[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第26回 「空港の安全性に関する自己点検(2)」  ~2018.7.2~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

 

 前回は、空港の安全性に関する自己点検プログラムの内容について、米国連邦航空局 (FAA)の規定に基づいて詳細に説明しました。今回は、このFAA規定の根拠となっている、米国連邦航空規則パート139「空港証明」(パート139)で規定されている業務担当者の要件と空港の安全性に関する自己点検プログラムの内容を記したあと、米国の空港で実践されている自己点検プログラムに関するアンケート調査の実施状況について紹介します。

● 業務担当者に関する連邦航空規則パート139の規定

 パート139.303「業務担当者」では、業務担当者に関して次の要件が規定されている。FAAによる空港運用証明を有する空港、すなわち認証空港はこれを満たす必要がある。
◆ 業務担当者の資格
 業務担当者として、空港認証マニュアル (ACM)とパート139で規定された義務を実施するために必要となる能力、技術および知識を備えた人材を十分な数揃える必要がある。
◆ リソース
 ACMとパート139で規定された義務を実施するために必要となるリソースを備える必要がある。
◆ トレーニング
 航空機走行区域と安全区域における業務担当者についてトレーニングを行う必要がある。このトレーニングは、業務実施前に初回のものを実施し、その後少なくとも12ヶ月ごとに繰り返して実施する必要がある。トレーニングカリキュラムには、ACMとパート139で要求される義務的事項に加え、少なくとも次の事項が含まれていなければならない。
・空港概要(空港のマーキング、灯火、標識システム等)
・航空機走行区域と安全区域へのアクセス方法と区域内での業務実施方法
・空港内通信(航空管制官との間の情報伝達方法等)
・ACMとパート139における義務的事項
・業務ごとの詳細内容
◆ トレーニングの記録
 業務担当者が受けたすべてのトレーニングを記録し、所定の期間保管する必要がある。トレーニング記録は複雑なものにする必要はなく、表1のようなものを電子的にあるいは紙ベースで保管すればよい。

 

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◆ トレーニングの妥当性
 対象とする業務ごとに担当者に対して実施している(する)トレーニングの妥当性を確認する。
・パート139.319「航空機救難消防」
 消火活動、緊急時における乗員・乗客の航空機からの避難に対する支援等
・パート139.321「有害物質の取扱いと保管」
 給油作業時、有害物質取扱い時の火災安全性等
・パート139.327「自己点検(以下では単に点検と称す)プログラム」
 点検頻度、装備、記録等
・パート139.329「地上業務担当者と走行車両」
 航空機走行区域と安全区域へのアクセス方法、区域内での業務実施方法等
・パート139.337「野生生物ハザードマネジメント」
 野生生物ハザードマネジメント計画等
・パート139.339「情報発信」
 NOTAM発行方法等
◆ 第三者機関による検証
 必要に応じて、第三者機関によりACMとパート139における規定との整合性を検証する。

● パート139.327「点検プログラム」

 パート139.327「点検プログラム」では、空港において点検業務を実施する場合の要件が規定されている。
◆ 点検の頻度
 ACMとパート139における規定との適合状況を次のスケジュールにより点検する必要がある。
・毎日
・工事や異常気象等、航空機の安全運航に影響を及ぼしかねない事象が発生したとき
・アクシデントやインシデントが発生したとき
◆ 装備
 次のものを備える必要がある。
・点検業務に必要な機器
・空港業務担当者と航空会社間の情報伝達を迅速かつ信頼性高く実行するための方法とそれに必要な機器
・点検業務を適切に実施可能な人材
 担当者に対しては、次の項目に関して少なくとも初回トレーニングと12ヶ月ごとのリカレント(繰返し)トレーニングを実施する必要がある。
 - 空港の標識、マーキング、灯火等
 - 空港緊急時対応計画
 - NOTAMの発行手続き
 - 航空機走行区域と安全区域における地上業務担当者の業務実施方法と走行車両の運転方法
 - 規定との不一致状況についての報告方法
・空港の不安全状態を是正するための報告
◆ 記録と保管
 次の項目について記録・保管する。
・各点検結果(状況と是正措置):最低12ヶ月
・各個人が受けたすべてのトレーニングの内容と日付:終了後24ヶ月

● 空港の安全性に関する点検についてのアンケート

◆ アンケートの実施状況
 空港の安全性に関する点検についてのアンケート調査が、米国交通研究部・空港共同研究プログラム* により、空港(管理担当部局)、FAA地方局(空港安全性検査担当部局)と州政府(航空担当部局)に対して行われた。
 Airport Self-Inspection Survey(空港の点検に関する調査)と題された空港に対するアンケートでは、点検の実施方法とトレーニング方法についての調査が行われた。全国の空港を網羅するために、9つに区分されたFAA地方局から、大型ハブ、中型ハブ、小型ハブ、ノンハブ、ジェネラルアビエーション (General Aviation,GA)の各空港が均等に選択された。 これによりサンプル数は40となった。このアンケートは、点検で使用されている方法とツール、点検者の初回ならびに繰返しトレーニング、規格・基準との相違点の解決方法および点検者の資質が点検結果に及ぼす状況(人的要因)に注目したものである。
 FAA Inspection Survey(FAA地方局に対する調査)と題された2番目のアンケートは、アンケートの対象となった上記40の空港に特有な地域的情報を入手することを目的に行われた。このアンケートは、9つのFAA地方局の空港安全性検査担当部局に送られ、各地区における点検とトレーニングの成功事例について回答することが求められた。これにより、FAA地方局の間での点検の要件に関する違いも明らかにできるものと考えられた。
 Airport Oversight by State Aviation Agencies(州政府の航空担当部局による空港の監督)と題された3つ目のアンケートでは、FAAによる検査を州政府の航空担当部局の視点により補完することを目的としている。これはすべての州政府を対象にして行われた。点検とトレーニングの実施方法が州によって大きく異なるため、これによりアンケートの対象となった空港で採用されている方法の特徴が明らかにできるものと考えられた。
◆ アンケートの回答状況
 空港、FAA地方局と州政府に対して行われたアンケートの回答状況は次のとおりである。
◆ 空港
 アンケート票を送付した40空港のうち33空港から回答が得られた(回答率83%)。 図1は回答が得られた空港の位置を示している。また、図2はアンケート回答空港の規模** を、図3は年間航空機発着回数を示している。これから、回答が得られた空港の地域と規模には大きな偏りはないことがわかる。ただし、得られた回答が大型ハブ空港に集中していることは否めず、調査結果は比較的大きい空港における実態を表すものになっている嫌いがあることに注意する必要がある。

 

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 図4はアンケート回答空港のパート139で規定されたクラス*** を示している。大部分は大型空港であるクラスI空港である。

 

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◆ FAA地方局
 9つのFAA地方局のうち7つから回答が得られた(回答率78%)。
◆ 州政府
 49州の航空担当部局から回答が得られた(回答率98%)。図5は州政府による検査・点検の対象となる空港の数を示している。

 

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注)
* 米国交通研究部はTransportation Research Board (TRB)のことで、非営利組織である全米研究評議会(National Research Council)の一つの部門である。空港共同研究プログラム (Airport Cooperative Research Program, ACRP)はTRBの一部門としてFAAからの資金提供を受けて空港に関する共同研究を行うプログラムである。
** アンケートにおいては空港規模について次のように定義されている。
大型ハブ空港:旅客数が全国旅客数の1%以上である空港
中型ハブ空港:旅客数が全国旅客数の0.25~1%である空港
小型ハブ空港:旅客数が全国旅客数の0.05~0.25%である空港
ノンハブ空港:旅客数が全国旅客数の0.05%未満かつ10,000人以上である空港
*** パート139では空港が次のように規定されている。
クラスI空港:大型航空機の定期運航と不定期旅客運航ならびに小型航空機の定期運航に供する
クラスII空港:小型航空機の定期運航と大型航空機の不定期旅客運航に供する
クラスIII空港:小型航空機の定期運航に供する
クラスIV空港:大型航空機の不定期旅客運航に供する
 ここで、大型航空機:最大離陸重量が12,500lbs(5.7トン)を超える航空機
     小型航空機:最大離陸重量が12,500lbs(5.7トン)以下の航空機

参考資料
・Airport Self-Inspection Practices, ACRP Synthesis 27, TRB, 2011
・CFR-2011-title14-vol3-part139,
 https://www.gpo.gov/fdsys/pkg/CFR-2011-title14-vol3/pdf/CFR-2011-title14-vol3-part139.pdf

(続きは次回)

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