[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第19回 「空港舗装のマネジメント(その10)」  ~2017.5.8~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

 

 今回は、前回紹介した「保全プロジェクトの計画」を具体化する、保全プロジェクトの設計、実施とモニタリングについて紹介します。これにより空港舗装マネジメントシステム(APMS)に関して一通り紹介することになります。
 また、米国ではすでに空港の80%でAPMSが用いられており、その運用期間は平均で9年となっています(アンケートの結果)ので、その状況を踏まえた今後のAPMS強化に向けた課題についてもまとめます。

 

● 保全プロジェクトの設計

 保全プロジェクトの設計では、舗装の層構成、材料特性、構造細目のような保全工法とその詳細が決定される。この場合の保全工法は、表面性状調査時に見られる損傷だけでなく、その原因にも対応するものである。ネットワークレベルにおける保全ニーズと優先順位付けについての検討の場合に比較すると、ここではより詳細なデータが必要となることは言うまでもない。
 大規模プロジェクトや複雑なプロジェクトにおいては、設計プロセスは予備設計と最終設計の2段階で構成される。予備設計では、保全工法のリストアップ、保全工法の概略設計、保全工法の選定がなされ、最終設計では選定された保全工法の詳細設計がなされる。

 

● 保全工法のリストアップ

 保全工事では、第14回コラムの表 1、2(保全技術と性能評価)に示す工法が、単独で、あるいは組み合わせて使用される。例えば、アスファルト舗装における縦・横断ひび割れのシールと加熱アスファルト混合物によるパッチングは、マイクロサーフェシングやアスファルトオーバーレイと併せて実施可能である。保全工法をいろいろリストアップして検討することにより、実行可能なものを見落とさないようにすることが可能になる。ただし、現実的でなかったり、実用的でなかったりするものまで、検討対象とする必要はない。
 保全工法をリストアップする際には、次の項目について検討する必要がある。
 ・舗装施設の種類と保全工法に対する要求性能・信頼性
 ・摩擦、ラフネスとFODの危険性といった舗装表面の性能
 ・既設舗装の状態、損傷と舗装の性能の履歴
 ・工事履歴と当該工法に関する経験
 ・既設舗装の形状・寸法
 ・舗装の強度特性
 ・航空機の離着陸数、航空機種といった交通条件
 ・舗装の最高・最低温度、凍結融解回数、燃料漏れの状況といった環境条件
 ・ライフサイクルコスト
 ・当該工法の寿命、舗装表面の摩擦特性等により表される便益
 ・工事が可能な時期・期間
 ・予算、適切な施工業者、政府機関スタッフと材料の可用性
 ・施設の閉鎖期間とそれに伴う利用者費用
 ・航空機運航上の制約と施工条件

 

● 保全工法の概略設計

 保全工法の概略設計として、保全工法ごとに費用、便益を算出したり、その他の特性を明らかにしたりする必要がある。これによりいろいろな種類の保全工法を比較できるようになる。

 

● 保全工法の選定

 リストアップされた保全工法について、それぞれの便益と費用に基づいてランク付けをする必要がある。
 便益は、図 1に示すように、既設舗装の寿命延長として表される。維持工事(特に予防保全工事)は、既設舗装の寿命を大幅に延長するものではないことに注意すべきである。維持工事の主な便益は、維持工事の有無による既設舗装の寿命の差で表される。例えば、コンクリート舗装では、全厚補修をすることにより寿命を15年以上延長できよう。
 費用は、保全プロジェクトの箇所、時期、範囲と施工業者の能力によって変動する。なお、この工事費用にはライフサイクルコストも含まれる。
 保全工法選定時には、ライフサイクルコスト分析、費用対効果分析、ランク付け分析等が使用される。このうち、ランク付け分析は最も包括的なものであり、重要プロジェクトにおいて使用される。

 

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◆ライフサイクルコスト分析
 ライフサイクルコスト分析によれば最も安価な保全工法が選択できることになる。ライフサイクルコスト分析では、当該工事のみならず、その後の工事の費用が考慮される。例えば、下層排水層を設けることによる効果は、設定したライフサイクルコスト分析期間を超えて続くことになろう。
 維持工事、特に予防保全工事を採用することにより、より費用のかかる補修工事の実施時期を遅らせることができる。その反面、維持工事の費用が将来必要となる補修工事の費用よりも早い時期に支出されることに注意すべきである。このような工事費用の支払い時期の違いは、全ての工事費用を現在価値へ割り引くことによって考慮できる。この場合、分析期間は全ての保全工事を考慮できるように長くとることが重要である。
 ライフサイクルコスト分析は、以下のステップで実行される。
 ・実用的かつ適用可能な保全工法をリストアップ
 ・各保全工法に対する管理者費用を決定
  管理者費用には分析期間における初期建設費用とその後の保全費用が含まれる
 ・利用者費用を決定
  保全工事が空港運用と収入に影響を及ぼす可能性がある場合、たとえば工事期間が異なる場合には、
  利用者費用を組み込む必要がある
 ・ライフサイクルコスト分析における経済的パラメータを選択
  経済的パラメータには割引率、分析期間といったものがある
 ・管理者費用と利用者費用の現在価値を計算
 ・保全工法を選定
  管理者費用と利用者費用が最も低い保全工事が経済的観点からは最適
◆費用対効果分析
 対費用効果は、ライフサイクルコスト(費用)に対する便益(効果)の比である。便益は、ネットワークレベルと同様の手法を用いて、プロジェクト特有のより信頼性の高いデータに基づいて計算される。前述のように、ネットワークレベルでは、便益は、PCIの経時変化を表すPCI性能曲線とPCIの最小推奨レベルで囲まれる面積(性能曲線下側領域)、航空機運航回数、舗装セクションの面積の三者を乗ずることにより計算される。これに対して、プロジェクトレベルでは、航空機運航回数と舗装セクションの面積が同一であることから、性能曲線下側領域のみを考慮すればよい。
◆ランク付け分析
 空港の運用に対する障害、保全工事についての過去の経験、保全工事による効果の持続性、舗装表面摩擦の改善といった、保全工事におけるいくつかの特性は、費用と便益だけでは定量化できない。保全工事は、舗装の表面状態を改善するという形で付加的な便益を生み出したり、逆に、建設期間中の空港の運用制限を引き起こす形で負の便益を生み出したりするといった可能性がある。このことから、保全工事の選定に当たっては、費用、便益の金融的側面を考慮したライフサイクルコスト分析に加え、その他の特性を系統的に評価することも必要となる。
 例として、小規模空港のアスファルト舗装についての補修工法を検討する。このような場合は、一般的に、オーバーレイ工法と路上表層再生工法の二つが考えられる。ライフサイクルコスト分析によれば路上表層再生工法が選定される結果とはなろうが、実際には以下に示す特性を考慮することも必要となろう。
 ・上記2工法の便益
 ・工法の性能に関する経験
 ・適格性のある施工業者の可用性
 ・費用予測の信頼性
  特に、現地施工業者が当該工事を実施できない場合
 ・アスファルト材料の再生利用による環境とその持続性に関する便益
 ・将来的費用削減の可能性
  特に、新しく、より安価な補修工法が使用可能となる場合
 ・段階的工事またはオフピーク時工事としての実施可能性
 ランク付け分析は、次の4ステップから成る(表 1は道路を対象にしたランク付け分析に用いるシートの例)。
 ・利用者と管理者にとって重要となる工事特性を選定
 ・工事特性に対して重み付け係数を設定
  重み付け係数は全工事特性について合計すると100となる
 ・保全工法ごとに重要度を5段階スケールで付与
  5は非常に重要、1は重要でない
 ・すべての工法ごとに、各工事特性についての重み付け係数と重要度の積を合計することによって、
  合計スコアを算出

 

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● 保全プロジェクトの実施

 保全プロジェクトの実施に際しては、材料調達、施工方法、品質管理・検査方法について検討する必要がある。空港の場合は、一般的に、最終成果に関して品質検査を行うという規定が用いられている。また、品質管理と品質検査規定に加えて、品質保証規定も用いられている。この品質保証規定は、施工品質を確実なものとするための包括的規定を備えており、材料と施工方法を規定するのが難しい保全プロジェクトにおいて特に重要である。

 

● 保全プロジェクトのモニタリング

 舗装ネットワークの定期的な評価に加え、特定の保全工法、特に通常使用されない工法については定期的に評価する必要がある。このモニタリングにより、空港舗装の管理者は、使用実績に基づいてそれらの保全工法を継続、変更、または中止するとの判断ができるようになる。なお、アンケート結果では、空港全体の45%では過去の保全プロジェクトを評価するためにAPMSが使用されている。

 

● APMSの運用と継続性

 APMSから得られる便益は、運用期間の増加により増大する。例えば、地方ごとに最も有効な保全工法を特定し、舗装劣化速度を算出するには舗装状態のモニタリングに数年がかかるし、APMSを組織全体で受入れるのにも時間を要する。そのため、APMSの長期運用についての確約とAPMSに対する適切な財政的支援が不可欠である。
 APMSの運用と継続性は密接に関連している。すなわち、APMSの運用を成功させることにより、その継続性が保証されることになる。そのためには、APMSの運用の初期段階から、次の点を実行することが肝要である。
◆データの質の特性
 APMSデータベースは舗装関連データを収納するために必要である。これを利用して、舗装状況に関する最新かつ客観的データが、事業計画の立案・更新のために一覧表化できる。
◆定期報告
 APMSの担当者は、舗装の状態と保全工事の必要性について定期的に報告する必要がある。内容の詳細さとスタイルを種々に変えたバージョンも必要となろう。また、定期報告書に加えて、新工法の評価等、舗装関連の課題に関する特別報告書も必要となろう。
◆APMSプロセスの文書化
 APMSプロセスを文書化したものとしてユーザーマニュアルが必要となる。これにより、スタッフの変更がある場合のAPMSの運用の継続性、担当者間の役割分担の明確化が確実なものとなる。
◆ユーザーニーズへの対応
 APMSに対するユーザーニーズを常に把握する必要がある。ユーザーニーズとしては、使いやすいソフトウェア、データと結果の共有といったものが挙げられる。
◆常設APMS委員会の設置
 すべてのユーザーグループで構成されるAPMS委員会を常設化することは、APMSの継続性・強化にとって有効である。
◆APMSの改良の継続性
 APMSを改良するためにユーザーニーズを把握し、追跡調査を実施することは、システムの強化に繋がる。APMSに関して最近向上が図られた点は次のとおりである。
 ・図化システムとGISを用いたデータの図化とマッピング
 ・舗装の損傷を文書化するための調査方法の自動化とデジタル画像の使用
 ・APMSと事業計画の連携性の向上
 ・予防保全プログラムの組込み
 ・舗装構造解析の追加
 ・インターネットを用いたAPMSデータベース・ソフトウェアへのアクセスの提供
◆研修の実施
 スタッフの研修はシステム運用の一部であり、特に、運用初期段階においてはスタッフの研修が必須のものである。また、トレーニングはPCI調査の担当者にとっては重要である。

 

● APMSの強化

 APMSの運用に関する包括的レビューは、APMSの運用方法を改善し、継続性を確保する上で有益である。レビューの目的は次の2つである。
 ・ユーザーニーズに基づいて強化方策を決定
 ・最適方法に基づいて強化方策を決定
 APMSの評価に使用される方法にはギャップ分析がある。これにより現行方法と最適方法の差が明確化できる。ギャップ分析は3つのステップから構成される。
 ・現行のAPMSの構成要素ごとに最適方法に対する評価を実施
 ・既に最適方法を達成したと評価されるAPMSの構成要素を識別
 ・最適方法を達成する必要のあるAPMSの構成要素の識別と改善方法を提示
 この他にはベンチマーキング分析といった方法もある。ベンチマーキング分析では、異なるAPMSの運用状況について客観的な方法を用いて比較することが必要となる。しかし、空港舗装を対象とした場合には、どちらの方法においても、分析に使用できる情報が不足しているのが現状である。

(続きは次回)

参考資料
• Common Airport Pavement Maintenance Practices, Airport Cooperative Research Program Synthesis 22, 2011.
• Selecting a Preventive Maintenance Treatment for Flexible Pavements, FHWA-IF-00-027, 2000.

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