[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第31回 「空港の安全性に関する自己点検(7)」  ~2019.3.1~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

 

 空港の安全性の自己点検に関して、前回までに米国における規定、自己点検の方法、規定に対する不適合事項の報告・フォローアップ・クローズアウトの方法、点検担当者に対するトレーニングの方法に加えて、自己点検の質の管理について紹介しました。このテーマに関して最終回となる今回は、FAAならび州政府により実施される空港の安全性に関する検査についてまとめます。

● 検査

 空港の安全性に関する自己点検プログラムについては、認証空港ではFAAが検査を実施している。これに対して、非認証空港では州政府が検査を実施して、それらの空港が規定に適合していることを確認しなければならない。

● FAAによる認証空港に対する検査

 FAAは、認証空港に対して、米国規定(ACや各種レギュレーション)のほかパート139の規定に関する検査を毎年実施している。具体的には次の二種類の検査である。
• 空港の運用に関する書面検査(トレーニング、点検、手続きなど)
• 空港の施設等の状態と空港の運用状況に関する実地検査(航空機走行区域の施設等の状態、航空機救急消防トレーニングの状況など)
 検査では、パート139の規定に対する適合性に関するドキュメントを確認するとともに、実際の空港の状態・状況がドキュメントのとおりであることを確認することが基本である。すなわち、適切なドキュメントがあることとパート139の規定に対する適合状況が明確に記されていることに最も注目している。この場合、次のいずれかの状況が発見される可能性がある。
• ドキュメントにはパート139の規定に適合していると記されているが、実際の状態・状況はそれとは異なる
• ドキュメントにはパート139の規定に適合しているとは記述されていないが、実際の状態・状況は適合している
• ドキュメントにはパート139の規定に適合しているとは記述されておらず、実際の状態・状況も適合していない
 空港の施設等の状態に関する検査では、点検報告書に記されていない課題・事項が発見されることがよくある。例えば次のようなものである。
• 対象施設等の状態が劣化・悪化するまでに長時間を要するような課題・事項
・舗装
・マーキング、標識
• 対象施設等に関する長期的な課題・事項
・安全区域内の障害物
・滞水状況、排水施設
・野生生物
• アクセスが難しい区域における施設等に関する課題・事項
・滑走路安全区域内の施設等
◆自己点検に関するベストプラクティス
 FAAは空港の安全性に関する自己点検プログラムを強化する方法として次の二つを挙げている。一つは、優れた自己点検プログラムを有する他の認証空港の事例を参考にすることにより、現在使用しているプログラムについて再考察することである。もう一つは、自己点検プログラムを強化するために、さまざまなトレーニング教材やテクノロジーを使用することである。
 多くの空港で共有できるベストプラクティスとしては、次のものが挙げられる。
• トレーニング
・外部トレーニングを利用する。これはACIや他の民間組織など、実施主体を問わない
・オンザジョブトレーニングを利用する
・他の空港を訪問調査する。実効性のあるトレーニングプログラムを使用している、同じレベルの空港を訪問することで、点検担当者はいろいろな事項を学習できるとともに、新しいアイデアを思いつくこともできる
・点検対象項目について「適合」および「不適合」と判定される状態の写真を机上トレーニングで使用する。これはオンザジョブトレーニングと組み合わせることが最も効果的である
・項目を特定してトレーニングを実施することで、点検担当者は責任感を強められ、その項目について広くかつ深く学習できることになる
• 点検業務
・昼間と夜間の両方で点検を実施する
・特定の分野については詳細な点検を実施する
・舗装については施設を閉鎖して詳細な点検を実施する
・FODなどについては時間をかけて点検を実施する
・点検業務の最初のステップとして滑走路の灯火を点検する
・滑走路では両側縁部と中心線近傍で点検を実施する
・滑走路安全区域と誘導路安全区域では徒歩により点検を実施する
・点検パターンを標準化しない
・毎日複数回の点検を実施する
・ウェブベースのGISマッピングシステムを備えた点検ツールを使用する
・施設が使用できなくなる時期の推定方法を確立する
・点検担当者をローテーションさせる
• 不適合事項と結果の報告
・電子作業指示システムを利用する
◆自己点検の実施方法に関する提言
 FAAは具体的な自己点検の実施方法に関して、次のような実施すべきこと(Dos)、実施してはならないこと(Do-nots)を提言している。
• 実施すべきこと
・レベルが同じ程度の空港を訪問調査する
・トレーニングでは写真を使用する
・トレーニングプログラムの開発においてはFAA地方局と協力する
・空港平面図と点検チェックリストの両方を使用する
・不適合事項が解消したことが明確にわかるような方法を使用する(電子的な方法の使用を推奨)
・FAAの検査時に車両に同乗する点検担当者をローテーションさせる
• 実施してはならないこと
・点検時に車両の走行速度を過度に大きくする
・車内に長時間留まったまま点検を実施する
・航空機救難消防業務担当者に自己点検業務を担当させる
◆自己点検の実施方法のまとめ
 FAAによる認証空港に対する検査の経験を通じて明らかになった、空港の安全性に関する自己点検を正しく実施するための方法は、次のようにまとめられる。
• パート139の規定に適合して機能が保持されている空港を訪問調査する。そのような空港のノウハウを学習することにより、担当している空港の安全性が向上できる。
• 点検担当者に対するトレーニングでは写真を使用する。点検対象の施設等についてそれが規定に不適合となっている状態の写真を使用してACとパート139について学習することにより、担当者は点検業務をより的確に実施できる。
• 点検担当者が特定事項について専門家として同僚に教えられる仕組みを作る。これにより担当者の責任感を高めさせるとともに、知識欲を刺激できる。
• 点検業務を実施するための効果的な方法を使用する。たとえば、昼間と夜間の両方で毎日複数回の点検を実施したり、舗装区域や安全区域を歩いて詳細に点検を行ったり、点検パターンをフレキシブルにしたりするなどである。

● 州政府による非認証空港に対する検査

◆検査に対する責任
 州政府が実施する非認証空港に対する検査は、FAAが認証空港に対して実施する検査ほどには詳細なものではないものの、重要であることに変わりはない。多くの場合、州の航空局が空港安全性プログラムに規定されている事項を確認するために検査を実施している。非認証空港を定期的に検査しなければならないという規則はないが、少なくとも3年ごとに検査するような施策が採られている。この場合の検査の目的は次のとおりである。
• FAA Form 5010* のデータの正確性を検証する
• 必要に応じてデータを更新する
• 空港の施設等の状態と空港の運用状況を利用者へ周知する
 なお、すべての空港の施設等に関する検査結果は5010Web.com** を用いてFAAに直接提出できるようになっている。
◆州政府による検査の実施状況
 非認証空港の自己点検プログラムに関する州政府による検査に関するアンケートから、43州では州航空局の職員が点検を実施している(直営)こと、7州では点検を外部委託していることが明らかになった。また、テキサス州では空港によって直営と外部委託を使い分けていることもわかった。一連のアンケートの結果は次のようにまとめられる。
◇検査の頻度
 検査の頻度は、図1に示すとおり、ほとんどの州では毎年または3年ごととなっている。

 

 

◆検査時の注目分野
 検査時に特に注目する分野は、図2に示すように、マーキング・標識・灯火、障害物、舗装区域、安全区域である。トレーニング記録については11%の州で検査を行っている。

 

 

◇空港証明書の発行
 61%の州では空港証明書を発行している。そのうち85%では空港証明書を取得または更新するためには検査に合格する必要がある。また、21%の州では州予算を獲得するためには検査に合格する必要がある。
◇トレーニングについての検査
 半数の州(51%)では自己点検の担当者に対するトレーニングが重要であるとしている。しかし、61%の州ではトレーニングは検査の対象にはなっていない。また、空港が個別にトレーニングプログラムを開発する際には、89%の州の州航空局は直接的な指導をしておらず、47%の州ではFAAに助言を求めるように指導している。

 

注)
* 空港マスターレコードに関するFAAの様式。以下は、ミシシッピ州ビックスバーグ空港のマスターレコードの例(部分、5010WEB)

 

 

** FAAとの契約に基づいて、GCR&Associates, Inc.が開発したウェブベースのアプリケーション

 

参考資料
• Airport Self-Inspection Practices, ACRP Synthesis 27, TRB, 2011 (ACRP)
• https://www.gcr1.com/5010WEB/airport.cfm?Site=VKS (5010WEB)

(続きは次回)

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