八谷好高客員研究員(SCOPE)
空港の安全性の自己点検に関して、前回までに米国連邦航空規則パート139「空港証明」と米国連邦航空局 (FAA)の規定(AC150/5200-18C「空港の安全性に関する自己点検」)について紹介しました。今回は、自己点検プログラムの具体的な実施方法をまとめてから、米国の空港における自己点検の実施状況についてアンケート調査の結果に基づいて紹介します。
◆ 点検の重要性
空港の安全性に関する自己点検プログラムは、FAAにより空港運用証明を与えられた空港、いわゆる認証空港がパート139の規定を遵守できていることを確認し、問題があればそれを解決するための手段である。認証空港では、点検プログラムは空港認証プログラムの重要な構成要素であり、パート139.327「点検プログラム」において要求されているものである。認証を受けていない空港にあっても、点検プログラムは空港の安全性を確保し、規定を遵守する上で不可欠である。
規定に不適合となりかねないような項目のほとんどは、点検作業とスケジュール通りの予防保全作業によって回避できる。すなわち、空港の安全性を確保できているということは、空港の点検プログラムが成功しているということを意味している。
◆ 点検の担当者
点検プログラムの成否は点検業務の担当者にかかっている。認証空港では、点検担当者として十分な資格のある人材を雇用すること、担当者に必要な装備を提供すること、担当者にトレーニングを科すこと、そのトレーニング記録を保管することが必要とされる。なお、空港マネージャや航空機救難消防担当者、運用業務担当者、メンテナンス担当者等に点検業務を担当させるかどうかについては個別に考慮する必要がある。
◆ 点検の頻度
FAAは点検の実施方法として次のような4種類を実施することを規定している。
・日常点検:毎日少なくとも1回
・継続点検:点検担当者が可能なとき
・定期点検:毎週、毎月または四半期ごと
・特別点検:通報・苦情受領時や異常事態発生時
◆ 点検のツール
点検担当者が点検作業を行うときや損傷等の状況を記録するときにはいろいろなツールを使用できる。また、規定に対する不適合事項や発見した事項を報告したり、それら問題点を検討したり、品質管理を行ったり、トレーニングをしたりするときに役立つツールも用意されている。
FAAは、認証空港において点検を実施するために必要となる基本的なツールとして、次のような装備を有する点検車両を示している。
・航空管制官等との通信が可能な双方向無線通信機
・夜間または悪天候時の点検のために必要なビーコン(回転灯)
・昼間の点検のために必要な回転灯または標識旗
点検担当者は、この他に、FAAの規定 (AC 150 / 5200-18C) に従って、点検業務を行うための知識やツールを備えている必要がある。この他にも、野生生物の分野に関しては、特別なもの、具体的には、ピストル(実弾・空砲)、双眼鏡、シャベル、バケツ、ゴミ袋、手袋、耳栓、ゴーグルといったものが必要となる。野生生物ハザードマネジメントプログラムが整備されている空港にあっては、この他のツールが必要になる場合もある。
点検担当者が調査結果を記録するときに必要となる最も重要なツールは点検チェックリストである。このチェックリストは、点検の見落としを防ぐために役立つが、点検完了時には点検結果の記録にもなる。チェックリストにはパート139 (d) 「運用」と上記ACに規定されている点検分野と項目が含まれる必要があるが、その様式は空港によって異なったものなっている。表1には、デーン郡地域空港 (Dane County Regional Airport)で使用されている点検チェックリストを示してある。
点検時に必要となるもう一つの基本的なツールはカメラである。様々な不適合事項等を記録する場合にカメラは有効であり、デジタルカメラを使えば問題部分の画像を添付した電子版点検チェックリストをメンテナンス要員に電子メールにて送ることもできよう。
点検結果を記録する場合には最新テクノロジー(電子デバイス)が有用である。現時点では、次のような点に関して、様々なコンピュータ/Webベースのアプリケーションが利用可能である。
・点検結果のチェックリストへの記録
・重要な事項の時系列的記録
・点検作業や不適合事項のデジタル版空港平面図上での表示
・空港スタッフ、航空会社、FAAへの情報の送信
・点検車両に搭載したコンピュータを使用した結果の報告
・地理情報システム(GIS)技術の活用
アプリケーションにアクセスする方法は個々の空港のニーズにより異なる。一つ目は、オフィスコンピュータを使用する方法であり、点検担当者はオフィスに戻って調査結果を文書化し、点検レポートを提出する。二つ目は、タッチスクリーン機能を備えた車載型ラップトップやタブレットPCを使用する方法であり、点検担当者が点検フォーム、空港の作業指示システム、ACを車内で参照できるので、作業効率が大幅に改善される。三つ目は、スマートフォン等のモバイルデバイスを利用する方法であるが、モバイルデバイスの多くは表示領域が限られ、キーボードも小さいため、点検フォームを完成させたり、作業指示システムと連携させたりすることは困難になることも多い。このような場合には、モバイルデバイスと車載型デバイスを併用することにより、現場、オフィスのどちらにおいてもアプリケーションにアクセスできるようにする必要がある。
デバイスの種類によらず、アプリケーションを使うことにより点検作業を順序立てて実施して、不適合事項が発見され次第、解決プロセスを開始することが可能になる。また、点検担当者が作業指示システムに直接アクセスして、作業指示書を作成してメンテナンス部門にメールにて送信できるようになる。さらには、事故報告、NOTAM発行、および野生生物報告もできるようになるかもしれない。これら最新テクノロジーを活用したシステムは、点検担当者の作業効率を高めて負荷を軽減することができ、その結果、点検プログラムも改善できることになる。しかし、同時に、追加費用も必要となることから、システムについてはケースバイケースで検討するのが現実的である。
後述するアンケート結果では、車載型デバイスが最も一般的な点検用デバイスとなっている。アプリケーションソフトは、外部から調達したり、内部で開発したりする場合もあるが、どちらにしても動作方法は大きくは違わない。すなわち、タッチスクリーンまたはキーボード付きモニタのいずれかを備えたコンピュータを点検車両に搭載して、点検担当者が点検作業を行い、その結果を入力・文書化する。この場合、デジタル空港平面図を組み込むことにより、点検担当者は結果をより正確なものとできる。さらに、車載型デバイスを使用して点検チェックリストにアクセスすることにより、点検の見落としや異常値を報告するといったこともなくなろう。いくつかのシステムは、GPS技術を組み込んでおり、GISベースの空港平面図 (moving map) を表示できる。GPSを使用したシステムでは、正確な位置を特定できるので、メンテナンス担当者は不適合箇所をより正確に把握できる。また、点検担当者による点検実施ルートが表示されるため、監督者が点検作業の実施状況を確認することも容易になる。
◆ 点検手法
点検の手法は空港によって異なり、多くの場合、同じ空港であったとしても点検担当者によって異なる。それでも、一般的に使用されている手法としていくつかのものが挙げられる。たとえば、直近に完了した点検の結果(点検チェックリスト)と重要なNOTAMを確認することである。これにより点検担当者は空港の最新の状態を常に把握できるようになる。もう一つは、建設工事が進行中の場合に、そのプロジェクトの工事安全計画に加えて、立会い要求、FOD対策等の問題についてあらかじめ知っておくことである。
FAAは、点検手法として次の3点を推奨している。
・点検の実施パターンを変える。これは、点検パターンを固定化すると、点検方法に熟達して、標準化しやすくなる半面、点検が十分なものとはならずに、何らかの問題を引き起こすことになりかねないからである。
・昼夜とも高輝度の回転灯とヘッドライトを点灯して、航空機が着陸する方向に向かって点検車両を走行させる。これによりパイロットの車両に対する視認性を向上させることができる。なお、FAAは滑走路の点検を両方向で行うことを推奨している。
・滑走路と平行誘導路との間にある取付誘導路からも滑走路を点検する。これによりFODの有無を容易に判断できる。
◆ 日常点検の手法
上記の4つの点検のうち、高頻度で実施される日常点検では、点検日時と発見事項を記録することが不可欠である。対象となる分野は以下のとおりである(具体的な項目については前々回のコラム参照)。
・舗装区域
航空機の方向制御が不可能になりかねない舗装の損傷や航空機・スタッフに損傷を及ぼしかねないFODの発生可能性について確認する。
・安全区域
航空機のみならず、車両が走行した場合に機体・車体に損傷を与えることがないことを確認する。この場合、徒歩による点検が必須である。
・マーキング
AC 150 / 5340-1「空港マーキング」の規定に則って点検を行う。
・標識
AC 150 / 5340-18「空港標識」の規定に則って点検を行う。
・航空灯火・空港照明
灯火・照明の照度、位置、色、機能等に注意して点検する。この場合、日中に点検を行うことが難しいため、夜間に点検を行うことが多い。
・航行援助施設
照明の状況、植生等による視認性障害、構造の脆弱性、作動状況について確認する。
・障害物
制限表面に抵触しかねない工事箇所の建設機械や障害物の灯火や標識の状況について点検する。
・給油設備・作業
現地の火災安全規準の遵守状況のほか、セキュリティ、防火、清掃、給油施設・方法について点検する。
・雪氷
雪氷が空港の運用に及ぼす影響について確認する。
・工事
工事の安全計画とAC 150 / 5370-2「建設工事中の空港運用の安全性」を熟知した上で点検を行う。この場合、工事によって生じた不安全状況を報告し、監視する必要がある。
・航空機救難消防
航空機救難消防において必要な人員と設備が備えられていることを確認する。特に、就航航空機に変更があった場合には注意が必要である。
・部外者
部外者や車両の空港への立入防止やジェットブラストからの保護のための施設について点検する。
・野生生物
鳥の大群や舗装区域での野生生物(死がいも含む)を確認する。また、野生生物の種類や数の変化に注意する。
◆ 点検結果の記録
点検プログラムを備えている空港では点検結果を記録して保管する必要がある。特に、認証空港では、点検の実施状況と是正措置に関する記録を作成して、少なくとも12カ月間保管することが必要である。
点検の種類によらず、点検結果は文書化する必要がある。これは、 FAAの規定に従うだけではなく、空港管理者自体にとっても有用なことであろう。たとえば、過去の点検結果を分析して各分野(項目)の経時変化の状況や問題の起こりそうな分野を特定することにより、改善すべき分野が明らかにもできよう。また、点検記録に加えて、過去の作業指示書、NOTAMや野生生物に関する報告書も保管できる。
米国内33空港から回答を得られたアンケートの結果として、点検の実施状況については次のようにまとめられる。
◆ 点検の責任者
ほとんどの空港では、点検の責任者は運用業務担当者(業務担当者)であり(94%)、業務担当者がパート139の適合性保持の責任者も兼ねている(97%)。表2に示すように、パート139で規定されている分野別にみても、業務担当者が点検の責任を第一に負い、次にメンテナンス担当者が負うことになっている。ただし、給油作業や部外者侵入防止の分野においてのみ、両者以外の担当者が責任を負っている。具体的には、31%の空港では燃料貯蔵所の運用支援担当者が給油作業の点検における責任者となり、34%の空港では警備担当者が部外者侵入防止における責任者となっている。
◆ 点検の実施方法
点検の実施方法は、図1に示すように、多岐にわたっている。ほとんどの空港では1人の点検担当者が車両を運転しながら目視による点検を実施している。しかし、徒歩によるFODの点検やチームによる点検もかなり一般的に行われている。空港規模による違いを見ると、大型ハブと小型ハブ空港ではチームによる点検が最も一般的である(それぞれ、73%、63%)のに対して、中型ハブ空港、ノンハブ空港、GA空港では、チームによる点検はあまり使用されていない(実施している割合は、それぞれ、16%、25%、0%)。
さまざまな点検方法を選んでいる理由について、ほとんどの空港は次の3つのうちのいずれかを挙げている。まず、最も一般的なものは点検方法の効率性と実用性である。例えば、大型ハブ空港は点検車両を使用する方法がベストであるとしている。第二は、採用している方法が長期にわたって成功している、すなわち経験上優れていると認識していることである。35年間の経験に基づいて判断しているとの回答もあった。第三は、チームによる点検が有効であると認識していることである。
個別回答としては次のようなものが見られた。
・点検車両に2人が乗車することにより、1人が点検業務を担当し、もう1人が運転に集中できるので、滑走路等への誤進入が避けられる。
・時間帯によって点検担当者が異なる場合、各々が対象部分を分担して点検することにより、全体を点検できることになる。一人の点検担当者が問題を見逃した場合でも、次の点検担当者が見つけられる可能性がある。
・空港全体をいくつかのユニットに分け、マーキング、灯火、舗装、安全区域等のパート139で規定している分野に集中できるように点検担当者を割り当てている。
◆ 点検の手法
点検の手法には様々な種類のものがあるが、図2に示すように多様なものを実際に使用している。全ての空港では点検を夜間に行い、95%では日中も実施している。また、点検パターンは一定ではなく、いろいろなものを使う傾向がある。空港の規模による違いを見ると、全てのGA空港では点検パターンをいろいろ変えて、滑走路と誘導路を両方向に走行しながら点検し、取付誘導路を点検し、昼と夜の両方で点検を実施するという方法を採用している。ただし、これは3つのGA空港だけに対する調査結果であることに注意が必要である。
これらの点検手法を選んでいる理由として最も一般的なものは、柔軟性があること、すなわち航空機の運航状況、空港の点検可能区域、点検担当者が点検を開始する地点に応じて点検手法を変更できるということである。他の理由は、より完全な点検を実施できること、ACまたはパート139を遵守できること、航空管制官と協働できること、従来の手法を継続できるといったことである。
◆ 点検のための機器とツール
点検に使用する機器やツールとしては、図3に示すように、大半の空港では車両と手書きの点検チェックリストを使用している。小型デバイスは中型ハブ空港の33%、小型ハブ空港の13%で使用しており、車載型デバイスは大型ハブ空港の36%、小型ハブ空港の13%、ノンハブ空港の50%で使用している。このほか、シャベル、ほうき、ビニール袋、デジタルカメラ、携帯電話、ライトバー等を挙げている回答があった。
空港により機器やツールが異なる理由は4つ挙げられている。第1は単純であること(「Keep it Simple Stupid」KISSメソッド)、第2はその空港にとって適切であること、第3はACまたはパート13を満足するために必要であること、第4は対費用効果に優れていることである。また、その他の理由として、機器やツールの性能が実証済みであること、効率性、使いやすさといったものも挙げられている。
◆ テナントスタッフ
参考資料
・Airport Self-Inspection Practices, ACRP Synthesis 27, TRB, 2011
・CFR-2011-title14-vol3-part139, https://www.gpo.gov/fdsys/pkg/CFR-2011-title14-vol3/pdf/CFR-2011-title14-vol3-part139.pdf
・MSN Airport: Serving Madison, Dane County, and all of south central Wisconsin,https://www.msnairport.com/
(続きは次回)