[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

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コラム

第18回 「空港舗装のマネジメント(その9)」  ~2017.3.1~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

 

 今回は空港舗装インフラに係る保全プロジェクトの優先順位付け、計画化と予算化について紹介します。保全プロジェクトの優先順位付けについては短期計画と長期計画の場合に分けています。

 

●予算制約のない場合の優先順位付け

 前回のコラムで紹介した次の二つの保全計画(表 1、表 2)は予算の制約がない場合のものである。

 

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 実際には、次のような理由により、これらをそのまま実行することは難しい。
◆経済性
 予算の制約を考慮せずに策定された舗装保全計画は、経済的制約のために、その範囲と時期がそのとおりに実施できるわけではない。
◆空港の運用
 舗装保全計画は空港の運用を妨げることがないように策定することが重要である。特に、そのサービスが他の施設によって代用できない、滑走路と誘導路に関しては重要である。この他にも、安全性に係る事項、航空機の運航、施設の閉鎖可能性についても考慮する必要がある。
◆関連工事
 舗装保全工事は関連する他の工事と調整した上で実施する必要がある。例えば、滑走路上の航空灯火システムを変更する工事が行われる場合には、対応する平行誘導路において舗装保全工事を実施すればよい。
◆工事実施能力
 現地工事業者の施工能力と空港管理者の工事管理能力を考慮に入れて、保全計画を策定する必要がある。

 

●短期計画における優先順位付け

 舗装保全プロジェクトの短期計画では、舗装の状態が保全工事により改善される状況を予測することが必要になる。舗装状態に関する過去と将来のデータは他の保全工事の予算の妥当性を評価する際にも使うことができる。
 優先順位付けにおける最初のステップは、予算に制限がないとしてリストアップされている保全工事のランクを決定することである。ランクにはその保全工事が必要とされている理由が反映されている。すなわち、ランクは、舗装の安全、限界、対費用効果、目標の四つのサービスレベルに基づいたものとなっている。
◆安全サービスレベル
 安全サービスレベルは空港舗装の機能を保持するために最優先となるものであり、このレベルに基づくランクには航空機の安全運航を確保するために必要な保全工事が入る。これには、空港運用上義務付けられている安全性と環境に関する規制に適合するためのもの、具体的には、FODに結び付くアスファルト混合物のラベリングがある場合や表面摩擦が不十分な場合の保全工事が含まれる。このランクの保全工事は義務付けられたものであるため、過去から持ち越された工事、実施中の工事、既に実施が決定された工事、追加資金が必要な工事も含まれる。
◆限界サービスレベル
 限界サービスレベルに基づくランクには、舗装が最低許容サービスレベルを保持するために必要な保全工事が入る。
◆対費用効果レベル
 対費用効果レベルに基づくランクには、対費用効果性を高いものとするとの観点から工事の実施時期が重要と考えられる保全工事が入る。これには、重大な損傷が発生する前に実施される目地再シーリング等の予防保全工事等が含まれる。アンケートに回答のあった空港の29%では適切な時期に予防保全工事が実施されていること、57%では時々ではあるが適切な時期に予防保全工事が実施されていることがわかっている(図 1)。
◆目標サービスレベル
 目標サービスレベルに基づくランクには、目標サービスレベルを保持または達成するための保全工事が入る。

 

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 ランクが同一で、滑走路、誘導路、エプロンと施設のみが異なる場合、施設が同一でランクのみが異なる場合の保全工事の優先順位付けは、言うまでもなく、ランクと施設がともに異なる場合のものより容易である。そのため、できる限り後者のような優先順位付け方法を用いることがないようにする必要がある。なお、予算が厳しく抑えられている状況下では、ランクが同一であっても、表 3に示すような優先度マトリックスを策定することによってプロジェクトの優先順位付けが容易になろう。この例では、最も高い優先度は航空機の使用頻度が高い滑走路に割り当てられている。

 

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 プロジェクトの優先順位付けの基準となる舗装のサービスレベルは、PCIのような単一の指標、あるいは複数の特性に関する項目を組み合わせた複合的指標に基づいて定めることができる。舗装セクション数300程度の保全プロジェクトを対象として、複合的優先度指標を使用して優先順位付けを行った例がある。それでは、次の4種類の特性を組み合わせた指標を採用している。
◆舗装の状態
 セクションのPCIで表される。最も高い重みが割り当てられている。一般的には、この他にも、表面摩擦やFOD危険性に関する特性が使用できる。
◆航空機の走行回数
 セクションを使用して離陸する航空機数で表される。着陸後にセクションを使用する航空機数をこれに加えたものによっても表わすことができる。
◆舗装セクションの機能
 滑走路、誘導路、エプロンで表される。
◆舗装セクションの運用上の重要性
 高 (primary)、中 (secondary)、低 (tertiary)で表される。この場合、滑走路は高または中、エプロンは高、中または低となる。

 

 この他、複合的優先度指標に組み込まれる可能性があるものとしては対費用効果性がある(長期計画の箇所で後述)。

 

●予防保全の導入

 予防保全は、適切な舗装に対して、適切な時期に、適切な工事を行うという理想的な保全工事の概念を実現したものである。
 上記のように、空港の29%では適切な時期に予防保全工事が実施されているが、道路の場合は85%の州でシステム化された予防保全プログラムが用いられており、適切な時期に予防保全工事が実施されている *1。このことは、予防保全工事、すなわち、損傷発生の初期段階で保全工事を実行することが道路では主流となっていることを示している。予防保全プログラムでは、保全工事の対象となるセクションが「最悪優先」ではなく、「対費用効果性優先」方針により選定されることから、対費用効果性が最も高い工事はほとんどが予防保全工事ということになる。
 空港舗装の場合は、保全工事は、依然として、航空機の安全運航を確保するために必要となる限界サービスレベルを確保するために実施されている。予防保全プログラムを空港へ適用する方法は十分にはシステム化されていないのが現状である。

 

●長期計画における優先順位付け

 複数年にわたる舗装保全プロジェクトの優先順位付けは、通常、費用対効果分析に基づくものである。対費用効果性は保全工事の費用に対する効果(便益)の比である。この場合の費用は可能な限りライフサイクルコストに基づいたものとする必要がある。効果は、舗装性能曲線の下側領域(図 2)、航空機離陸回数、舗装セクション面積の三者を乗ずることにより計算できる。

 

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◆舗装性能曲線の下側領域(図 2のArea)
 舗装性能曲線下側の最小推奨レベルを上回っている領域は保全工事の効果を表している。図 2は、保全工事の種類が異なる場合の領域の違いを示している。上図はマイクロサーフェシングを実施する場合、下図はオーバーレイを実施する場合で、前者は舗装状態が最小推奨レベルに到達する前に工事を行う場合、後者は到達した時点で工事を行う場合と、保全工事の実施時期が異なっている。なお、この例では、舗装の供用年数に対するPCIの変化が直線状であるとみなしている。
◆航空機離陸回数
 舗装状態が改善されたことによる効果である航空機運航回数を表している。ここで、離着陸回数ではなく、離陸回数を使用している理由は、航空機が離陸時に舗装に対してより高い負荷を与えているためである。
◆舗装セクションの面積
 セクションの長さと幅の違いを表している。セクションの大きさは、費用と効果の両方の計算において使用される。

 

 安全サービスレベルと限界サービスレベルに基づくランクのプロジェクトは空港運用上義務付けられているため、これらに対する複数年優先順位付け分析は必要ではない。一方、対費用効果レベルと目標サービスレベルに基づくランクのプロジェクトでは、いずれも対費用効果性優先の方針に基づいて優先順位付けがなされる。保全工事の対費用効果性はそれによる対費用効果性の増加分として定量化でき、これにより保全工事が舗装ネットワーク全体に与える効果を複数年にわたって予測することが容易になる。
 以上の方法により、対費用効果性が最も高い予防保全工事およびその他の保全工事を組み合わせた保全計画が得られることになる。複数年優先順位付け分析の結果は、予算制約下における年ごとの優先順位付きの保全工事のリストとして得られる。
 対費用効果性の増加分算定プロセスを組み込んだ保全プロジェクトの長期計画は、道路ネットワークにおいて成功裏に実施されているが、空港の場合は依然として実施の初期段階にあると言える。空港において、これがなかなか進展しない理由には、空港舗装のネットワークが小規模なこと、空港運用上の制約が大きいこと、ソフトウェアが十分には整備されていないことがある。

 

●実施計画

 保全プロジェクトの実施計画のプロセスは、対象舗装範囲の抽出から始まり、保全工事の選定、優先順位付け、予算付け、設計、工事実施に至るというものである。
 空港施設の保全予算計画に盛り込まれるプロジェクトは、現地の状況に依存している。すなわち、大規模空港における予算案は舗装保全工事に特化するものとできる一方で、小規模空港では、単なる舗装保全工事だけではなく、空港全体のインフラに関連するすべてのプロジェクトを総合したものとなっていることもある。これには、たとえば、空港舗装施設の拡張、空港運用の改善、建築物や航空機誘導システムといった空港インフラの保全に関連するプロジェクトも含まれる。複数の空港が一括で管理されている場合は、予算がそれら全体に対して一括で確保されているようなこともある。

 

●資金

 ほとんどの空港では舗装の保全ニーズとPCIを考慮することにより、舗装の保全予算が決定されている(図 3)。舗装保全のための主要資金源はFAAである(図 4)。FAAは国家空港総合整備計画 (NPIAS)に組み込まれている空港改善計画 (AIP)を有しており、これに従って、大規模および中規模の主要ハブ空港には対象となる費用の75%、それ以外の空港には95%を提供している。対象となる費用には、滑走路、誘導路およびエプロンの建設・保全費用、排水施設改良に関連する費用がある。
 この他にも、各州の航空局等から空港舗装の保全プロジェクトを支援するための多様な資金が提供されている。

 

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●予算化

 予算化(予算付け)は、空港インフラマネジメントの一部であり、資産を効率的に配分するために、すべての空港インフラの一括した管理を目指すプロセスである。その方法は、技術的・経済的問題、安全性および規制上の必要事項および空港運営上の問題を考慮に入れて構築する必要がある。これにより空港インフラへの投資方法が明確にできる。具体的な予算化は、図 5に示すとおり、多くのニーズと検討事項を考慮して行われる。

 

 ニーズには次のものがある。
◆舗装保全ニーズ
 安全レベルに基づくランクに入る必須プロジェクトおよびAPMSにより確立された優先度の高い保全プロジェクト
◆その他のニーズ
 空港舗装ネットワーク、安全性・機能上の改良、舗装埋込灯火、排水施設改良および埋設施設に係るプロジェクト

 

 検討事項には次のものがある。
◆財政的事項
 資金調達に関する制約、資金の利用可能な時期。プロジェクトは完了に至るまで長期間にわたって段階的に実施されるため、複数のプロジェクトを統合して規模を大きくしたり、保全工事をより大きい規模にしたりすることも有利となる。
◆空港運用に係る事項
 保全プロジェクトが空港運用に及ぼす影響、施工時の安全上の問題、空港の全体的な運用に対する施設の重要性

 

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●予算の評価

 舗装保全に関する予算の評価では、保全プロジェクトへの投資とその結果として生じた舗装ネットワークの状況の関係について検証する必要がある。舗装保全ニーズを満たすための予算額の妥当性について定量的に評価することも必要である。具体的には、次のような点を考慮する。
◆舗装状態の変化状況のモニタリング
 PCIによる舗装状態のモニタリングの例を図 6に示す。

 

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◆工事費用のモニタリング
 道路では、単位面積当たりの保全工事に関する毎年の費用をモニタリングしている例がある。
◆予算化されていない舗装保全ニーズの金額とその変化状況のモニタリング
◆予算が異なる場合のネットワーク全体の舗装状態のモニタリング

 

●コンピュータの利用

 舗装データベースの管理、保全プロジェクトの特定および優先順位付けには、コンピュータソフトウェアを使用して膨大なデータを処理する必要がある。APMSはコンピュータ化された意思決定支援システムであり、カスタマイズ化可能なソフトウェアがいくつか市販されている。
 アンケート調査でAPMSを所有していると回答のあった空港の53%ではMicroPAVERが、13%では他の市販ソフトウェアが、残りの34%では自前のソフトウェアが使用されている(図 7)。MicroPAVERは、公的機関により開発された、PCIを使用したソフトウェアである。なお、最近では、FAAにより開発されたウエブベースのPAVEAIRも公表されている。

 

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 APMSコンピュータソフトウェアを導入している空港の33%は自らソフトウェアを運用しており、47%は外部からのサポートを受けつつも自らソフトウェアを運用している。そして、残りの20%は外部コンサルタントに運用を委託していることが明らかになっている(図 8)。

 

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注)
*1 1999年に実施されたアンケートの結果。41州から回答が得られている

(続きは次回)

参考資料
• Common Airport Pavement Maintenance Practices, Airport Cooperative Research Program Synthesis 22, 2011.
• Prioritization Methods for Effective Airport Pavement Management: A Canadian Case Study, 2004.
• https://faapaveair.faa.gov/

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