[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

  • Googleロゴ

    

コラム

第22回 「空港における野生生物マネジメント(その3)」  ~2017.11.6~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

 

 前回の野生生物のハザード・リスクマネジメントに引き続いて、今回は、野生生物のハザードマネジメント計画について紹介します。

 

● 野生生物ハザードマネジメント計画

 空港における野生生物ハザードマネジメント計画(Wildlife Hazard Management Plan, WHMP)は、現地の状況を考慮した、野生生物の生息地と野生生物それ自体の両方を管理するために必要となる活動を網羅する必要がある。生息地管理としては、長期的には空港内外の土地、植生および水域の管理を行い、短期的には草刈りや樹木剪定といった植生の維持を行う。野生生物管理としては、パトロール、機器の点検、野生生物の観察、排除活動の実施とそれに対する野生生物の反応の確認といったことを行う。
 なお、現地の状況、主要野生生物の種類とその行動が対象とする空港により異なるため、ベストプラクティスとして具体的なガイドラインを示すことは難しい。

 

● 野生生物の生息地の管理

 空港における野生生物の生息地の管理は、野生生物ハザードを減らすための最も効果的な方法である。生息地管理において考慮すべき事項のうちいくつかは長期的に見た場合の空港整備において必要となるものであり、空港のマスタープランにおいて考慮すべきものである。また、その他の事項は空港用地の定期的な維持管理や整備に関連するものである。
 生息地管理において肝心なことは、空港とその周辺に、餌場、水場、避難場所、休息場所、繁殖場所等、野生生物を引き付ける状況を作り出さないことである。

◆ 空港内生息地
 空港では、荒天時の雨水流出を管理するために、排水施設、調整池といったものが必要であるが、それらは野生生物を引き付ける水域にもなりかねない。そのような施設は、通常、空港のマスタープランに従った滑走路や誘導路の整備に合わせて建設され、その後の整備方針もマスタープランに含まれている。したがって、野生生物ハザードに関する事項は、空港の計画の段階で検討されなければならないことになる。
 空港の建設工事には土壌浸食を防ぐための芝草やその他の植物の播種が含まれる。その種類は、メンテナンス・水やり作業の必要性、種子や果実、野生生物の避難・営巣場所を考慮して、選定する必要がある。
 空港周囲のフェンス(場周柵)は、多くの場合、安全性とセキュリティ上の理由から必要とされるが、野生生物の侵入を防ぐ機能についても十分に検討する必要がある。
 特定の動植物種の生息地の保護は生物多様性に関する計画において必須のものであり、空港用地の管理においても検討しなければならない。空港内でそのような状況が生ずる場合には、野生生物や環境保全部門と密接に連携して、現地に合った野生生物ハザードの減少方策を検討する必要がある。また、こうした保全生息地を空港周辺で計画する際にも野生生物ハザードについて注意する必要がある。

◆ 空港周辺生息地
 空港周辺の土地利用と生息地管理も重要な検討事項である。空港管理者が空港周辺の土地利用を直接的に規制することは難しいので、地元の土地所有者や利害関係者と協力して調整を進める必要がある。
 空港周辺の生息地管理としては、空港内の生息地よりも空港周辺の生息地に野生生物が引き付けられるようにすることが肝要である。かといって、たとえばごみ捨て場等を設けてしまうと多くの野生生物を引き付けてしまい、かえって空港に対する野生生物ハザードが高まることになる。
 空港周辺の土地の利用方法は、野生生物に大きな影響を及ぼすことから、慎重に検討する必要がある。具体的には次のようなものである。
• 自然保護区域
• 地元の農業
• 廃棄物管理
• 雨水・排水処理計画
• 調整池、湖、川、海などの水域
• 低湿地
• 採石ピットと採石場

 

● 野生生物の管理

◆ 日常パトロール
 日常パトロールはWHMPのコアの部分であり、パトロールに加えて、機器点検、観察、排除活動、記録といったものにより構成される。定期的にパトロールを行うことによりハザードとなる野生生物を発見できる。この場合、訓練を受けた担当者が双眼鏡、望遠鏡、暗視装置等を使用して行うことでより確実性が高められる。パトロール中にリスクの高い地点を決定し、そこにより多くの時間を割くことが肝要である。
 パトロールの頻度は現地の状況や野生生物の行動によって変える必要がある。通常は毎日行うことで十分であるが、30分ごと、あるいはそれより頻度を上げることが必要となる場合もあろう。また、野生生物のパトロールと併せて、滑走路の安全性に関する点検を実行できる場合もあろう。なお、野生生物が学習したり、タイミングに慣れたりしないように、パトロールは、一定ルートではなく、ランダムなパターンで実施する必要がある。
 パトロール中には、次のような野生生物の行動や状況に注目する必要がある。
• 対象地域における野生生物の数、種類、行動、誘因物(野生生物が引き付けられているもの)
• 餌、巣、止まり木、糞、死体等、野生生物の行動の形跡
• 草、水、樹木、場周柵、FOD等の生息地の状況
• わな、視覚的脅し
• 空港運用の安全性に関する問題(野生生物ハザード管理との関連の有無によらない)
◆ リモート検知システム
 レーダーやビデオモニタリングシステムなどのリモート検知システムも使用できよう。これは有人パトロール・排除活動に完全に取って代わるものではないが、これによりパトロールの頻度を減らすことはできる。このシステムを用いる場合には、リモートモニタリングセンターと野生生物の目撃情報に対応する担当者の間の連絡体制等、調整が必要となる。
◆ 野生生物排除方法
 野生生物の排除方法は、野生生物をリスクの高い領域から排除するためのものである。排除方法の一つは、野生生物が望まれていない領域に立ち入らないように学習させることである。野生生物がその領域に立ち入ると結局は追払われてしまうことから、そこで餌を採ったり、休息したりすることに益がないことを学習すれば、その領域へ戻って来ることはない。
 ほとんどの排除方法は、聴覚や視覚的な脅しにより野生生物を怖がらせるものである。これには、以下のようなものがある。
• パトロール車両と野生生物管理担当者による圧力(パトロール自体が航空機の運航にとってハザードにならないように注意)
• 特殊音、銃の発射音、花火、爆竹等、野生生物を怖がらせるもの(野生生物が航空機に近づかないように注意)
• 苦痛や警告といった(録音された)鳴き声(他の動物を呼び込まないように注意)
• レーザー、たこ、風船、かかし、小型モデルといった視覚的脅し
• 野生生物を追いかけるように訓練を受けたハヤブサや犬
• わな、タグ付け、別な場所への移送(大型動物や保護種が対象)
• 間引き、殺処分(最終手段)
• 毒物や環境汚染物質は使用してはならないが、場合によっては化学的忌避剤や殺虫剤の使用も考えられる
 航空機の航行ルートに鳥がタイミング悪く一斉に入り込むことがないようにしなければならない。パトロール車両や担当者自体も航空機運航の安全上の問題にならないようにする必要がある。
 車両によるパトロールはしつこく行う必要がある。単に野生生物を追払うだけで、そのまま走り去ることは効果的とは言えない管理方法である。担当者は、野生生物がすぐには戻らないようにその場所にしばらく留まったり、野生生物が戻っていないことや管理強化の必要性を確認するために頻繁にパトロールを行ったりする必要がある。パトロールの目的は、鳥のいない空港を実現することであり、鳥が空港からいなくなっていることを確認することである。
◆ 記録および報告
◇すべての日常活動の記録
 野生生物のハザード管理に関連するすべての活動を記録することがWHMPの基本である。記録されたデータは、WHMP全体の有効性や野生生物の慣れの傾向を評価するために必要となる。
 野生生物衝突によるコストをその空港から回収するために法的措置を取ろうとする航空会社や保険会社が増加する傾向にある。そのため、各空港にとっては、野生生物衝突発生時に適切なWHMPを有していたこととそれが十分に機能していたことを証明するために、実行中の野生生物マネジメントの活動状況を記録しておくことが重要である。
 データを記録する方法には、紙に記入するものからタブレットPC等の電子デバイスを用いるものまで様々ある。電子デバイスは、さらなる分析のためにデータを追加する場合に時間と労力の節約になる。重要な点は、空港がそれぞれの方針に従ってWHMPを適切に運用していることを実証するために、野生生物マネジメント活動の全記録を保管することである。活動記録には、時間、場所のほか、以下の項目を含める必要がある。
• 各パトロールや点検ならびにそのルート
• 植生、樹木、水域や場周柵の状態といった、生息地や地域の(異常な)状態
• 採餌や休息中の野生生物の種類、死骸、糞のような行動の形跡
• 排除活動(方法、実施状況)
• 排除活動(結果、野生生物の応答、ハザード除去の効果)
• 野生生物の衝突やニアミス等のインシデント
◇月次報告
 日常記録は月次報告に集約して、野生生物の数、管理活動や野生生物衝突の評価に用いる。その場合の評価指標は、次のような項目に注目して作成する必要がある。
• 野生生物衝突数
• 衝突した野生生物の体重の合計
• 衝突した野生生物の体重の平均
• 空港周辺のハザードとなる野生生物数
◆ 機器
 野生生物管理担当者は、発見した野生生物の種類・数、発見場所に応じた機器を装備する必要がある。担当者は、銃器やわなといった野生生物を排除するために必要となる機器を入手したり、場合によっては専門家に応援を要請したりする必要がある。
◇ポータブル機器
 ポータブル機器は管理手段として最適なものと認識されている。ただし、これは担当者が適切な訓練を受けていることが前提である。爆竹、ピストル、鳴き声発生装置は、使用する時間と場所を変えることによって、野生生物に対して直接的な脅威が継続的に存在しているとの印象を与えることができ、野生生物がこれらは重大な脅威ではないと学習して、慣れてしまうことを防止している。
◇固定式機器
 空砲や音声発生装置等の固定式機器は、時間経過につれて徐々にその有効性を失う。しかし、それらの作動条件をランダム化したり、プログラム化したりすることによって、野生生物が慣れることを遅らせることができよう。固定式機器は、野生生物を短期的に抑止する場合、たとえば工事終了後に原状回復された土地を対象とする場合、に適している。
◆ 慣れ
 野生生物ハザードマネジメントにおける課題は、ほとんどの動物が排除活動に慣れたり、空港やその周辺に安全に住み着く方法を新たに見つけてしまうことである。空港管理者は、野生生物ハザードを減らすために、異なるまたは新たな方法を積極的に検討する等、排除活動を継続的に調整・変更していくことが重要になる。
 空港の生息地管理、検知システム、排除方法に関する様々な新しい方法も近年開発されている。そのため、有効性を十分に評価した上で、機器を導入する必要がある。

 

参考資料
 Wildlife Hazard Management Handbook, Airports Council International (ACI), 2013.

 

(続きは次回)

ページの先頭へ戻る

ページTOPへ