[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第3回「永久舗装 (Perpetual Pavement)」  ~2014.9.1~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

永久舗装 (Perpetual Pavement)

 「インフラ通信簿」に続いては,「永久舗装 (Perpetual Pavement)」を取り上げます.

 この舗装技術の概念は,米国のAsphalt Pavement Alliance (APA)により2000年に提唱されたもので,その定義は,打換えや大規模補修が50年以上なく,表面に現れてくる軽微な損傷に対処するために定期的な表面の更新をしているだけの舗装というものです.具体的なものとして,フル・デプス舗装(路床より上はすべてアスファルト混合物から成る舗装),ディープ・ストレングス(アスファルト混合物が厚い舗装)を想定しているようです.ちなみに,東京国際空港B滑走路は,実態として,この形式の舗装になっています.

永久舗装提唱の背景

 永久舗装が提唱されるようになった背景には,現時点での,さらには今後増加が予想される設計荷重・交通量に対応するためには,舗装を厚くし続けなくてはならないことになるとの危機感があります.(道路)舗装の設計法は,半世紀前に米国で行われたAASHO (American Association of State Highway Officials,現AASHTO)道路試験により確立された経験的設計法が原点であり,現在は,その後発展した理論的(正しくは力学的)設計法と組み合わされた,力学的経験的設計法が主流になっています.舗装の構造設計法は,他の土木構造物といささか異なり,疲労のみに基づいた設計法と言えますが,この力学的経験的設計法は,一言でいうと,荷重により舗装に生ずるひずみを計算し,それに対応する許容繰返し載荷回数の逆数(疲労度)を交通量分累積していき,累積値が1.0もしくは経験により調整した値を超えないですむ舗装構造(厚さ)を決定するというものです.これに従う限り上記のような状況になります.

 しかし,現時点での交通量がAASHO道路試験で用いた試験交通量をはるかに超えていることから,現実には経験が加味されていない範疇のものをそのまま適用していることになっているのではないかという懸念があります.これが事実だとすると,すでに過大な舗装構造・厚さになっていることになります.これを裏付けるものとして,材料の疲労について,繰返し載荷を何度受けても疲労破壊に至らない現象が,従来疲労限あるいは疲労限度として知られています.舗装構造を強化すること,舗装厚を増加することによって,荷重により生ずる応力・ひずみを材料の疲労限となる応力・ひずみ以下に抑えることができることから,大荷重・大交通量になっても構造を強化せずにすむようになる可能性が十分にあります.

 永久舗装の概念は以上のような背景の下に提唱されたもので,そのメリットは次のようなものです.これは,一般的に言われている長寿命化対策のメリットと同じです.

●打換えや大規模補修がないことにより,ライフサイクルコストが低い

●補修等,工事規模が小さく,また工事時間を調整できることにより,利用者の遅れによるコストが低い

●舗装材料を長期間使用することにより,環境への負荷が小さい

永久舗装の構成

 永久舗装の基本的な考え方は,次のようにまとめられます.

●舗装構造は(半)永久的に保持が可能

 ・アスファルト混合物(下層部分)に疲労破壊は生じない

 ・路床には構造的わだち掘れ(変形)は生じない

●アスファルト混合物(表層部分)は,必要に応じて更新を実施

 ・舗装に必要とされる性能が実現可能

 ・性能低下時には更新が可能

●打換え等の大規模補修・再建設が不要

 永久舗装の構造自体は一般的な舗装のものと同様の形式と言えますが,アスファルト混合物層の構成が大きく異なります.また,路盤は必要に応じて設ければいいことになります.

 

 アスファルト混合物層の構成は次のようなものです.

●アスファルト混合物層は3層により構成

●表層(1層目)は40~75mm厚で,必要とされる性能に応じた材料を用いる.供用開始後必要に応じて更新を実施する.

●中間層(2層目)にはわだち掘れ抵抗性に優れている材料を用いる.特に,舗装表面から100~150mmの範囲には高い圧縮力が作用するため,その点を考慮して材料を決定する.

●下層(3層目)は75~100mm厚で,疲労抵抗性に優れている材料を用いる.

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永久舗装のアスファルト混合物層の構成

永久舗装の構造設計

 永久舗装は,基本的な考え方として示したとおり,構造体として(半)永久的に保つ必要があることから,舗装内の応力,ひずみ,変形に注目してその構造を設計する必要があります.具体的には,通常の構造設計法でも用いられている,アスファルト混合物層下面の水平ひずみ,路床上面の垂直ひずみに注目して構造設計を行えばいいと考えられます.設計では,次の二点が満足されるものでなければなりません.

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永久舗装の構造設計の考え方(路盤ありの場合)

●疲労ひび割れの防止

 交通荷重の繰返し載荷によるアスファルト混合物層の疲労ひび割れの発生を防止する必要があり,アスファルト混合物層下面の水平ひずみに着目する.

●わだち掘れの抑制

 交通荷重の繰返し載荷による構造的わだち掘れ(変形)を抑制する必要があり,路床上面の垂直ひずみに着目する.

 これらのひずみの規準値については,現時点ではコンセンサスを得たものはありません.たとえば,路床については規準ひずみを200×10-6(200マイクロ)とする,ひずみではなく応力を計算してその強度に対する比を0.42とするといった提案がなされています.また,アスファルト混合物については,室内疲労試験と現地舗装の違い,healing現象,供用時温度といった事項を詳細に検討して決定しなければならないと指摘されており,具体的な規準ひずみとして数十から数百マイクロの範囲のものが提案されています.

永久舗装の材料

 永久舗装を構成するアスファルト混合物(表層),アスファルト混合物(中間層),アスファルト混合物(下層),路床の材料としては,次のようなものが適しています.

●アスファルト混合物(表層)

 表層には,状況に応じて,わだち掘れ抵抗性,表面ひび割れ抵抗性,すべり抵抗性,車両走行時の水はね・騒音の抑制能力といった多様な性能が必要とされる.そのため,マスチック (Stone Mastic Asphalt, SMA),摩擦層 (Open Graded Friction Course, OGFC)といった特定の目的に対応できる材料や高性能密粒度材料が使用されるが,いずれにおいても交通荷重の作用と直接的な気象作用に対する耐久性を有する必要がある.

●アスファルト混合物(中間層)

 耐久性とわだち掘れに対する抵抗性を確保するために,骨材同士のかみ合わせを確実にできるものが必要となる.また,舗装表面から100m程度までの部分では,高温時供用に適したアスファルトが必要になる.

●アスファルト混合物(下層)

 耐久性と疲労ひび割れに対する抵抗性を保持するために,アスファルト量を多くして,十分に転圧する必要がある.これにより水分の作用に対する抵抗性も高められる.

●路床

 アスファルト混合物施工時の基盤としての耐荷性,供用中の交通荷重の作用と気象作用の季節変動に対する耐久性を保持するために,粒状材,安定処理材を十分に転圧する必要がある.

 

 アスファルト混合物の特性は次のようにまとめられます.

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(続きは次回)

参考資料

「Perpetual Pavement Design: An Overview, 2009 International Conference on Perpetual Pavement, 2009年」

「Perpetual Asphalt Pavements, A Synthesis, Asphalt Pavement Alliance, IM -40,2010年」

「Perpetual Pavements, NDLTAP (North Dakota Local Technical Assistance Program), 2010 North Dakota Asphalt Conference Presentations, 2010年」

「http://www.scopenet.or.jp/main/products/scopenet/vol14/ss/ss2.html」

 

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