八谷好高客員研究員(SCOPE)
米国2013年版インフラ通信簿における16種類のカテゴリに分類したインフラの評価結果,すなわちグレードは表のとおりです.ほとんどのカテゴリでグレードはCまたはそれより下とされ,B-と最も高い評価を受けたのは固形廃棄物,D-と最も低い評価を受けたのは堤防と内陸水路です.このうち,固形廃棄物は,2010年には発生した2億5,000万トンの廃棄物のうち34%にあたる8,500万トンがリサイクルまたは堆肥化され,1980年の14.5%の2倍以上となったことが高評価に結びつきました.一方,堤防は,多くが元々農地を防護するために整備されたものが現在ではその後開発された市街地の防護に使われていますが,その信頼性・安全性が明らかでないことが低評価の理由です.また,内陸水路は年間約5,100万台のトラックと同等量を輸送している実績があるものの,水路の多くは1950年代以降更新されておらず,閘門も半分以上は50年以上前に整備されたものとなっていることもあって,平均で1日当たり52回のサービスの中断があったことが低評価の理由です.
これら16種類のカテゴリ別のグレードを統合したインフラの全体成績(GPA: Grade Point Average)はD+,すなわち「劣悪(Poor)-インフラの状態は危険」よりも若干上といったものになっており,インフラは現時点のニーズにも拡大する将来のニーズにも対応できない状態にあると判定されています.1988年以降のGPAの変化からは,1988年当時はCであったものが,1998年以降はメンテナンスの遅れと投資不足によりD程度との評価が続くものとなっていることが明らかです.2013年は,前回2009年のDからD+と全体的にみてわずかに改善されたとの評価を受けています.カテゴリ別にみても低下したものはなく,飲用水,固形廃棄物,下水,橋梁および道路では1レベルの改善があり,鉄道はC-からC+へと2レベル上がりました.なお,1988年においてもインフラの容量不足の進行,およびメンテナンスの遅れとインフラの劣化が指摘されています.
これらインフラについての課題は,優れたアイデアを捻出し,それを強い意志をもって実現することにより解決可能であり,インフラのグレードアップを図るためには視野を広く持って解決策を探す必要があるとされています.グレードアップの方策として次の3点が挙げられています.
● インフラの更新時におけるリーダーシップ インフラの状態悪化は連邦政府のリーダーシップの低下も一因であるため,政府と民間セクタのあらゆるレベルにおいて強力なリーダーシップにより新たな国家ビジョンを創出する必要がある.
● 持続可能性と弾力性 自然環境を破壊することなく,また今日造ったインフラが将来の世代にも利用可能となるように,持続可能性かつ弾力性を有する方法によりインフラを設計,構築そして維持するとともに,より効率的な方法や材料を新たに開発する必要がある.
● インフラの維持・強化計画 インフラへの投資については,洗練された計画を立案し,それに基づいて優先順位を付けた上で実行する必要がある.
各カテゴリのインフラがBグレードを得るために,すなわち補修が十分に行われていると判定される状態になるために必要となる投資額も推定されています.インフラ全体では2020年までに総額3.6兆ドルが必要とされています(2010年時点の価値).このうち2兆ドルが現時点で可能と考えられる投資額ですので,1.6兆ドルが不足していることになります.この3.6兆ドルの投資を可能とするためには,資金を今すぐ使用できるようにするとともに,資金を最も効果的かつ効率的に使用できるような資金調達プログラムを開発する必要があります.また,インフラ利用者も適切な利用料金を支払うことが必要になります.
米国2013年版インフラ通信簿における航空インフラのグレードは,インフラ全体をみた場合よりも低いDと判定されています.
米国には3,330の供用中の公共用空港と25の計画中のもの(国家空港総合整備計画―NPIAS: National Plan of Integrated Airport Systemsに含まれる)があり,滑走路の数は19,734となっています.このうち,定期便が就航しているのは499の空港で,その内訳は,139のハブ空港(大29,中36,小74),239の主要空港(ハブではない),121の地方空港となっています.このうち,全米上位15の大都市圏内の35の空港を,年間3.4億人の米国人旅客,これは米国人旅客全体の80%になります,が利用しています.
近年の経済状況下にあっても航空は安定した公共輸送機関であり,旅客数でみれば2002年の6.1億人から2011年の7.3億人まで1.2億人の増加がありました.また,年間貨物量は金額換算で5,600万ドルで,航空による輸出入額を米国全体の総輸出入額に対する割合でみれば,輸出が30%,輸入が20%となっています.米国連邦航空局(FAA: Federal Aviation Administration)は,それらの2030年までの年間増加率を5.1%と推定しており,2040年までには総旅客数が10億人,総貨物量は今の2倍になるとしています.
これらの航空需要に対応すべき空港インフラの状況については,NPIASに含まれる空港の滑走路全体の97.5%が最高,良好または普通という評価を受けており,FAAとしての目標は達成されていますが,滑走路長が十分でなく大型航空機が運航できない空港や混雑の著しい空港があるとも指摘されています.また,航空機の運航状況については,定時運航率は80%に過ぎず,18%が運航遅延,2%が運航中止となっているのが現状です.航空機の遅延等による経済的コストは,2007年時点でほぼ220億ドル(2010年の価値)であり,現時点の投資レベルが維持されたとしても,2020年には340億ドル,2040年には630億ドルにまで増加すると推測されています.
1988年以降の航空インフラのグレードの推移は以下のとおりです.1988年ではB+の高評価を得ていましたが,2001年以降はほぼDと低レベルに留まっており,空港ならびに航空交通システムの容量不足が指摘され続けています.
● 1988年:B-.航空交通システムは需要の急速な増加に対して安全かつ効果的に対応してはいるものの,空港と航空路の混雑度合いの増加に直面しており,航空交通管制システムは根本的なグレードアップが必要である.
● 1998年:C-.22の空港が危機的に混雑しており,現在の容量のままでは2004年または2005年には対応できなくなる.
● 2001年:D.航空交通量が過去10年間で37%増加したのに対して,空港容量はわずか1%増加したに過ぎず,空港の混雑による運航の遅れ,滑走路上でのニアミスが頻発している.
● 2003年:D.旅客数は2001年の6.8億人が2014年には10億人に達し,貨物量は今後12年間に年5.3%ずつ増加すると予想されており,これを実現するためには,最低でも年間20億ドルの追加投資が必要である.
● 2005年:D+.滑走路における交通渋滞は危機的レベルが緩和したものの,旅客数と航空交通量は2015年まで年間4.3%ずつ増加すると予測されている.これに加え,リージョナルジェットおよび新型超大型航空機の増加という課題にも直面している.
● 2009年:D.航空交通量は年間3%増加すると予測されているにもかかわらず,航空交通管制システムの陳腐化と国家航空計画が実施されていないことの結果として航空機が遅延し,航空インフラの状態は不十分なものとなっている.
グレードアップを図るための方策としては,次のようなものがあるとされています.
● NextGen(次世代航空管制システム)による航空交通管制システムの近代化
● NextGen専用の資金源の創出
● 旅客施設料金の上限額の増額または撤廃による航空インフラ投資に対する柔軟性の確保
● 空港・航空路信託基金の運用による航空インフラへの投資の最大化
● 空港・航空路信託基金の航空輸送システムに対する投資への利用
● 革新的な技術・プロセスを使用したインフラの拡張・増強
航空インフラがBグレードを得るために必要となる投資額は,2020年までに1,340億ドルと推定されています(2010年時点の価値).このうち,現時点で可能と考えられる投資額が950億ドルですので,390億ドルが不足していることになります.
以上,前回と今回の2回で,米国のインフラの現状について,航空・空港インフラを中心に紹介しました.わが国では新石垣空港を最後に新たな空港の整備計画はないようですが,那覇空港,福岡空港さらにはこの6月に公表された首都圏空港の機能強化策からも,空港の機能についてはさらなる充実が求められていることは明らかです.また,空港舗装の表面性状の20年間の変化について10年ほど前に調べたところでは,通常の維持・補修工事が行われていたにもかかわらず,補修の必要性がないとの評価であるA(GPAでいうところのAあるいはBグレード)と判定される割合が,滑走路,誘導路とも20年間で14ポイント程度下がっており,空港舗装の機能の向上・維持が必要との結果が得られています.
空港インフラについてこのような機能の強化,向上・維持を図るためには,本稿で紹介した「インフラ通信簿」のような,客観的かつステークホルダに理解してもらいやすい空港インフラの評価手法を確立することが必要です.そのためには,空港インフラおよびその機能が多様性や地域性を有していることから,それらを考慮可能な空港インフラの整備効果の評価手法や空港インフラの機能の調査・評価手法の確立,それらに関するデータの管理・活用システムの構築といったものが急務と言えます.
参考資料
首都圏空港機能強化技術検討小委員会の中間取りまとめ 要約版,国土交通省,2014年.
空港アスファルト舗装の表面性状の実態,土木学会舗装工学論文集第11巻,2006年.