[SCOPE] 一般財団法人 港湾空港総合技術センター

  • Googleロゴ

    

コラム

第17回 「空港舗装のマネジメント(その8)」  ~2017.1.4~

八谷好高客員研究員(SCOPE)

 

 今回は空港舗装インフラの保全工事に関する必要性の判定方法を取り上げます。空港舗装のサービスレベルとトリガレベルを紹介したあと、保全工事の特定方法についてまとめます。

• 保全ニーズ

 空港舗装の保全工事の必要性、すなわち保全ニーズは、舗装の状態の調査結果、舗装の劣化状況の予測とあらかじめ設定された所定のサービスレベルに基づいて判定される。これは予測された舗装の状態が所定のサービスレベルを下回る状況となったときに保全ニーズが生ずるとする考え方である。そのため、舗装の状態の客観的評価・予測方法を確立することならびにサービスレベルを適切に設定することが重要なポイントになる。

• サービスレベル

 空港舗装の保全ニーズは必要とされるサービスレベル*1 に左右される。舗装の構造が同一であったとしても、必要とされるサービスレベルが高ければ、保全ニーズは高くなり、それに伴って工事費用も高いものとなる。サービスレベルには次のような複数のものがある。

• 目標サービスレベル

 目標サービスレベルは空港舗装の施設ごとに全セクションの平均的な値として表される。この目標サービスレベルを適切に定めることにより保全戦略が適切に決定できる。
 目標サービスレベルの例として,中規模のゼネラルアビエーション空港*2 を対象としたものを表1に示す(PCIによる表示)。

 

17-hyo1

 

 サービスレベルに影響する要因は次のようなものである。
 空港の種類と規模:ゼネラルアビエーション空港では、定期航空路線のある一般的な空港、特に大規模空港よりも目標サービスレベルを低く設定している。
 施設の種類:滑走路に対しては、誘導路やエプロンよりも目標サービスレベルを高く設定する必要がある。一部の空港では、主滑走路といった主要施設に対して副次的施設より目標サービスレベルを高く設定している。
 航空機の運航回数とサイズ:航空機の運航回数が多かったり、航空機のサイズが大きかったりする場合には、目標サービスレベルを高く設定している。
 舗装の種類:一部の空港では舗装の種類により目標サービスレベルを異なったものとしている。

• 最低許容サービスレベル

 最低許容サービスレベルは、舗装施設ごとに、全セクションの平均的な値として、または各セクションの値として表される(表1参照)。サービスレベルが最低許容値以下となっているセクションにおいて保全工事を最優先で行うとすれば、最低許容サービスレベルを適切に設定することにより保全ニーズが合理的に決定できることになる。なお、最低許容サービスレベルは限界サービスレベルとも称される。

• 安全サービスレベル

 安全サービスレベルは滑走路表面の摩擦についての最低レベル*3 として定義される。なお、この安全サービスレベルはわだち掘れなど他の舗装面の損傷に関しても定義可能である。

• トリガレベル

 舗装の保全ニーズを判定するために設定されるサービスレベルに加えて、保全工事の実施時期を明らかにするためにトリガレベルが導入される。トリガレベルは、各保全工事に対して共通なものとして設定される場合、特定の保全工事に対して設定される場合の二通りがある。
 共通トリガレベル:舗装の状態に応じた適切な保全工事の実施時期を表す。
 特定トリガレベル:工事費用が高い保全工事が必要となる前の、効果的な予防保全工事の実施時期を表す。
 図1はアスファルト舗装におけるサービスレベルとトリガレベルの例である。サービスレベルとしてはネットワーク全体を対象にした目標レベルとセクションを対象にした最低許容レベルを、トリガレベルとしてはセクションを対象とした二種類の保全工事(ひび割れシールと切削オーバーレイ)のものを表している。この例は、二種類の保全工事のうちではひび割れシールが舗装状態の比較的良好な時点、すなわちサービスレベルの比較的高い時点で実施されなければならないことを表している。

 

17-zu1

 

 トリガレベルの考え方が成り立つためには、損傷の程度と推奨保全工事をリンクづけることが肝要である。表2は損傷がひび割れの場合の例であるが、このようなリンクづけをすべての損傷に対して行う必要がある。

 

17-hyo2

 

• 保全ニーズの特定

 ネットワークレベルにおける舗装の保全ニーズは、次の四つのステップにより特定できる。
(1) 保全工事を必要とするセクションの特定
(2) (1)で特定されたセクションに対する保全工事の選定
(3) (2)で選定された保全工事を実行するために必要となる費用の推定
(4) (3)で推定された工事費用が予算を超過した場合のプロジェクトの優先順位の決定
 プロジェクトの選定・優先順位づけ、すなわち保全計画は、次の方法により体系的かつ客観的に立案できる。これは二種類のタイムスパンにより異なったものとなる。
 短期計画:5年あるいはそれ以下のタイムスパンによる。特定の工事のみを対象とする。
 長期計画:5年を超えるタイムスパンによる。対象以外の工事も考慮する。

• 短期計画

 多くの空港では、舗装の保全ニーズを特定し、工事の優先順位を明らかにするために、短期計画を使用している。以下はその典型的な手順である。
(1) 舗装一覧表の更新:舗装の状態を含めて、対象となる舗装の一覧表を更新する。これには、舗装に関するプロジェクト全てとその他の関連するプロジェクトが対象となる。
(2) 対象保全工事のリストアップ:事後保全、予防保全、補修に関わらず、少なくとも実施の1年前に計画可能な工事をリストアップする。これには、例えば、ひび割れと目地のシーリング、アスファルトオーバーレイ、コンクリート舗装の全厚パッチング、下層排水施設の設置等が含まれる。
(3) 各セクションの保全ニーズの特定:保全工事の実施単位を特定するために、舗装ネットワークをセクションに分割し、それらについて、今後5年間または所定の期間中の保全ニーズについて検討する。この保全ニーズは、計画期間中に予想される舗装の劣化状況に基づき、あらかじめ定められたサービスレベルとトリガレベルにより特定される。
 図2に示した小規模空港における舗装の保全計画の例を表3に示している(2009年における予算制約のない場合の5箇年の保全計画)。この例から保全費用はサービスレベルによって大きく異なることがわかる。

 

17-zu2

 

(4) 保全方法の選定:保全工事として実行可能なものを選定する。この場合、保全工事、特に予防保全工事は、個々の損傷に対するトリガレベルに基づいて選定される。図3は米国空港に対するアンケート*4 により明らかになった保全工事の選定の方法である。全体の85%は工学的判断 (Engineering Judgment)を使用し、30%はコンピュータベースのツール(プログラム)を、6%はディシジョンツリー(Decision Tree、決定木)を使用していることが明らかになっている。
 上記の小規模空港におけるネットワークレベルでの保全計画の例は表4に示すとおりである。具体的な保全工事として、中・重度の目地材の損傷に対しては目地の再シールが、中・重度のコンクリート版隅角部破損に対しては全厚パッチングが選定されている。
 保全工事が必要となる範囲はプロジェクトレベルにおいて最終的に決定される。例えば、表4において11となっている隅角部破損の箇所数はネットワークレベルでのサンプリング調査により推定され、プロジェクトレベルでの詳細調査によって確認された。

 

17-zu3

 

(5) 予防保全工事の特定:空港全体の56%では予防保全が有効となる舗装を特定できるシステムを活用しており、35%では予算があればそれを活用するとしていることがアンケートにより明らかになっている(図4)。また、全体の33%では予防保全専用の予算が確保されていることも明らかになっており、この措置により予防保全工事が適切な時期に、効果的に、継続して実施されているものと思われる。

 

17-zu4

 

• 長期計画

 空港舗装の長期的な保全計画は、次のような点について検討することにより、工学的な面からも経済性の面からも優れたものとすることができる。
 現状の予算の下での今後10年間のネットワーク全体の舗装の状態
 所要のサービスを提供するために将来必要となる資金
 現状では資金が少ないものとなっている事態を改善するために今後追加で必要となる資金
 予防保全工事や低費用の保全工事への資金集中によるネットワーク全体の舗装の状態への影響
 滑走路や誘導路の新規整備による既設舗装の保全予算への影響
 空港舗装の保全に将来必要となる資金は、長期性能予測の信頼性と選定された保全方法によって異なってくる。保全工事の長期計画は、各セクションにおいて年度ごとに複数の保全方法を検討することにより決定される。例として図5に示した長期計画では、二つの保全方法と二つの実施年度のみが考慮されている。すなわち、代替案①は3年後のマイクロサーフェシングであり、代替案②は既設舗装が最低許容サービスレベルに達する時点、すなわち9年後に実施されるオーバーレイである。
 これらの代替案についてそれぞれの寿命と費用を評価して、最も対費用効果が高い代替案を選定することが必要となる。

 

17-zu5

 

注)
*1 サービスレベルは、米国の場合、通常PCIの値によって定量的に表される(コラム第12回参照)
*2 定期航空路線のない民間空港
*3 AC 150/5320-12C(空港舗装の表面すべり抵抗性の測定,建設および保全)で定義される
*4 アンケートに対する回答は米国内50空港から得られた(コラム第10回参照)

(続きは次回)

参考資料
• Common Airport Pavement Maintenance Practices, Airport Cooperative Research Program Synthesis 22, 2011.
• Measurement, Construction, and Maintenance of Skid-Resistant Airport Pavement Surfaces, AC 150/5320-12C, 1997.

ページの先頭へ戻る

ページTOPへ