八谷好高客員研究員(SCOPE)
前回紹介しましたが、空港における野生生物マネジメントは、野生生物の生息地のマネジメントと野生生物自体のマネジメントの二つから成ります。今回は、そのうち、前者、すなわち空港および空港周辺における野生生物の生息地のマネジメントについてまとめます。
野生生物は、餌、水や休息・繁殖場所を得るといった様々な理由により、空港とその周辺で生息している。野生生物の生息地管理は、空港とその周辺における航空機と野生生物衝突を防止または軽減する最も重要な方法であり、野生生物を減らすための環境面での長期的な方法となることから、ハザードマネジメントプログラムのベースとなるものである。野生生物に対する排除等、直接的な管理活動が必要となる場合は、この生息地管理が完全には実施できていないか、または現状を超えるさらなる対策が費用対効果の点からは有効ではないことになる。
野生生物にとっては、空港はその周辺地域よりも生息地としての魅力はない。しかし、空港周辺に鳥が引き付けられるような箇所がある場合は、鳥が巣から餌場まで移動するといった航空機運航に影響を及ぼすような飛行経路をとりかねないので、空港周辺地域の魅力をなくすための対策が必要になる。魅力となるものが特定されたら、それを完全に取り除いたり、数量を減らしたり、あるいはアクセスできなくしたりするための管理計画を策定する必要がある。管理の対象・方法としては、空港草地に用いる植物の種類の選定・丈の管理、空港周辺からの樹木の除去、水域のネットによるカバー、建築物からの鳥の排除、野生生物にとって魅力的でないアメニティの採用といったものがある。ただし、地理的条件や対象となる野生生物種が空港によって異なるため、全ての空港において有効となる管理方法を明らかにすることはできない。個々の空港において、野生生物にとって魅力的なものを特定し、可能な限りそれらの魅力をなくするための管理計画を策定・実施すべきである。
◆ ICAO空港計画マニュアルにおける土地利用ガイドライン
ICAOは、野生生物衝突、特にバードストライク防止の観点から、空港とその周辺の土地利用に関するガイドラインを設けている。これは、土地利用の仕方や設けられる施設に鳥が引き付けられるかどうか、すなわち鳥にとって魅力的な場所かどうかといった観点に立ったものである。具体的には、表1に示すように、飛行場標点から半径3kmと8kmの円で囲まれる範囲を、それぞれ、Area A、Area Bとして、土地利用の可否を示している(○は利用可を意味する)。このガイドラインに従って、新空港計画時には土地利用方法を制限できる場所を空港の位置として選定したり、既設空港においては鳥が引き付けられることのないような措置を講じたりすることが必要になる。
◆ ICAO空港サービスマニュアルにおける野生生物管理・減少方法
空港とその周辺から餌、水や休息・繁殖場所を撤去したり、移設したりすることにより、空港とその周辺の野生生物の生息地環境を変更することは、野生生物にとっての空港の魅力をなくすことになる。ICAOは、有機廃棄物の受入れ施設(処分場)については、飛行場標点を中心とした半径13kmの円内に設けないこと、処分場に引き付けられる鳥の飛行経路が航空機運航上問題とならない地点に設けることが望ましいとしている。
◆ FAAによる空港と野生生物にとっての魅力物件との離隔距離
FAAは、ハザードとなる野生生物が空港に引き付けられる物件(魅力物件)と空港との離隔距離を規定している。これには、ハザードとなる野生生物が空港(航空機運用領域、AOA)とその空港における航空機の離着陸用空域に入り込んだり、近づいたり、横切ったりするような行動をとることのないようにするための土地利用に関する規制が含まれている。具体的には、図1のように3種類が示されている。
プロペラ機(ピストンエンジン)のみが就航する空港:離隔距離は1,500m
ジェット機(タービンエンジン)が就航する空港:離隔距離は3,000m
すべての空港の離着陸・周回進入区域:離隔距離は13km
以上に示した隔離距離は次の点に基づいている。
プロペラ機とジェット機の飛行パターン
野生生物衝突(バードストライク)のほとんどが発生する高度(全体の78%は地上から300m、90%は900m以内で発生)
米国国家運輸安全委員会 (NTSB)の勧告
野生生物は、採餌、休息、繁殖等のために特定の場所に引き寄せられるが、そのような場所としての空港の魅力をなくすことが野生生物衝突のリスクを低下させる最も効果的な方法となる。空港は、植物の丈が低かったりまばらであったりして、遠くにいる敵(捕食者)を容易に見つけられる広大な草地を有することから、野生生物にとって魅力的な生息地である。これに餌場としての魅力が加わると、野生生物にとってさらに魅力的なものになる。また、空港近くに樹木があることに加えて、建築物が数多くあることは多くの野生生物種に生息地を提供することになる。したがって、野生生物にとっての魅力物件を特定することが肝要であり、これに基づいて野生生物衝突に対する長期的な解決策が達成可能となる。
ある野生生物種にとって空港が魅力的でないものとなった場合、それらは他の場所へ移動せざるを得ず、その個体数は著しく減少し、野生生物衝突数も減少する。
空港内で野生生物が引き付けられる場所は次のようなものである。
建築物:休息、繁殖等の場所
水域(開放水面):飲水、休息、繁殖等の場所
樹木:採餌、休息、繁殖等の場所
草地:採餌、繁殖等の場所
空港における野生生物マネジメントでは、野生生物にとっての空港の魅力をコントロールすることが基本である。これは空港全体のリスク管理という点では、野生生物を追い払うことよりも重要である。空港内に採餌、飲水、休息、繁殖等のために容易にアクセスできる資源・場所があるならば、野生生物は一時的に追い払われたとしてもまた戻って来る。野生生物を空港に近づけないための生息地管理としては、魅力となっている物件を特定し、それらの魅力をなくしたり、アクセスできなくなるようにしたりする必要がある。
そのためには、空港における野生生物にとっての魅力物件についてまずレビューする必要がある。レビューでは野生生物が引き付けられる資源・場所の特徴を明らかにする。そして、そのレビューに基づいて、その資源・場所を除去したり、減らしたり、容易にアクセスできないようにしたりするための管理計画を策定する必要がある。この一連のプロセス、その実施状況と成果は記録・保存する必要がある。
野生生物にとっての魅力物件としては、次のようなものがある。
◆ 餌
空港は野生生物に多種多様な餌を提供する。野生生物の餌は次のようなものである。
ガン、ウサギ、シカ等が食べる草
樹木、草、水草などの植物
小型哺乳動物(ネズミ等)、鳥、両生類(カエル等)、無脊椎動物(ミミズ等)
ごみ、廃棄物、特に食品廃棄物
植物の種子、果実
◆ 水
空港内の湿地や水たまりといった水域からは排水が必要である。水域は、野生生物、特に鳥、水生哺乳動物(カワウソ等)、カエル等が引き付けられる場所というだけではなく、鳥等が引き付けられることになる水生無脊椎動物(エビ等)の生息地でもある。
排水ができない場合、ハザードとなる野生生物が利用する水域を特定し、それへアクセスできないような措置を講ずる必要がある。この場合、生物種に応じて、フローティングボール、ネット、オーバーヘッドワイヤといったものを用いることが有効である。
◆ シェルター
建築物は鳥の休息場所となるし、しばしばネズミ等の住みかとなっている。人間が住む環境に適応している生物種にとって空港は魅力的な場所である。
建築物を調べることにより野生生物が生息している場所を特定できるので、これらのシェルターをなくすことにより生物数を減少できる。空港とその周辺の廃棄された建築物は、休息・繁殖場所として野生生物のコロニーとなることが多いので、補修や撤去したりする必要がある。
滑走路や誘導路の標識や灯火は、鳥、特に猛禽類(タカ等)にとっては理想的な場所であり、それらを使用できなくすることが鳥の減少策となる。この場合、鳥よけスパイクの設置が効果的である。
◆ 草
空港の草地に植え付ける植物(草)は、グランドカバーを維持できるように、かといって鳥に餌を供給してしまうことにならないように、できる種子の量ができるだけ少なく、成長の遅いものとする必要がある。
これまでの経験によれば、丈の短い草(5〜10cm)に比べると、高い草(15〜20cm)が植え付けられている草地には鳥は引き付けられない。鳥は周囲を見渡せないことから丈の高い草地では休息や営巣をしないし、タカ等は草丈が高い場合には獲物を捕らえにくい。この場合、ハザードとなる生物種のサイズがかなり大きいため、草の丈もそれを越えるほどの高さが必要になる。一方、グランドカバー植物を用いないと、鳥は餌を得られなくなるが、別の生物種にとっては休息・営巣場所として魅力的なものとなる場合もある。このことから、植生をまばらなものとして、餌の供給源を増やすことなく、休息や営巣を妨げるようなグランドカバー植物について検討することも今後必要となろう。
草地の管理方法に関しては標準的なものはなく、それぞれの空港に適したものを見出す必要がある。植え付ける草の種類、生育条件、現地の気候、野生生物種等を考慮して、草地を管理する必要がある。
作業に用いる草刈り機械は、草の種類によらず、刈り取った草を回収できるとともに、地面に凹部を作ることのないものである必要がある。草刈りを継続して行うと土壌の肥沃度が低下する場合があるので、栄養分の少ない有機肥料を定期的に施す必要性がある。
草刈り作業は、乾燥気候時期に可能な限り迅速に行うことが肝要である。夜間の草刈りは、鳥を草刈り機に引き寄せるリスクが低く、その点からみると有効である。草刈り後から次の草刈りまでの期間は、草の成長速度により異なったものとなる。
刈り取った草は地面上に水平に積んで、可能であれば、回収して空港の外へ運び出す。刈草をそのまま放置すると、ミミズ等が増加して鳥が引き付けられることになる刈草層(サッチ)ができあがる。また、ネズミ等にとっての営巣場所となってタカ等が引き付けられかねない。
要するに、空港では、野生生物が餌を得られず、また休息もできないような丈の高さに草を刈り取ることが肝要である。これを効果的に実施する手法には次のようなものが含まれる。
鳥の餌となる虫がいないことを確認するための土壌の調査
鳥の餌となる草を減らすための除草剤の使用
鳥の餌となる虫を取り除くための殺虫剤の使用
草が必要な高さに成長できるようにするための肥料の使用
草の生育を確実にし、虫を繁殖させる刈草やサッチを取り除くためのボトミングアウト *
丈の高い草を所定の高さに維持するための定期的な刈取り
空港管理者は空港外の土地を直接管理する機会はないため、空港にとってハザードとなる野生生物の生息地、行動、数に関係する土地の利用に関与するためには、土地所有者や地方自治体と良好な関係を構築する必要がある。
空港とその周辺においてハザードとなる野生生物の種類と数の季節的な変化を把握することが非常に重要であることは言うまでもない。これに加えて、それら生物種と空港との関わり方を知ることも重要である。例えば、野生生物の行動経路がわかれば航空機の離着陸経路に関するリスクの程度もわかるし、巣の位置がわかれば衝突のリスクが高い子供の野生生物の排除計画を効果的なものとすることも可能となる。また、空港周辺の土地は空港内の野生生物そのものの有無・数にも直接的な影響を与える。
野生生物の行動に直接影響を及ぼす空港周辺の環境関連因子は次のとおり。
◆ 農業活動
野生生物を空港に近づけないために、空港周辺の農業活動に規制を設けるべきである。農業活動が空港にとって好ましくないものとならないようにするために、作付計画の調整、農法の奨励、法令による規制といった形をとってもよい。いずれにしても、空港管理者が地方自治体、地元農家と調整できる体制を構築することが重要である。
◆ 廃棄物処分場
廃棄物処分場は鳥にとって重要な餌場であり、廃棄物処分場との間を行き来する鳥は、空港上空や航空機の飛行経路を横切る可能性がある。このことから、鳥の航空機衝突に関するハザードを小さくするためのICAOの勧告に従って、空港から半径13km以内に廃棄処分場を設けない、あるいは撤去するとの規制をすべきである。空港が廃棄物処分場と鳥の巣との間に位置する場合には、この規制でさえ十分ではない場合がある。
◆ 下水処理場
下水処理場には多くの鳥が引き付けられる。下水処理場との間を行き来する鳥が航空機運航に影響を及ぼす可能性があるため、下水処理場が空港に近いほどハザードも大きいものとなる。したがって、空港の近くには新しい下水処理場を建設しないとの規制をすべきであり、既存の下水処理場についても十分な管理を徹底すべきである。
◆ 貯水池、湖沼、池、河川
貯水池、湖沼、池、河川といった水域は多くの水鳥によって頻繁に使用されている。水鳥は、個体が大きく、また群れとして行動するためにハザードが大きい。これらが航空機の航行安全性にとってリスクとなっている場合には、これらの水域に変更を加えるべきである。
水域が複数あると鳥がそれらの間を頻繁に移動する可能性があり、特に空港がそれら水域の間にある場合には衝突のリスクが増す。また、沿岸地域や河口付近の空港でのバードストライクのリスクには特に注意を払うべきである。
◆ 採石ピットと採石場
採石ピットや採石場がそのまま放置されると、水がたまって鳥が引き付けられる。既存の採石跡はもちろん、新たに掘削を行う場合にも採石後には埋め戻すことが必要である。
◆ 自然保護区
野生生物生息地に自然保護区が設けられると、特に自然保護区外で狩猟が行われる場合、野生生物は自然保護区に引き付けられる。そのため、空港周辺に自然保護区がある場合には、野生生物ハザードマネジメントがより重要になる。
◆ 空港周辺における将来のハザード
空港周辺の土地開発が野生生物ハザードを新たに引き起こしたり、ハザードを増大させたりするリスクが高い場合、空港管理者は、ディベロッパー、地方自治体、航空担当部局に対して、そのような土地開発を中止して、ハザードを減少できるような開発を要請すべきである。
◆ 空港の修景
空港の拡張や新規建設のために行われるプロジェクトでは、空港利用者を快く迎えるための空港周囲の修景が重要なものとなる。しかし、樹木や他の植物を植え付けると、野生生物、特に鳥類が引き付けられるという望ましくない結果をもたらすことにもなりかねない。
植物を植え付ける場所と品種の選択には注意が必要である。どんな場合でも、果実がなる植物を植え付けたり、植物を並べて植え付けたりすることは避ける必要がある。また、高木は連続したキャノピーとならないように植え付け間隔をあけること、低木は高木の下に植えないこと、樹木は互いに接触しないように植え付け間隔をあけることが必要である。さらに、樹木種としては枝が密集しないものを選び、針葉樹や一年中シェルターとなるような低木は避けることも必要である。
注)
参考資料
・Airport Planning Manual, Part 2, Land Use and Environmental Control, ICAO(1), 2002.
・Airport Services Manual, Part 3, Wildlife Control and Reduction, ICAO(2), 2012.
・Hazardous Wildlife Attractants On or Near Airports, AC 150/5200-33B, FAA, 2007.
・Wildlife Hazard Management at Aerodromes, CAP 772, CAA (Civil Aviation Authority), 2014.
・Wildlife Hazard Management Handbook, Airports Council International (ACI), 2013.
(続きは次回)