[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第29回 「空港の安全性に関する自己点検(5)」  ~2019.1.7~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

 

 空港の安全性の自己点検に関して、前回までに米国連邦航空規則、米国連邦航空局 (FAA)の規定と、米国の空港における自己点検の方法ならびに担当者に対するトレーニングの実施状況を紹介しました。今回は、自己点検により発見された、規定に対する不適合事項の報告、フォローアップとクローズアウトの方法についてまとめます。

● 不適合事項の報告

 自己点検を実施する理由の一つには、空港の安全性の規定に対する不適合事項(以下「不適合事項」と称す)を発見して、それを報告することがある。「不適合事項」という用語は、パート139(連邦航空規則パート139「空港証明」)に適合していない状態を指すが、一般的には修復が必要となる空港の不安全な状態を意味している。空港によっては、パート139ならびにAC 150 / 5200-18C「空港の安全性に関する自己点検」に記述されているものよりも厳しい規定を設けていることがあるが、その場合でも空港が不安全な状態にあると判断されれば、その状況を速やかに報告して修復する必要がある。不適合事項に対処すべき方法は、不適合事項の特性、報告方法、および修復要求の緊急性によって異なったものとなる。

◆ 不適合事項の特性
 点検中に発見された不適合事項の特性によって対応方法が異なる。不適合事項に直ちに対応できない場合には、その状況に応じていくつかのオプションが使用できる。
 一つ目はNOTAMの発行である。NOTAMは、空港管理者と航空会社との間における情報の伝達を迅速かつ確実に行う上で重要であり、パート139.339「情報発信」と139.327「点検プログラム」の規定に適合したものでなければならない。二つ目は、不適合事項があって不安全な状態になっている区域を閉鎖あるいは立入禁止とすることである。パート139.343「不適合事項」では、不安全な状態が解消されないままになっている空港においては、航空機の運用を不安全な状態ではない区域に限定しなければならないと規定されている。舗装施設を閉鎖する場合には、AC 150/5370-2G「工事中における空港運用の安全性」に記述されているように、閉鎖区域をマーキングして照明装置をつけるといった措置をとる必要がある。三つ目のオプション、これは多くの場合上記の二つの項目と組み合わせて使用されるが、点検担当者が該当するスタッフ(メンテナンス担当者)に不適合事項を修復するための作業を要求することである。修復作業の内容は不適合事項とともに点検報告書に記載される。
 なお、空港によっては通常のものより厳しい規定が用いられており、それに起因する作業の要求や施設の閉鎖がなされることもあろう。

◆ 報告方法
 空港の安全性に関する点検プログラムを効果的なものにするためには、不適合事項の報告方法と修復方法が報告書に記載されていなければならない。
 不適合事項に迅速かつ確実に対応するために、点検担当者は発見した不適合事項をメンテナンス担当者に報告する必要がある。不適合事項については、点検担当者が材料や器具を所持して点検作業中に発見したら直ちに修復することもあるが、多くの場合はメンテナンス担当者が対応している。
 不適合事項の報告方法は空港によって。すなわち、空港の規模、スタッフの技能等によって異なる。緊急性が高い場合には無線や電話によりメンテナンス担当者に直ちに連絡する必要があるが、緊急性が低い場合には、電子メール、無線、ファックスや書面によって報告すればよい。コンピュータ化された点検プログラムが使用されている空港では、車両搭載型の点検システムを通じて現場から修復作業を直接要求できる。
 いずれにしろ、作業要求がメンテナンス担当者に確実に届くように、点検担当者・責任者がフォローアップすることが肝要である。コンピュータ化された作業要求システムが使用されている空港では、作業要求ごとに自動的に番号が付与されることもある。
 不適合事項が夜間や週末に発見されることもよくある。その場合には、通常業務時間以外に報告することも必要になる。大規模空港では週末や夜間でもある程度の数のメンテナンス担当者が勤務しているが、これらの時間帯にメンテナンス担当者が勤務していないような空港においては他の報告方法を使用する必要がある。その場合、不適合事項に対応するために、待機担当者やベテラン担当者の呼び出しをしたり、使用制限区域・使用禁止区域を通知するためのNOTAMを発行したりといったことが必要となろう。ある空港では、舗装の損傷発見時にメンテナンス担当者が不在の場合、損傷を迅速かつ一時的に修復するために、運用業務担当者用にアスファルトパッチング材料とタンピング工具が準備されている。

◆ 修復作業の優先順位
 空港には、不適合事項の重大性を判断し、優先順位の高いものから順に対応することが求められている(AC150/5200-18C)。たとえば、誘導路灯に破損が見つかった場合には点検報告書にメンテナンス作業が必要という記述をして作業要求書を提出すればいいのに対して、滑走路に損傷(穴あき)があってパート139の規定から逸脱している場合には、滑走路を直ちに閉鎖してメンテナンス担当者が緊急に対応する必要がある。不適合事項の修復に関する優先順位付け方法を空港の安全性に関する点検プログラムに組み込むことによって、点検担当者は発見した不適合事項に関する優先順位を適切に付けることができるようになる。

● フォローアップ

 フォローアップは、クローズアウトとともに空港の安全性に関する点検プログラムの重要な要素である。不適合事項が報告されたら、それをフォローアップ(確認・修復)して、クローズアウト(解消)すること により、不適合事項に関する一連のプロセスを終えることができる。
 修復作業が完了したらその旨作業を要求した点検担当者に報告する必要がある。そうすることにより、NOTAMを取り消したり、閉鎖している施設の使用を再開したりして、不適合事項を解消できることになる。このような一連のプロセスが終了しなければ、点検担当者は不適合事項を発見・報告して修復要求をしたことを忘れてしまい、その点について再び報告して、修復作業を要求することになりかねない。
 不適合事項が解消されたことを確認するためには様々なフォローアップ方法が利用できる。一般的には、点検担当者がメンテナンス担当者をフォローするよりも、メンテナンス担当者が点検担当者に報告するという方法が使用されている。たとえば、紙ベースの作業要求システムが使用されている空港では、メンテナンス担当者が不適合事項を修復したら、その旨電話、無線、電子メールや口頭により点検担当者に連絡する。また、コンピュータ化された作業要求システムが使用されている空港では、メンテナンス担当者がシステムにアクセスして作業要求を終了処理すると、その旨を記した電子メールが点検担当者に自動的に送信される。
 不適合事項を報告した担当者(点検担当者)はそれを修復する作業の担当者(メンテナンス担当者)と同一ではない場合が多い。たとえば、標識に破損があることを点検担当者が発見した場合は、点検責任者、メンテナンス責任者を経て、メンテナンス担当者にその旨報告が行く。メンテナンス担当者はその状況を確認し、その結果、新しい標識と交換する等の判断をすることになろう。この場合、標識の配送・設置日といった作業予定を知ることができれば、点検担当者は報告した不適合事項が修復されたことが確かめられる。
 不適合事項とその修復作業が空港の運用に影響を及ぼす状況について考慮することも重要である。たとえば、グライドスロープが作動しない、灯火が点灯しない、あるいは標識が認識できないといった場合には、パイロットが離着陸前にこれらに余裕をもって対応できるようにNOTAMの発行が必要になる。場合によっては、メンテナンス担当者がこのような不適合事項を修復するための作業時間を確保できるように、施設の閉鎖も計画する必要があろう。

● クローズアウト

 空港の安全性に関する点検プログラムの最後のステップは修復された不適合事項のクローズアウトである。このステップがなければ点検担当者により報告された不適合事項が解消されたことにはならない。クローズアウトのプロセスは空港によって異なるが、不適合事項が解消されたことを文書化することにより解消されていない事項はもうないことが明確にできる。これには作業要求の終了手続きとそれに関するNOTAMを取り消すことが含まれる。文書化すべき項目としては、不適合事項の内容・報告者、それを修復した日付・場所・方法・担当者といったものでよい。
 このような文書は不適合事項の種類やその修復に必要な方法を検証する上で有用である。不適合事項が解消されてもそのことが文書化されていない場合には、それについて再度確認しないことには不適合事項が残っているかどうか分からず、結局運用が再開できるかどうかも判断できない。このほか、文書化により不適合事項が発生する傾向も分析できる。たとえば、FODの発生源となる工事箇所や許可を受けずにエンジンの試運転が行われている箇所のような、ハザードの大きい区域を特定することができる。なお、この文書化は、航空機の走行区域と非走行区域の両方が対象となっていることに注意する必要がある。

● 不適合事項の報告、フォローアップとクローズアウトの実施状況

 空港の安全性の点検における不適合事項の報告、フォローアップとクローズアウトの方法に関するアンケート結果は次の通りである。

◆ 不適合事項の報告
 パート139の下では認証空港は不適合事項について二つの方法により報告する必要がある。一つは不適合事項の迅速な解消を図るために行うメンテナンス担当者への報告であり、もう一つは空港を使用している航空会社に対して行う、施設閉鎖や運用中止等についての報告である。
◇ メンテナンス担当者への報告
 パート139.327では点検中に発見された不適合事項を迅速に修復するための報告システムを構築することが要求されている。アンケートによれば、最も一般的な方法はコンピュータ化された作業要求システムである。空港によっては、紙ベースの作業要求システムではあるが、緊急対応が必要な場合には電話や無線を使用してメンテナンス担当者に直ちに連絡できる方法が使用されている。ある空港では、点検作業中に不適合事項を発見した場合には、点検チェックリストにその旨記載して、メンテナンス担当者に電話により作業を依頼し、その後メールにより確認するという方法が採用されている。不適合事項の報告方法が異なっていても、すべての空港では上記の要求を満たす効果的なシステムが備えられている。
◇ 航空会社への報告
 パート139.327では、空港管理者と航空会社との間で情報を迅速かつ確実に伝達するための方法、施設と設備を備えることも要求されている。情報伝達の方法としては、まずNOTAMシステムの利用があり、その他に、FAX・電子メール・電話の利用や、ウェブサイトへの情報掲載、書類の配送といったものが使用されている。ある空港では、メンテナンス担当者が直ちに修復できない不適合事項は、まずNOTAMによって情報が伝達・共有され、これが空港の運用に直ちに影響する場合には非常事態通報システムや電話警告システムにより伝達・共有される方法が使用されている。

◆ フォローアップ
 不適合事項をフォローアップし、その修復状況を確認するための方法は様々なものがある。図1に示すように、コンピュータ化された作業要求システムによるものが一般的であるが、それ以外にも、書面による作業要求システム、メンテナンスミーティング、電子メール・電話による確認、口頭による直接確認といった方法も使用されている。大型ハブ空港ではコンピュータ化された作業要求システムが使用される傾向が顕著である(91%)が、電子メールによる確認方法も使用されている(64%)。中規模ハブ空港ではすべてでコンピュータ化された作業要求システムが使用され、半数で電子メールによる確認方法が使用されている。小型ハブ空港、非ハブ空港、ジェネラルアビエーション(GA)空港では、書面による作業システムとメンテナンスミーティングによっているとの傾向がある。

 

 

◆ クローズアウト
 報告された不適合事項をクローズアウトする方法は二つに分けられる。一つはコンピュータ化された作業要求システムであり、点検担当者(報告者)がシステムにアクセスして確認する。この場合、報告者に対して修復作業が終了した旨自動的に電子メールが送信されるものもある。もう一つは書面による作業要求システムであり、報告者がメンテナンス担当者に直接連絡したり、不適合事項が修復されたことを記した作業要求書のコピーを受け取ったりすることにより確認する。報告された不適合事項について修復作業が適切に行われたことを目視により確認することも必要であるが、これは運用業務担当者により行われることが多い。

 

参考資料
・Airport Self-Inspection Practices, ACRP Synthesis 27, TRB, 2011 (ACRP)

(続きは次回)

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