八谷好高客員研究員(SCOPE)
空港における野生生物ハザードマネジメント計画を構成する、野生生物生息地の管理と野生生物自体の管理のうち、今回は、後者について、野生生物の排除方法、野生生物のリペレントと捕獲・殺処分、野生生物管理担当者のトレーニングをまとめます。
空港における野生生物ハザードマネジメントを効果的に実施するためには、野生生物を発見したときにただちに追払うことができるようにトレーニングを受けた担当者が、必要な装置を持って車両に乗ってパトロールする必要がある。このパトロールは、24時間、または少なくとも航空機の運航時間あるいは昼間に行う必要がある。
野生生物を排除するためには、さまざまな種類の方法を組み合わせて使用することが肝要である。野生生物の排除方法は、リペレント* と捕獲・殺処分の二つに大きく分けられる。このうち前者には次のような方法がある。
・鳥追いピストル(空砲・爆竹・花火)
・レーザー
・捕食者モデル
・サウンドジェネレータ
・ディストレスコール
・訓練されたハヤブサ・犬
排除方法の効果と費用は使用する方法によって大きく異なるため、空港とその周辺における野生生物の生息地、分布、移動パターン、行動を十分に理解した上で選定することが肝要である。したがって、野生生物の管理では、単に野生生物を追い払うだけではなく、定期的なモニタリングと行動分析も欠かせない。
航空機の運航にとってハザードとなる野生生物は、空港とその周辺から追い払ったとしても、誘引物件にアクセスできる限りまた戻ってくるので、空港から完全に排除できる訳ではない。リペレントは、長期的な対費用効果の点では野生生物の生息地の変更・修正や捕獲・殺処分には及ばないが、野生生物ハザードマネジメント計画における重要な要素の一つである。
リペレントを使用する場合には、次の四つの点を考慮する必要がある。
・すべての問題に対して万能な唯一解となるリペレント策はない
・すべての状況に対して対応可能なリペレント策の標準的な組合せはない。
・野生生物の種類によりいろいろなリペレント策に対する反応は異なる。
・リペレント策への慣れを遅くするためには次のような方法がある。
- 対象とする野生生物に適したリペレント策を使用する
- いろいろなリペレント策を組み合わせて使用する
- 個体数が多い生物種を対象とする場合には、一部を捕獲・殺処分する方法も考慮する
近年、対象とする野生生物が特定の地域に入り込むとリペレント策が自動的に実行されるようなシステムが出て来ている。しかし、このシステムは、トレーニングを積んで様々な種類の野生生物に対して適切に対応できる管理担当者に取って代わることは不可能であり、従来から用いられているリペレント策に効果がない場合にのみ考慮されるべきであろう。
◆ 鳥追いピストル(空砲、爆竹、花火)
鳥追いピストルは世界中で用いられている野生生物に対する最も一般的なリペレント策であり、その効果は広く認識されている。炎や煙、あるいは笛のような音を出すといったように、使用するものによって視覚的、聴覚的な効果は異なるが、野生生物がどこにいても使用できる直接的かつ持ち運び可能な装置である。ただし、その取扱いには慎重でなければならず、車内では使用すべきではない。なお、発火(煙)・発音のタイミングは、発射時、所定距離到達時あるいは地上着弾時と装置により異なる。
鳥追いピストルは、航空機運航上リスクとなる区域から野生生物を追い払うように使用することが肝要である。たとえば、鳥の群れに向けてピストルを打つと、鳥はあらゆる方向へばらばらに飛び去ってしまうので、そのような場合には追い払いたい方向と反対側に向けて打つ必要がある。鳥の下側や背後で発火・発音するように打つことが効果的である。鳥が地上にいる場合には、まず地面に向けて打ち、次に飛び上がったら地面との間に打つ必要がある。飛行中の鳥の群れの向きを変えたい場合には、飛行経路上を考慮して連続的に打つ必要がある。
鳥追いピストル使用時には風の方向と速度を考慮する必要がある。また、航空機の走行区域に向けて打たないように注意する必要がある。このほか、乾燥した草がある場合は火災の危険があるため注意が必要である。
◆ レーザー
レーザーには固定式とポータブル型の両方があるが、いずれの場合も鳥を追い払うことができよう。レーザーは、夕方・早朝や夜間には有効であるが、鳥の反応するレーザーの色が鳥の種類によって異なるので、現地で検証を行うことが不可欠である。レーザーが安全に使用できるように、また空港利用者や空港周辺の住民に危害が及ばないようにするために、その使用方法を定める必要がある。
◆ 捕食者モデル
捕食者モデルは、たこ、風船、かかしや小さなモデルの形となっている。これらのモデルには鳥はすぐに慣れてしまうので、何らかの動きが備えられてあれば効果的である。ただし、使用時間は短くする、たとえば3、4時間を超えないようにする必要がある。他の方法と併用できれば、モデルの効果は増加しよう。
◆ サウンドジェネレータ
ガス砲のような固定式および移動式のサウンドジェネレータは、特定の野生生物種に対するリペレント策である。リモートコントロールが可能であれば必要に応じて管制塔からの操作もできるので、パトロール車両が他の離れた場所にあったとしても野生生物を追い払うことができる。しかし、サウンドジェネレータの効果は狭い範囲に限定されるばかりか、鳥がその音にすぐに慣れてしまうことから、効果自体も急速に低下する。
◆ ディストレスコール
ディストレスコール** は、高性能のスピーカをパトロール車両に搭載して発出する必要がある。これは、空港の地理的状況や鳥の種類によっては有効な排除方法となる。特に、鳥の種類が正しく識別され、しかも適切なディストレスコールが使用される場合に効果的であり、カモメについてはその有効性が実証されている。
鳥は、通常ディストレスコールに対して次のように反応する。
・警戒して飛び立つ
・音源に近づいてその上を旋回する
・(一部が)近づいてディストレスコールの原因を確かめる
・ディストレスコールが本当であると認識すれば、ほとんどの場合は鳥はその領域から離れる。
また、ディストレスコールが止まると鳥はその領域から離れることも多い。
ディストレスコールは鳥追いピストルのような視覚的方法と組み合わせると非常に効果的である。しかし、ディストレスコールのみを使用する場合には、鳥が脅威の元を確認できない恐れがあることから、追い払うには時間がかかってしまう。
スピーカはパトロール車両の前方に向けて取り付けることが肝要である。これによりドライバ(野生生物管理担当者)はいつでも鳥を見られるようになるので、その反応もモニタできて、必要な対策を講ずることが容易になる。
ディストレスコールについてのガイドラインは次のとおり。
・使用時には車両は停止させる
・車両位置は鳥の群れの風上にする
・車両は(スピーカも)鳥の群れに対向させる
・車両と鳥との距離は100m未満にする
・ディストレスコールは約90秒間継続させる
ディストレスコールは、適切に使用することが難しいので、使用されなくなってしまうことも多い。そのため、野生生物管理担当者はディストレスコールやモデルの効果的な使用方法に関するトレーニングを繰り返し受けることが肝要である。
◆ 訓練されたハヤブサ・犬
鳥を排除するために、捕食者となり得るハヤブサ・犬を訓練して使用することは効果的である。しかし、この方法を適切に運用するためには、ハヤブサ・犬を適切にかつ十分に訓練する必要がある。すなわち、ハヤブサ・犬そのものが航空機に対する衝突のリスクにならないように、また鳥の航空機への衝突防止に対して最大の効果を発揮できるように訓練することが肝要である。なお、同様のトレーニングがハヤブサ・犬の飼育・訓練担当者に対しても必要となるので、そのための時間と費用もかなりかかることに注意する必要がある。
ハヤブサ・犬は、限られた条件下で、しかも特定の種類の鳥を追払う場合にのみ有効であるので、使用可能なリペレント策の一つとすべきであり、他のリペレント策に取って代わるようなものではない。また、ハヤブサ・犬は、鳥の大群に対しては特に有効であるが、航空機の離着陸時に鳥が一斉に飛び上がるといったことがないように航空管制サイドとの調整が必要である。
哺乳類の生息数を制限するためには、経験豊富な専門業者やハンター等の助けを借りて、わな、ショットガン等の適切な方法により捕獲や殺処分を実施することが必要である。これによっても個体数が減少しないようであれば、生息地に変更・修正を加えたり、排除方法を変更したりするといったような対応が必要になる。
個体の殺処分は、それ以外の排除方法を強化するために、または他の方法では対応不可能な種類の野生生物を排除するために、限定的なものとして必要になろう。ただし、個体の殺処分や巣・卵の撤去は、現地の法律に則って実施されるべきである。また、どんな場合でも殺処分は野生生物管理の主要なあるいは唯一の方法として使用すべきではない。
対象とする生物種を間違えないために、また捕獲あるいは殺処分した野生生物を適切に扱うために、野生生物管理担当者はトレーニングを受ける必要がある。野生生物の捕獲と殺処分を適切に行うため、また野生生物と管理担当者の両方の安全を確保するためにはかなりのトレーニングが必要となる。
野生生物と生息地の管理を確実に実施するためには、野生生物・生息地管理と担当者のトレーニングを含めた包括的プログラムが必要である。野生生物と生息地の管理担当者は、その役割と責任を十分に理解して、職務を遂行するための十分な能力を備えることができるようにトレーニングを受ける必要がある。
◆ トレーニングプログラムの要件
野生生物・生息地の管理担当者は管理計画の目的についてまず理解することが必要である。その上で、野生生物と生息地について適切なトレーニングを受ける必要がある。
トレーニングプログラムは次の要件を満たす必要がある。
・国際的、国内的、地域的な基準に適合している
・担当者に野生生物・生息地管理に関するトレーニングを適切に提供する
・現地空港の状態把握方法と効果的な管理方法を提供する
・野生生物ハザードマネジメント計画の目的達成に必要な方法・手段を提供する
これら一連のトレーニングを受けることで、担当者は野生生物と生息地を管理する能力を身につけることができるようになる。
◆ トレーニングプログラムの内容
トレーニングプログラムは、その内容、安全性、運用に関する要件が満たされている必要があり、専門家からの指導の下に作成され、野生生物管理責任者の承認を受けたものでなければならない。トレーニングプログラムに含まれるべき内容を表-1に示す。
トレーニングプログラムは、空港の場所に従って、すなわち地域的条件を考慮に入れて、その空港に最も適したものを定める必要がある。たとえば、空港が海岸や森林に近い場合と陸地や砂漠に近い場合とでは異なった管理方法が必要になる。
◆ トレーニングの標準化
担当者は、十分に管理され、研究されたプログラムに従って、野生生物・生息地管理に関して十分にトレーニングを受けることによって、野生生物の航空機衝突に対するリスクに対して対応することが可能となる。この場合、適切な国内・国際標準や規制等に則った資料を使用して、適切な資格を有する指導者によってトレーニングが実施されなければならない。
◆ 野生生物に関する利害関係者の連携
野生生物管理担当者は、空港とその周辺における野生生物に関する利害関係者が連携することの重要性と意義についてトレーニングを受ける必要がある。この場合の利害関係者とは以下のような者である。
・航空担当部局
・環境担当部局
・地方自治体
・インフラ担当機関
・現地企業
・地域住民
・土地所有者
・その他
注)
* リペレント:(野生生物に対する)嫌がらせ、脅かし等の追払い、近接防止策
** ディストレスコール:野生生物が捕食者によって捕獲されたとき、たとえば鳥がハヤブサに捕えられたときに発する苦痛の鳴き声
参考資料
Airport Services Manual, Part 3, Wildlife Control and Reduction, ICAO, 2012.
Wildlife Hazard Management Handbook, Airports Council International (ACI), 2013.
(続きは次回)