 (Project Management Plan、 PMP)を作成することである。PMPは、プロジェクト中の工事について、その内容を定め、準備・調整し、それらを統合した包括的な文書である。この中では、プロジェクトの実行、監督、調整、そして完成までの方法が記述されている。なお、PMPは、最終的には、空港を所管する民間航空局 (CAA)の承認を得る必要がある。
 計画フェーズでは、空港管理部門が、航空運送事業者、航空交通管制部門 (ATC)、地上支援業務事業者、ケータリング事業者および給油事業者と初期の調整段階から連携して作業を実施し、その作業に関する情報を共有できる仕組みを作る必要がある。また、空港の安全管理システム (Safety Management System、 SMS)に基づくリスク評価を実施することも必要である。
 計画フェーズは次のプロセスから成る。
◆工事に関係する区域の特定
 工事対象区域のほか、工事を実施する上で確保する必要のある区域は次のとおり。
●建設機械の組み立て・保管区域
●資材置き場
●これらの区域間のアクセスルート
◆内容の特定
 このプロセスでは、プロジェクトを完成するために必要となる具体的な工事とその内容を特定する。プロジェクト全体を内容によっていくつかの工事に分割し、それぞれの工事のスケジューリング、施工、モニタリングおよび調整を実施する。
◆工事の順序付け
 このプロセスでは、各工事についてその相互関係を明らかにして順位付けを行う。この場合、すべての工事に関する制約を考慮して、効率の最大化を図るようにすることが肝要である。
◆リソースの見積り
 プロジェクトに必要となるリソースは、工事に必要となる人的資源、材料、機器および消耗品である。それらの種類と数量について、建設業者は空港管理者と連携してコストの点も考慮して決定する必要がある。
◆工事期間の見積もり
 このプロセスでは、各工事を完了するために必要な時間を見積もる。これにより、プロジェクト全体のスケジュール計画に個々の工事期間を組み入れることが可能となる。また、これは工事方法を決定する際の情報源ともなる。なお、工事期間は、通常、時間単位または日単位で表される。
 工事期間の見積もりには必要となる予備期間も含めることができる。この予備期間は、工事の不確実性の度合いに基づいて決定すべきで、工事期間に対する割合として、あるいは過去の類似プロジェクトでの経験に基づいた期間として表してもよい。
◆工事の影響を受ける利害関係者の特定
 工事の影響を受ける利害関係者は、プロジェクトの実行期間中に影響を受ける可能性のあるサービスの提供者・受領者である。利害関係者は、安全性に関するリスクと空港運用に対する影響の評価時に必要な情報である。
◆工事の種類
 工事は、タイプ1~4の4種類に分類される。
●タイプ1:1日または数日の間、航空機の運航に影響を及ぼさないプルバック形式で昼夜を問わず実施する工事である。この種の工事は次のような小規模なものである。
・予防保全:マーキングの施工、測量、保守点検等
・事後補修:地上航空灯火 (Aeronautical Ground Light、 AGL)・標識の交換等
 航空機運航区域での工事は管制塔 (ATCT)からの承認を受けたのちに実行できる。また、工事責任者は、無線電話通信装置の使用許可を受ける必要がある。なお、工事可能時間は滑走路では5~10分、エプロンでは30分程度である。
●タイプ2: 1日または数日間の特定の時間帯、プルバック形式では実施できない、対象区域を閉鎖して空港のピーク時間帯以外に実施する工事である。工事終了後は点検してから、その区域を通常の運用状態に戻すことになる。この種の工事は、そのタイミング・コストと運用中断時間の最小化との間でバランスをとる必要がある。
●タイプ3:対象区域を終日閉鎖して実施する工事であるが、工事自体は1日または数日の間で特定の時間帯にのみ実施するだけである。この種の工事は次のような理由から必要となる。
・コンクリートの養生等、他の工事が実施できない
・極端な高温や低温等、気象状況が工事に適さない
・工事が他の区域に影響を及ぼす
・ローカルルールや契約上の合意がある
●タイプ4:対象区域を終日閉鎖して24時間体制で実施する工事であり、工事期間は通常数日間にわたる。この種の工事は他の区域に影響を及ぼすことはない。
◆スケジュールの立案
 以上のすべてのプロセスを包括的に分析する、すなわち、個々の工事の詳細な内容と相互関係を検討することにより、プロジェクト全体のスケジュール計画の立案が可能になる。このスケジュール計画では、工事の開始・完了予定日が明示され、工事の節目となるマイルストーンと到達予定日も明示される。また、工事の影響を受けるサービスと利害関係者が特定される。スケジュール計画は、工事の安全性に関するリスクと空港の運用に対する影響の評価を行うときの情報源となる。
◆安全性に関するリスク評価の実施
 工事の安全性に関するリスク評価は、空港SMSの中のリスク評価のプロセスを使用して実行する。この安全性に関するリスクは、リスクの確率と重大性からマトリックスの形で表される。また、各工事のスケジュール計画の立案のために必要な基礎データとして使用される。

 

注)
●許容できない
 リスクは現在のスケジュール計画の下では許容できない。この場合、次の項目について再検討する必要がある。その結果、スケジュール計画を修正した場合には、リスク評価を再度行う必要がある。
・工事の影響を受ける範囲
・工事方法:高度な機器・装置を使用することによって工事期間の短縮は可能となろうが、その反面、コストの増加は避けられないことにもなろう。
・工事の流れ
・工事のリソース
・工事の期間
●軽減が必要
 リスクは軽減措置を講ずることにより許容できる。軽減措置には次のようなものがある。
・現在のスケジュール計画の下での工事方法の見直しと最適化
・空港運用方法の見直しと最適化
●許容できる
 リスクは許容できる。さらなる軽減措置は必要なく、空港運用への影響を確認しながら工事計画のプロセスを続行する。
◆空港運用に関する影響評価の実施
 安全性に関するリスクが許容できると判定されない限り、計画フェーズは終了しない。また、リスクには問題がない、あるいは軽減できていると判定された場合でも、空港運用に関するパフォーマンスは低下する可能性がある。工事が空港運用に及ぼす影響を評価する方法には次の2つがある。
●定量的な方法:工事前後の空港運用に関するデータを比較したり、予想される結果を比較したりする。 たとえば、滑走路公示距離が短縮されることになれば、航空機の機種による運航制限や最大離陸重量の制限が必要になる。
●定性的な方法:工事対象区域における通常の空港運用のパフォーマンスを、工事中に予想される空港運用のパフォーマンスに関するベンチマークとして役立てる。これにより次の事項を計測できる。
・定時運航性
・航空機のタキシングタイム
・空港容量
・駐機スポット数
・ボーディングブリッジ数
・荷物搬送時の不具合程度
 なお、工事中の空港運用のパフォーマンスを精度よく予測することが難しい場合は、専用のシミュレーションソフトを使用してもよい。
◆プロジェクト管理計画の策定
 プロジェクト管理計画 (PMP)は計画フェーズの最終的な成果物である。このPMPは、安全性に関するリスクについて利害関係者間の合意が得られ、空港運用上からも妥当性が評価されたものでなければならない。
 プロジェクト内の特定の部分について確立されたプロセスは、その部分についてのみ適用可能なものである。包括的なPMPを作成するには、すべての部分についてのプロセスを統合する必要がある。これらのプロセスは、空港内で工事を行っているすべての建設業者に対して共通のものであり、リスク評価がなされ、必要な軽減策も特定されている必要がある。
 空港管理者は、建設業者に対して、次の項目に関して詳細な計画を策定させる必要がある。
◇野生生物の管理
 建設業者は、空港内の野生動物、特に鳥類のハザードの重大性と深刻さを認識しておく必要がある。空港管理者は工事中および工事後にその区域に野生生物が近づかないように工事を計画するための指針を作成し、建設業者はその指針を使用して野生生物管理計画を作成する。指針では特に次の点を強調する必要がある。
●食品廃棄物に野生生物が近づかないような措置を講ずる
●野生生物への給餌は行わない
●工事区域内の排水システムは適切に管理する
●水たまりは残さない。不可能なときはネット等で覆う
◇FODの管理
 建設業者は、建設資材・包装材の管理と同様に、航空機運航区域における異物 (FOD)管理の重要性を認識する必要がある。FODの形態は様々であるが、いずれにせよそれを発見・撤去できなければ悲惨な結果を引き起こしかねない。
 FODの発生防止は空港の運用にとって不可欠な要素であり、空港の運用と工事に関わるすべての関係者は、FODの発生防止、発見および撤去に関して責任がある。FOD関連のインシデント・アクシデントを防ぐために、建設業者は包括的なFOD管理計画を作成する責任がある。その際には空港管理者の協力を求めるとよい。
 FOD管理計画には次の事項を含むべきである。
●FODの発生防止と撤去に関する工事関係者の意識
●FODの発生防止・撤去方法の管理・監督
●強風時の注意事項
●資機材保管場所と飛散防止措置
●工事区域からの出口における土砂ふるい落とし装置の必要性
◇航行援助施設の保護
 エアサイドでの工事は、空港の運用に影響を及ぼさないように適切に計画する必要がある。建設業者は、空港内の航行援助施設 (NAVAID)、レーダー、通信施設の周辺で工事を行う際に、これらの施設の性能を低下させたり、損傷を与えたりしないように注意する必要がある。
◇インシデントの報告
 工事中は、その周辺で航空機・車両の走行や関係者の通行を危険にさらすインシデントが発生する可能性がある。万が一、工事区域でインシデントが発生した場合は空港管理者に報告する必要がある。空港管理者は、建設業者が使用するインシデント報告システムが空港SMSのインシデント報告・周知システムと整合していることを確認する責任がある。
◇エアサイドにおける車両運転
 エアサイドで車両を運転するドライバは空港管理者が規定した車両運転規則に従う必要がある。この車両運転規則は、国・地域における車両運転規則と空港内での施設配置によって異なったものとなる。建設業者のドライバによる車両の運転方法には次の3つがある。
●建設業者の全ドライバがトレーニングを受け、空港内車両運転許可証の交付を受ける
●建設業者の一部のドライバがエスコートドライバとしてのトレーニングを受け、他のドライバをエスコートする
●空港管理者が建設業者のドライバをエスコートする。この場合、建設業者の全ドライバはエスコート付きの車両運転規則に関するトレーニングを受ける。
 空港管理者は、次のような要因を考慮して、建設業者のドライバの車両運転方法を決定する必要がある。
●プロジェクトの期間
●運転ルート(特に誘導路と滑走路の交差部が含まれる場合)
●一日の車両通行数
●プロジェクトで使用する車両数
●建設業者のドライバ数
 空港運用部門は、空港内車両運転許可証を発行する前にドライバにトレーニングを施して技能を確認するとともに、エアサイドで使用する車両についてもその状態を確認して空港内車両使用許可証を発行する必要がある。空港管理者は、建設業者に対して、工事開始前にこれら必要となる許可証の取得を義務づける必要がある。
◇工事区域へのアクセスと資機材積み下ろし場所
 航空機運航区域、特に航空機の周囲での工事は、安全性に関して細心の注意を払わなければならない。空港管理者は、建設業者に対して、工事開始前に工事が航空機の運航と空港の運用へ及ぼす影響を最小にするための工事区域へのアクセス計画を作成させる必要がある。アクセス計画には次の事項を取り込む。
●建設業者の車両が使用するアクセス管理ポイント
●アクセス管理ポイントから資機材積み下ろし場所と工事区域までのルート
●建設業者の車両の通行が禁止される時間帯
●GSEの周囲や耐荷力の小さい道路に対する車両重量制限
●道路の高さ制限
 このほか、規模の大きい工事の場合は、エアサイドや工事区域に近い場所での建設機械の保管の必要性についても検討する必要がある。
◇アクセスルートのマーキング、標識とバリケード
 工事区域へのアクセス計画が決定され、資機材積み下ろし場所が指定された後に、必要となるマーキング、標識とバリケードの設置計画を作成する必要がある。空港管理部門は、工事開始前に、隣接する誘導路や駐機スポットと工事区域・バリケード範囲の位置を確認した上で、所定のマーキングを施し、工事車両が規則に従って走行できるよう適切な措置を講ずる。
◇視界不良時や悪天候時の空港運用
 視界不良時や悪天候時の空港運用に関する規制に注意する。空港運用計画には、以下に示す気象現象ごとにその対応について詳細に記述する必要がある。
●視界不良時
 低視程手順 (Low Visibility Procedures、 LVP)使用時に適用される規制
●強風警報発令時
 強風警報発令時に適用される2種類の規制
・強風警戒レベル1:風速25~39ノットの突風
・強風警戒レベル2:風速40ノット以上の突風
●雷警報発令時
 雷警報発令時に適用される2種類の規制
・雷警戒レベル1:飛行場標点から8 km以内での落雷
・雷警戒レベル2:飛行場標点から5 km以内での落雷
◇危険物・有害物の管理
 工事に伴う危険物・有害物の管理に関しては所定の手順に従う。
◇廃棄物の管理
 工事に伴う廃棄物の管理に関しては所定の手順に従う。
◇緊急事態への対応
 空港の緊急事態への対応計画と準備方法について十分に認識する。空港管理者は、空港内と空港外での緊急連絡先、緊急時にエスコート担当者と連絡を取る方法等について、建設業者に通知する必要がある。

● 調整フェーズ

 調整フェーズでは、建設プロジェクトに含まれる各種建設工事について、空港管理者、建設業者、利害関係者の間での調整を図る。調整フェーズは、プロジェクトによっては、計画フェーズと部分的あるいは完全に重なっている場合がある。
 一般的には、空港運用部門がエアサイド工事調整会議を組織して、それを適切な頻度で開催することにより工事内容の調整を図ることが肝要である。調整会議の開催頻度は工事の種類と数によって変えればよいが、多種多様な工事が継続して実施されているような大規模空港では、毎週または隔週に開催することが望ましい。
 このようなエアサイド工事調整会議は次のような目的を有している。
●新規施設の必要性、補修工事の必要性等の判断
●エアサイドにおける新規プロジェクトの検討
●計画フェーズにおける検討プロセスの検証と新規プロジェクト管理計画への同意
●実行中のプロジェクトの進行状況の確認
●安全性に関するリスクと空港運用に及ぼす影響の評価
●空港運用に関する影響の最小化を目的とする、工事スケジュールについての利害関係者との合意
●空港運用に関して工事の影響を受ける具体的な事項の特定と、通行ルートの迂回や誘導路・駐機スポットの使用制限等についての合意
●工事中の安全性に関わるインシデントのフォローアップと是正措置の決定
●利害関係者と航空運送事業者間の調整必要事項の特定
●利害関係者へ通知する航空情報と工事計画の内容についての同意
 エアサイド工事調整会議の議長は、空港全体の運用部門長、エアサイド運用部門長または安全部門長が望ましい。また、メンバーとしては以下に示す機関・組織の代表者を入れる必要がある。この場合、出席者が議題に関する意思決定権を有していることが肝要である。
●空港運用部門
●空港安全部門
●空港技術部門または施設管理部門
●ATC
●エプロン管理業務提供者(ATCや空港管理者と別の場合)
●空港救難救急消防部門 (Airport Rescue & Fire Fighting、 ARFF)
●空港警備部門または空港警察
●地上支援業務事業者
●航空機給油事業者
●プロジェクトマネージャ
●建設業者
●代表航空会社や空港運用協議会
●その他の運航支援業務事業者 (Fixed Base Operator、 FBO)
●CAAの空港検査官

● 承認フェーズ

 承認フェーズでは、建設プロジェクトに関する申請、計画、調整の各フェーズを経て、主要事項について利害関係者間での合意を得たのちに、PMPを決定する。この場合の主要事項としては、工事の区域、開始・完了予定日、マイルストーン、影響を受けるサービスと利害関係者、安全上のハザードとその軽減策、空港運用に及ぼす影響といったものが挙げられる。
 PMPは、CAAの承認を得たのち、空港管理者と建設業者の署名をもって正式に決定されたことになる。なお、CAAの承認については、空港検査官がエアサイド工事調整会議に参加したりして情報を事前に把握していれば、そのプロセスは簡素化されよう。
 承認フェーズの最終ステップはエアサイド工事許可証の発行である。これは空港管理者からの、建設業者が実施する工事についての書面による正式な承認である。可能であれば、許可証の発行は発効日の少なくとも10日前(遅くとも7日以上前)とする必要があるが、航空機運航区域から離れた場所での工事の場合は例外が認められることもある。

● 通知フェーズ

 通知フェーズでは、建設プロジェクトに関する情報とPMPを適切な組織・機関に通知するとともに、同じ情報を適切な形式で利害関係者に配布する。
◆NOTAM
 NOTAMは、エアサイドでの工事に関連する安全上ならびに運用上の影響を航空機パイロットへ伝達するための主要な手段である。NOTAMには滑走路・誘導路・駐機スポット等の閉鎖に関する情報に加えて、滑走路端の移設、滑走路公示距離の変更ならびに航空障害物の位置・高さ、マーキングと照明に関する情報が含まれる。可能であれば、工事による運用上の制限に関するNOTAMは、発効日の7日前に発行されるべきである。
◆航空路誌改訂版
 航空路誌改訂版 (AIP Amendment)は、工事完了後の施設に関する恒久的な変更、例えば駐機スポットや誘導路の新設といったものについて、パイロットに伝達する手段である。航空路誌改訂版は、タイムリーに、すなわちそれが発効する56日前(エアラック (AIRAC)の発行周期の2サイクル前)までには公表される必要がある。
◆空港運用に関する通知
 空港運用に関する規定の変更は、利害関係者の範囲を広げて、航空会社、行政当局、緊急サービス部門等へも通知しなければならない。これは、運用部門や安全部門が発信するものであるが、所定の形式に従っていることならびに通知を受け取った組織・機関の代表者がそれぞれの内部に広く提供することが肝要である。
◆ATCの作業手順
 エアサイドでの工事の間、航空交通管制手順書について一時的な変更を検討する必要もあろう。具体的には、タキシングルート、滑走路端、工事に関する運用・安全部門との協議方法、滑走路・誘導路・駐機スポットの一時的閉鎖等に関して変更があるような場合である。
◆運用および安全部門の作業手順
 特定の工事・作業に関しては、工事の監督に直接関係する空港運用部門と安全部門に加え、空港運用管理センター、エプロン管理部門やGSE車両ドライバに向けて手順書を作成・配布する必要がある。これらの手順書には、例えば、特殊なプッシュバック方法、フォローミーカーに誘導されたときの走行方法、着陸帯での工事に関するATCとの調整方法、航空機の駐機スポットの割り当て方法等について記載する必要がある。
 工事を監督する運用部門は、工事関連ハザードに関する詳細な指針を作成する必要がある。これは、建設業者が、視界不良時の工事中断、保管材料の保護、機器の組立場所の制限、灯火と標識の一時的なマスキング、クレーンの許容高さの制限といった義務を遵守していることを確認するために必要である。

● 実行フェーズ

 実行フェーズは事前準備の最終フェーズであり、PMPの承認またはエアサイド工事許可証の発行から始まり、建設工事の開始まで続く。このフェーズでは、建設業者は、工事を組織的に開始できるようにするために、すべての事前準備作業を完了する必要がある。
◆建設業者の管理
 空港管理者は、建設業者がPMPに記載されている次のような要件を遵守できることを確認する必要がある。
●安全性の確保:工事担当者は次のようなトレーニングを受ける必要がある
・健康安全と環境保全:建設業者が準備
・セキュリティの確保:空港管理者が準備
・一般的な安全対策:空港管理者が準備
●エアサイドでの車両運転
●工事区域へのアクセス
●機器の組み立て場所
●福利厚生施設・設備
●FODの管理
●野生生物の管理
●ダストコントロール
●悪天候時の工事
●隣接部を含む建設区域の整理・清掃
●空港内道路の使用と道路閉鎖時の対応
●車両の駐車規制を含めたエアサイドでの使用車両に関する要件
●火気使用工事の許可に関する要件
●工事区域での防火対策
●個人防護具 (Personal Protective Equipment、 PPE)
●着陸帯等のエロージョンの防止と空港用地内の斜面の管理
●排水システムの管理
●緊急事態への対応
◆建設業者への支援
 空港内の工事は、都市部での工事といった通常の工事とは異なる規則と方法に基づく、専門的かつ特殊な工事である。これらの規則は、空港の運用方法、空港内での施設配置等のために、空港ごとに異なっている。
 空港管理者が建設業者向けのガイドブックを作成することはプロジェクトの遂行上きわめて有効である。このガイドブックは、プロジェクトの計画から完成までの間、空港の規則や規制に関する資料として有用なものである。これにはさまざまな手順や文書に関する指針を含める必要がある。また、承認担当者の連絡先についても提供する必要がある。
 空港管理者は、プロジェクトの計画や建設業者との調整等の際に、次の事項を考慮する必要がある。
●許可・承認プロセス、PPEの要件、安全ツール等
 空港運用に影響を及ぼす可能性のある工事は、工事承認オフィスやエアサイド運用部門がそれを登録し、工事許可証を発行する必要がある。許可証が得られなければ、工事は中止となる。各工事において必要となる項目は、提供された情報に基づいて、所定の規準に従って決定される。
●エアサイドでの許可が必要となる工事
 エアサイドでの許可が必要となる工事には、次のものに関する建設、改良、補修、移転または撤去工事がある。
・土木・建築インフラ、滑走路・誘導路・エプロン舗装、空港内道路、航空機運航区域の灯火、標識およびマーキング
・盛土・切土
・上水配水用ならびに雨水・下水排水用の管路
・地中電線・通信線等の地下施設・設備
・暖房・換気・空調システム
・防火システム・設備
・電力設備・システム
・通信システム
・燃料貯蔵施設と燃料分配システム
 一般に、空港運用に影響を及ぼす工事では、次のような事項が許可・承認プロセスの対象となる。
●工事関係者と車両の空港内アクセスに関する安全性
・工事関係者の空港内アクセス
 工事関係者には空港内アクセスに関する安全性についての指針を提供する。これには、安全性の確保に必要な事項の詳細について記述する必要がある。
・車両の空港内アクセス
 建設業者の車両の空港内アクセスについての指針を提供する。これには、車両ID(社名等)、アクセスゲート・走行許可ルート等を記載した地図、許可・申請プロセスフローが含まれる。
●エアサイドでの作業担当者の安全性
●空港内車両運転許可
●インシデントの報告手順
●悪天候時の作業:視界不良、強風、雷雨等
●主要担当者の連絡先
●保険による補償
●緊急時の行動

 

参考資料
・Managing Operations During Construction, First Edition, Airports Council International (ACI), 2018
・Operational Safety on Airports During Construction, AC 150/5370-2G, Federal Aviation Administration (FAA), 2017
・Airport Design, AC 150/5300-13A, FAA, 2012

(続きは次回)

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