八谷 好高 客員研究員(SCOPE)
供用中の空港における建設工事に関して、工事と空港運用の両方の安全性を確保しつつ、効率を高める方法について考察を進めています。今回は、次回と併せて、建設工事の工事安全計画と工事安全計画遵守プログラムに関する米国連邦航空局の規定について紹介します。
航空機運航の安全性は、空港での建設工事における最優先の考慮事項である。そのため、空港管理者は、工事状況について確認し、危険な点があれば、それを特定して、修正するために必要な措置を講じなければならない。空港管理者が作成する工事安全計画 (CSPP)と建設業者が作成する工事安全計画遵守プログラム (SPCD)は、航空機運航の安全性が確保できるように建設工事を実施するための重要なツールである。建設工事が空港運用の安全性に対する危険性を有するものであることから、CSPPとSPCDでは建設工事に関するあらゆる事項が明確にされ、それぞれに対する対応方法が記述されている必要がある。また、プロジェクト図面、仕様書等にあるすべての航空機運航の安全性に関する規定も反映されていなければならない。
空港運用の安全性を確保することは空港管理者の責任である。空港管理者はCSPPを作成し、FAA(米国連邦航空局)に提出して承認を得なければならず、作成時から状況が変化した場合にはそれを修正してFAAの承認を再び得なければならない。また、建設業者に対してSPCDの作成を要求して、提出されたものを確認して、承認する必要がある。
空港管理者は、CSPPの作成を建設プロジェクトの設計と同時に進行させる必要がある。
◆CSPPのアウトラインの提出
プロジェクトの設計が30%程度完了するまでに、CSPPに含まれるべき事項を決定する必要がある。空港管理者は、この段階でのCSPPのアウトラインをFAAに提出して、プロジェクト設計の進行状況を報告する必要がある。
◆CSPPの提出
空港管理者は、プロジェクトの設計が80~90%完了したら、CSPPをFAAに提出して承認を得る必要がある。CSPPに記載された事項は建設工事費に大きく影響するので、それらを契約内容に含めるためには、この段階で承認を得ることが肝要である。
◆SPCDの作成・提出
建設業者は、SPCDを作成し、空港管理者に提出して、承認を得てから、着工通知書を提出する。
◆CSPPの修正版の作成・提出
CSPPが承認された後に修正が必要になれば、修正版のCSPPをFAAに提出して、再度承認を得る必要がある。
CSPPでは空港管理者が次の事項について規定する必要がある。この段階で規定できない事項についてはSPCDに含まれることになる。
SPCDでは、建設業者がCSPPを遵守することを明記する必要がある。また、空港管理者が契約前までにCSPPに含めることができなかった事項を補足する必要がある。この補足事項については、様式(番号とタイトル)が対応するCSPPのものと一致するように記述する必要がある。ただし、CSPPの記載内容をそのままコピーしてはならない。
CSPPとSPCDに記載する必要のある事項は次のようなものである。
●調整必要事項
・工事進捗状況報告会議
・工事範囲・スケジュールの変更
・ANSP(航空交通管制業務提供機関)との調整
●工事のフェーズ分け
・フェーズ分けにおける検討事項
・工事安全図面
●工事の影響を受ける区域と航空機の運航
・区域の特定
・影響の軽減方法
●NAVAID(Navigation Aids、航行援助施設)の保護
●建設業者のアクセス
・資機材の保管場所
・車両の運転と工事関係者の行動
●野生生物の管理
・廃棄物
・水たまり
・背の高い草や種子
・メンテナンスが不十分なフェンスとゲート
・野生生物生息地のかく乱
●FODの管理
●HAZMAT(Hazardous Materials、危険物)の管理
●建設工事の周知
・責任者と連絡先のリスト
・NOTAM
・緊急連絡の方法
・ARFF(Aircraft Rescue and Fire Fighting、航空機救難消防)要員との調整
・FAAへの通知
●点検方法
・日常点検
・最終点検
●地中ユーティリティ
●ペナルティ
●特殊な状態
●滑走路と誘導路のVisual Aids(視覚援助施設)
・マーキング
・灯火とVisual NAVAID(視覚的航行援助施設)
・一時的な標識と恒久的な標識
●アクセスルートのマーキングと標識
●ハザードに対するマーキング、照明と標識
・警告方法
●夜間工事区域の照明
●滑走路と誘導路の周辺区域* の保護
・RSA(Runway Safety Area、滑走路安全区域)
・ROFA(Runway Object Free Area、滑走路無物件区域)
・TSA(Taxiway Safety Area、誘導路安全区域)
・TOFA(Taxiway Object Free Area、誘導路無物件区域)
・OFZ(Obstacle Free Zone、無障害物区域)
・滑走路進入表面
●工事に関するその他の制約
・禁止事項
・制限事項
空港管理者(テナントも含む)は、事前設計、入札、工事前会議等、建設プロジェクトの開発段階で、工事期間における空港運用の安全性に関する問題に対応する必要がある。
◆工事進捗状況報告会議
空港運用の安全性は、プロジェクトのあらゆる段階における工事進捗状況報告会議での議題である。
◆工事範囲・スケジュールの変更
プロジェクトのいずれかの段階で工事範囲やスケジュールを変更すると、CSPPの修正ならびに空港管理者とFAAによる承認が必要になる可能性がある。
◆ANSPとの調整
ANSPとの調整は、工事着工前に滑走路等の施設の運用停止計画を作成するために、プロジェクトの設計の早い段階で行うことが必要である。この調整はNAVAIDの再開と特別な航空機運航方法を決定する上で重要であり、空港管理者とFAAとの間の正式な合意が必要である。NAVAIDの移転等についてはFAAとの調整が必要であり、NAVAIDの再起動にはFAAによる飛行検査が必要になる場合がある。
空港の運用方法によっては、最も効率的であると想定される工事方法を実施できなくなる恐れがある。この場合、必要とされる運用のレベルを確保しながら効率を最大にするために工事工程をいくつかのフェーズに分けることもできよう。そのためには、ANSPならびに空港利用者との間の調整が必要になる。CSPPに記述された工事のフェーズは、プロジェクト設計に組み込まれなければならず、契約図面と仕様書にも反映されなければならない。
◆フェーズ分けにおける検討事項
CSPPの各フェーズにおいて、次のような詳細事項の記述が必要である。
●航空機の運行禁止区域
●閉鎖期間
●航空機の走行ルート
●ARFFの走行ルート
●工事実施計画、廃棄物と立入禁止区域
●工事区域へのアクセスと運搬ルート
●NAVAIDへの影響
●灯火、マーキングと標識の変更
●航空機グループの変更への対応
●滑走路公示距離(該当する場合)
●ハザードに対するマーキング、照明と標識
●夜間工事区域の照明
●通知までのリードタイム
◆工事安全図面
工事の影響を受ける区域における航空機運航の安全性を確保する方法を具体的に記述している図面(工事安全図面)は、工事フェーズごとに作成する必要がある。それらはCSPPの参考資料に、また一連の契約図面類に含まれる必要がある。
滑走路と誘導路は、安全性を犠牲にしないことを前提に、航空機の運航に最大限供される必要がある。ANSPとの事前協議を行うことにより航空機運航についてのシミュレーションが適切にできるようになる。
◆工事の影響を受ける区域の特定
工事の影響を受ける区域と航空機運航に関する事項を特定することにより、安全上の問題を明らにできよう。影響を受ける区域は、工事フェーズごとの工事安全図面上に示されるべきである。特に留意すべき事項は次のとおり。
●滑走路、誘導路とエプロンならびに移設進入端
滑走路の一部(末端部分)が閉鎖されていると、その部分は航空機の使用ができない、つまり、離着陸やタキシングが禁止される。一方、移設進入端は、着陸する航空機に対して障害物のない安全な区域を確保するために設定されるものであり、滑走路末端から移設進入端までの舗装区域は、通常、滑走路末端から移設進入端の方向への離陸と反対方向からの離着陸に利用可能である。この違いを誤解すると不正確なNOTAMを発行してしまう可能性がある。
・一部閉鎖滑走路
末端部分が一部閉鎖された滑走路では、その滑走路末端部分に接続されている誘導路も一時的に閉鎖されるので、航空機がその部分に立ち入らないようにするための措置が必要になる。
・移設進入端
滑走路末端と移設進入端の間の舗装部分は、上記のように、滑走路末端から移設進入端の方向への離陸と反対方向からの離着陸に利用可能なので、一時的な移設進入端に取付誘導路を配置する必要はない。
●ARFFのアクセスルート
●空港・航空会社の業務支援車両のアクセスルート
●消防用を含む水道施設
●進入表面に影響を及ぼす高さの物件
●滑走路、誘導路とエプロンに近接する工事区域、資機材保管場所とアクセスルート
◆工事の影響の軽減方法
工事期間中における空港運用の安全性と効率性を維持するためには、工事の影響の軽減策として、次のような具体的な方法を確立することが必要である。
●滑走路・誘導路の一時的な変更
●ARFF用を含む空港車両の迂回路
●主要ユーティリティの確保
●航空交通管制方法の一時的な変更
NAVAIDの近くで実施されている工事、保管されている資機材、駐車車両等は、航空交通管制に必要不可欠な信号を妨害する可能性があるため、工事を開始する前にそれらがNAVAIDに及ぼす影響を検証する必要がある。NAVAIDが影響を受ける可能性がある場合は、CSPPとSPCDの両方において、NAVAIDの運用上重要な区域とその保護方法の記述が必要である。同時に、プロジェクト図面にも表示する必要がある。工事や工事機械の干渉によりNAVAIDの運用停止等が必要になる場合には、NOTAMの発行が必要となる。なお、資機材の設置や移動はATCT(Airport Traffic Control Tower、管制塔)からの見通しを妨害する可能性があるので、注意が必要である。
CSPPには、工事関係者がアクセス可能な区域と、その区域への具体的なアクセス方法を記述する必要がある。
◆資機材の保管場所
資機材の保管はRSAとOFZ内では認められない。また、運用中の滑走路のOFA内でも認められるべきではない。空港管理者は、これらの区域に隣接する場所に保管された資機材が、視界が制約されたり暗くなったりしている時間帯でも明瞭に見えるように、マーキングや照明を備えるようにしなければならない。また、資機材が航空機の運航に支障をきたさないように、あるいは野生生物を引き付けたり、FODとなったりしないように、所定の場所に確実に設置・保管されていることを確認する必要がある。
◆工事車両と工事関係者
CSPPには工事車両と工事関係者に対する規定を示す必要がある。建設プロジェクトに関わる車両と工事関係者のアクセスルートは、航空機運航区域へ不注意に立ち入ることがないように設定する必要がある。空港管理者は、車両の運行要件について、空港テナント、建設業者および航空交通管理部局と調整する必要がある。CSPPには、車両の運転と工事関係者の行動に関して、次の事項について記述する必要がある。
●工事区域における駐車場
工事関係者や車両が航空機運航区域へ不注意に立ち入らないように、建設業者用の車両駐車場を事前に指定する必要がある。
●工事機械の置場
工事機械は、OFZ外の空港管理者が指定した区域に留め置かなければならず、滑走路や誘導路の安全区域に留め置いてはならない。夜間、週末や工事を行わない期間等、工事機械を使用しないときには、OFAの外に留め置く必要がある。また、工事機械を留め置くことによってATCTから滑走路や誘導路、視覚援助装置、標識、NAVAID等を視認できなくしてはならない。
●アクセスと輸送ルート
建設業者の工事区域へのアクセスと輸送ルートを設定する必要がある。このアクセスルートは、工事車両が航空機運航区域へ立ち入ることを防ぐために明瞭にマーキングする必要がある。工事車両がARFFのルートを走行したり横断したりするときにARFFの通行を妨げることがないように、また輸送ルートを通行するときにNAVAIDに干渉したり、滑走路制限表面に接近したりしないように注意する必要がある。また、ゲートが閉鎖されたり、集合場所が使用不能となったりしていないかどうか確認することも必要である。
●交通車両の塗装、マーキングおよび照明
●通常時、通信不能時および緊急時における車両の運転方法
●エスコート
●車両運転者のトレーニング
エスコートがある場合を含めて、車両の運転規則を遵守させるために運転者に対するトレーニングが必要である。
●周辺状況の把握
滑走路、誘導路等、航空機運航区域を走行する許可が与えられたとき、車両運転者は航空機が接近してきていないことを確認しなければならない。さらに、エスコート車両の運転者はエスコートの対象となるすべての工事車両の位置や走行状況を常に確認する責任がある。航空機の現在位置や走行方向等については、目視確認、無線監視、周囲の状況認識により把握する必要がある。
●双方向無線通信
・無線通信の維持
空港管理者は、航空機運航区域での工事に関わるテナントや建設業者等の工事関係者が、所定の交信方法を遵守していることを確認する必要がある。工事関係者は、滑走路、誘導路やその周辺で車両を運転する場合、空港運用や航空交通管制に関して交信を保持することの重要性を理解している必要がある。
・ATCTとの双方向無線通信が必要となる区域
航空機運航区域を走行する車両については、双方向無線、エスコート、監視員、信号等の手法により、ATCTと調整の上適切に管理する必要がある。
・使用周波数
空港管理者は建設業者が使用する周波数、たとえば建設業者の車両とATCTの間で使用する周波数といったものを指定する必要がある。
・無線の適切な使用方法
・適切な無線用語
・Light Gun(ライトガン)信号
エスコート車両の運転者は、無線通信ができない場合を想定して、ATCTからのライトガンの信号を熟知しておく必要がある。
●空港制限区域の管理
・フェンスとゲート
工事車両や工事関係者の制限区域内工事区域への出入に関して、空港管理者と建設業者はセキュリティを保持しなければならない。そのため、許可を受けた者と車両だけが通行できる方法を整備する必要がある。また、一時的なゲートは、野生生物や許可を受けていない者によるアクセスを防ぐために、しっかりと閉鎖・施錠されるようになっている必要がある。
・立入許可
立入許可証は、アクセス管理や車両走行・工事関係者の識別に関する基準を満たす場合にのみ発行する必要がある。
CSPPとSPCDにおける野生生物管理に関する記述内容は、空港管理者が設定している野生生物ハザードマネジメント計画に準拠していなければならない。建設業者は、野生生物を引きつける可能性がある廃棄物や包装されていない材料(ばら物)が残ることのないように次のように管理する必要がある。
●廃棄物
工事関係者が廃棄する食品等については適切に回収する必要がある。
●水たまり
●背の高い草と種子
芝生を育成することは野生生物の排除方針と矛盾する恐れがある。また、種子は鳥類にとって魅力的であり、低品質の混合種子には大型の野生生物をも引き付けるような植物の種子(クローバーなど)が混入していることがある。
●管理不十分なフェンスとゲート
●既存の野生生物生息地のかく乱
建設工事が既存の野生生物生息地に影響を及ぼすことは避けられない。CSPPには、工事関係者が野生生物を目撃した場合、空港管理者にその情報(場所、野生生物の種類等)を通報することを記述する必要がある。
廃棄物やばら物、散乱物といったFODは、航空機の着陸装置、ジェットエンジン等に損傷を与える可能性がある。建設業者は、航空機運航区域やその周辺にFODを置いたり、残したりしてはならない。また、FODの発生源になるようなものは速やかに取り除かなければならない。風により航空機運航区域に移動してしまう恐れのある廃棄物、ばら物等を保管するために、フェンスやカバーが必要になる場合がある。
工事車両や工事機械を使用している場合、燃料やオイルの漏れがあればそれを直ちに止めて、舗装面、地表面等を清掃する必要がある。これ以外にも、危険物の輸送と取扱いには特別な配慮が必要である。
CSPPとSPCDには、空港運用の安全性に影響を及ぼす状況があれば、それについて空港利用者とFAAに直ちに通知するための方法を記述しなければならない。具体的には、次のような点に関するものである。
●責任者のリストとすべての関係者の連絡先・連絡方法(時間外を含む)
●NOTAM
空港管理者は、建設工事に起因するNOTAMの発行、保守とキャンセルに関して、テナント、ANSPと調整する必要がある。空港利用者等は、NOTAMについて、それが欠落していた、不完全であったり、または不正確であったりすることを発見した場合は、空港運用者に通知しなければならない。
●緊急通報方法
●ARFFとの調整
CSPPには、ARFFやその他の緊急サービスとの調整方法を記述する必要がある。具体的には次のような点に関するものである。
・水道管や消火栓の閉鎖と再開
・緊急アクセスルートの変更、閉鎖と再開
・危険物の使用
●FAAへの通知
・航空機の運航方式(連邦規則CFR Title 14 Part 77)
航空機運航空域に影響を及ぼす物件を建設または改修する場合には、FAAに通知する必要がある。これには、空港で使用する工事機械(クレーン、グレーダ等)とそれらの置き場所が含まれる。
・空港の建設(連邦規則CFR Title 14 Part 157)
FAAによらない資金によるプロジェクトが滑走路、着陸帯および誘導路の建設、再配置、変更、供用開始ならびに廃止または空港全体の廃止を伴う場合は、空港管理者がFAAに書面で通知する必要がある。
・空港所有・FAA維持のNAVAID
空港管理者が所有して、FAAが維持しているNAVAIDの運用を24時間以上、または毎日4時間以上連続して停止する場合には、最低でも45日前までにFAAに通知する必要がある。
・FAA所有のNAVAID
空港管理者は、NAVAIDに影響を及ぼす工事の少なくとも45日前までにFAAに通知する必要がある。
注)
* 滑走路と誘導路の周辺区域は次のように定義されている。
・RSA(Runway Safety Area、滑走路安全区域)
航空機のアンダーシュート、オーバーシュートまたは滑走路からの逸脱が発生した場合に、航空機が損傷を受ける危険性を小さくするために用意された、滑走路周囲の区域
・TSA(Taxiway Safety Area、誘導路安全区域)
航空機が誘導路から逸脱したときに損傷を受けるリスクを軽減するために用意された、誘導路周囲の区域
・ROFA(Runway Object Free Area、滑走路無物件区域)、TOFA(Taxiway Object Free Area、誘導路無物件区域)
OFAは航空機運航の安全性を確保するために、センターラインを中心にして、物件 (Object)を設置しない区域(航空機運航に関するものを除く)
・OFZ(Obstacle Free Zone、無障害物区域)
航空機の離着陸や進入を妨害することのないように用意された、滑走路のセンターラインを中心にした三次元領域
参考資料
・Managing Operations During Construction, First Edition, Airports Council International (ACI), 2018
・Operational Safety on Airports During Construction, AC 150/5370-2G, Federal Aviation Administration (FAA), 2017
・Airport Design, AC 150/5300-13A, FAA, 2012
(続きは次回)