八谷好高客員研究員(SCOPE)
前回の野生生物衝突の状況、野生生物衝突の報告、国際バードストライク委員会による野生生物マネジメントに関するベストプラクティスといったものに引き続いて、今回は、野生生物のハザード・リスクマネジメントについて紹介します。
空港における航空機と野生生物の間の衝突現象を減少させるためには、次の事項を検討・確定する必要がある。
• 野生生物のハザード・リスク* の識別
• 野生生物のハザード・リスクマネジメント計画の策定
• 野生生物のハザード・リスクマネジメント計画の評価
野生生物ハザードを管理するための第一歩は、各生物種が航空機運航に及ぼすリスクのレベルを評価することである。このリスクアセスメントは、空港およびその周辺で見つかる生物種を単に調査するだけではなく、それらが航空機に衝突する可能性(衝突確率)と、その結果としての損害の程度(衝突重大性)を評価するものである。たとえば、大型野生生物であっても、空港に移動してきたり、空港およびその周辺を飛んだりすることがなければ、リスクは小さいものとなる。また、小型野生生物は、航空機との衝突があったとしても、その大きさと体重のためにリスクは小さいものとなる。
野生生物のリスクアセスメントの典型的な方法は、生物種をいくつかの衝突確率のカテゴリのうちの1つといくつかの衝突重大性のカテゴリのうちの1つに割り付けることである。この場合、野生生物種による航空機運航の安全性に対するリスクが異なる要因(たとえば、群れ形成の傾向、季節的移動)も明らかにする必要がある。生物種についての検討に加えて、これらを特定することは野生生物ハザードマネジメント計画の策定に有用なものであり、それによりリスクの高い生物種を対象にしたハザードマネジメント活動が優先可能となる。
◆ 野生生物ハザードの原因
◆ 野生生物のリスクアセスメントの範囲
◆ 衝突確率のランク
◆ 衝突重大性のランク
◆ リスクアセスメントマトリックス
衝突確率、衝突重大性は、それぞれ、表2、表3のとおりである。
以上のリスクアセスメント方法はACIによるものであるが、英国航空局(CAA)ではリスクを3段階(高い、中程度、低い)で評価している(表4)。衝突確率、衝突重大性(エンジン損傷に関して)は、それぞれ、表5、表6のとおりである。
CAAが示している野生生物種ごとの衝突重大性の例としては、コブハクチョウ42.5%、カナダガン26.7%、セグロカモメ13.0%、ドバト6.5%、ムクドリ2.6%、ヒバリ0.7%といったものが示されている。ちなみに、これ以外の生物種の損傷割合は、対象生物種の平均体重(g)×0.014を用いて計算することができる。
このほか、ICAOでは表7の野生生物衝突のリスクアセスメントマトリックスを示している。リスクレベルを3段階(レベル3、2、1)とするのはCAAの場合と同様であるが、リスクランク自体は異なっている。
◆ 空港管理者の対応
空港管理者は、リスクレベルに応じて、適切なリスクマネジメント活動を実施する必要がある。
CAAで用いている方法は次のとおり。
• リスクは高い:可能な限り速やかにこの種に対してマネジメント活動を実施
• リスクは中程度:現在のマネジメント活動を見直し、必要に応じて追加活動を実施
• リスクは低い:現在のマネジメント活動への追加は不要
また、ICAOでは次のような対応を取るとしている。
• リスクレベル3:リスクは非常に高い。対象の生物種についてはできるだけ早く新たなマネジメント活動を追加
• リスクレベル2:利用可能な活動を検討する必要がある。対象の生物種について現在実行中のマネジメント活動を見直し、可能ならば追加活動を実施
• リスクレベル1:リスクは低い。実行中のマネジメント活動で十分
なお、空港の地域性等によってはリスクレベルへの対応を変更することもある。以下はその例である。
• リスクレベル3:リスクを減少するための活動が必要
• リスクレベル2:利用可能な活動と取り得る活動の再検討が必要
• リスクレベル1:これ以上の活動は不要
新たに取る活動は、法律の下で現実的に対応可能なものとする必要がある。そのため、リスクレベルが「高い」、「容認されない」とされていても、例えば空港が沿岸地域にあったり、野生生物保護地域に囲まれていたりする場合や、空港管理者が現地の野生生物関連法律による制約のために野生生物ハザードに関与できないといった場合には、このリスクを完全に除去することは困難である。
野生生物ハザードマネジメント計画(WHMP)は、空港運営に対する野生生物によるリスクを軽減するための戦略である。現地の空港の状況に応じて、最も適切かつ効果的な方法を特定して、適用することが不可欠である。また、マネジメント計画は、季節的変化といった野生生物の行動の変化により、具体的なマネジメント活動が変わらざるを得ないことについても対応する必要がある。いずれの技術や装置を使用するにしても、大型で群れを形成する野生生物の数を減らし、空港および周辺での航空機の安全運航に重大な脅威となる野生生物を管理することを優先することが必要である。
WHMPが効果的なものとなるためには次の事項が含まれる必要がある。
• 空港およびその周辺の野生生物ハザードの評価
• 野生生物衝突リスク軽減の対象とすべき野生生物種の優先順位付け
• 個々の野生生物種に関するリスクの軽減に必要な活動
• 担当者の役割と責任
• 野生生物のリスクマネジメントに関する情報共有に必要なコミュニケーション方法
• 野生生物ハザードマネジメントの担当者に対するトレーニングプログラム
• WHMP全体のモニタリングと評価方法
• 野生生物ハザードマネジメントの有効性向上に資する調査研究の優先順位付け
◆ 野生生物ハザードの評価
◆ 野生生物種の優先順位付け
◆ リスク軽減のための活動
◆ 役割と責任
◆ コミュニケーション方法
◆ トレーニングプログラム
◆ モニタリングと評価
◆ 調査研究の優先順位
◆ 活動記録の保存
計画的および日常的に行われるすべての野生生物マネジメント活動を記録することが、マネジメント計画を評価するうえで不可欠である。記録されたデータは、ハザード・リスクマネジメント計画の評価に加えて、次の目的にも使用できる。
• 監視を強化すべき箇所の特定
• リスクの高い期間の特定
• インシデントとその追跡調査時に行われた活動の記録
収集する必要のあるデータの種類は、次のようなものである。
• 野生生物マネジメント部門の担当者名
• 活動開始時間
• 活動終了時間
• 活動または記録時間
• 活動箇所
• 発見・追い払った野生生物種
• 発見した野生生物の種類
• 追払い活動
• 追払い活動に対する野生生物の反応
• 追い払った方向
国際バードストライク委員会は、航空機運航が15分間隔またはそれ以上となっている空港では実施された活動をすべて記録すること、アクティブコントロールや監視が行われていない空港であっても少なくとも30分ごとに活動を記録することを推奨している。
◆ レビューと評価
注)
* 「ハザード」と「リスク」は、リスク分析分野での定義を参考にして、ここでは次のように定義する。
• ハザード:損害をもたらす事象につながる可能性がある状況であり、ここでは空港およびその周辺における特定の野生生物の存在とする。
• リスク:有害事象が発生する確率に損害の重大性を乗じたものであり、ここでは特定の野生生物が衝突する確率にその結果として生じる航空機の損傷と人的被害の程度(重大性)を乗じたものとする。すなわち、(リスク)=(衝突の確率)×(衝突による損害の重大性))。
参考資料
Wildlife Control and Reduction, Airport Services Manual, Part 3, Doc 9137, Fourth Edition, International Civil Aviation Organization (ICAO), 2012
Wildlife Hazard Management at Aerodromes, CAP 772, Civil Aviation Authority (CAA), 2014.
Wildlife Hazard Management Handbook, Airports Council International (ACI), 2013.
(続きは次回)