[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

  • Googleロゴ

    

コラム

第21回 「空港における野生生物マネジメント(その2)」  ~2017.9.1~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

 

 前回の野生生物衝突の状況、野生生物衝突の報告、国際バードストライク委員会による野生生物マネジメントに関するベストプラクティスといったものに引き続いて、今回は、野生生物のハザード・リスクマネジメントについて紹介します。

 

● 野生生物のハザード・リスクマネジメント

 空港における航空機と野生生物の間の衝突現象を減少させるためには、次の事項を検討・確定する必要がある。
 • 野生生物のハザード・リスク* の識別
 • 野生生物のハザード・リスクマネジメント計画の策定
 • 野生生物のハザード・リスクマネジメント計画の評価

 

● 野生生物のリスクアセスメント

 野生生物ハザードを管理するための第一歩は、各生物種が航空機運航に及ぼすリスクのレベルを評価することである。このリスクアセスメントは、空港およびその周辺で見つかる生物種を単に調査するだけではなく、それらが航空機に衝突する可能性(衝突確率)と、その結果としての損害の程度(衝突重大性)を評価するものである。たとえば、大型野生生物であっても、空港に移動してきたり、空港およびその周辺を飛んだりすることがなければ、リスクは小さいものとなる。また、小型野生生物は、航空機との衝突があったとしても、その大きさと体重のためにリスクは小さいものとなる。
 野生生物のリスクアセスメントの典型的な方法は、生物種をいくつかの衝突確率のカテゴリのうちの1つといくつかの衝突重大性のカテゴリのうちの1つに割り付けることである。この場合、野生生物種による航空機運航の安全性に対するリスクが異なる要因(たとえば、群れ形成の傾向、季節的移動)も明らかにする必要がある。生物種についての検討に加えて、これらを特定することは野生生物ハザードマネジメント計画の策定に有用なものであり、それによりリスクの高い生物種を対象にしたハザードマネジメント活動が優先可能となる。

 

◆ 野生生物ハザードの原因
 野生生物のリスクアセスメントにおいては、野生生物ハザードの原因を特定することが重要である。そのためには、ハザードとなる野生生物種の行動と基本的な要求事項(体温維持、生命安全、繁殖等)を理解することが重要である。また、空港およびその周辺におけるさまざまな生物種の生息地がそれらの要求事項を満たしている状況を調査する。生息地としての魅力は、繁殖時季、移動時季、気象の季節的パターン、食物の獲得しやすさといった要因によって変わることがあるので、年間を通じてあらゆる時季における要求事項を考慮する必要がある。

 

◆ 野生生物のリスクアセスメントの範囲
 野生生物のリスクアセスメントにおいては、まず対象範囲を定義することが必要である。それには、空港全体のほか、野生生物ハザードが著しい場合には航空機の離着陸ルートを含める必要がある。

 

◆ 衝突確率のランク
 次に、野生生物種の航空機との衝突確率を評価することが必要となる。以下の例は、レベルを5つとするスケールを使用したものであるが、レベルの数はこれより多くすることも少なくすることもできる。
 衝突確率は、定性的に、例えば、「非常に低い」から「非常に高い」までというように、ランク付けできる。航空機の音を嫌がったり、航空機を避けることを学んだりする種は、「低い(Seldom)」または「非常に低い(Improbable)」と評価できる。航空機の飛行経路内の生息地で大きな群れを作っている種は、「高い(Likely)」または「非常に高い(Frequent)」と評価できる。群れを作らない種は「中程度(Occasional)」と評価できようが、これ以外の行動要因も考慮する必要がある。これらの確率は、季節、草丈、降雨・気象条件によっても変わる可能性がある。
 確率を定量化する場合には、対象空港における過去の衝突記録が使用できる。通常、過去5年間に記録された平均衝突回数が用いられ、航空機運航回数10,000回当たりの衝突回数で表わされる。目安として、運航回数10,000回当たりの衝突回数が5回以上であれば「非常に高い」となり、1回未満であれば「非常に低い」と評価される。

 

◆ 衝突重大性のランク
 さらには、衝突の結果として生じる損害の重大性をランク付けることが必要である。これは、野生生物の大きさと群れ形成の傾向に基づくものであり、衝突率の場合と同様のスケールによって表わすことができる。
 大型動物は、航空機に損傷を与えて、その飛行性能に影響を及ぼす危険性が大きい。目安として、体重が1.8kgを超え、群れを形成する鳥は航空機に非常に重大な損傷を与えるが、一方で、体重50g未満で群れを形成しない鳥は、軽微な損傷を引き起こすだけである。群れを形成することにより、複数の個体による衝突の可能性が生じたり、衝突の確率が高いものとなったりする。
 衝突重大性は航空機の損傷と人的被害に基づいて評価できる。「非常に小さい(Negligible)」はニアミスや航空機の損傷がほとんどないことを意味し、「小さい(Minor)」、「中程度(Moderate)」は、それぞれ軽微な損傷、重度の損傷を意味する。「大きい(Critical)」とは死者はいないものの負傷者が出るような航空機の墜落を、「非常に大きい(Catastrophic)」とは死者や重症者の出るような墜落を意味する。
 なお、各空港は独自のスケールを決定する必要がある。この場合、各空港で運航する航空機の大きさ等を考慮する必要があるため、航空機運航者の見解も考慮する必要がある。

 

◆ リスクアセスメントマトリックス
 リスクアセスメントについてのマトリックスの例を表1に示す。この例(ACI)では、野生生物種のリスクレベルは、衝突の確率と結果の重大性の組み合わせとして、5段階のものとして定めている。すなわち、「非常に低い(Very Low)」、「低い(Low)」、「中程度(Moderate)」、「高い(High)」および「容認できない(Unacceptable)」というスケールである。

 

21-hyo1

 

 衝突確率、衝突重大性は、それぞれ、表2、表3のとおりである。

 

21-hyo2

 

21-hyo3

 

 以上のリスクアセスメント方法はACIによるものであるが、英国航空局(CAA)ではリスクを3段階(高い、中程度、低い)で評価している(表4)。衝突確率、衝突重大性(エンジン損傷に関して)は、それぞれ、表5、表6のとおりである。

 

21-hyo4

 

21-hyo5

 

21-hyo6

 

 CAAが示している野生生物種ごとの衝突重大性の例としては、コブハクチョウ42.5%、カナダガン26.7%、セグロカモメ13.0%、ドバト6.5%、ムクドリ2.6%、ヒバリ0.7%といったものが示されている。ちなみに、これ以外の生物種の損傷割合は、対象生物種の平均体重(g)×0.014を用いて計算することができる。
 このほか、ICAOでは表7の野生生物衝突のリスクアセスメントマトリックスを示している。リスクレベルを3段階(レベル3、2、1)とするのはCAAの場合と同様であるが、リスクランク自体は異なっている。

 

21-hyo7

 

◆ 空港管理者の対応
 空港管理者は、リスクレベルに応じて、適切なリスクマネジメント活動を実施する必要がある。
 CAAで用いている方法は次のとおり。
 • リスクは高い:可能な限り速やかにこの種に対してマネジメント活動を実施
 • リスクは中程度:現在のマネジメント活動を見直し、必要に応じて追加活動を実施
 • リスクは低い:現在のマネジメント活動への追加は不要
 また、ICAOでは次のような対応を取るとしている。
 • リスクレベル3:リスクは非常に高い。対象の生物種についてはできるだけ早く新たなマネジメント活動を追加
 • リスクレベル2:利用可能な活動を検討する必要がある。対象の生物種について現在実行中のマネジメント活動を見直し、可能ならば追加活動を実施
 • リスクレベル1:リスクは低い。実行中のマネジメント活動で十分
 なお、空港の地域性等によってはリスクレベルへの対応を変更することもある。以下はその例である。
 • リスクレベル3:リスクを減少するための活動が必要
 • リスクレベル2:利用可能な活動と取り得る活動の再検討が必要
 • リスクレベル1:これ以上の活動は不要
 新たに取る活動は、法律の下で現実的に対応可能なものとする必要がある。そのため、リスクレベルが「高い」、「容認されない」とされていても、例えば空港が沿岸地域にあったり、野生生物保護地域に囲まれていたりする場合や、空港管理者が現地の野生生物関連法律による制約のために野生生物ハザードに関与できないといった場合には、このリスクを完全に除去することは困難である。

 

● 野生生物のハザードマネジメント計画

 野生生物ハザードマネジメント計画(WHMP)は、空港運営に対する野生生物によるリスクを軽減するための戦略である。現地の空港の状況に応じて、最も適切かつ効果的な方法を特定して、適用することが不可欠である。また、マネジメント計画は、季節的変化といった野生生物の行動の変化により、具体的なマネジメント活動が変わらざるを得ないことについても対応する必要がある。いずれの技術や装置を使用するにしても、大型で群れを形成する野生生物の数を減らし、空港および周辺での航空機の安全運航に重大な脅威となる野生生物を管理することを優先することが必要である。
 WHMPが効果的なものとなるためには次の事項が含まれる必要がある。
 • 空港およびその周辺の野生生物ハザードの評価
 • 野生生物衝突リスク軽減の対象とすべき野生生物種の優先順位付け
 • 個々の野生生物種に関するリスクの軽減に必要な活動
 • 担当者の役割と責任
 • 野生生物のリスクマネジメントに関する情報共有に必要なコミュニケーション方法
 • 野生生物ハザードマネジメントの担当者に対するトレーニングプログラム
 • WHMP全体のモニタリングと評価方法
 • 野生生物ハザードマネジメントの有効性向上に資する調査研究の優先順位付け

 

◆ 野生生物ハザードの評価
 野生生物を航空機衝突に対するハザードとして評価する場合には、野生生物の全体数、種類、大きさ、個体数、生息地、行動特性、野生生物衝突時の航空機の損傷の可能性といった事項に基づいて評価する必要がある。

 

◆ 野生生物種の優先順位付け
 リスク軽減の対象とすべき野生生物種については、航空機と衝突する可能性(衝突確率)と、その結果としての損害の程度(衝突重大性)を考慮して、航空機と野生生物との衝突リスクのランク付けをし、それに基づいて優先順位を決定する必要がある。

 

◆ リスク軽減のための活動
 リスクが最大となる野生生物種が特定された場合に、そのリスクを軽減するための一連の活動を定める必要がある。リスクを軽減するために必要となる活動にはいくつかの種類がある。具体的には次のようなものである。
 • 効果的な生息地マネジメントの実施(空港およびその周辺)
 • 空港を生息地化させない方法の実施(制御、分散、防除)
 • 非生息地化方法に関する許可またはライセンスの確認・取得
 • 非生息地化活動の記録
 • キーパーソン(パイロット、航空管制官、野生生物管理担当者等)へのリスク伝達システムの構築
 • 空港管理者、航空安全委員会等への報告
 • 野生生物衝突報告に関する記録と分析
 • 野生生物種、観測状況、収集情報および分析結果の記録
 • 視界不良(夕方・悪天候等)時の野生生物マネジメントと空港運用方針の策定

 

◆ 役割と責任
 野生生物マネジメント計画に関係する担当者の役割と責任を明確にする必要がある。

 

◆ コミュニケーション方法
 空港管理者は野生生物ハザードマネジメントを実施し、航空機との衝突が発生したときの対応についてコミュニケーション方法を整備する必要がある。
 野生生物衝突のリスクが高いときには、そのことをキーパーソンに通知することが航空機運航の安全上重要である。野生生物ハザードを認識し、警告を発する責任のある担当者を明らかにするとともに、通知すべき相手を明らかにすることが必要である。
 衝突が発生した場合のコミュニケーション方法も必要である。この場合、航空会社、航空機の種類、飛行状況・段階、航空機の損傷、飛行への影響の有無、野生生物種など、衝突に関するデータを効率的に収集することが必要になる。

 

◆ トレーニングプログラム
 野生生物マネジメント部門の担当者に対するトレーニングプログラムを確立する必要がある。このトレーニングにより一連のマネジメント活動が野生生物ハザードを軽減するために有効であることをすべての担当者が理解できるようになる。

 

◆ モニタリングと評価
 野生生物によるリスクを軽減するための活動が実施されたら、その有効性を評価するために必要となるデータを収集する必要がある。そのためのモニタリング方法を確立することが重要である。

 

◆ 調査研究の優先順位
 調査研究プロジェクトでは、対象とする野生生物ハザードマネジメント計画の有効性や野生生物ハザードを軽減するための活動を評価できるようにすることが重要である。空港管理者は、地元の専門家等に相談して、調査研究の対象とする優先事項について検討する必要がある。

 

● 野生生物のハザード・リスクマネジメント計画の評価

◆ 活動記録の保存
 計画的および日常的に行われるすべての野生生物マネジメント活動を記録することが、マネジメント計画を評価するうえで不可欠である。記録されたデータは、ハザード・リスクマネジメント計画の評価に加えて、次の目的にも使用できる。
 • 監視を強化すべき箇所の特定
 • リスクの高い期間の特定
 • インシデントとその追跡調査時に行われた活動の記録
 収集する必要のあるデータの種類は、次のようなものである。
 • 野生生物マネジメント部門の担当者名
 • 活動開始時間
 • 活動終了時間
 • 活動または記録時間
 • 活動箇所
 • 発見・追い払った野生生物種
 • 発見した野生生物の種類
 • 追払い活動
 • 追払い活動に対する野生生物の反応
 • 追い払った方向
 国際バードストライク委員会は、航空機運航が15分間隔またはそれ以上となっている空港では実施された活動をすべて記録すること、アクティブコントロールや監視が行われていない空港であっても少なくとも30分ごとに活動を記録することを推奨している。

 

◆ レビューと評価
 野生生物のマネジメント計画の有効性を確認し、評価する方法には以下の項目を含む必要がある。
 • 野生生物マネジメント計画の有効性の確認、測定および改善システム
 • 人材育成
 野生生物衝突の分析は、定期的に(少なくとも年に1回)、リスクアセスメントプロセスの一環として重大な野生生物衝突が発生した後に実施する必要がある。記録されたデータは、野生生物衝突が発生した場合にアクティブコントロールが行われていることの証拠として不可欠であり、空港内のいろいろな箇所で発生する野生生物衝突の状況を評価するために使用できる。

 

注)
* 「ハザード」と「リスク」は、リスク分析分野での定義を参考にして、ここでは次のように定義する。
 • ハザード:損害をもたらす事象につながる可能性がある状況であり、ここでは空港およびその周辺における特定の野生生物の存在とする。
 • リスク:有害事象が発生する確率に損害の重大性を乗じたものであり、ここでは特定の野生生物が衝突する確率にその結果として生じる航空機の損傷と人的被害の程度(重大性)を乗じたものとする。すなわち、(リスク)=(衝突の確率)×(衝突による損害の重大性))。

 

参考資料
 Wildlife Control and Reduction, Airport Services Manual, Part 3, Doc 9137, Fourth Edition, International Civil Aviation Organization (ICAO), 2012
 Wildlife Hazard Management at Aerodromes, CAP 772, Civil Aviation Authority (CAA), 2014.
 Wildlife Hazard Management Handbook, Airports Council International (ACI), 2013.

 

(続きは次回)

ページの先頭へ戻る

ページTOPへ